寛容とダイバーシティ

昨今、いろんな場面で国内外を問わず、批判・非難・対立・分断・紛争等の事象が発生している。大きくは、国家・地域間、小はコミュニティに至るまで、多種多様である。専制政治覇権主義権威主義国家は別として、自由・民主主義国家においても、「話し合い・聞き合い・習い合い」をして、じっくり考え、きちんと判断し、その結果には従う、ということがすっかり減った感じがする。

参考:世界自由度ランキングが語る民主主義の凋落と権威主義の台頭 ~データで見る国際秩序(3)~ 2021.08.13 第一生命経済研究所 

他を認めない実態

「聞く」ふりをして聞くこともなく、現実に起きていることの事実・実態を「見る」こともなく、一方的な言動が多い。企業は、顧客・市場に向き合わず、不正を繰り返す。「他」を認めていない。SNSの世界では、真偽も定かでない情報による「煽り」や「炎上」が繰り返される。時には、人を死に追いやっている。異常である。人は匿名性を帯びた場では、事実・実態を確認せずして、深く考えることなく、煽り、炎上に参加している者も多いのでは推察される。

参考:▼世界の分断は加速するか 回避する道は? 知の巨人たちのことば 2023年2月21日 17時04 NHK 
▼2023 年中ロ共同声明と世界の分断 公益財団法人 日本国際問題研究所
▼「再選に赤信号」のトランプ大統領が分断を煽り続ける理由 西岡純子:三井住友銀行(ニューヨーク駐在)チーフ・エコノミスト 2020.7.10 5:30 DIAMOND online 

▼政権による事実と異なる答弁(いわゆる虚偽答弁)に関する質問主意書 令和二年十二月一日提出 衆議院 
▼答弁本文 令和二年十二月十一日 衆議院 
▼「118回ウソ」証拠なき弁明 安倍氏「後援会が契約」認める 「桜」答弁訂正 2020年12月26日 東京新聞WEB 
▼「神宮外苑を100年後も誇れるものに」対話なき再開発にNO。ミュージシャンら市民から抗議の声 2023年07月23日 HUFFPOST 
▼ビッグモーター 寄せられた声から見えてきた「不正」の実態 2023年7月26日 NHK
▼【なぜ】りゅうちぇる死因は自殺!誹謗中傷や女性ホルモン注射など志望理由の3ツの説 

卑近な例でも、ある集いの場の評価において、人は、自らが行っていることを顧みることなく、自らの主義・主張に合わないというだけで、簡単に他人のすることを批判・非難できることを再認識させられる場面に遭遇した。そこには、他人がなぜ、そのようなことを云うのか、行動をしたのか、推し量ることもない。そもそも、他人に対するリスペクトが感じられない。最近、このようなリスペクトを感じない事象に遭遇することが多いのはなぜだろか。

リスペクトの欠如と寛容の無さ

一つのきっかけとして、国会において、虚位答弁を繰り返す首相、忖度して本筋を歪める答弁を強いられる官僚、そして、コロナ禍において専門家(特に、科学者)を信頼しない政策決定等を見せつけられた事があるのかもしれない。そこには、国民、官僚(行政の専門家)、専門家(特に、科学者等)へのリスペクトが感じられない。

その原因の一つとして、「無知」はともかくとして、すべからく余裕の無さからくる「寛容」の無さが挙げられるのではなかろうか。

権力・権限・執行力(組織、財源等)を有する側が、聞く耳を持たず(不寛容)、事を推し進める。逆に、無視されたり、追い詰められたと考える側は、所構わずなりふり合わず示威行動(不寛容)を行う。
参考:▼環境活動家、モネの作品に赤い塗料を塗りたくる ストックホルムの美術館 2023.06.15 CNN 
▼環境保護団体が競技妨害 陸上DLのレース中に2023/07/03 KYODO 

寛容の仁とダイバーシティ

社会的な合意形成を得る上で、従来の主流であった「社会的利得の最大化(一方で、誰かが、全体のための犠牲になることを強いる)」に対し、「最大不満の最小化」という考え方がある。これは、「寛容の仁」と云われ、日本社会が経験知として有する基準「三方痛み分け」に通ずるとされる。
参考:社会公共政策への提言 ~関西から全国へ問いかける~ 第2章 合意形成のための協調型計画法を 社会公共政策研究会+三菱総合研究所 ㍻12年5月24日 日本工業新聞社

「寛容」は現代風に云えば、「ダイバーシティ(多様性)」の受け入れと似ている。ダイバーシティは今や、あちこちで云われているが、実際のところ、まだ「ウォッシュ」が多いのではなかろうか。

まさに、寛容の精神でダイバーシティを受け入れ実践することこそが、日本の活力と余裕を生み出し、寛容を思い起こさせ、失敗を許容する社会を生み出し、イノベーションを励起し、日本の再創生につながる可能性を秘めている。

今後に期待したい。