日本品質「Japan Quality」に対する信頼・神話が崩れかけている。
タカタ エアバック問題
2006年のタカタのメキシコのエアバック工場での原因不明の爆発以来、死傷者を出してきた問題が今年の1月に米国で司法的に決着、そして6月に負債総額1兆円超の戦後最大の倒産に至り、米国キー・セイフティー・システムズKSS(1年前に中国の均勝グループが買収)に1,750億円で事業譲渡されることになった。この間、タカタはメーカーとしての原因究明等の当事者意識、責任感が希薄であった。
▼タカタ製エアバッグ問題の経緯、国土交通省
三菱自動車 燃費不正問題
三菱自動車が燃費目標の達成要求に応えるために燃費実験データを捏造していたことが日産自動車の指摘で発覚した。同社は2000年、2004年にもリコール隠しという不正をしている。組織全体のコンプライアンス意識の低さが原因とみられている。そして、結果的に、ルノー傘下の日産自動車(筆頭株主:ルノー43%)の傘下(筆頭株主:日産自動車34%)になってしまった。
日産自動車 完成車検査不正
三菱自動車を傘下に収めた日産にも、無資格者による完成車検査という不正が発覚している。これは、国交省の抜き打ちの立ち入り検査で発覚したもので、経営陣は指摘されるまで「まったく認識していなかった」と云っているが、問題発覚後も国内3工場で無資格者による検査が行われていたことは、組織内部の意思疎通、マネジメントにおいて構造的な問題がある云われても仕方がない。結果して、10月19日付で国内の全6工場で国内向けの全車両の完成検査と出荷、車両登録を停止するに至っている。
神戸製鋼 品質データ不正
さらに、それらの自動車に用いられている鋼板等を収めている神戸製鋼がアルミ・銅・鉄鋼製品の品質データの改ざんを組織的に長年行ってきたことが発覚した。JIS検査データの書き換えというJIS法違反の可能性も浮上している。基本的な素材における品質不正の影響は社会インフラを始め広範囲にかつグローバルにその影響が及ぶ可能性がある。まだ全容が解明されておらず、今後の予断を許さない。
ものづくりの仕組みと実態のギャップ
東芝の経理不正に続き、これだけ日本を代表する企業の組織的不正が頻発することは、これまでつくり上げてきた日本の工業製品の品質「Japan Quality」の信頼を揺るがすものであり、神話が崩壊しかけている。「ものづくり大国」、「技術大国」が盛んに喧伝されているが、本当に現在でもそうなのか、あるいはそれをこれからもめざすことが日本の生きる道なのか、根本から考え直す時期に来ているのかもしれない。
明治維新150年、第二次世界大戦後70年余を迎える今、それらの初期のダイナミズムを生み出した時代と、現在との違いは何か。リスクをとりながら、ゼロからものづくり、仕組みづくりを行ってきた時代の事業家・企業家と、現在のある意味でできあがった組織に入り、リスクを避けながら、守られながら、社内政治的に生き残ったサラリーマン経営層との違い、換言すれば、リスクと現場、そして責任の取り方が分かっているかどうかの違いではなかろうか。
経営目標の数値を云えば現場はそれを必達するものだと思い、願望が経営目標になり、失敗が許されない現場はそれに逆らえず、不正をしてでも数字をつくる。これは現場の実態と乖離した「過剰要求」である。
それでは、なぜ、過剰要求が起こるのか、その代表的な理由が市場(顧客)への「過剰品質」である。現在のマス市場のダイナミズムはアジア・アフリカにあり、過剰品質は市場に合わない。市場に見合った「適性品質」が求められている。適性品質は多様であり、大企業が対応するには抜本的に経営構造を変えなければ難しい。もはや現場の献身的努力ではどうしようもない競争環境の時代になっている。真の経営力、組織力が問われている。
社内成功者が経営層に昇格する現在の仕組みでは、コンプライアンス、コーポレートガバナンスの形式的仕組みをいくら精緻に整備しても実効性を期待できない。大企業の不正・不祥事の続発がそのことを証明している。ものづくりイノベーションよりも、組織づくり・役員体制そのものにイノベーションが求められている。