書評「着地型観光の創り方 地方創生ディレクター」

地方創生が謳われ、全国各地で地方創生に向けて様々が取り組みがなされている。そうした中で、やはり、最大の課題は地場に根付いた地方創生のリーダー的人材を含む専門家の存在の有無ではなかろうか。

地方創生をめぐる経緯と取組の概要 ― 「将来も活力ある日本社会」に向かって ― 内閣委員会調査室、立法と調査 2015. 12 No. 371
まち・ひと・しごと創生総合戦略(2017 改訂版) 平成 29 年 12 月 22 日 

こうした課題に応える本が最近出版された。それが、「着地型観光の創り方 地方創生ディレクター」(編著:青山学院大学 玉木 欣也、第1版 2017年10月1日)である。これは、青山学院Hicon ブックス 地方創生シリーズ 第二弾として出版されたものである。因みに、第一弾は「地方創生プロデューサー」である。

 

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 地方創生に関する政策・事例紹介等は数多あるが、この本の特徴は、地方創生の軸の一つである「観光」面、それも「着地型観光」、更に云えば、「体験ツーリズム」からアプローチした書であり、実務家の実践知・経験知を学問知として体系化を試み、新たな研究知を創発するという大学や社会人の教科書としても利用可能なものをめざしているところにあるのではなかろうか。

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 注:芝原 靖典作成

 こうしたアプローチはこれまであまりないので、構成や内容に苦労が忍ばれるが、この本をベースに更に実践知・経験知が積み重なられ、学問知レベルが上がり、研究知が創発され、ひいては地方創生の裾野が拡がり、地域創生のエコシステムが構築されていく一助になるのではと期待させる本である。

この裾野を広げ、地域創生をエコシステム化していく上で、地域創生のリーダーを含む専門家が不可欠である。本書ではそれを下図のようにレイヤー表現している。本シリーズの第一弾の書のタイトルになっている「地方創生プロデューサー」とは、「地方創生事業に向けた事業創造、顧客創造、組織創造の専門家」とのこと。要するに、マネジメント、マーケティングができ、加えてイノベータ的な人材と云うことになる。ベンチャー企業の創業者に近い人物像である。

そして、第二弾の本書のタイトルである「地域創生ディレクター」は「自らの観光目的地内の地域資源や観光資源を発掘し、地域ブランド及び商品サービス・ブランドとしてそれらの魅力を磨き上げ、将来招きたい国内外からの旅行者のニーズやウォンツをマッチングして、着地型観光としての滞在型体験ツーリズムの企画・運営・管理を行う総合監督者」とのこと。いわゆるプロジェクトマネージャー的人物像である。

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果たして、このような人材像に適う人材がどれだけ存在するか、まずは、地方創生に興味を励起したり、興味を有する人材を発掘しなければならない。そういう意味で、地方創生に通底する理論・手法を学び、事例を学ぶ教科書的本書はその入り口として貴重である。全国の地方創生の研修・教育機関でPBLの教材として使えるのではなかろうか。もはや、地方創生はかけ声だけの時代ではない。人材を得て育成し、地域にあった形で地方創生事業/プロジェクトを興し、次を担う人材を生み、更なる地方創生につなげていくという地方創生エコシステムの確立が不可欠である。

本書を読んで、従来の地方創生を語る本とはかなり内容が異なり、いろいろな事に気づかされる。特に、実践研究編はおもしろい。地方創生は、目的・目標は「政策」表現され、手段に運動論的ものと、事業(プロジェクト)論的なものがある等々、本書を読みながら図表を眺めながら、いろいな思い・考えが触発され湧きだしてきた。

願わくは、地方創生という社会問題に対する社会システムズアプローチや、エコシステムにするための仕組みづくりと云った観点からの知の体系化を第三弾以降に期待したい。