働き方の多様化・流動化

昨年の年末12月28日に厚労省労働政策審議会の「今後の労働者派遣制度の在り方について」の答申が出され、労働者派遣法改正問題が一つの節目を迎えている。答申に盛り込まれた主たる内容は次の3つである。

1.登録型派遣の原則禁止

2.製造業派遣の原則禁止

3.日雇い派遣の原則禁止

「今後の労働者派遣制度の在り方について」の答申について 労働政策審議会(会長 諏訪 康雄 法政大学大学院政策創造研究科教授)は、厚生労働大臣より、平成21年10月7日付け厚生労働省発職1007第1号をもって諮問のあった標記に対し、別添のとおり答申した。  厚生労働省としては、この答申を踏まえ、早期の法案提出に向け、対応する予定である。

しかし、よく考えてみると、そもそも派遣労働者それも特に若い年齢層においてなぜ派遣労働者が生じているのか、派遣労働者のみがそもそも問題なのか、労働者に正規(正社員)と非正規(派遣社員)の区別が許されるのか、翻って現代の時代構造にあった雇用(政策)とはどうあるべきか、そこにおける官と民の役割分担はどうあるべきか、人の一生の生殺与奪権を自らがもって自立するには何が必要か、といった本質的な議論があまりなされていない。

どうもマスコミが過大に喧伝する表層的な事象に眼を奪われ対処療法の積み重ねになり、結果して、時代の流れ(成長産業、リーディング産業の交代等)に沿った新しい成長分野への人材のシフトを阻害するロックイン構造の強化になってしまっているのではなかろうか。せっかくの人材を活かしきれていない構造の維持になってしまっているのではなかろうか。

現在のように、企業の寿命が短くなっている時代に、一つの企業での長期安定雇用が果たして雇用政策の大前提になるのか。しかも、「70歳雇用」まで言い始めているが、年金の支給問題をはぐらかすためのようで何か目的自体が怪しい。

池田信夫氏がBlogで紹介しているEconomicsの各国の失業問題と政策を比較している記事があるが、1年たってもその指摘は正しい。

Economist誌の雇用特集 2009-03-14 / Economics 各国の雇用政策は、失業率にしばしば悪い影響を与えてきた。1970年代の石油危機以降、欧州諸国は解雇規制を強めて労働市場を硬直化した結果、「構造的」失業が増え、慢性的な失業問題に悩まされるようになった。これに対して、アメリカは労働市場を柔軟にすることによって労働者を救済する政策をとった。その結果、最悪のときは10%を超えた失業率は1982年には5%に減少した。解雇しやすい国は雇用コストが低いため、再雇用もしやすいのだ。 社内失業者を飼い殺しにする「労働保持」を奨励する政策は、短期的には労働者の救済に役立つが、長期的には労働生産性を低下させて構造的失業率(自然失業率)を高める。各国政府は70年代の失敗を繰り返すまいと政策を修正している。スペインやスウェーデンでは、社会保険の負担を減らすことによって雇用を維持しようとしている。一部の欧州の国では「ワークシェアリング」を導入している。イギリスは労働者保護よりも、職業訓練などの積極的労働政策に力を入れている。 最悪なのは、日本の政策だ。厚労省は正社員の過剰保護によって大量の非正規労働者が出ている「醜い現実」を直視せず、場当たり的な政策を続けてきた。労働保持する企業に補助金を与える「雇用調整助成金」は、労働市場の硬直性を高める愚かな政策だ。労働市場を柔軟にする改革は政治的には容易ではないが、遅かれ早かれ避けられない。残念ながら今回の失業問題は、短期に収まる見通しはないからだ。

日本においては、すべてこうした問題は「雇用」問題とされるが、働き方は「雇用」がすべてではない。雇われない働き方もある。個人事業主(法人を設立せず事業を行っている個人)、インディペンド・コントラクタ−等々。問題を矮小化せず、「就業」問題と言って欲しい。

そして、雇われる場合においては、正規も非正規もない。雇う側が多能工化/多機能化を求めるならば、雇われる側にもマルチワークを求めても良い。経営陣はすでに社外取締役等を兼務してマルチワーク化している。人の24時間すべてを一つの組織に捧げ尽くすことを雇用の条件とされていいのだろうか。個人の興味、生きがいは一つの組織体への帰属では満足しきれないのではなかろうか。最近のボランティア/NPO活動への参加者の増大がそれを物語っている。これからは名刺を3種類持つ働き方・生き方が常態化しても良いのではなかろうか。また、その方が、就業引いては人生のリスクヘッジにもなる。

■ 個人のマルチワーク化のイメージ例 ■

 ○時間軸上のマルチワーク化

  *個人のキャリアアップに応じて最適な企業体へ移動の自由化

 ○ステージに応じたマルチワーク化

  *ヤング時期:A社従業員+B社従業員+C社従業員

  *ミドル時期:A社従業員+B社役員/事業主+NPO

  *シニア時期:年金+高齢者派遣+地域コミュニティ

 

人は人生の時間軸上に於いて、いろんな場面で、いろんな立場・役割で、いろんな働き方が可能である。その選択の自由があるべきである。もちろん憲法第22条で職業選択の自由は保証されているが、実態としてそれを可能ならしめる条件づくりがなされているかについては微妙である。

日本国憲法 第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

人は「場」、「居場所」があれば自律的に成長する。そして、少子高齢化・ネットワーク社会は個人力・小集団力が活きる社会であり、活かすべき社会である。個人・小集団が活性化することは人材の構造的流動化(不安定化ではない)につながる。そのためには、大企業等に雇用されなくても同様のセーフティネットが供される必要がある。これがなければ、人は組織から離脱しない。ロックイン状態が続く。

こうした個人が個人として自律して生きられる新しい就業の仕組みづくり、さらにはそのためのプラットフォームづくりに向けて一歩でも近づきたい。