空き家問題について考える

最近、空き家問題が騒がしい。「空家等対策の推進に関する特別措置法」も成立した。[H26.11.27公布。H27.2一部施行、H27.5全面施行予定]。改めて、そもそも、空き家問題とは何か。その本質は何かについて考えてみたい。

空家等対策の推進に関する特別措置法案、参議院

(定義) 第二条 2 この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。 (立入調査等) 第九条 市町村長は、当該市町村の区域内にある空家等の所在及び当該空家等の所有者等を把握するための調査その他空家等に関しこの法律の施行のために必要な調査を行うことができる。 2 市町村長は、第十四条第一項から第三項までの規定の施行に必要な限度において、当該職員又はその委任した者に、空家等と認められる場所に立ち入って調査をさせることができる。 (特定空家等に対する措置) 第十四条 9 市町村長は、第三項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき又は履行しても同項の期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。

追記:空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針の決定について、国土交通省、平成27年2月26日

世帯構造の変化

空き家問題が励起してきた背景には、世帯構造の変化がある。近い将来、高齢者の独居世帯が最大の世帯形態となることも確実視されている。加えて、少子化がある。つまり、親の居住している/していた住宅(実家)に子供(世帯)が住まず空き家になる、あるいは一人っ子同士が世帯を持つと、少なくともどちらかの実家が空き家になる。いまや、全国の空き家総数は820万戸、空き家率は13.5%に達する[平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果]。

世帯構造及び世帯類型の状況、厚生労働省

平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約、総務省統計局

なかなか減らない新築住宅・朽ちた住宅

一方で、景気対策もあり、新築持ち家住宅へのローンや税制上の優遇策がやめられず、空き家が増え続けているのに、いまだに年間98万戸(平成25年)の住宅が新築されている。東日本大震災福島第一原発事故の影響があり、ここ4年連続の増加となっているが、さすがに早晩、年間50~70万戸当たりに落ち着くものとみられる。いずれにしても、空き家が増え、新築住宅もそれなりに増えている状況下で、古民家とも言えない一般の古い住宅の流通市場は細い。

平成25年の新設住宅着工戸数(概 要)、国土交通省総合政策局建設統計室

加えて、小規模住宅(一区画200平方メートル以下)を解体・除却して更地にすると、小規模住宅用地に対する固定資産税の優遇措置が適用されなくなり、土地の固定資産税が6倍になる。空き家を撤去し更地にしたくてもインセンティブが働かない。これについては、危険な状態になった住宅では税軽減を止める方針が打ち出された。しかし、更地にするには費用が掛かるし、売却できる保証もない。やはり、インセンティブが働かない。

住宅・土地に対する価値観の再考

総人口が減り、まもなく総世帯数も減少しはじめる時代に向けて、これまでスプロール化していた住宅用地をどのように再編していくか、耐震基準に対する不適格住宅をどうするか、優良中古住宅の流通市場(含む継続的品質評価)の確立をどうするか、非常時あるいは生活環境のリスク対策上の住宅(含む敷地)に対する私権制限をどうするか、空き家問題にはこれらの問題が内包されている。住まい方、暮らし方の再考が求められている。

土地バブル崩壊以降、土地は所有するのではなく、利用するものであるとの価値観の転換(歴史的にみれば、戦前の価値観への回帰)が求められたが、現在は耕作放棄地と併せ、空き家・空き地の立地場所によっては、土地を自然に還す、という選択肢がある。オランダではそのような政策が実施されている。右肩上がりの時代に構想・計画された農業土木事業、公共土木事業も同様である。

空き家・空き地の活かし方

空家等対策の推進に関する特別措置法で想定している特定空家等は行政主導で対処するのが妥当とも思われる。この特別措置法の本質は、生活環境のリスク対策上の住宅(含む敷地)に対する公権と私権の関係の調整にある。道路空間や隣地空間・コミュニティへの安全を確保する為の措置という観点は、非常時における啓開道路に関する措置と同様と考えられるのではないだろうか。

更地にした土地の所有権者が不明の場合、あるいは当該処分に要した費用を支払わない場合等については、行政が定期借地権のような形で土地を管理(利用に供することも含めて)しても良いのでないだろうか。明治の地租改正の時に、所有権者不明の土地を「公有地」としていたのと同じである。

一方で、行政に委ねることなく、空き家(空間)に市場価値を見いだせる場合は、行政主導ではなく、民主導でリノベーションを含め、空き家活用ビジネス等新たな市場を創出する仕組みを考えるべきである。実家の空き家はお墓をどうするかという問題が抱き合わせで存在する。

日本の住宅に関する各種の制度は新築優遇となっている。新築を買いやすくするために35年ローンという住宅の資産価値がなくなる年数を超えてローンを支払い続ける仕組みが通常化している。住宅性能にしても、建築時の初期性能だけのチェックであり、住み始めた後の経年的な性能評価・保証制度がない。つまりは、売買時点での中古住宅の性能を評価し保証する通常の流通市場では当たり前の中古住宅市場がない。

利用価値のある中古住宅を空き家化しないためには、その利用の仕方を含めて考える必要がある。最近、山村の空き家を企業のサテライトオフィスとして利用している例がみられるが、それ以外にも、シェアオフィス、介護事業所、コミュニティ施設、物品製造・販売施設、イベント・観光施設等、いろいろ考えられる。さらには、ホームレスの方々の自活の場として活用を考えても良いのではないか。

空き家利用ビジネスの新たな勃興を

こうした空き家利用ビジネスは新築住宅市場と違って、スロービジネスであり、かつ単体での儲けは少ないため、相応の数をこなさないとビジネス的には成立しない。地元に居住し相応の空き家をケアできるリアルなネットワークと、全国に散在する空き家所有者あるいは空き家利用希望者を繋ぐバーチャルネットワークの融合が欠かせない。行政主導の単なる「空き家バンク」では「ハローワーク」と同じでイノベイティブに機能するとは思えない。新たな主体によるイノベイティブなビジネスモデルが勃興することを期待したい。

その一つの核となる主体が、介護事業者である。介護事業はその必要性にもかかわらず、国がその報酬を恣意的に差配するため、経営的安定が難しい。特に、地方部は介護サービス利用者の数の問題もある。従って、介護事業者は複数のスロービジネスを併せて実施することが求められるが、空き家利用ビジネスはその際の一つの事業となる。人と住宅(含むお墓)の統合的ケアサービスである。

いずれにしても、空き家問題は地域の置かれている問題が見える化された事象であり、そこにビジネスチャンスを見出す主体の出現を期待するしかない。自らも一滴を投じてみたい。