羽田空港衝突事故にみるスイスチーズモデルとレジリエンス

2024年1月2日 17:47、羽田空港C滑走路で、着陸しようとしたJAL516便(エアバスA350)と、離陸待ち(能登半島地震対応の物資輸送目的)の海上保安庁の航空機(ボンバルディアDHC8型)が衝突し、双方が炎上する事故が発生した。その事故発生前後の事実経緯が報道される中、「スイスチーズモデル」や「レジリエンス」を想起したので、現時点での情報を元に整理した。

■衝突事故の前後の事実経緯

羽田空港C滑走路での衝突の前後の事実データによる推移、分析、問題認識等については、現時点においては下記等において整理されている。

【参考】

■事故モデル:スイスチーズモデル

この事故発生の原因究明は今後に待たれるが、明らかに「スイスチーズモデル」で説明される「深層防護」の穴をくぐり抜けた事象が発生したものと思われる。

スイスチーズモデルは英国の心理学者ジェームズ・リーズンが提唱した事故モデルであり、個別・個人のヒューマンエラーではなく、なぜ「チーズ」の穴をすり抜けるような事象が連続して発生したのか[深層防御の誤謬]という観点から、事故の背後にあるシステム/組織の問題を対象としている。

こうした事故モデルを頭の隅において、冷静な事故の原因究明を実施して欲しい。メディアも事実報道をして欲しい。

[参考]

レジリエンス

衝突事故の結果、海保機の5人が死亡、1人が重傷を負った。JAL機の乗客(367人)・乗員(12人)のうち14人が負傷するも、衝突・炎上後18分間で、全員が機体から脱出(最後に、機長が全脱出を確認後脱出)し、その約10分後、機体は大きな爆発音とともに炎に包まれた。海外からは、「奇跡」と称賛されている。

この事故が発生した後のJAL機内の「乗客の安全な脱出は、CAの判断に委ねられる状況だった」中での客室乗務員の判断・行動(避難誘導)は、組織としての「レジリエンス」(適応力)の重要性を証明している。こうした行動がなし得た背景には、訓練/研修があり、ANAのグランドハンドリングの協力も、ANAという組織のレジリエンスを証明するものである。そして、そこには乗客自身の冷静な行動/モラルがあった。

今後、世界でレジリエンスの成功事例として扱われる可能性が高い。

[参考]

『事故後、JAL機から乗客が次々脱出。付近にいたANAのグランドハンドリング(グラハン)のスタッフ約10人がすぐさま駆け付けました。ふだんは貨物を運んだり、機体を誘導する地上業務です。グラハンのスタッフは避難誘導した後、乗客のケアに努めました。何人かが「トイレに行きたい」と話したため、同社の整備士に連絡。偶然、近くにANAの小型機が駐機していたため、整備士の誘導で乗客数人がトイレを利用しました。』

出典:炎上JAL機 全員脱出の陰にあったANAスタッフの協力 SNSが称賛「会社が違っても助け合ってたんだ」「影のヒーロー」|まいどなニュース

■責任追及と原因究明

事故後、「運輸安全委員会」(2008年10月、航空・鉄道事故調査委員会海難審判庁を組織再編して設置)が調査を進めているが、並行して、「警視庁が1月3日に捜査本部を設置して業務上過失致死傷容疑を視野に捜査を始めた」と報じられている。

欧米と日本の違いは、こうした事故時に、欧米は「原因究明」が先行し、その後に、異なる所管部署による「責任追及」となるが、日本は、警察による「捜査」(責任追求)が並行して始まる。当然ながら、捜査は純粋(科学的)な原因究明に影響を及ぼす。原因究明の結果の公表も制約を受けることになる。

【参考】 

日本の自動車事故データが十分に公開されないことが、世界の自動運転車開発に遅れをとる一因となっていることを鑑みると、運輸安全委員会の迅速な原因究明と情報公開に期待したい。

■おわりに

今回の事故は、能登半島地震の関連事故事象とも云える。やはり、米国のFEMAのような緊急事態庁が必要なのかもしれない。

参考:米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)と我が国防災体制との比較論レファレンス 平成 24 年 5 月号 国立国会図書館調査及び立法考査局 

米軍横田基地の空域による羽田空港の空域制約問題もある。世界的にみても非常に混雑している羽田空港海上保安庁との併用にするのではなく、近隣の航空自衛隊の基地(例えば、入間基地等)との併用が目的的には適しているのかもしれない。滑走路及び周辺の照明の暗さが現場の視認性を低下(最近の道路トンネルの暗さと同じ問題)させているなら、もっとライトアップすれば良い。航空管制・空港管理をもっと徹底的にDXすれことも避けられない。その上での、レジリエンスである。色々考えさせられる。

 

【補足追記】