地方創生について

地方創生の政策がてんこ盛りの状態で進められている。オリジナリティというよりも、課題として積み残されてきた関係省庁の各種既存政策を「地方創生」という旗の下で体系化・パッケージ化(府省横断ワンストップ化)した感が強い。各省庁が「地方創生」という名の予算を持ったと云うことかもしれない。

基礎自治体の底力や如何

補助金を頼らず、国を頼らず、地方が自立して自ら稼げ」ということが言われているが、果たして、そうした要請にどれだけの基礎自治体が応えられるか。基礎自治体の底力が試されている。

地方創生の推進について、地方創生担当大臣 石破茂、平成27年1月9日平成27年度予算政府案におけるまち・ひと・しごと創生関連事業、内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局、平成27年1月14日

【地方創生に関する諸相】 ▼地方創生を巡る論壇を検証する、一般財団法人 土地総合研究所、2015年1月30日同じ愚を繰り返す「地方創生」の勘違い 農業への補助金では地方は救えない、JB PRESS、2014.10.06地方創生・安倍首相~人口減少の過程で何があったのか? 国家が主導して再生した田舎はない、大前研一 ニュースの視点Blog、2014年9月12日人口減少対策における農山漁村地域のあり方について、平成 26 年度 全国知事会 自主調査研究委託事業 調査研究報告書森林資源の活用状況と持続可能な地域開発のあり方、野村総合研究所、知的資産創造 2015年1月号数字を追う ~地方創生・東京一極集中是正に関連する論点の再検証、(株)日本総合研究所、2015年3月2日

地方創生が問うていることは何か

少子化・総人口減少、労働人口減少、正社員雇用力減少、高齢人口増大、そしてグローバル化等の流れは、国・地方としての持続的成長とは何か、個人としての幸せな人生とは何か、そしてどうすればそのようなことが実現できるのか、根本的に考え直さざるをえない状況を招来している。換言すれば、東京を除く地方における人の生き方・住まい方・暮らし方が問われている。それは、明治維新以降、さらには第二次世界大戦以降のむらづくり、まちづくり、都市づくり、国土づくりの在り方にも問い直しを迫っている。

東京への集中抑制、地方への人口移動(移住促進)、出生率増大、総人口維持が果たして政策的に誘導できるのか。農林業(6次産業化を含む)がその鍵を握ると喧伝されているが、それは本当なのか、よく考えてみたい。

そもそも、職業選択、居住地選択の自由が保障され、土地の所有権を初めてとして私権が守られすぎる感のある社会的環境の中で、人の生き方(稼ぎ方、子育て等を含む)、住み方を政策コントロールできるのだろうか。人は、時々の政策に関係なく居住地を選ぶ。地域に魅力がなければ人は住まないし、寄りつかない。逆に、魅力があれば、たとえ一人であろうと住み着くし、行ったみたいと思う。交通環境やIT環境の拡充はそうした自由度を底上げしている。

移住・兼居を含む居住地選択の自由度が上がることは、人生の節目節目での職業・会社選択、居住地選択を可能ならしめることであり、多様な生き方を可能とする。しかし、そのためには、これまでの組織ベースの仕組みから、個人ベースの仕組みへの再構築が必要となる。特に、個人での選択の自由を担保する上で社会的フェールセーフが欠かせない。社会的合意形成の仕組みの見直しも不可欠である。こうした視点での地方創生の政策論議は残念ながら現時点ではあまり見受けられない。

日本版CCRC、コンパクトシティを越えて

現在進行中の地方創生政策の中で、生き方・住まい方・暮らし方に関わるものとして、次の政策が掲げられているが、これまた、過去の都市政策・都市計画・土地利用計画の焼き直しに近い。土地の私有権等の枠組みを変えることなく、都市計画・土地利用計画が上手く機能しないのはこれまでの歴史が物語っている。

1.地方移住の推進の政策の一つとして「日本版CCRCの普及」 2.まちの創生政策パッケージの一つとして、中山間地域等での「小さな拠点(多世代交流・多機能型)[基幹集落]の形成支援」、市街化区域での「都市のコンパクト化」

日本版CCRCは、いまや70歳頃までは現役で働く人も多く、リタイアベースの高齢者を主眼としたCCRC概念では、そこに住む人・集う人、さらには立地エリア住民においてもあまり魅力を感じない。多世代の老若男女が未来に向けてアグレッシブに集い・暮らすコンプレックス型のコミュニティ概念が必要とされるのではなかろうか。

小さな拠点、コンパクトシティも、社会資本あるいは公共サービスの効率化のために打ち出されているが、手段が目的化している。財政縮小に応じた無駄の削除、後年度負担の縮減の策としては他にも多様な手段がある。

例えば、人口減少・財源縮小を見据え、新たな箱モノやインフラの整備は最低限に抑え、(遊休施設を含め)今あるモノをリノベーションしながら利活用したり、ハード整備しなくてもソフト政策として地域にあった総合交通体系をつくる(地域の買い物難民と観光客の足の確保を兼ねたデマンド・コミュニティティ&観光バス等)、さらには公設民営の逆で、民設公営等の仕組みがあっても良い。従来概念に基づく既往制度の枠組みを制約にすることなく、取り組み、新たな制度設計のトリガーにして欲しい。イノベーションは中枢で起きるのではなく、周縁域で起こる。

さらに、「人づくり」も謳われているが、いまさらながらの感もするし、すぐには人は育たない。3~5年等の政策補助期間が終われば全てが終わる仕組みでは地域に根付いた持続性の確保は難しい。

国としての政策・補助方針が変わろうとも、基礎自治体あるいはコミュニティは自律して持続的に事をなさねばならない。関係機関等の連携組織だけではなく、自律した持続的なエンジンとして機能するプラットフォーム的な事業体を興すことことが地方には不可欠ではなかろうか。ボランティアベースでは持続性に限界がある。かといって、利益・規模追求が最優先する一般的企業でもない。地方それぞれの特性に合ったソーシャルビジネスの励起が待たれる。

一つの例として、農林魚業や、介護・空き家ケア等地場の複数のスロー業種の事業体をホールディングし、「範囲の経済」化して、各事業体の維持を計りつつ、経営力の向上を図る仕組みが考えられる。このような経営と現場を機能分化するホールディング体を作ることで、地場での就業機会・空間保全・防災力等を維持しつつ、経営・マーケティング等のノウハウを持った人材の呼び込み・居場所づくりも可能となる。

 

地方創生が動き出した今こそ、地方からのアグレッシブな事業、制度設計の波が沸き上がって欲しいものである。自らも、そうした流れの中で、機会を得て実践してみたい。