合意形成の前に集合知形成を

意思決定論/合意形成論については、かねてより議論がなされ、協調型合意形成/市民参加型合意形成が謳われ、現在においては、一応の公的な合意形成プロセスが法制度化されている。しかし、昨今の各種の法制度設計をみていると、果たして従来のままでいいのか、デジタル技術を活用して、個々人(住民/国民-企業人-専門家)の意見/知恵を活用(集合知化)する「政策普請」的な「政策DX」が必要ではないか、という思いを強くする。その一つのアイデアとして、「集合知形成デジタルプラットフォーム」を提案する。

合意形成プロセス手法の推移

社会的合意形成の難しさは、社会インフラ事業(公共事業)において特に先鋭的に現れ、土木工学の分野で「土木計画学」が興る(1966年)端緒の一つともなっている。

土木計画学とは「土木施設の計画策定・評価・実施のための理論を体系化する学問」

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出典:土木学会第95回通常総会 特別講演 土木計画学の進化と社会的役割 稲村 肇

  (東北大学名誉教授/政策研究大学院大学)土木学会副会長 平成21年5月29日

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 図 日本の三権分立と公共事業の意思決定システム

 出典:社会公共政策への提言 ~関西から全国に問いかける~ 社会公共政策研究会+三菱総合研究所        

    平成12年5月24日 日本工業新聞社発行

公共事業における合意形成プロセスの変遷

1950年代:公共事業は構想から実施計画まですべて行政が立案し、議会が承認するという手法で、 行政側が情報を漏らさないディフェンシブ(防衛的)な手法でした。
1970年代:公共事業に対する市民との紛争が多発した米国で、議会の承認の前に民間の意見を聞き、市民と協議をするという協議型手続き(パブリックコメント=「住民参加」)の手法が導入されました。
わが国でも1994年、行政手続法(平成5年法律第88号平成6年10月1日施行)第6章 意見公募手続等(追加平17年・第38条~第45条)で パブリックコメントの手続きが規定されました。
2000年代:情報公開、住民の意見聴取といった従来のパブリックコメントにとどまらず、多様な住民意見を反映し、住民の視点を生かした政策を行うために、地域政策の計画立案、意思決定において、行政と住民との意見交換、合意形成を行うパブリックインボルブメント=「住民参画」の手法が米国で発展し、わが国でも、2002年8月、道路などの土木事業で国土交通省道路局から市民参画型道路計画プロセスのガイドラインが発行され、 国交省道路行政の一部案件は、この手法が取り入れられていきました。


パブリックコメントのように出来上がった計画を提示し防衛的スタンスで形式的に意見を公募するのではなく、 構想段階から実際に住民の間に出向いて(アウトリーチ)、情報をオープンに公開して透明性を確保しながら、 住民と一緒に計画を作り上げていくスパイラルアップと呼ばれるプロセスは、住民の不満や訴訟、補償リスクを軽減するために辿り着いた手法
出典:合意形成プロセスの変遷 マンションNPO 

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図 パブリックコメント制度(意見公募手続制度)の流れ

出典:パブリックコメント制度(意見公募手続制度)の概要 内閣官房 
   

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図 パブリックインボルブメント(PI)のイメージ

「合意形成」の前の「集合知形成」こそが必要

現在の公的合意形成プロセスにおいて、実務的には、下記のような問題/課題が生じている。
① 意見聴取(アンケート/パブコメ/説明会等)の段階で、初めて関心(含む事実情報認知)を寄せる住民が少なくなく、議論が揺り戻される。
② 住民投票は重要な節目での可否の表明に限定される。
③ 初期の課題認識・政策起案に内包されたギャップがプロセスの進展に伴い拡大することも少なくないが、なかなか流れを変えられない/止められない。

一方、昨今、デジタル社会を反映して、市民参加型デジタルプラットフォームの構築・活用の動きがあるが、代議制民主主義の枠組みに基づく公的な合意形成プロセスにおける位置づけが明確ではなく、法的な担保/拘束力がない。

参考:decidim 都市や組織のための無料のオープンソース参加型民主主義 等

こうした状況を勘案するに、デジタルプラットフォームの良さを活かし、かつ、昨今の社会環境の変化のスピードや多様性に対応していくためには、従来の公的な合意形成プロセスの前段階として、個々人が多様な問題提起/論点提起を行うことを受け止め、企業人(プロボノ等)、専門家も交えた集合知を形成するプロセスが有効であり、それを可能とする場としてのデジタルプラットフォームの構築・活用が必要である。

  • デジタルプラットフォームの良さ:誰もが、いつでも参加でき、事実ベースでオープンに議論ができ、その過程(含む事実データ等)を可視化・共有できる。
    • 公的合意形成プロセス段階における議論の真化・深化・迅速化に役立つ。
  • デジタルプラットフォームの参加者が、時にはリアルな場で交流・意見交換する仕組みも組み込むことで、デジタル社会とバーチャル社会の融合が図れる。
  • 問題/論点提起のテーマ毎にMC(第三者有識者/プラットフォーム事務局)を置くことで、「声の大きさ」等に左右されることなく、冷静な集合知形成に向けた運営が可能となる。
  • 住民以外にも、当該事案に関心/専門知/経験知を有する企業人(プロボノ等)・専門家が参加することにより、幅広い視座からの集合知を形成することが可能となる。

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図 集合知形成デジタルプラットフォームの位置づけ
  [初期設定の是非がその後を左右]

 

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図 市民参加のレベル(EARNスタインの8階梯)における位置づけ

おわりに

ここで提示した考え方(アイデア)は、本ブログの2019-11-28付の「新たな課題対応型まちづくりの組織/仕組みについて」で示した「Projectベースの政策提言や政策実施のPMO機能を第三者的に行うために、基礎自治体の行政実務ラインとは別に、外部有識者をセンター長とする政策&PMOセンターを設置する。」と云うアイデアのバーチャル版とも云える。

行政職員や財政に限りのある基礎自治体で廉価に使えるサービスとして形にしたい。

DX白書2021等にみる日本のDXの実態

コロナ禍が発生してから約2年、日本のIT/デジタル化の遅れ、及びそれに起因する各種の仕組みの遅れが露わになった。そこにおいて、「Digital transformation(DX)」がにわかに脚光を浴び、「デジタル庁」も発足した。しかし、DXの本質的意味合いは、「データ及びITデジタル技術を活用した仕組み革新による新たな価値創出」にあるが、多くは単なる情報化/IT/デジタル化推進に留まっている。

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コロナ禍の間隙を縫って帰省

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2021年9月5日に東京パラリンピックが閉幕し、TOKYO2020が終了した。誘致の段階、競技場整備の段階、1年延長し開催に至る段階、開催中の段階、それぞれにおいていろいろあった。その後のコロナ感染急拡大、風水害、自民党総裁選等により、あっという間に忘れ去られようとしているが、果たして、TOKYO2020がめざしたレガシーは残せたのだろうか。最終的には、全ての事務的残務処理が終わり、総括報告書(決算報告書は来年4月以降の見通し:武藤事務局長談)があがるまで待たなければならないが、主催者側の公的総括の前に、競技関係以外の開催運営に関わるメディア等からの情報を以下に記してアーカイブしておきたい。

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長年続いているスポーツイベント再考

コロナ禍、そして気候変動(大雨/長雨)が長年続いているスポーツイベントのあり方に見直しの機運を惹起している。いつの間にか、所期の目的が変質し、商業化し、開催意義が問われている。

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不都合な事実の諸相

近年、勝手はあり得なかったような事態「不都合な事実」が相次いでいる。逆の意味で常態化している。国としての構造的な劣化ではないかと危惧される。次から次へと起こる事態に流されるなか、当事者を異動させ、組織を改廃し、忘れ去られていくのをいささかなりとも今後に活かすため、アーカイブとして残しておく。

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コロナ禍の諸相

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新型コロナ惨敗の認識を

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