東日本大震災10年の振り返り

2021年3月11日、東日本大震災という激甚・連鎖・広域型(大地震⇒大津波福島第一原発事故)の大災害から10年が経過した。福島第一原発事故は「The situation is under control」(状況はコントロール下にある)として、復興五輪として誘致したオリンピック・パラリンピックTOKYO2020がコロナ禍の中、1年遅れで開催するか否かが議論となっている。当初10年間の期間限定設置であった復興庁も延長された。被災の実態、そして被災後10年のいま、どういう状況になっているのか、今後どうすべきなのか、アーカイブ的に取りまとめた。記録はもとより、記憶にも留めておき、来る大災害に備えたい。

 

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1東日本大震災の10年後の今

 地 震 

気象庁が発表した東日本大震災を引き起こしたM9.0の東北地方太平洋沖地震から10年間の地震活動のまとめによると、岩手県から千葉県北東部にかけての沿岸から沖合に広がる余震域で発生したM4.0以上の地震は、本震発生後の1年間で5387回に上ったが、直近の1年(2020年3月11日~21年3月6日)では208回と25分の1以下に減少している。

しかし、いまだ、余震は続いており、2021年2月13日には、福島県沖でM7.3、最大震度6強の大余震が発生した。自らの経験(在所沢市)から、体感的には3.11の地震時と変わらない揺れであった。そして、2021年3月20日に、宮城県沖でM6.9 最大震度5強の余震が発生した。これまた、長い揺れを感じた。10年前の巨大地震の影響(余震)はまだ続いている。

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出典:東日本大震災から10年間の地震活動  2021.03.09 nippon.com

津 波

広範囲に甚大な被害をもたらした津波は、地震発生約25分後の15時1分に岩手県に到達。その後、北海道から千葉県・房総半島にかけての広い範囲に大津波が押し寄せた。浸水高は岩手県釜石市両石湾で18.3m、遡上高(斜面を上った高さ)は、宮古市重茂姉吉地区で日本観測史上最高の40.5mがそれぞれ記録されている。

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出典:【東日本大震災】津波の被害 nippon.com 3/11 2011.06.03

その後の調査研究を踏まえて、阪神淡路大震災以降、道路・鉄道・橋等の構造物設計に取り入れられてきたL1/L2の概念が津波防災にも導入された。すなわち、津波をレベル1(L1)とレベル2(L2)の2段階設定し、運用がされ始めたことである。100 年に一度程度の中規模津波(L1)では、堤防等の施設を構築するなどをして人命だけでなく地域、資産、建物、工場、そして経済やアクティビティを守る。最大級のL2津波に対しては最大浸水域を設定し避難することにより、人命を守る。これは、今までの、既往最大値対応主義から脱却し、「防災⇒減災⇒レジリエンス(適応力)」という新たな津波防災概念を打ち出したことである。これは、さらに、津波防災地域づくり法へと結実している。そして、いま、さらに、河川洪水対策にも展開されようとしている。

巨大地震津波の早期警告・避難のためには、早期把握のためのモニタリング技術が必要である。このため、東日本大震災後、リアルタイム監視・計測ができる観測網Sネット(日本海溝海底地震津波観測網)を充実させ、150 カ所に地震津波計を海底に配備し、地震以外でも海底地すべりや火山噴火による津波を把握できるように観測体制が整った。

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出典:日本海溝海底地震津波観測網:S-net 防災科学技術研究所

被 害

この10年間で確認された死者及び行方不明者は18,417人(R3.3.10現在)、関連死者3,775人(R3.3.9現在)、建物被害1,208,474戸(R3.3.10現在)、そして、被害総額16兆9千億円(内閣府推計)となっている。死亡者の内、54人についてはいまもって身元不明である。

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出典:警察庁緊急災害警備本部 令和3年3月10日

資料:【震災から10年】 死者 行方不明者「関連死」含め2万2200人に NHK 2021年3月10日 20時08分

東日本大震災における震災関連死の死者数(令和2年9月30日現在調査結果) 令和2年12月25日 復興庁 内閣府(防災担当) 消防庁

東北地域における産業復興の 現状と今後の取組 ~東日本大震災10年を振り返って~ 2021年2月9日 東北経済産業局

東日本大震災後の熊本地震で庁舎が被災したことを受け、それまで一部企業での策定に留まっていたBCP(事業継続計画)が行政(特に、基礎自治体)を含めて改めてその重要性を認識され、浸透しはじめたことも特筆される。

資料:東日本大震災から 10 年(今後の企業防災を考える) 2021 No.2 リスクマネジメント最前線 東京海上日動火災保険 他

東日本大震災後、急速に進んだのが被害把握の方法である。代表されるのが、スマホによるリアルタイム情報収集・共有であり、その有用性も検証されている。そして、ドローンである。従来のヘリコプタを補完する位置づけとしてその機動性に注目が集まっている。性能も日進月歩である。

避難者と関連死

発災直後の避難所生活の中で亡くなった方の原因分析によると、肺炎等が多くその環境整備の必要性が明らかとなり、その後、寒さ対策、プライバシー対策等の課題解決に向けて段ボール等を活用した間仕切り、ベッド等の開発・普及が進んでいる。

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出典:震災関連死 宮城・石巻の死因、27%が肺炎 9割が高齢者、劣悪な避難生活影響 河北新報 2021年03月13日 17:24

発災直後に47万人の避難者が発生し、現在に至るも4.2万人が避難している。そのうち、約9割(3.7万人)が福島第一原発事故関係者である。長期化する避難の過程でなくなる方も増え、福島県茨城県では「震災関連死」で亡くなった人が津波など震災の直接の影響で死亡した人の数を上回っている。福島第一原発事故関係の避難の長期化の影響はいまもって継続していると云える。

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出典:データで見る東日本大震災から10年 nippon.com 2021.03.10

帰宅困難者

首都圏では、死傷者等は比較的少ないものの、推計で約515 万人(内、東京都内で約352万人)の帰宅困難者が発生した。震災後に、国及び東京都が設置した首都直下地震帰宅困難者等対策協議会は「むやみに移動を開始しないという一斉帰宅抑制の基本方針」を決定(2011年11月)し、「自助」、「共助」、「公助」による総合的な対応が不可欠であるとし、企業等に一斉帰宅抑制を促していくなどとしている。東京都は「東京都帰宅困難者対策条例」を(2013年4月施行)により、一斉帰宅抑制と従業員等の3日分の食糧等の備蓄についての事業者の努力義務、一時滞在施設の確保などを定めている。

この帰宅困難者対策を開始して10年近くが経過した現状を見ると、対策は十分に進んでおらず、企業等による食料等の備蓄、一時滞在施設の確保、帰宅開始の判断などについて、更なる検討などが必要と指摘されている。

資料:帰宅困難者対策の現状と課題 ―東日本大震災を教訓として― 国立国会図書館 調査及び立法考査局 レファレンス 842 号 臨時増刊号

復興事業

発災から10年の復興期間を経て、約32兆円が投じられ、当初の住宅再建・高台移転、インフラ、産業・生業の再生等については概ね目標に近い達成率となっているが、福島第一原発事故による帰還困難区域は汚染・廃炉問題もあり、解除される科学的見通しは立っていない。まだまだ復興・創生途上というべき状況にある。復興庁の設置期間も10年間延長されることが決まった。 f:id:newseitenx:20210324182936j:plain

出典:特別企画 復興の10年 ―土木学会・日本建築学会 共同編集― 土木学会誌 Vol.106 No.3 March 2021 pp.63

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出典:復興の現状と課題 令和3年1月 復興庁 

地震津波に関連する復興事業のメインは、強靭化政策の下、防波堤整備と高台整備・移転であったが、それらは本当に妥当であったのか。数百年スパンの確率で発生する大津波に備えて、17m級の強固な防波堤をはたして長区間に渡って迅速につくれるのか、スーパー堤防の二の舞になるのではないか。さらには、堤体自体(コンクリート)の耐用年数がそこまで長くはない。そして、そのような高い防波堤は海への目線、接点をさえぎる。

そうした空間形成が地域・町の再生・復興につながるだろうか。かっての信玄堤、潜水橋のように自然と共生する方法(3線堤、森の防潮堤等)がもっと検討・実施されていいのではなかろうか。改めて、社会インフラ(特に防災インフラ)については、そのあり方の再考が求められている。

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出典:特別企画 復興の10年 ―土木学会・日本建築学会 共同編集― 土木学会誌 Vol.106 No.3 March 2021 pp.11

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出典:森の防潮堤協会パンフレット

現在、復興事業をよりスピーディに立ち上げるために、「事前復興」という概念が検討され、一部で取り組まれているが、これはあるべき姿を描き、そこへの到達というバックキャスティングを、大災害という機会を捉えてリープフロッグ(カエル飛び)しようとするものと考えられる。

単なるあるべき姿論では現実味が欠けるが、大災害想定ということで身近な自分事の問題として捉える意識づくりにはいい方法かもしれない。それぞれの地域にあう形で、本来のあるべき姿を住民参加で検討し意識共有することは重要である。

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出典:特別企画 復興の10年 ―土木学会・日本建築学会 共同編集― 土木学会誌 Vol.106 No.3 March 2021  pp.53

復興事業の実態と課題については、復興過程で研究者・行政委員として関わった東北大学教授(元港湾技術研究所、土木計画学)の報告「大幅に遅れた高台移転事業 市町村には荷が重すぎた 「想定外」の災害にも“揺るがぬ”国をつくるには 稲村 肇 (東北大学名誉教授)2021年3月2日」に詳しい。

人 口 

高台移転を軸としたコミュニテイ整備が進められているが、被災前の当該エリアはもともと人口減少(過疎化)が進んでいたエリアであり、それが復興事業で本当に「地域・まちとして復興」するのか、それは難しいことではなかろうか。事実、発災後、仙台市周辺を除き、東北被災3県の人口は減少している。

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出典:3.11被災地の人口減少は「想定以上」、外国人定住に期待も難局 2020/03/10 ビジネス+IT 

人口が減少している流れの中で、これまでスプロール化してきた危険な居住エリアから、元々安全なところに成立していた旧市街地や集落エリアに移転する方が理にかなっている。山を切り盛りしてまで新たな高台をつくる必要はないのではなかろうか。人口縮小時代にあったコミュニテイ再生を図るべきである。

例えば、阪神・淡路大震災で被災した神戸港の復旧・復興をめざしたが、従前の北米航路における東アジアのローカルポート化の流れは止まらなかった。

今回の被災地においても、「人々は高台の地域には戻らず、せっかく造った高台の住宅地が埋まっていない、人口が減少して半分も埋まっていない地域があり、旧市街地からガス、上下水道などのインフラが延びたことで維持費もかかり、地域の財政を圧迫している、ということなどだろう(「地域再生、ばらまき限界 復興「哲学変える必要あった」」日本経済新聞2021年3月9日、「維持費急増 悩む自治体…被災地インフラ」読売新聞2021年3月11日など)。」「「被災地は人口減少に拍車がかかり、もはや国内からの社会増だけで地域を維持できる状況ではない。国境を越えた社会増に目を向けるべきではないか」(ビジネス+IT 2021年3月10日)」といった報道等がされている。

元に戻ろうという発想ではなく、従前の流れ(人口減等)が加速することを前提に、これを機会に従来の延長線上ではできなかった土地利用の変更(適切に管理しながら山に返す等)、住まい方・暮らし方の転換、そして広域過疎だからこそICTを活用したイノベーティブなまちづくりにステージアップする方向に向けて、投資してこそ将来が見えてくるのではなかろうか。

産 業

東北地方の企業業績は、復興特需(特に、建設業)が2019年にピークアウト)し、復興の真価が問われる時期に来ている。

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出典:震災から10年 東北6県「東日本大震災後の企業業績」調査 東京商工リサーチ  公開日付:2021.02.19 

資料:“震災から10年” 「東日本大震災」関連倒産状況(2月28日現在) 東京商工リサーチ 公開日付:2021.03.02 

震災関連倒産は、2020年5月を除いて現在に至るも毎月発生しており、震災当月の2011年3月から2021年2月の間、震災関連倒産(負債額1千万円以上)の累計件数は1,979件(東京商工リサーチ調べ)/2061件(帝国データバンク調べ)に達し、島根県を除く全国で発生している。継続できた企業も、直下のコロナ禍により、「事業継続を断念するケースも散発」しているとのこと。

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出典:【震災 10 年】関連倒産、累計 2000 件超に 120 カ月連続で発生、影響は今もなお残る ~ 「直接被害型」の倒産、ピークより低下も 10 年目で 4 割を占める ~ 帝国データバンク  

関連:「東日本大震災」関連倒産(2月度速報値) 東京商工リサーチ

2.福島第一原発事故のいま

原子炉建屋水素爆発

3月12日15:36 原子炉建屋水素爆発  1号機は、地震後、原子炉を緊急停止。外部電源を失ったものの、非常用ディーゼル発電機が自動起動。非常用復水器を使用して、炉心の冷却が進められていた。しかし、津波により、全電源を喪失したことで、非常用復水器や高圧注水系による冷却機能を失い、圧力容器内の水位が低下。炉心損傷が進み、発生した水素が原子炉建屋に漏れ出し、3月12日15:36、原子炉建屋水素爆発。 

3月14日11:01 3号機原子炉建屋水素爆発

3月15日6:14 4号機(定期検査による運転停止中)原子炉建屋水素爆発

3/15午前 2号機は、原子炉建屋の水素爆発には至らなかったものの、大量の放射性物質を放出

f:id:newseitenx:20210324185525j:plain出典:福島第一原子力発電所事故の経過と教訓 東京電力HP 

帰還困難区域

原発事故発生から10年たった現在も帰還困難区域が存在し、原発事故関連避難者が3.7万人いる。本当に帰還できるのかもわからない状況で、帰還が長期化すればするほど、若い世代ほど新たな場所でのコミュニティが構築され、帰還する人はさらに減る。

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出典:データで見る東日本大震災から10年 nippon.com 2021.03.10

原発事故後の稼働とリスクコミュニケーション

福島第一原発事故を受け、24基の廃炉が決定し、2012年に発足した原子力規制委員会の許可を受け、現時点までに再稼働までこぎつけた炉は9基にとどまる。

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出典:原子力政策の状況について 資源エネルギー庁 

原発事故のようなシビアなリスク情報こそ、科学的に正しい事実データ・情報を関係者はもとより、住民・国民と共有するべきであり、伝えるべきである。「由らしむべし知らしむべからず」の時代ではない。的確なリスクコミュニケーションを実践すべきである。

こうしたリスクコミュニケーションの欠如が、その後の原発に対する信頼を失わせ、原発再稼働ができず、原子力発電による電力供給は急減した。カーボンニュートラルを検討する上でも、原子力発電をどうするのか、科学的な根拠を有した議論が避けられない。

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出典:3.11から10年、先送りせず原子力の在り方を議論しよう 2021.3.11 三菱総合研究所

ここに来て、ようやく原発事故の事故時の事実が明らかになりつつある。その一つとして、東京電力福島第一原発所長吉田昌郎(当時)の1号機海水注入をめぐる判断の下、実施された注入水は注水ルートの「抜け道」に流れて、1号機原子炉にはほとんど届かなかったことが明らかにされた。1号機の原子炉に消防注水を開始したのは、3月12日午前4時すぎ。しかし、事故から実に12日経った3月23日まで1号機の原子炉冷却に寄与する注水はほぼゼロだったという(『福島第一原発事故の「真実」』 NHKスペシャル取材班)。ロボットによるカメラ映像も撮れ始めたようである。

さらに、最新の解析によると、1号機のメルトダウンはこの注水開始の22時間前から始まっており、消防車による注水が始まった時点では、核燃料はすべて溶け落ち、原子炉の中には核燃料はほとんど残っていなかったと、推測されている。その結果、もともとあった核燃料と原子炉の構造物、コンクリートが混ざり合い、もともとのウラン料69tの4倍以上の量279tの「デブリ」と呼ばれる塊になったと推測されている。

出典:福島第一原発「10年目の真実」…じつは「吉田所長の“英断”海水注入」は、ほぼ“抜け道”に漏れていた NHKメルトダウン取材班 

現在、デブリ(溶け落ちた核燃料)の取り出しが云々されているが、本当に取り出すことが最適なのか、そもそも本当に取り出せるか、取り出せたとしてどこでどうやって保管するのか。

科学的見地に立てば、汚染されたエリア(帰還困難区域)の環境を元通りの状態に戻すのは超長期にならざるを得ない。そうしたエリアは国が買い上げ、汚染物質の最終保管場所化も兼ねて、超長期のコントロール下におくべきである。科学的根拠に基づき、そうした基本骨格を決め、戦略を決めるべきであるが、政治判断は先送りされている。

参考:「汚染土壌」どこへ 国の費用すでに5兆円 再生利用、情報発信が課題 日本経済新聞 2021年2月11日 2:00

2021.3.25 追記:

国、東京電力の責任

東京電力福島第1原子力発電所事故に伴い、その責任の所在(争点:巨大津波予見可能性原発事故の回避可能性)について、法的には未だ確定していない。

2019年9月19日、刑法の業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電の元幹部3人に対する判決(東京地裁)があり、勝俣恒久東京電力会長ら3人に無罪が言い渡された。

民事裁判としては、国と東京電力を訴えた30件の集団訴訟(損害賠償請求)があり、一審判決は7件(国の責任)、7件(国に責任なし)。そして、そのうちの3件に高裁判決が出た。社会の常識(世論調査)と法理の間にはギャップがあるようである。

 2020年9月 仙台高裁判決(一審・福島地裁) 国の責任を認める ⇒ 上告中

 2021年1月 東京高裁判決(一審・前橋地裁) 国の責任を否定 ⇒ 上告中

 2021年2月 東京高裁判決(一審・千葉地裁) 国の責任を認める ⇒ ・・・

資料:原発事故避難者訴訟、国の責任認める 東京高裁 日本経済新聞 2021年2月19日 15:21 (2021年2月19日 18:55更新) 等

司法判断(責任追及)とは別に、原因究明は専門家・アカデミアの責任である。失敗に学ばなくてはならない。そして、法的責任とは別に、事故を起こした原発廃炉に、そして原発の維持管理に、原発を推進してきた国・東京電力そして専門家は責任を持たなければいけない。

しかし、「東海第2原発の避難計画が実効性を欠く」(2021.3.18 水戸地裁判決)や、「柏崎刈羽原発、監視装置が故障 規制委「極めて深刻」」といった事例に象徴されるように、福島第一原発事故の教訓が生かされていない。

3.自衛隊派遣のいま

自衛隊災害派遣には、次の3種類がある。

  • 都道府県知事などの「要請に基づく派遣」(自衛隊法83条2項)
  • 自衛隊の施設や部隊の近くで火災などの災害が発生した場合、部隊の長の判断で派遣できる「近傍派遣」(同3項)
  • 緊急に救助が必要と認められるのに、通信の途絶などで都道府県知事などと連絡が取れない場合には、要請がなくても部隊を派遣できる「自主派遣」(同2項但し書き)

しかし、「阪神淡路大震災当時は自衛隊の独断行動を危険視する風潮が強く、要請に基づく派遣が基本だった」(防衛省OB)。また当時の阪神地域は、九州や東北と違って、自衛隊に対する「アレルギー」が強く、防災訓練すら一緒にしないという土地柄だった。

この時の反省から、政府はその後、災害対策基本法を改正し、「防衛庁防災業務計画」も修正され、都道府県知事の要請を待たず、自衛隊が部隊を自主派遣できる基準を明確化した。さらに、災害派遣に従事する自衛隊員が救助活動を円滑に行えるよう、自衛隊法も改正された。

東日本大震災の発災後、東北各県知事からの自衛隊への災害派遣要請は概ね発災から1時間以内に行われ、なかでも宮城は16分後、岩手に至ってはわずか6分後での要請という迅速さだった。これら迅速な要請を受け、自衛隊はこれまた迅速に初動対応を行い、自治体、警察、消防との連携で自衛隊は1万9286人を救出。これは全生存救出者の約7割に相当した。

これを契機に、自治体からの自衛隊への災害派遣要請が常態化している。しかし、何でもかんでも自衛隊依存ではなく、まずは自治体の自律的努力が不可欠である。自衛隊自身の被災、国土防衛の事態発生により民生支援ができないと云ったこと等を忘れてはいけない。自衛隊とは異なる災害支援組織の検討をする必要もある。

資料: 東日本大震災で〝常態化〟した自衛隊の災害派遣 「想定外」の災害にも“揺るがぬ”国をつくるには 西岡研介 (ノンフィクションライター)2021年3月8日 Wedge REPORT

4.今後に向けて

日本は今後も人口減少が進むことを考えると、もっと適疎な住まい方・暮らし方を前提に置くべきである。むやみにコンパクトシティを謳うべきではない。5Gに代表される急激なデジタル社会は住む場所・働く場所の制約を開放する。いまや、現実的に自律分散協調ネットワーク型の地域・国土構造を実現できる時代が来た。それは、防災においてもレジリエンスな構造である。被災からの「復興」ではなく、それをチャンスに新たな創造に「リープフロッグ(カエル跳び)」すべきである。きちんと事実を冷徹に正しく捉え、100年の大計を描きたい。