パンデミックと人口減少

人口減少の加速

厚労省が最近取りまとめ報告によると、新型コロナの影響が本格化した4月以降(特に5月以降)の妊娠届出数が8.7%減少している。1月以降からの累計と比較すると明らかにコロナ禍の影響と思われる減少傾向が見られる。

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  出典:令和2年度の妊娠届出数の状況について 令和2年10月21日 厚労省         

わが国は、元々、30年後の2050年頃にはピーク時の人口より3,000万人減少すると予測されている。50年後には半減すら予想されている。その予測はコロナ禍以前の自然増減、社会増減等をベースに予測されているものであり、今回のコロナ禍はその予測を更に減少方向に加速させるものと見込まれる。

 

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パンデミックと人口減少、そしてイノベーション

世界の歴史で、パンデミックで大きく人口が減少したとされる最初のじ事例が、6世紀にビザンチン帝国(東ローマ帝国)で大流行して人口の40%(2500万人)の命を奪った「ユスティニアヌスの疫病」である。 

そして、その次に出現するの黒死病(ペスト)である。中世の1347年から1351年にかけてじ、ヨーロッパを襲った黒死病パンデミックは史上最悪の規模となり、ヨーロッパの人口の1/3(8千万人~1億人)が死亡したとされる。最大の被害が出たイングランドは約半数が死亡。(オスマン帝国では19世紀半ば迄続いた) 

この中世のパンデミックが終わったあとも小規模な流行は続き、ヨーロッパの人口はなかなか回復せず、人口増加が軌道にのってきたのは16世紀頃である、このため、深刻な人手不足が発生するに至る。

特に、ペストにより、農奴が一気に減り、荘園は深刻な労働力不足になり、貨幣経済化していたイングランドにおいては、封建制度がほころび、農奴の地位向上が進展し、独立自営農民(ヨーマン)が生まれた。英国だけで1,000近い村が消え、地方から都市に向かって大規模な移住が起き、田舎に残った農民(農奴)は遊休地を手に入れ、土地を持つ農民の権力・生活水準が向上し、農村経済が活性化した。

 耕作地が牧草地に転用され、家畜が栄養価の高い草を食べられるようになったおかげで、イギリスの羊毛の品質が向上し、高品質の「梳毛(そもう)織物」を生産(付加価値向上)できるようになり、これが強力な輸出製品に成長し、毛織物産業が成立した。

イギリスは高賃金のために、機械化による機織り機を開発し、蒸気エンジンを創り、自動機織り機を開発(生産性を向上)し、近代繊維産業へと拡大して、イギリスの産業革命という大きなイノベーションへと繋がったとされる。

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 出典:

①ヨーロッパ人の1/3が死んだ「黒死病」、歴史の教訓 労働力不足で社会が崩壊、急拡散の背景に当時の「教え」 2020.05.04  NATINAL GEOGRAPHIC  

 ②アメリカ生活⑰ 「パンデミックは、結局人間社会の大変革を強いるトリガーとなる」 May 6, 2020  

日本経済の再生の道 三輪晴治(エアノス・ジャパン 代表取締役) 世界経済評論IMPACT 2020.08.17 

イギリスが高賃金経済になった理由 簿記の歴史物語 第36回 MONEY PLUS   

日本の今後に向けて

日本もいま、少子超高齢社会への移行に伴う急激な総人口減少下にあり、構造改革が必要であるにも関わらず、「失われた30年」に代表されるように「ぬるま湯」状態にあった。

 日本が今回のコロナ禍後を生き抜くには、これを脱皮するチャンスと捉え、イノベーションにより果敢に新しい世界を自ら創っていかなければならない。この為の方策の一つとして、賃金を上げる(=所得アップ、消費力アップ)ことの重要性が指摘されている。

出典:日本経済の再生の道 三輪晴治 世界経済評論IMPACT 2020.08.17  

確かに、バブル崩壊以降、わが国の人件費は抑えられ、企業の内部留保に廻されている。

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上記したペスト禍の英国とが主原因は異なるも、同様に大きく人口が減少する中で、「人材」の価値が上がり、賃金水準が上がるのは必然の流れである。コロナ禍の前においても、日本の賃金水準の低さは世界の中で人材吸引・獲得競争に負けていた。このままでは,それが更に加速することになる。

賃金を上げるためには、企業は生産性(付加価値)を上げなくてはならない。そのための投資が不可避となり、ひいては、イノベーションを励起する流れになると推測される。

賃金を上げるもう一つの手立てが、コロナ禍前に行われていた総賃金の支出を下げるための「非正規社員」の拡大の流れを断ち切り、就業者に正規も非正規もない個人の能力に応じた処遇をする、あるいは奇貨が与えられる社会の仕組みに移行することも欠かせない。

 

いずれにしても、人口が大きく減少するときはイノベーションが避けられないと云うことであり、覚悟をもってコロナ禍後に立ち向かわなければならない。