自動車メーカーの不正
日本の自動車メーカーは、製造品出荷額は56兆円(2021年)、自動車輸出金額 17.3兆円(2022年)、そして自動車関連産業の就業人口 554万人(2022年)を要する日本の基幹産業である。
その自動車メーカー業界で、ダイハツの不正(2023年5月)を端緒に、自動車メーカー業界全体に渡る「型式認証不正」が明らかになり、規制の問題なのか、メーカー側の問題なのか、規制に対する認識のギャップ等もあり、論議を起こしている。
国土交通省の調査により、5社(トヨタ自動車㈱、マツダ㈱、ヤマハ発動機㈱、本田技研工業㈱、スズキ㈱)から、不正行為の報告(トヨタを含む17社は調査継続)があり、その後、立入検査も実施された。
[追記]資料:国交省、認証不正行為でマツダ、ヤマハ、ホンダ、スズキ4社の立入検査の結果公表 マツダ、ヤマハへの出荷停止指示を解除 2024年6月28日 22:38 Car watch
資料:ダイハツ工業の型式指定申請における不正行為について 令和6年4月19日時点 国土交通省
資料:自動車メーカー等の調査報告の結果等について 令和6年6月3日 国土交通省物 流・自動車局審査・リコール課
参考:なぜ自動車メーカーはこぞって「型式認証不正」に手を染めたのか、制度改革のチャンスを逃し続けてきたツケ 2024.6.5(水) 井元 康一郎
特に、トヨタグループでは、最近、ダイハツ以外にも不正が相次いでいる。「日野自動車(2001年にトヨタの子会社化)によるエンジン性能試験を巡る不正が2003年から行われていた」ことや、ダイハツ(1998年にトヨタの子会社化)の不正が急増したのは、「開発期間の短縮強行と業務量の急増が同時に起こった2014年以降」と報道されている。
出典:トヨタG揺らぐ信頼、豊田自動織機社長「現場任せきり」2024/01/30 読売新聞オンライン
参考:トヨタも起こした認証不正 「焦りが『解決したふり』の誘惑を生む」藤本隆宏教授 早大院・藤本教授が説く不正のメカニズム(上)2024.7.1 日経ビジネス
参考:トヨタ系、下請け50社に金型を無償で長期保管させる…最大30年・被害総額は数億円の可能性 2024/06/30 05:00 読売新聞オンライン
参考:第49回:国交省を再直撃! 結局なにが問題なのか? トヨタは悪くない……は本当なのか? 2024.06.17 webCG
素材メーカーの不正
完成品メーカーだけでなく、素材メーカーでも不正が発覚している。
◯神戸製鋼:出荷先(部材メーカー等)約500社
2017年10月8日、神戸製鋼所のアルミ・銅製品などの検査データ改ざんが
明らかになる。
-保証担当者も素材の品質データ改ざん、工場長レベルも黙認
-経営陣が把握した段階で該当製品を出荷停止
-子会社 ㈱コベルコマテリアル銅管の一部製品(43%)のJIS認証取消
※日本品質保証機構(JQA)は品質マネジメントの不備を重視
◯ 三菱電線工業(三菱マテリアル子会社)
2017年2月:性能データ改ざん不正が品質保証担当者に報告
2017年3月:経営陣に報告
2017年10月23日まで出荷停止せず ※メーカーとして許されない
参考:【三菱マテリアル不正】「神鋼よりも悪質」 問題把握後の出荷に批判 2017.11.25 産経新聞
生活関連企業の不正
◯ハウスメーカー「大和ハウス工業」の不正
● 型式適合認定外(基礎高、L字型受柱)、L字型受柱の防火基準不適合等の賃貸アパートや戸建て住宅:3,955棟
原因は、設計者に国の型式認定制度を守らせる体制が整っていない上、本社(商品開発部門及び技術本部)と現場の情報共有不足による集団的誤信。
参考:外部調査委員会による最終報告に関するお知らせ 大和ハウス工業㈱、2019年6月18日
● 建築・土木・電気工事施工管理技術士不正取得
:445件(2019年12月発覚)
調査委員会は、30年以上前から不正取得が行われてきた原因として、資格取得を推進する全社方針、実務経験要件のチェック体制などの不備、実務経験要件に不備があった者とその承認者の対応・認識の問題を指摘。
参考:大和ハウス工業、施工管理技士の不正取得を助長した「昇格必須免許」 不正取得者は371人、外部調査委員会 が報告書 日経クロステック/日経アーキテクチュア 2020.05.08
◯耐震機器メーカ- KYB㈱・カヤバシステムマシナリー㈱の免震・制振オイルダンパーの不正
● 検査データ書き換えによる大臣認定等に不適合な製品の出荷
-出荷先:共同住宅、事務所、病院、庁舎等 986件
-不適合内容:オイルダンパーの減衰力性能の基準値からの乖離値が大臣
認定等において許容されている値の内容よりも大きいこと。
参考:KYB(株)及びカヤバシステムマシナリー(株)が製造した免震・制振オイルダンパーの国土交通大臣認定への不適合、国交省HP、平成30年10月16日
◯賃貸アパート大手「レオパレス」の施工不正
● 1996~2009年にかけて販売したアパートに建築基準法違反:
32都府県 1,324棟 ⇒ 引越要請14,443人
● その後、レオパレスは、全棟の98パーセントで調査を完了し、29,300棟余
の物件に不備が見つかったと発表 (2019年10月28日時点)
-不正内容:鉄骨ブレース工法や木造軸組み工法を採用した集合住宅など
で、建基法30条や建基法施行令114条1項で定める小屋裏界壁を未施工また
は施工不十分[耐火性能不備]、壁の仕様改変[遮音性不備]
-理由:建築関係法令に対する遵法意識・リスク感度が低く、品質問題に対
する当事者意識も欠如していたこと
遠因として、制度設計(図面検査・形式的確認)や不動産金融等の問題が考えられる。
参考:施工不備問題に関する調査報告書(概要版) 、外部調査委員会、2019 年(令和元年)5 月 29 日 他
政府の不正
◯厚労省の毎月勤労統計で不適切
な調査(手続き不正、手法変更不正、報告・訂正放棄等)が2014年から10年以上続いていたことが発覚
[=不正の放置]
➡️ これを受け、各府省による点検実施の結果
◯基幹統計の22統計(全56統計の39%)、一般統計の154統計(全232統計の66%)で誤りが判明
-プログラムミス:16統計
-ルール違反(調査対象の一部除外):11統計
-集計結果の公表遅延:81統計
-調査期間のずれ:40統計
年金記録問題検証委員会 最終
報告書(総務省、2019年10月)の反省「記録を正確に作成・保管・管理する組織全体の使命感、責任感が決定的に欠如」活かされていない。統計の価値に対する基本的な認識不足、組織・仕組み・ガバナンスの問題がある。
参考:政府基幹統計 4割で誤り 公表遅れなど 一般統計も総点検へ、日本経済新聞、2019/1/25
全政府統計の6割強不適切 プログラムミス、ルール違反、公表遅延など、毎日新聞、5/16(木) 19:58配信 他
◯国交省所管の「建設工事受注動態統計」(基幹統計)の調査票のデータ書き換え作業指示(国交省⇒都道府県担当者)による二重記載
総点検で発見されず、会計検査院の検査で明らかになる。統計開始の2000年4月から続いていた。
政策立案、政策評価の前提・根拠の崩壊、時系列統計欠損という「お粗末」(第三者検証委員会)な状態であったといえる。原資料はデジタルデータとして永久保存し、大学等にデータ提供するなど活用すべ木である。
参考:国交省の統計不正問題、いま分かっていること 仕組みや影響を解説 国交省の統計書き換え問題 2022年1月25日
◯提出法案の誤り
● 第204回通常国会の閣法における誤り:合計181件
-案文(改め文)<条文の誤り>:4本の法律案に14件
-参考資料:22本の法律案に167件
(新旧の改正箇所以外における誤字・脱字、様式不備等 161件)原因として、以下が指摘されている。現場の疲弊、モラル/矜持の低下が背景にある。
- 法案作成における複層的なチェック体制が不十分であったことに加え、法案の正確性を確保するためのノウハウについて、実効的なチェック手法が必ずしも共有されていなかったこと
- 参考資料のうち、新旧対照表の法改正以外の箇所(21 件)や参照条文(90 件)について、その位置付けから、時間的な制約や認識の甘さもあり、読み合わせ等による十分な確認が実施されていなかったこと
- 様式面での不備(33 件)について、最低限確認すべき点が標準化・共有されていないため、形式面の確認が不十分となったこと
- 法案作成段階、法案審査段階から、法案印刷・提出段階まで見据えたスケジュールの適切な管理が不十分であったこと
- 手作業による対応が必要な作業が多く発生するなど、法制執務全般において、デジタル技術や各種システム等の有効な活用ができていなかったこと
出典:法案誤り等再発防止プロジェクトチーム取りまとめ 令和3年6月29日 内閣官房
失われた30年と重なる不正の
発生・継続
上記した以外にも、例えば、下記のような事案が発生しているが、明らかに不正は一過性ではなく、組織として構造的に組み込まれ、数十年に渡って続いている。そして、その不正発生は、失われた30年と重なる。
- 三菱電機:国内の22拠点/製作所の内16拠点/製作所でコスト削減/納期の為の品質不適切行為。少なくとも1980年代初めから品質不正が行われてきた。管理職が不正を指示。
「現場力の暴走」
- 東レ:樹脂製品の一部が米国の第三者証を不正取得。遅くとも1972/1980年代後半には発生し、その後も長期間にわたり組織的に行われていた。
- 日立金属:社長が自ら品質不正の隠蔽を決断・指示。多くの拠点が広範な製品でさまざまな品質不正。1980年代以降30年にもわたって不正を行っていた。
- 日本軽金属:アルミ板製品で検査不正。JIS規定と異なる試験を25年間実施
- 川崎重工 子会社川崎冷熱工業:吸収式冷凍機出荷前検査と顧客の立会検査で不正行為。不正検査期間は1984年から2022年の38年間。カタログ・仕様書に虚偽記載は1986年から2009年の23年間
- ジェネリック大手 小林化工、日医工:製造・品質不正。いずれのメーカーも違反の一部は10年以上前から行われていた。
参考:2000年~2020年の業界/業態別品質不正企業リスト (一社)ディレクトフォース 他各種資料
持続的&構造的な不正の原因と対処
こうした不正の背景に何があるのか。
企業風土・文化、・・・
社内論理優先、不正が当たり前化、同調圧力、・・・
創業理念・社会的存在価値の忘却、経営のガバナンスが効いていない、・・・
形だけのPDCA・仕組み、カイゼン・・・
現場力依存・暴走・空転、・・・
・・・
「わが社の強みは現場力」とよく云われるが、これは経営層から、実態と乖離した要求が現場に降りてきたときに、現場としての部分最適化/カイゼン(各種不正を含む)を強いることになり、そして、それが続くことにより、風土・文化(社内最適化)になって行ったと考えられる。全ては経営力のなさであり、ガバナンス力のなさに起因している。その背景には、リスクを避け、責任を避けるサラリーマン社長の限界がある。
更には、企業間の取引関係の歪にも起因している。過剰な Just in time に代表される発注側の一方的な都合による調達納入システム(納入待ちのために公道等が使われることも多い)、発注者側の優越的地位濫用気味の受発注システム等々、従来型の企業間のビジネスの仕組みの問題もある。
いずれも、「非合理性」があり、弱いところに「無理強い」し、限界を超えれば「不正」で表面的にその場を取り繕いやり過ごすという状況を惹起する。構造的問題ゆえ、構造的に仕組みをイノベーションするしかない。
参考:デジタルカイゼンでは滅びるぞ、みずほ銀行の障害と三菱電機の不正にみる現場力の罠 2021.11.11 日経ビジネス
参考:神戸製鋼所のデータ改ざん、不正が「合理的」に続いた背景に日本企業の悪習 菊澤研宗:慶應義塾大学商学部教授 2023.1.3 4:37
2024/06/25 8:00
参考:なぜ豊田章男氏は「不正撲滅は無理だと思う」と語ったのか…「組織不正」の研究者が見た認証不正問題の根本原因トヨタの「正しさ」vs.国交省の「正しさ」という構図 2024/06/25 8:00 PRESIDENT Online
以上