新型コロナウィルス対策関連アプリ/システムの開発に関して、不具合が発生し、日本のアプリ/システム開発力の構造的問題を改めて認識させられている。
COCOAアプリ
新型コロナウイルス陽性者との接触を知らせるアプリ「COCOA(ココア)」のアンドロイドスマートフォン版において、昨年9月に陽性者との接触を通知できない不具合があったにもかかわらず、厚労省は問題を把握するまで4カ月かかったとのこと。それはこの間のコロナ対策を無にする不具合というか行為であり、パンデミック下のシビアなアプリ/システムとして許されることではない。
出典:COCOA開発受注企業が事業費94%を3社に再委託、さらに2社に…不具合の原因企業「分からない」 2021年2月20日 06時00分
そもそも、実機でのテストが行われていなかったことが信じがたい。開発委託の階層化(下請け構造)の問題もあるにせよ、それ以上に、テストが十分できていないのに検収・納品させたという、発注者側に対する基本的な疑問が湧く。もちろん、実機テストもせずに納品した元請け会社の責任も当然問われるべきではあるが。
平井卓也デジタル改革担当相が「管理も含めて発注者の能力が低いことが一番の問題だ」と発言したことが報道されているが、発注者側にIT関係の人材が少ないのは日本の構造的な問題であることは数年前から指摘されていた。
ワクチン接種円滑化システム(略称:V-SYS)
こちらのV-SYSは、昨年7月の入札の結果、NECが落札。システム作成に向けての調査や設計は野村総合研究所(NRI)が担当。このV-SYSは、従来の紙ベースの予防接種の仕組みを、そのままデジタル化し、調達したワクチンを自治体の医療機関や接種会場に公平に配分するまでのシステムで、いつ、誰に接種したかを記録することがまったく想定されていない。現場(自治体)が使用する「予防接種台帳」とのシステム連携も想定されていなかったとのこと。このため、河野大臣が、急遽、V-SYSとは別にクラウドを活用した情報システム開発に乗り出した云うことである。
DX(デジタルトランスフォーメーション)を標榜する政府が単なるデジタルへの置き換えにとどまり、本来のトランスフォーメーションにまで意が払われていない。これもまた、システムの開発範囲/発注仕様/要件定義の問題であり、発注者の問題である。調査設計を請け負った側もシンクタンク系SIerとして、その問題を指摘する矜持を見せて欲しいものであるが。
IT人材の構造的偏在の問題
日本と欧米とのIT人材の所属先企業の割合を見ると、欧米はIT企業以外(ユーザー企業)の方が多いが、日本は圧倒的にIT企業に偏在している。更に、業種別に見ても、「公務」のIT人材の比率は極めて低い。こうした人材の構造的問題を解消するには時間がかかる。小中学校時代からの本格的なIT教育が急がれる。
GAFAを見ても明らかなように、アプリ/システムは個人の資質/スキルに左右される度合いが強く、ITゼネコン的な管理能力だけではなく、真にITスキル(含むPM/マーケティング能力)のある人材を所属組織規模に関係なく、評価し登用する仕組みが不可欠である。当然、相応の報酬が不可欠である。
IT(情報処理・通信)人材の所属企業
産業別のIT(情報処理・通信)人材の割合