里山の保全・活用エコシステムの構築へ

里山の実態

最近、「トトロの森」、鳥獣被害、木質バイオマス等により、里山への郷愁、関心が高まってっているが、そもそも里山とは何か、定義は様々で確定していないが、要するに「原生的な自然(人が住まない奥山・深山)」と「平場・まち場」の中間に位置する人の手が入ったあるいは人が利用してきた山(森林)を意味する。

環境省は、「都市域と原生的自然との中間に位置し、様々な人間の働きかけを通じて環境が形成されてきた地域であり、集落をとりまく二次林と、それらと混在する農地、ため池、草原等で構成される地域概念である」と定義する「里地里山」(国土 の約4 の面積。二次林約800万ha、農地等約700万ha)の概念を提示している。

環境省 自然環境局 里地里山の保全・活用

里地里山の保全に向けて ―二次的な自然環境の視点から―、国立国会図書館、レファレンス 2008.3

 


生活様式の近代化とともに里山の草木を利用しない、産業構造の変化に伴う林業の衰退、人口・地域構造の高齢化・過疎化等の進展により、里山に人が入らない、手入れがされない、したくてもできない、意欲がない、という放置状態が常態化している。さらには、所有者そのものの不明化も進展している。人が入らない里山の道筋や谷筋には不法廃棄物の問題も惹起する。

当然、里山に抱かれた里地・集落の空家、中山間地(農地)の放棄地が増えている。それは鳥獣にとっての生息域の拡大につながっているが、猟友会のメンバーの高齢化も進み、鳥獣対策も実態としてはなかなかおぼつかない。結果して、鳥獣被害が増え、さらなる耕作放棄地、別荘・住宅放棄につながっている。

里山の手入れ(間伐、下草刈り等)放棄は、木の成長が悪くなり根の張りが弱かったり、立ち枯れや竹林の繁殖を招き、里山景観や生物多様性の環境劣化を招く。さらには、表土の劣化を招き、水源涵養機能や防災機能の劣化を招く。最近の記録的大雨等が頻発する気象環境と相俟って土砂崩れ等の被害をもたらすリスクが高まっている。

中央環境審議会 生物多様性国家戦略小委員会(第1回)資料 農林水産省の生物多様性戦略、農林水産省、H24年3月16日

こうした状況を鑑み、里山の地元自治体が所有者への管理(伐採、手入れ等)の働きかけや、自治体自らの保全への関与の強化等を可能とするべく、「森林環境税(仮称)」の創設が検討されている。確かに、里山の地元自治体は概して行政組織体としての規模が小さく、里山を所管する林業政策担当職員の配員も予算も限られているため、一定程度の効果は期待できるが、それで里山保全・活用に係る課題のすべてが解決するわけではない。

参考資料2 第2回規制改革推進会議 農林ワーキング・グループ(平成29年10月5日)配布資料 森林環境税(仮称)の検討状況について、総務省自治税務局、平成29年10月

新たな概念・手法の統合

上記のような里山の実態を鑑みると、一つの政策、手法、主体では課題解決は難しく、合わせ技(統合)で行くしかないのではなかろうか。幸い、最近の新たな概念、活動、手法の中には親和性のあるものがあり、本稿では下記のような組み合わせを提案したい。

  モデルフォレスト運動(都市圏の企業等の参画による森林管理)
  +自伐型林業(地元中小・個人林業家、新規参入者による自立自営型林業育成)
    +木質バイオマス利用(里山手入れにより生じる木・竹等の熱利用)
      +グリーンインフラ(生態系のレジリエンスを活かしたインフラ的活用)
        +公有林扱い(所有者不明・放棄林地の公的森林管理)

モデルフォレスト運動

1992年の地球サミットでカナダ政府が提唱した、多様な主体が参画して行う森林管理の実践活動のこと。従来の森林管理の方法と異なり、利害関係者の範囲を大幅に広げて活動を展開することにその特色がある。日本で10年前から実践されている京都モデルフォレスト運動では、公益社団法人京都モデルフォレスト協会が実施主体となり、企業や大学等も参画している。

里山保全・活用は持続的に実施する必要があり、それなりのパワー(人手と金)を必要とするが、「行政+ボランティア」ベースでは限界がある。モデルフォレスト運動は、こうした状況を打開する一つの方策として、都市圏の企業がCSR活動(環境投資)の一環として、そして当該企業の社員や家族が里山林業体験活動、環境学習、自然レクリエーションの場として利活用してもらう里山エリアを提供(協定等)するものである。当該エリアにおけるNPO等のボランティア活動も支援する。

自伐型林業

自伐型林業(じばつがたりんぎょう)とは、土佐で始まり、今全国に拡がっている山林所有者が自ら行う林業形態で、小規模でもあるいは小規模だからこそ儲かる林業をめざしている。自伐型林業は、自立・自営型の林業であり、森林の所在地で暮らし、6次産業的複業や、兼業もしながら、森林を持続的に管理し収入を得る林業であり、個人、グループ、集落、自治体等々、事業主体の形態も様々である。

産業化しない林業をそれなりに儲かる仕組みの林業化の道と云え、地元自治体にとっても活性化につながる。
自伐林業への道、匹見・縄文の森協議会

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出典:自伐型林業推進協会 


木質バイオマス利用

木質バイオマスとは、木材からなるバイオマス化石燃料を除く再生可能な生物由来の有機性資源)のことであり、里山保全の関係で云えば、間伐材や枝・葉等の種類がある。

木質バイオマス利用には大別して、熱利用と発電利用があるが、発電利用するには、一定程度以上の出力を安定的に維持する必要があり、そのために必要とされる燃料供給(間伐材等)が持続的に大量となるため、広範囲の森林を対象に施設の高能力化・大規模化が不可避となる。

しかし、里山保全により生じる間伐材や木枝、竹材等は時々に小規模発生するものであり、発電利用には適さない。発生した間伐材等(手入れ放棄林に繁殖する竹材も含む)をその場で熱利用できる程度の小規模・廉価な機器・施設が基本である。これらを里山エリアに分散配置すれば良い。これにより、間伐材等を処理するコストをかけずに、里山来訪者用の温浴施設や中山間地域の農業施設(ハウス暖房等)への温水供給といった形での利用が利用となる。

「木質バイオマスの利用推進に向けた共同研究会」報告書 「地域内エコシステム」の構築に向けて ~集落を対象とした新たな木質バイオマス利用の推進~、木質バイオマスの利用推進に向けた共同研究会(農林水産省・経済産業省)、平成29年7月13日
木質バイオマスの利用推進について、林野庁HP
一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会

グリーンインフラ

グリーンインフラは、生態系の持つ恵み(多機能性等)を活かした自然環境保全(生態系保全)、雨水管理、社会資本整備(緑化等)、防災減災、土地利用・国土管理を指向する新たな概念である。ただし、現時点で国際的にも国内的にも確定した定義はなく、地域性を反映した柔軟な適用が肝要である。

里山は、里山固有の自然(生態系、空間環境)が中下流域の文化・社会経済活動と関係して存在しており、里山保全レジリエンス性を有した流域圏のグリーンインフラとして機能する。里山の固有性を保持したグリーンインフラは当該空間の価値を高めるものであり、ひいては地域の活性化にもつながる。

グリーンインフラストラクチャー ~人と自然環境のより良い関係を目指して~、国土交通省 総合政策局 環境政策課、平成29年3月作成
わが国のグリーンインフラストラクチャーの展開に向けて、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、季刊 政策・経営研究 2015 vol.1

グリーンインフラの多様な機能(出典:社会問題を丸ごと解決「グリーンインフラ、日経コンストラクション、2017/02/16)  

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公有林扱い

現在、そして今後さらに拡大することが確実視されている所有者不明森林や、手入れ放棄・所有権放棄森林に対して、保全・活用を実施するためには、地元自治体が公有林的扱い(準公有林、新入会林のような概念)として処理することが不可欠と思われる。これは、空家・空き地問題にも通用する概念手法であり、取り急ぎは地元自治体でそうした扱いを可能とする条例化が急がれる。

不動産登記簿における相続登記未了土地調査について、法務省、平成29年6月6日
所有者不明土地に関する最近の動きについて、国土交通省
所有者不明土地問題研究会中間整理、所有者不明土地問題研究会、平成29年6月


モデル地区での実施を踏まえて全国展開へ

里山保全・活用は、その波及効果として、鳥獣対策の基本(第一手)となる生育域の縮退に繋がる。それがあってこそ、田畑・果樹園等の守り囲いや駆除がその効果を発揮する。

さらに、中山間地域の価値を高め、散策・ハイキング、楽農(クラインガルテン等)、レクレーション(グランドゴルフ等)、ひいては里地・平場・まち場・漁場への関心を高め、兼居・移住等にもつながる可能性があり、地元自治体の活性化につながる。

加えて、里山保全は流域圏概念の復活にもつながるものであり、流域圏の防災・減災にも資することになる。

上記した里山保全・活用に係る新しい概念・手法の統合的実施は、省庁の枠組みを超えるものであり、民間主導型で事業採算性を確保しながら行うことを基本とすることにより、エコシステムとして成立しやすい。地元自治体はそうした活動の行政的壁を低くする支援を行う方が良いのではなかろうか。

まずは、賛同を得られる関係主体の協力を得て、モデル里山での里山保全・活用エコシステムの構築に向けて動きたい。