テレワークの実態、インパクト、そして行く末

コロナ禍も3年が過ぎ、コロナウイルスによる致死率も低下し、いよいよwithコロナ社会に移行しようとしている。コロナ禍における移動制約は、Zoom等のリモートコミュニケーションツールの普及と相まって、テレワークを加速させた。その実態、インパクト、そして今後の行く末について、各種実態調査等を踏まえて整理した。

 

テレワークの推移と実態

コロナ禍の3年間余において、4回の緊急事態宣言がなされたこともあり、テレワークが一気に進展した。コロナ禍前は全国で6%、東京圏で10%程度であったテレワーク利用率が第1回目の緊急事態宣言により、一気に約4倍に跳ね上がった。その後は若干下がり、横ばいから漸減している。

東京都の企業(従業員30人以上)についてみると、コロナ禍前の24.0%から、最大65.0%までテレワークが浸透したが、現在は50%超あたりに落ち着いている。実施内容的には、週3日以上が40%超となっている。

民間企業に勤める人においては、勤務先の従業員規模が大きいほどテレワークを実施している割合が高く、5000人以上の企業ではおよそ半数だった。業種別にみると、「情報通信産業(61.8%)」「学術研究・専門・技術サービス業(48.9%)」の順に高かった。もっとも低かったのが、「医療、福祉」で5.8%にとどまった。
テレワークは実施せず、時差通勤のみ実施していたのは全体の4.6%にとどまり、規模の小さい企業、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の適用期間が比較的短い地域でやや高かった

出典:テレワークはどういう企業が導入したか。時差通勤はどうだったか。2022年10月14日 ニッセイ基礎研究所 

なお、テレワークしている人の8割は自宅のみ(日経MJ調査)となっている。要するに、住むところが働く場所となっている。テレワーク拡大を受けてのコワーク施設等の市場拡大は限定的とみられる。それよりも、テレワークできる住宅(広さ)を求めて、郊外化、移住の方がニーズが高いと思われる。

年齢階級ごとにみたテレワークにょる生活時間の過ごし方は以下のようになっている。

●テレワーク(在宅勤務)をしていた人は、していなかった人に比べ、25~34 歳、45~54 歳では睡眠時間が最も長くなっている一方、35~44 歳では睡眠時間はほぼ変わることがなく、代わりに育児時間が最も長くなってい。

●35~44 歳では、他の年齢階級に比べ、就学前の子供がいる子育て世帯が多く含まれていることが想定され、通勤時間が減少した分を育児時間に充てているほか、休養・くつろぎに充てている。

●25~34 歳、35~44 歳、45~54 歳のいずれも趣味・娯楽の時間に充てているほか、25~34 歳では、学習・自己啓発の時間にも充てているなど積極的な「自由時間の活動」に充てている。

出典:テレワークによる生活時間の変化~社会生活基本調査の結果から~ 総務省統計局統計調査部労働力人口統計室長 奥野 重徳 統計 Today No.188 総務省統計局 

経営側は、世界的にみてもテレワークを縮小する/したがっている方向にあるが、テレワークを経験して、テレワークのメリットが大きく、デメリットがさほどでもないことを認識できたことにより、従業員側はテレワークを望む率が漸増している。その率は80%超になっていて、ギャップが拡大している。人手不足の今後、テレワークを望む声を無視した人材採用・維持は難しいことを示唆している。

●テレワークのメリット「通勤時間を有効活用」約5割。「メリットは特にない」約3割。
●「業務面でのデメリット」は「仕事と仕事以外の切り分けが難しい」約3割。「デメリットは特にない」約3割。
出典:テレワークのメリット「通勤時間を有効活用」約5割・デメリット「仕事と仕事以外の切り分けが難しい」約3割 (2022年10月3日)モバイル社会研究所 

テレワークがもたらしたこと

今回のコロナ禍(非常事態)により、移動制限がなされたことで、平常時には隠れていた課題が顕になった。これらは、日本の組織慣行の変革を迫るものであり、その対処が急がれる。
●ビジネスプロセスの劣後(ルール化・文書化の不備[阿吽の呼吸]、ハンコ文化)
●デジタル格差(含むサイバーリスク対策、世代間格差)
●非常時対応(BCPレジリエンス)の準備不足

一方で、テレワークの一時的経験にせよ、テレワーク社会を体験したことは少なからぬインパクトをもたらした。特に、住むところが働く場所化し、今後に向けて、いろんな気づきをもたらした。
●テレワークの良さ/価値、リアルオフィスの良さ/価値を再認識させた。
●「現実空間」の範囲が、物理空間から情報空間へ拡大していった。画面越しであっても、コミュニケーションできる「現実」が広がったこと等。これからの展開が期待されているメタバースはこれを加速する可能性がある。
●社会がVirtualオフィスに寛容になった(Realオフィスにこだわる必要がなくなった)
●全員が同じ時間に同じ場所にいる必要性のないことに気づいた。時差出勤、裁量労働性の選択肢を拡大した。
●リアルとリモートとは補完関係にあり、生産性を高められる「ハイブリッドワーク」の探究が今後の流れになることに気づいた。
●東京とその他の「ハイブリッドビジネス&ライフ」が成り立つことを認識できた。それは、自然災害、感染災害等の非常時に対するレジエンスを高める。
●子育て・介護世帯にとって、働き方の選択肢が増えた。
●住まい方、暮らし方、働き方の多様化により、地域住民の在り様が変わり、自治体の在り様が変わる。ひいては、地域MaaSの必要性が高まる。

テレワークの今後

非常時対応のテレワークから、withコロナ社会に移行するにつれ、リアルオフィス勤務への揺り戻しは当然の流れであるが、従前のような画一的な出勤・働き方ではなく、柔軟かつ多様な形態にならざるを得ない。テレワークのメリットを体感した者にとって、それは働き先の重要な選択要因になると思われる。特に、コロナ禍の3年間を大学時代に過ごした新社会人にとっては大きく影響しそうである。

コロナ禍を経て、従前の経営側に立った「働かせ方改革」が、本当の意味での働く個人側に立った「働き方改革」へと変化し、それに応じて、リアルオフィスの在り様も変わっていかざるをえない。それは、都市・街の在り様にも影響していく。

一方で、テレワークはテレワーク可能な住宅を求めて大都市圏での郊外化をもたらす。すでに東京圏の中ではその兆しが起きつつある。そうした郊外化経験者が、更に長期的には地方への兼居、移住につながっていくかもしれない。地方創生はそうした大きな流れのもとで考えていく必要がある。