昨今、空き家問題に関連して、土地の所有権不明、管理放棄(含む農地・山林の耕作放棄・手入れ放棄を含む)等の問題が励起され、関連対策が取られ始めている。しかし、そもそもの土地に関する事実データ(地籍)の把握が不十分であることについての認識、危機感が行政(特に、基礎自治体)、国民ともに薄い。加えて、時代環境にあった土地利用をどうするかの枠組み/仕組みについての議論も十分ではない。
参考:所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成 30 年法律第 49 号)
参考:所有者不明土地法の見直しに向けた方向性のとりまとめ 令和3年 12 月 国土審議会土地政策分科会企画部会
土地管理制度の歴史
わが国の土地に関する管理政策・データ把握の歴史的経緯は大略以下の通りである。
1.班田収授の際の校田・田図(701年~):大宝律令(701年)
土地を全て国有とし、校田(田畑の調査・確定)し、田を班(わか)って口分田として人民に分与(班田)。その結果を図示した図を田図。班田は死亡すれば国が収公(収受)。
2.太閤検地(1582年~):豊臣秀吉
農民の田畑を、一筆毎に広さを測り、 土地の石高などを定めるために統一的な方法によって全国規模で行われた日本最初の土地調査。
3.地租改正(1873年[明治6年]~):明治維新政府
地券を発行して土地の所有者を確定し(私権を認める)、納税義務を課し、課税の基準を従来の収穫量から地価に改め、物納から金納に移行。公図の大部分となる。
4.地籍調査(1951年[昭和26年]~):国土調査法(昭和26年制定)
主に市町村が、隣接する土地所有者の立ち会いの下、一筆ごとの土地の境界の位置と面積を測量調査。「地籍」とは、いわば「土地に関する戸籍」。1957年(昭和32年)から、地籍調査結果に基づき、登記簿情報の修正開始。
出典:国交省地籍調査Webサイト、土地白書 平成30年版 国交省 等
境界線確定のための「境界杭」 ※筆者の庭先を掘って現れた「境界杭」
土地管理に関する公図・台帳
土地管理のベースとなる地図(公図)と台帳は以下のとおりとなっている。山林や入会地等は、古地図(絵図)や古文書しか存在しない場合がある。
公 図
・古地図、古文書
・公図:法務局に備え付けられている図面で、土地の境界や建物の位置を確定するための地図
- 旧公図:明治時代の地租改正(1873年)により、土地に番号をつけ(地番)、その図を墨で和紙に書いたもの
- 従来からのいわゆる公図:不動産登記法第14条第4項に規定する「地図に準ずる図面(14条地図に準ずる図面)」として備え付けられた旧公図を元に再製された地図(旧土地台帳附属地図とも云われる)。14条地図に順次、置き換え
- 新たな公図:不動産登記法第14条第1項に規定する地図(14条地図)。地籍調査を実施し、立会いや測量を行って作製された地図
台 帳
・不動産登記簿(法務局)[法的対抗要件を具備]:登記は義務化されていない
⇒ 2024年4月1日から「相続登記」が義務化
①施行日(2024年4月1日)から3年以内
②不動産を相続したことを知った日から3年以内
・農地基本台帳(市町村農業委員会)、森林簿(都道府県)
・組合員(所有者)名簿(農協、森林組合)
・固定資産税課税台帳(市町村)
土地管理の実態と課題
地籍調査(確定)の進捗率は全国平均で52%[2019年度(令和元年度末)]にとどまっている。このため、災害復旧、都市開発、公物管理等の妨げになったり、相続問題を惹起する原因となっている。
例えば、六本木ヒルズ開発17年の内、地籍確定(境界確定作業)に 4年、2億円を要している。
※土地11ha:366筆 ⇒ 所有者単位に164区画分け ⇒ 境界確定
※所有者不明の土地1筆(4.73㎡空地)のみ:所有者親族がアメリカ在住
また、国境地、離島、水源地等の所有者国籍が不明の状態は、国防・防疫上の問題とされ、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」が令和 3年 6月23日公布された。
参考:外資の土地取引規制、突如ブレーキの不可思議 公明党が慎重姿勢、だが「低目の規制で手打ち」では意味がない 2021.3.18 JBpress
新たな土地管理の仕組みの創設へ
今後の土地管理の課題として、大きく次の4つが挙げられ、新たな仕組みが求められている。
1.「”スマートシティ”の前に”スマート地籍調査”」の仕組みづくり
地籍が不十分な状態でスマートシティ云々は砂上の楼閣である。IT技術を駆使したスマート地籍調査の仕組みづくりを行い、データ共有基盤の最も基礎となる地籍データの整備を急ぐ。その派生効果として、空き家/土地の所有者/管理者の把握が期待され、適正管理への基盤ができる。
参考:「中断」地籍調査に43億円 登記未反映、検査院調べ 2020年10月23日 12:04 日本経済新聞社
2.所有権放棄地、所有者不明地・空屋等の公的管理・活用の受け皿「土地管理公社」づくり
今後、団地・マンションの区分所有権の不明・放棄拡大の恐れもあり、所有・利用・管理が曖昧な土地/施設空間の拡大が予想されるが、現状では、行政が新たな管理負担のないものしか受け止めらないため、その多くは野放し状態となることが予想される。そうした状態を避けるためには、利用者につなぐ「農地中間管理機構」の非農地版の仕組みが必要である。役目が縮小した既存の「土地”開発”公社」(公共事業用の用地の先行取得)を「土地”管理”公社」(利用者へつなぐための一時預かり/サブリース)に機能転換することが急がれる。
参考:「塩漬け土地」の抜本的解消を ~土地開発公社問題の解決に向けて~ 2009年05月11日 小長井由隆 ㈱日本総合研究所
3.人口減少を活かした適正土地用への回復「令和版逆線引」の仕組みづくり
人口急増時代にスプロール化した住宅地の中で、土砂災害の発生しやすい土地や洪水による氾濫危険度が高い土地等が少なくない。現在はそうした時代とは逆に人口急減少期に入っており、非市街地区域(市街化調整区域)に逆線引できる時代となっている。防災対策の拡充(土地利用からの国土強靭化)と、農業生産の構造変化を踏まえた「令和版逆線引」を実施すべきである。その一部は、手入れされた「森」に還すことも含まれる。
参考:地方都市における逆線引き制度の運用状況と課題に関する研究 ~2000 年以前の適用事例に着目して~ 日本都市計画学会 都市計画論文集 Vol.50 No.2 2015年 10月 浅野純一郎*・山口 歓
4.国土の生態系等自然環境保護空間の持続的維持の仕組みづくり
リージョナルトラスト(地域土地管理法人)による当該土地の寄付の受け取り/買い取りを持続可能とする仕組みづくり/環境づくり促進する。
参考:2018年4月時点で約1万5,700haの自然がナショナル・トラストによって保護 出典:日本ナショナルトラスト協会HP