能登半島地震における気付き

令和6年能登半島地震の概要

今年の新年早々の2024年(令和6年)1月1日 16:10、マグニチュード7.6(最大震度7)の逆断層型の地震[令和6年能登半島地震]が発生し、津波(最大遡上高5.8m)、地盤隆起・移動(最大4m程度の隆起、最大2m程度の西向きの変動)、液状化(噴射、沈下)が発生した。

地震はその後も続き、M7.6 の地震の直後からの地震活動は北東-南西に延びる150 ㎞程度の範囲に広がっている。地震動の分析によると、能登半島北部はほぼ全域が震源断層の直上に位置すると分析されている。

資料:気象庁 報道発表 令和6年1月1日16時10分頃の石川県能登地方の地震について 令和6年1月1日 
資料:気象庁 報道発表「令和6年能登半島地震」について(第20報) 令和6年2月29日
資料:令和6年能登半島地震(M7.6)地震動 京都大学 防災研究所 後藤浩之 2024年1月9日 令和6年能登半島地震(M7.6)に関する速報会
資料:令和6年能登半島地震に関する情報「令和6年能登半島地震の評価」 地震調査研究推進本部 令和6年1月2日、1月15日、2月9日公表

令和6年能登半島地震被害の概要

人的・物的蟻害は、2024年4月16日14:00現在、下記のとおりである。

○人的被害:死者245人 負傷者1,302人
○住宅被害:全壊8,536棟 半壊19,015棟 一部破損88,968棟 
      床上・床下浸水25棟
○火災発生 17件
○水道被害:石川県  最大時 約 34,400戸  現在 約 5,310 戸が断水中
      その他県 最大時 約102,000戸  現在 断水解消済
○道路被害:高速道路 能越道 南向き通行止め
      補助国道 40区間通行止めのうち 30区間復旧
      都道府県道等  3県145区間通行止めのうち106区間復旧
○空港被害:滑走路閉鎖(~1/24) その間、救難機の離発着受け入れ

資料:令和6年能登半島地震に係る被害状況等について 内閣府非常災害対策本部
資料:令和6年能登半島地震 緊急復旧(道路啓開)の状況 国土交通省

経済被害(経済活動への影響)については、月例経済報告に関する関係閣僚会議(令和6年1月 25 日及び同年4月 23 日開催)で報告された令和6年能登半島地震の影響試算によると以下の通りである。

○石川県・富山県新潟県のストックの毀損額 推計値:合計1.1~2.6兆円   
              ※ストック:社会資本ストック、民間企業資本ストック、住宅ストック

○3県の令和6年1月~3月の3か月間のフローの直接損失額(GDP損失額):
                          合計約 900~1,150 億円 
サプライチェーンを通じた生産波及効果(派生的な生産減)による損失額: 
                             約 700~850 億円

この続きを読むには
購入して全文を読む

増田レポート「消滅可能性都市」の問いかけや如何

第2弾の増田レポート 発表

2024年4月24日、「消滅可能性自治体」に関する第2弾のレポートが発表された。「消滅可能性自治体」数は、第1弾(2014.5.8)のときの896自治体から744自治体に改善しているが、その原因は外国人増(入国超過数増)によるものであり、日本人人口でみれば、楽観視はできないとしている。そして、「全般的に見れば、人口規模の大きい自治体は自然減対策が、また、小さい自治体は社会減対策と自然減対策の両方が必要だといえる。」と人口規模に応じた指摘をしている。

第1弾 資料:成長を続ける21世紀のために 「ストップ少子化・地方元気戦略」 平成26年5月8日 日本創成会議・人口減少問題検討分科会 
第2弾 資料:令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート ―新たな地域別将来推計人口から分かる自治体の実情と課題― 令和6年4月24日 人口戦略会議
関連:【人口戦略会議・公表資料】『地方自治体「持続可能性」分析レポート』2024.04.24 一般社団法人北海道総合研究調査会(人口戦略会議 事務局補佐役)

 前回同様に論議を呼んでいるが、これはあくまでも基礎自治体(市区町村)という行政界をベースとした「地方自治体の持続可能性」分析である。そもそも「境界」は人類が定住生活を行い、護るべきストックを持ち始めたことに起因するとされる。国としての「国境」は戦争をも引き起こす。過去の人類(民族・国家等)の戦争の結果が国境に投影されている。それでは、国内における地方自治体(特に、基礎自治体)の境界、つまりは「地方自治体」とは何を意味するのか。

 関連:“消滅する可能性がある”744自治体 全体の4割に 人口戦略会議 2024年4月24日 16時09分 NHK
関連:「“消滅可能性” 自治体の努力に水を差す」全国町村会が批判 2024年4月26日 18時39分 NHK

この続きを読むには
購入して全文を読む

土地利用の前に土地管理を

空き家問題に潜む土地管理問題

最新の住宅・土地統計調査(2023年10月1日現在値)の速報値が2024年4月30日には発表された。これによると、「我が国の総住宅数は6,502万戸(2023年10月1日現在)、2018年から4.2%(261万戸)の増加」の一方で、「空き家数は900万戸と過去最多、2018年から51万戸の増加、空き家率も13.8%と過去最高」。空き家の中で特に問題となる「 賃貸・売却用や二次的住宅(別荘など)を除く空き家が37万戸の増加」という状況になっている。

わが国の人口・世帯構造の動向からみて、今後も空き家が増えるのは確実であり、その相続絡みでの土地・建物の管理放棄(含む農地・山林の耕作放棄・手入れ放棄を含む)、所有権放棄・不明(すなわち、管理者不在)もまた増加し、社会問題化するのは必至である。これを受けて、関連対策が取られ始めている。

参考:多死社会で増加する相続をめぐる課題 ― 家族・社会の変化を踏まえた対応を ― 2024 年 3 月 25 日 ㈱日本総合研究所
参考:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)令和5年10月31日 法務省
参考:所有者不明土地法の見直しに向けた方向性のとりまとめ 令和3年 12 月 国土審議会土地政策分科会企画部会
参考:所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成 30 年法律第 49 号)
 
しかし、空き家が建っている土地そのものに関する事実データ(地籍)の把握が不十分であることについての認識、危機感が行政(特に、基礎自治体)、国民/住民ともに薄い。災害時等の対応、防衛上の観点から大きな課題となっている。加えて、時代環境にあった土地利用をどうするかの枠組み/仕組みについての本質的な議論も十分ではない。

この続きを読むには
購入して全文を読む

地方創生の行く末

地方創生の経緯

2024/5/9、『岸田文雄首相が看板政策としてきた「デジタル田園都市国家構想(デジ田)」が今年の施政方針演説から消え、関係者の間に衝撃が走った。デジ田に代わり、「デジタル行財政改革」だった。』(毎日新聞)と報じられた。

出典:地方創生、消えた「デジ田」 始動10年、成果乏しく迷走 2024/5/9 毎日新聞 

「地方創生」は、国土全体の計画の中での地方のあり方に関する一連の政策の流れの中で、いわゆる「日本創成会議 増田レポート(2014年5月)」で警鐘された「消滅可能性都市」を背景の一つとし、2014年6月14日、安倍首相が視察先で記者団に対し、地方を活性化させるため、自らをトップとする「地方創生本部」を新設すると表明し、「地方創生」というワード(政策用語)が誕生した。

地方創生政策は、第1期(2014年~2019年)が終わり、現在、第2期(2020年~2024年~)に入っている。「まち・ひと・しごと創生総合戦略」も2020年12月に改定された。そして、岸田内閣において、「デジタル田園都市構想」が打ち出されたが、それが今年の施政方針演説から消えたという次第である。

定住人口ベースの東京一極集中が是正されない中、「インバウンド」が注目され、国内的には「関係人口」なる概念が打ち出される。コロナ禍においては、「テレワーク」が注目される。最近は、「定住なき移住」として、副業/兼業、プロボノ、兼居/二地域居住、サイバー住民等「新たな働き方・暮らし方・住まい方」に絡んだ動きも起きている。

「地方創生は、出生率の低下によって引き起こされる人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持することを目的としています。
現在、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局と内閣府地方創生推進事務局とが両輪となって、地方創生の推進に向けた施策に政府一丸となって取り組んでいます。」 出典:内閣官房・内閣府総合サイト 地方創生

関連:第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2020改訂版)について ~感染症の影響を踏まえた今後の地方創生~ 令和2年12月 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 内閣府地方創生推進事務局
参考:【#論点提起】 増田レポート「消滅可能性都市」の問いかけや如何 芝原靖典 2024年5月2日 11:54 note 

画像

画像

画像

画像

この続きを読むには
購入して全文を読む

我が国における社会的孤立・孤独に関する政策とデータ

政策動向

最近、社会的孤立・孤独が社会問題化している。社会的孤立・孤独の構造的背景として、社会経済の低迷(可処分所得が伸びない)、雇用形態の変質(将来が安定しない/希望が持てない非正規雇用の拡大)、生活環境の変化(デジタル化)、人口・世帯構造の変化(人口減少、少子高齢化核家族化、未婚化・晩婚化、独居高齢者増加)等に伴い、働き方、住まい方、暮らし方が変化し、従来の地縁・血縁等の「人のつながりの希薄化」の進展が基底にある。

そうした急激な構造的背景が相まって進行している折に、2019年(令和元年)末から、コロナ禍が発生し、国際的な移動の遮断、そして国内的には一斉休校措置、休業要請、外出自粛要請が行われ、非正規雇用者を中心に雇用環境の悪化、加えて各種の社会的支援活動も縮小・停止に追い込まれ、生活/経済弱者を中心に大きな影響(例えば、家族や周囲の人に相談ができずにひとりで出産したのちに乳幼児を遺棄した人やヤングケアラー、介護殺人、虐待、自殺等)が出た。加えて、自宅での時間が増えたことは、家族/家庭内での過ごし方の変化をもたらし、コミュニケーションや相互への理解が向上する反面、逆作用の問題を励起・顕在化させた。

こうした事象の顕在化が「社会的孤立・孤独」を社会問題として認識さすことになり、2021年(令和3年)2月に「孤独・孤立対策担当大臣」を指名して同大臣が司令塔となり、内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」を設置した。同年3月以降、孤独・孤立対策担当大臣を議長とし、全省庁の副大臣で構成する「孤独・孤立対策に関する連絡調整会議」を定期的に開催している。

2021年(令和3年)6月には、「経済財政運営と改革の基本方針 2021」が閣議決定され、2024年(令和6年)4月1日、「孤独・孤立対策推進法(令和5年5月31日成立 令和5年6月7日公布)」が施行されるに至っている。

孤独・孤立対策推進法 

   Act on the Advancement of Measures to Address Loneliness and Isolation

(基本理念)第一条 この法律は、社会の変化により個人と社会及び他者との関わりが希薄になる中で、日常生活若しくは社会生活において孤独を覚えることにより、又は社会から孤立していることにより心身に有害な影響を受けている状態(以下「孤独・孤立の状態」という。)にある者の問題が深刻な状況にあることを踏まえ、孤独・孤立の状態となることの予防、孤独・孤立の状態にある者への迅速かつ適切な支援その他孤独・孤立の状態から脱却することに資する取組(以下「孤独・孤立対策」という。)について、その基本理念、国等の責務及び施策の基本となる事項を定めるとともに、孤独・孤立対策推進本部を設置すること等により、他の関係法律による施策と相まって、総合的な孤独・孤立対策に関する施策を推進することを目的とする。

(基本理念)第二条 孤独・孤立対策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。

一 孤独・孤立の状態は人生のあらゆる段階において何人にも生じ得るものであり、社会の変化により孤独・孤立の状態にある者の問題が深刻な状況にあることに鑑み、孤独・孤立の状態にある者の問題が社会全体の課題であるとの認識の下に、社会のあらゆる分野において孤独・孤立対策の推進を図ることが重要であることを旨とすること。

二 孤独・孤立の状態となる要因及び孤独・孤立の状態が多様であることに鑑み、孤独・孤立の状態にある者及びその家族等(以下「当事者等」という。)の立場に立って、当事者等の状況に応じた支援が継続的に行われるようにすることを旨とすること。

三 当事者等に対しては、その意向に沿って当事者等が社会及び他者との関わりを持つことにより孤独・孤立の状態から脱却して日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるようになることを目標として、必要な支援が行われるようにすることを旨とすること。

出典:孤独・孤立対策 内閣府 

参考:孤独・孤立対策の重点計画 令和3年12月28日 孤独・孤立対策推進会議決定

参考:日本における孤独・孤立の現状と対策 堀 純子 / 国立国会図書館調査及び立法考査局専門調査員 議会官庁資料調査室主任 レファレンス(The Reference) 2023-2-20 国立国会図書館 調査及び立法考査局

この続きを読むには
購入して全文を読む

ゆるやかにつながる居場所づくりや如何

孤独と孤立

最近、「孤立死 / 孤独死 / 無縁死 / 独居死」の記事を目にするようになった。用語的には、「孤独」は心情的/主観的状況表現であり、他人からみて本当に「望まない孤独」であったかどうかはわからない。これに対して「孤立 / 無縁 / 独居」は外部からみえる客観的状況表現と云える。

参考:高齢者の「孤独死」6.8万人 年間推計、警察庁が初調査 時事通信 2024年05月14日 JIJI.COM 

参考:海外における邦人の孤独・孤立に関する実態把握のための調査 外務省 2024年6月3日

最新の内閣府の全国調査(参照:note 【#社会的孤立・孤独】我が国における社会的孤立・孤独に関する政策とデータ)によると、「孤立」の状況については、

  • 同居していない家族や友人たちと直接会って話すことが「全くない」と答えた人の割合は9.2%
  • 社会活動への参加は「特に参加はしていない」と答えた人の割合が51.8%
  • 日常生活に不安や悩みを感じていることが「ある」にも関わらず、「支援を受けていない」と答えた人の割合は86.7%

となっている。最後の「支援を受けていない」理由として、「支援が必要ではないため」(63.7%)が最も多いが、この認識自体が孤立化の前兆なのかもしれない。「声を上げられない」「声を上げたいと思わない」という最も難しい実態把握の壁とも理解できる。

一方、孤独感は、「男女・年齢階級別にみると、男性では30歳代及び40歳代、女性では20歳代で高い」。そして、現在の孤独感に影響を与えた思う出来事の上位は、「家族との死別」、「一人暮らし」、「心身の重大なトラブル(病気・怪我等)」となっている。つまり、全世代問題である。

資料:人々のつながりに関する基礎調査 -令和3年、4年- 調査結果に関する有識者による考察 令和5年10月 孤独・孤立の実態把握に関する研究会

最近は、自然災害の激甚化等の影響もあり、避難先が広域化したり、避難先での生活が長期化する中で、生活環境激変による新たなタイプの孤独・孤立が生じ、問題となっている。

参考:能登半島地震発生から5か月 災害関連死や孤立を防ぐ対策が課題 2024年6月1日 5時46分 NHK 

参考:門前の仮設で孤独死 5月中旬、持病抱え 県内で初判明、4月入居の70代女性 2024/5/28 05:00 北國新聞DIGITAL 

この続きを読むには
購入して全文を読む

なぜ不正が発生するのか、なくならないのか

自動車メーカーの不正

日本の自動車メーカーは、製造品出荷額は56兆円(2021年)、自動車輸出金額 17.3兆円(2022年)、そして自動車関連産業の就業人口 554万人(2022年)を要する日本の基幹産業である。

その自動車メーカー業界で、ダイハツの不正(2023年5月)を端緒に、自動車メーカー業界全体に渡る「型式認証不正」が明らかになり、規制の問題なのか、メーカー側の問題なのか、規制に対する認識のギャップ等もあり、論議を起こしている。

国土交通省の調査により、5社(トヨタ自動車㈱、マツダ㈱、ヤマハ発動機㈱、本田技研工業㈱、スズキ㈱)から、不正行為の報告(トヨタを含む17社は調査継続)があり、その後、立入検査も実施された。

[追記]資料:国交省、認証不正行為でマツダ、ヤマハ、ホンダ、スズキ4社の立入検査の結果公表 マツダ、ヤマハへの出荷停止指示を解除 2024年6月28日 22:38 Car watch
資料:ダイハツ工業の型式指定申請における不正行為について 令和6年4月19日時点 国土交通省 
資料:自動車メーカー等の調査報告の結果等について 令和6年6月3日 国土交通省物 流・自動車局審査・リコール課 
参考:なぜ自動車メーカーはこぞって「型式認証不正」に手を染めたのか、制度改革のチャンスを逃し続けてきたツケ 2024.6.5(水) 井元 康一郎

特に、トヨタグループでは、最近、ダイハツ以外にも不正が相次いでいる。「日野自動車2001年トヨタの子会社化)によるエンジン性能試験を巡る不正が2003年から行われていた」ことや、ダイハツ1998年トヨタの子会社化)の不正が急増したのは、「開発期間の短縮強行と業務量の急増が同時に起こった2014年以降」と報道されている。

出典:トヨタG揺らぐ信頼、豊田自動織機社長「現場任せきり」2024/01/30 読売新聞オンライン

参考:トヨタも起こした認証不正 「焦りが『解決したふり』の誘惑を生む」藤本隆宏教授 早大院・藤本教授が説く不正のメカニズム(上)2024.7.1 日経ビジネス

参考:トヨタ系、下請け50社に金型を無償で長期保管させる…最大30年・被害総額は数億円の可能性 2024/06/30 05:00 読売新聞オンライン
参考:第49回:国交省を再直撃! 結局なにが問題なのか? トヨタは悪くない……は本当なのか? 2024.06.17 webCG

素材メーカーの不正

完成品メーカーだけでなく、素材メーカーでも不正が発覚している。
神戸製鋼:出荷先(部材メーカー等)約500社
 2017年10月8日、神戸製鋼所のアルミ・銅製品などの検査データ改ざんが  
 明らかになる。
 -保証担当者も素材の品質データ改ざん、工場長レベルも黙認
 -経営陣が把握した段階で該当製品を出荷停止
 -子会社 ㈱コベルコマテリアル銅管の一部製品(43%)のJIS認証取消
   日本品質保証機構JQA)は品質マネジメントの不備を重視
◯ 三菱電線工業三菱マテリアル子会社)

 2017年2月:性能データ改ざん不正が品質保証担当者に報告
 2017年3月:経営陣に報告
 2017年10月23日まで出荷停止せず ※メーカーとして許されない

参考:【三菱マテリアル不正】「神鋼よりも悪質」 問題把握後の出荷に批判 2017.11.25 産経新聞  

生活関連企業の不正

ハウスメーカー大和ハウス工業の不正
● 型式適合認定外(基礎高、L字型受柱)、L字型受柱の防火基準不適合等の賃貸アパートや戸建て住宅:3,955棟
原因は、設計者に国の型式認定制度を守らせる体制が整っていない上、本社(商品開発部門及び技術本部)と現場の情報共有不足による集団的誤信。

参考:外部調査委員会による最終報告に関するお知らせ 大和ハウス工業㈱、2019年6月18日 

● 建築・土木・電気工事施工管理技術士不正取得

:445件(2019年12月発覚)
調査委員会は、30年以上前から不正取得が行われてきた原因として、資格取得を推進する全社方針、実務経験要件のチェック体制などの不備、実務経験要件に不備があった者とその承認者の対応・認識の問題を指摘。

参考:大和ハウス工業、施工管理技士の不正取得を助長した「昇格必須免許」 不正取得者は371人、外部調査委員会 が報告書 日経クロステック/日経アーキテクチュア 2020.05.08  

耐震機器メーカ- KYB㈱・カヤバシステムマシナリー㈱の免震・制振オイルダンパーの不正
● 検査データ書き換えによる大臣認定等に不適合な製品の出荷
 -出荷先:共同住宅、事務所、病院、庁舎等 986件
 -不適合内容:オイルダンパーの減衰力性能の基準値からの乖離値が大臣 
  認定等において許容されている値の内容よりも大きいこと。

参考:KYB(株)及びカヤバシステムマシナリー(株)が製造した免震・制振オイルダンパーの国土交通大臣認定への不適合、国交省HP、平成30年10月16日  

賃貸アパート大手「レオパレスの施工不正
● 1996~2009年にかけて販売したアパートに建築基準法違反:
               32都府県 1,324棟 ​⇒​ 引越要請14,443人
● その後、レオパレスは、全棟の98パーセントで調査を完了し、29,300棟余
の物件に不備が見つかったと発表 (2019年10月28日時点)
-不正内容:鉄骨ブレース工法や木造軸組み工法を採用した集合住宅など
 で、建基法30条や建基法施行令114条1項で定める小屋裏界壁を未施工また
 は施工不十分[耐火性能不備]、壁の仕様改変[遮音性不備]
-理由:建築関係法令に対する遵法意識・リスク感度が低く、品質問題に対
 する当事者意識も欠如していたこと
遠因として、制度設計(図面検査・形式的確認)や不動産金融等の問題が考えられる。

参考:施工不備問題に関する調査報告書(概要版) 、外部調査委員会、2019 年(令和元年)5 月 29 日 他

政府の不正

厚労省の毎月勤労統計で不適切

な調査(手続き不正、手法変更不正、報告・訂正放棄等)が2014年から10年以上続いていたことが発覚
[=不正の放置]
 ➡️ これを受け、各府省による点検実施の結果
基幹統計の22統計(全56統計の39%)、一般統計の154統計(全232統計の66%)で誤りが判明
 -プログラムミス:16統計
 -ルール違反(調査対象の一部除外):11統計
 -集計結果の公表遅延:81統計
 -調査期間のずれ:40統計

年金記録問題検証委員会 最終

報告書(総務省、2019年10月)の反省「記録を正確に作成・保管・管理する組織全体の使命感、責任感が決定的に欠如」活かされていない。統計の価値に対する基本的な認識不足、組織・仕組み・ガバナンスの問題がある。

参考:政府基幹統計 4割で誤り 公表遅れなど 一般統計も総点検へ、日本経済新聞、2019/1/25 
全政府統計の6割強不適切 プログラムミス、ルール違反、公表遅延など、毎日新聞、5/16(木) 19:58配信 他

国交省所管の「建設工事受注動態統計」(基幹統計)の調査票のデータ書き換え作業指示(国交省都道府県担当者)による二重記載
総点検で発見されず、会計検査院の検査で明らかになる。統計開始の2000年4月から続いていた。
政策立案、政策評価の前提・根拠の崩壊、時系列統計欠損という「お粗末」(第三者検証委員会)な状態であったといえる。原資料はデジタルデータとして永久保存し、大学等にデータ提供するなど活用すべ木である。

参考:国交省の統計不正問題、いま分かっていること 仕組みや影響を解説 国交省の統計書き換え問題 2022年1月25日

提出法案の誤り
● 第204回通常国会の閣法における誤り:合計181件
 -案文(改め文)<条文の誤り>:4本の法律案に14件 
 -参考資料:22本の法律案に167件 
     (新旧の改正箇所以外における誤字・脱字、様式不備等 161件)原因として、以下が指摘されている。現場の疲弊、モラル/矜持の低下が背景にある。

  1. 法案作成における複層的なチェック体制が不十分であったことに加え、法案の正確性を確保するためのノウハウについて、実効的なチェック手法が必ずしも共有されていなかったこと
  2. 参考資料のうち、新旧対照表の法改正以外の箇所(21 件)や参照条文(90 件)について、その位置付けから、時間的な制約や認識の甘さもあり、読み合わせ等による十分な確認が実施されていなかったこと
  3. 様式面での不備(33 件)について、最低限確認すべき点が標準化・共有されていないため、形式面の確認が不十分となったこと
  4. 法案作成段階、法案審査段階から、法案印刷・提出段階まで見据えたスケジュールの適切な管理が不十分であったこと
  5. 手作業による対応が必要な作業が多く発生するなど、法制執務全般において、デジタル技術や各種システム等の有効な活用ができていなかったこと

出典:法案誤り等再発防止プロジェクトチーム取りまとめ 令和3年6月29日 内閣官房

失われた30年と重なる不正の

発生・継続

上記した以外にも、例えば、下記のような事案が発生しているが、明らかに不正は一過性ではなく、組織として構造的に組み込まれ、数十年に渡って続いている。そして、その不正発生は、失われた30年と重なる。

  • 三菱電機:国内の22拠点/製作所の内16拠点/製作所でコスト削減/納期の為の品質不適切行為。少なくとも1980年代初めから品質不正が行われてきた。管理職が不正を指示。

「現場力の暴走」

  • 東レ:樹脂製品の一部が米国の第三者証を不正取得。遅くとも1972/1980年代後半には発生し、その後も長期間にわたり組織的に行われていた。
  • 日立金属:社長が自ら品質不正の隠蔽を決断・指示。多くの拠点が広範な製品でさまざまな品質不正。1980年代以降30年にもわたって不正を行っていた。
  • 日本軽金属:アルミ板製品で検査不正。JIS規定と異なる試験を25年間実施
  • 川崎重工 子会社川崎冷熱工業:吸収式冷凍機出荷前検査と顧客の立会検査で不正行為。不正検査期間は1984年から2022年の38年間。カタログ・仕様書に虚偽記載は1986年から2009年の23年間
  • ジェネリック大手 小林化工、日医工:製造・品質不正。いずれのメーカーも違反の一部は10年以上前から行われていた。

参考:2000年~2020年の業界/業態別品質不正企業リスト (一社)ディレクトフォース 他各種資料

資料:第2回税制調査会(2020年8月5日)資料、サムソンに渡ったシャープ技術者「90年代から技術流出」日経産業新聞 2022年6月2日を元に加筆

持続的&構造的な不正の原因と対処

こうした不正の背景に何があるのか。

企業風土・文化、・・・
社内論理優先、不正が当たり前化、同調圧力、・・・
創業理念・社会的存在価値の忘却、経営のガバナンスが効いていない、・・・
形だけのPDCA・仕組み、カイゼン・・・
現場力依存・暴走・空転、・・・
・・・

「わが社の強みは現場力」とよく云われるが、これは経営層から、実態と乖離した要求が現場に降りてきたときに、現場としての部分最適化/カイゼン(各種不正を含む)を強いることになり、そして、それが続くことにより、風土・文化(社内最適化)になって行ったと考えられる。全ては経営力のなさであり、ガバナンス力のなさに起因している。その背景には、リスクを避け、責任を避けるサラリーマン社長の限界がある。

更には、企業間の取引関係の歪にも起因している。過剰な Just in time に代表される発注側の一方的な都合による調達納入システム(納入待ちのために公道等が使われることも多い)、発注者側の優越的地位濫用気味の受発注システム等々、従来型の企業間のビジネスの仕組みの問題もある。

いずれも、「非合理性」があり、弱いところに「無理強い」し、限界を超えれば「不正」で表面的にその場を取り繕いやり過ごすという状況を惹起する。構造的問題ゆえ、構造的に仕組みをイノベーションするしかない。

参考:デジタルカイゼンでは滅びるぞ、みずほ銀行の障害と三菱電機の不正にみる現場力の罠 2021.11.11 日経ビジネス
参考:神戸製鋼所のデータ改ざん、不正が「合理的」に続いた背景に日本企業の悪習 菊澤研宗:慶應義塾大学商学部教授 2023.1.3 4:37
2024/06/25 8:00
参考:なぜ豊田章男氏は「不正撲滅は無理だと思う」と語ったのか…「組織不正」の研究者が見た認証不正問題の根本原因トヨタの「正しさ」vs.国交省の「正しさ」という構図 2024/06/25 8:00 PRESIDENT Online

以上

この続きを読むには
購入して全文を読む

発想を転換し社会システムをリデザインできるか如何

コロナ禍のパンデミックが収束(日本においては、新型コロナウイルス感染症法上の位置づけを2023.5.8に5類に移行)してから1年余が経過した。現時点において、新型コロナ関連死者数10.6万人(2020~2023年の累計)、新型コロナワクチン接種に起因する死亡認定者数 618件(2024.6.10)となっている。新型コロナ関連経営破綻件数 累計9,774件(2024.5.31)、ゼロゼロ融資後倒産 累計1,500件。感染後遺症の問題、経営への影響は今後もしばらく続く見込みである。

そして、コロナ禍による変容の象徴的事象であったテレワーク実施率は現在、43.4%(従業員30人以上東京都内企業。2024.3)に落ち着いている。コロナ禍を受けての「変容」も今や聞かれない。

 資料:疾病・障害認定審査会 第18回 感染症・予防接種審査分科会 新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査第一部会 審議結果 2024年6月10日
資料:令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況 厚生労働省
資料:2024年5月の「ゼロゼロ融資」利用後倒産は67件 月間過去最多に並び、3カ月連続で60件超え 2024/06/06 東京商工リサーチ
資料:新型コロナ破たん 5月は274件が判明(5月31日現在)2024/06/04 東京商工リサーチ 
資料:テレワーク実施率調査 4月の調査結果 2023年05月15日 東京都産業労働局 
補:新型コロナの発生以降の経緯情報のアーカイブは「新型コロナウイルス感染症 特設コーナー by Japa」 を参照されたい。

この続きを読むには
購入して全文を読む

ライドシェアはMaaSの一環として実施すべき

交通環境の変化

人口減少による交通事業採算性の悪化、運転手不足の一方で、免許返納等による移動手段を持たない高齢者の増加に伴う移動確保問題等が相まって、地方の公共交通問題が議論されて久しい。

地方においては、もはや、かってのような大量輸送(鉄道)・中量輸送(バス)が必要な需要は存在せず、鉄道・バスの赤字路線の廃止が進んでいる。これを受け、地方自治体は廃止すれば公共交通空白地域となることを避け、「住民の移動の足」を確保するために、一部の路線については、公共交通として、バス事業者に運営委託(公的補助)し、「赤字路線バス」を維持している。

それでも、移動の足の確保が難しい特定エリアについては、利用者への利用費補助のデマンドタクシーや、自家用車を活用する「自家用有償旅客輸送」(現在は、省令により『交通空白地有償運送』及び『福祉有償運送』のみが認められている)の導入が行われている。

[参考]地域公共交通の現状と課題 国土交通省 

[参考]地域公共交通を巡る環境変化 2021年2月4日 日本銀行 

[参考]自家用有償運送、20超の自治体が導入検討 デジタル相 2024年2月21日 日本経済新聞

この続きを読むには
購入して全文を読む

羽田空港衝突事故にみるスイスチーズモデルとレジリエンス

事故情報の整理

2024年1月2日 17:47、羽田空港C滑走路で、着陸しようとしたJAL516便(エアバスA350)と、離陸待ち(能登半島地震対応の物資輸送目的)の海上保安庁の航空機(ボンバルディアDHC8型)が衝突し、双方が炎上する事故が発生した。その事故発生前後の事実経緯が報道される中、「スイスチーズモデル」や「レジリエンス」を想起したので、現時点での情報を元に整理した。

<衝突事故の前後の事実経緯>

羽田空港C滑走路での衝突の前後の事実データによる推移、分析、問題認識等については、現時点においては下記等において整理されている。

【参考】

この続きを読むには
購入して全文を読む