行政のデジタル化、DX化の体験的実態

コロナ禍が日本社会のデジタル化の遅れを露わにした。そして、コロナ禍への対応、コロナ禍後に向けて、単なる個別個別のデジタル化でなく、日本社会の仕組み(官:行政サービスの仕組み、民:ビジネスモデル)そのものを変えるDX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれている。確かに、コロナ禍はDX化の大いなるチャンスである。

 

 DXに向けての本質課題

ところで、日本社会の官・民セクターの何れに、特段のDX化が求められるのだろうか。「4月14日の記者会見で、竹本IT担当大臣が在宅勤務の押印問題について問われた際に『しょせんは民間同士の話』」と述べたと報じられたが、それは逆で「まずは行政であり、法制度」である。日本の企業活動は関連法制度のもとで企業活動をしているのであり、行政つまりは法制度が変わらなくてはDX化は進まない。つまり、官側のデジタル社会に対応した各種仕組みづくりの遅れにこそ本質がある。

デジタル化の経緯

「2019 年にデジタル手続法が成立し、行政サービスの100%デジタル化が目標とされた」に関わらず、「公的セクターのデジタル化の遅れが深刻である。」と指摘し、ソリューションが提案されている。
[参考]例えば、新型コロナ禍が促す 公的セクターのデジタル革新 ㈱日本総合研究所 2020/05/20 

しかし、そもそもデジタル化の遅れは、かって、省庁システムのレガシー刷新が進められた頃の成果が出ていないことにあるのではないか。当時でさえ、日本の行政システムは韓国の行政システムと比べ遅れていた。今回のコロナ禍で社会としてのシステム化の差が更に拡大していることを見せつけられた。
[参考]政府情報システムの刷新の取組 総務省行政管理局 

現場実務の実態 その1:公的手続き

DX以前のデジタル化対応さえできていない実態の基底には、依然として、行政手続きの多くが依然として「対面・書面・押印」 という文書による形式主義を基本としているところにある。

たまたま、今回のコロナ禍の中、法人登記事項変更申請、gBiZID(複数の行政サービスを電子証明書がなくても電子申請を可能とするID)プライム登録取得申請、経済産業省の公募への応募を行った。
登記事項変更(役員重任、本店所在地変更)を自ら電子申請しようと試みるも「電子証明書」の入手の段階で諦めざるをえなかった。数をこなす司法書士ならいざしらず、事業法人がめったに行わない登記のためだけに時間とコストをかけられない。結局、紙の申請書に印紙を貼り、登記事項(わずか数行)をDVDに書き込み、その他の必要書類(定時株主総会議事録等)を添え、本店所在地所管の法務局(東京都内)まで出向いて申請した。

gBizIDプライム登録申請は、これまた印鑑証明書(原本)が必要なため、最寄りの法務局に出向いて入手して、申請書と一緒に郵送する。

これらは、いずれも2週間ほど正式承認の時間を要する。行政手続きの現場実態は、デジタル文化と紙文化が折り重なっており、結果して、全体の処理に要する所要時間(リードタイム)は紙文化(クリティカルパス)に左右されることになる。一気通貫でデジタル化がされないと、デジタル化の意味がない。

現場実務の実態 その2:公募要領

コロナ禍でテレワークが不可避となり、WEB会議が話題になっているが、テレワークで業務を進める上でもっと重要なのは、如何に業務上の書類fileをセキュアにやりとりするかは重要な課題である。そうした課題に応えるシステムをたまたま最近、開発していたので、業種を問わずテレワーク用に有用な「汎用ツール」として普及させようと某公募に応募申請した。

応募に必要な書類に、履歴事項全部証明書(最寄りの法務局)、納税証明書(法人が納税している地域所管の法務局)が必要となっている。コロナ禍で都心の法務局に行くにはリスクがあり、納税証明書は郵送で取得申請・返送してもらって取得した。これだけで約4日費消する。そのように入手した紙書類をPDF化して、デジタル化された申請サイトで添付して申し込む。

ところが、申請した当該システムは「オプション」レベルのものであり、申請に該当しないとされた。理由は、基本は「業種」対応の「業務プロセス」対応であり、その上での「オプション」があり、そのなかに「汎用ツール」が位置づけられている。「汎用ツール」には、「テレワーク環境の整備に資するツールを含む」と記載されているが、具体には「WEB会議システム」しか記載がない。

つまり、当該申請システムは業種対応がない「オプション」であると云うのが理由である。「汎用ツール」は業種を問わないから汎用ツールであり、しかも、「WEB会議システム」だけがテレワーク対応ではない。コロナ禍で従来の常識を越えた対応が要求されている企業向けの支援システムが、既存の業種分類で、既存の業務プロセスをベースにつくった公募要領になっているようでは如何ともしがたい。まさに、デジタル化を超えて、DX化しないと世界において行かれるだけである。


すべからく、華麗な政策目標・ビジョン・ソリューションを謳う前に、本質的な仕組みの課題解決(DX)なくして絵に描いた餅である。コロナ禍のさなか、デジタル化、DX化の遅れを体感した。