ライドシェアはMaaSの一環として実施すべき

交通環境の変化

人口減少による交通事業採算性の悪化、運転手不足の一方で、免許返納等による移動手段を持たない高齢者の増加に伴う移動確保問題等が相まって、地方の公共交通問題が議論されて久しい。

地方においては、もはや、かってのような大量輸送(鉄道)・中量輸送(バス)が必要な需要は存在せず、鉄道・バスの赤字路線の廃止が進んでいる。これを受け、地方自治体は廃止すれば公共交通空白地域となることを避け、「住民の移動の足」を確保するために、一部の路線については、公共交通として、バス事業者に運営委託(公的補助)し、「赤字路線バス」を維持している。

それでも、移動の足の確保が難しい特定エリアについては、利用者への利用費補助のデマンドタクシーや、自家用車を活用する「自家用有償旅客輸送」(現在は、省令により『交通空白地有償運送』及び『福祉有償運送』のみが認められている)の導入が行われている。

[参考]

地域公共交通の現状と課題 国土交通省 

地域公共交通を巡る環境変化 2021年2月4日 日本銀行 

自家用有償運送、20超の自治体が導入検討 デジタル相 2024年2月21日 日本経済新聞

ライドシェアの議論

移動の足の確保対策として、最近、注目を浴びているのが「ライドシェア」である。語義的には「相乗りによる移動のシェア」であるが、この相乗り(含む一人乗り)の自動車の提供形態として、「配車アプリ」による自動車の所有者(事業用車、自家用車)と自動車に乗りたい人を結び付けるマッチングサービス」が最近の議論の中心となっている。

ライドシェアのタイプ

[出典] ライドシェアとは何か? 前総括主任研究官 山上俊行 国土交通政策研究所報第6 号 2017 年夏季 

ライドシェアとは?(2024年最新版) 仕組みは?参入企業は? 日本版ライドシェアがいよいよスタート 自動運転ラボ編集部 -2024年2月18日 09:30 

[参考]

ライドシェア解禁で「タクシー不足」加速?地方がたどりそうな“悲惨な末路”とは 室伏謙一 DOL特別レポート 2023.12.1 9:00

「ライドシェア」24年4月に限定解禁 全面導入に業界抵抗 2023年12月20日 15:58 (2023年12月20日 21:45更新) 日本経済新聞

ライドシェア導入、日本の進め方が“いびつ”と感じるワケ 爆発的に普及した海外と違う、日本特有の事情 2023年12月21日 14時00分 公開 小寺信良 ITmedia

再び浮上したライドシェア解禁論 求められる「共存」の姿勢 佐野 正弘=フリーライター 2023.12.25

「配車」だけじゃない、ライドシェアの派生ビジネス │ TECHBLITZが選ぶ海外スタートアップ5選 2023.12.29 FRI TECHBLITZ編集部

GO 自社アプリの日本型ライドシェアへの対応を表明 2024年01月15日 事業構想

こうした流れの中、2024年2月7日、「ライドシェア」のガイドライン案(下記資料3-1 パブコメ案)が国交省交通政策審議会に事務局案として提示された。

目標として、「タクシー事業者以外の者がライドシェア事業を行うことを位置付ける法律制度について、来年6月に向けて議論を開始する」とし、「タクシー配車アプリ」の活用が想定され、行政らしく許可基準、許可条件、許可期間が規定されている。利用者の安全確保基準と供給者の損害保険の義務化は不可欠であるが、それ以外の規制は事業者の経営努力を怠らしめ、利用者の選択の幅を狭め、市場を歪める恐れがある。

[参考]

国土交通省 交通政策審議会 令和5年度第1回自動車部会 配布資料 令和6年2月7日

【資料1】事務局発表資料 地域交通における「担い手」「移動の足」不足への対応方策について

【資料2-1】自家用車活用事業(仮称)のドライバーの働き方

【資料2-2】労働者性の判断基準(労働基準法

【資料3-1】【パブコメ案】自家用車活用事業(仮称) 「法人タクシー事業者による交通サービスを補完するための地域の自家用車・ドライバーを活用した有償運送の許可に関する取扱い」に係るパブリックコメントの実施について 

【参考資料】地域の自家用車・一般ドライバーによる有償運送の許可について(案)

規制改革推進会議地域産業活性化WG委員発表資料

全国ハイヤー・タクシー連合会発表資料

全国自動車交通労働組合連合会発表資料

全国知事会発表資料

活力ある地方を創る首長の会発表資料

MaaSによる包摂的解決を

もはや、大都市圏は別として、地方の交通事業は個々単独では成立が難しく、域内の交通目的地(各種サービス、観光)と連携した新たなサービス事業興しが不可欠である。それは、地域活性化にも寄与する。これはまさに、MaaS(Mobility as a Service)の概念そのものである。

MaaSの概念図 出典:日本版MaaSの推進 国土交通省

審議会の事務局案にみられるような「タクシー事業に係る規制緩和」「ライドシェア」レベルに留まる議論ではなく、新たなMaaS事業への切り替えこそが本筋ではなかろうか。MaaS運営事業者による365日24時間オペレーションシステムの下、実際に移動の足を提供する自動車として、マイクロバスであれ、タクシーであれ、自家用車であれ、区別する必要はない。MaaSオペレターの事業主体も地域ごとに最適な形(タクシー会社、バス会社、IT会社、地元企業、ベンチャー等々)で組み上げればよい。

ライドシェアにとどまらず、MaaSという概念で議論して初めて、巷間言われる様々な課題を包摂的に解決できるのではなかろうか。既存の地元交通事業者がそうした新たな業態に適応していくかどうかは事業者の判断次第である。補助に頼る事業・産業に未来はない。

MaaSという新たな業態/業容が出現する時、過去の業態/業界構造に拘る必要はない。歴史的に見ても、牛馬車輸送の時代から、鉄道輸送/自動車輸送に変わった時の変化を見れば自明である。卑近な例として、高速道路の料金所が有人型からETCに切り替わった事例を思い出して欲しい。もう少し、時代の流れを見据えた議論をして欲しいものである。

加えて、「個人タクシー運転手の年齢制限の80歳引き上げ」と云うのは、論外の議論である。車を運転できる一般企業の70歳未満の定年退職者は相応に存在する。MaaS事業が都市/地方それぞれに成立すれば、違法ライドシェアの「白タク」も排除しやすくなる。部分最適ではなく、包摂的な全体最適こそが将来に道を拓く。

[参考]

個人タクシー運転手の上限年齢を「80歳」に引き上げる政府方針の課題 基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.321]  2023年12月07日 ニッセイ基礎研究所

中国人白タク、撲滅へ!ライドシェア解禁に合わせ取締り強化 アプリ事業者への指導や取り締まりも強化 自動運転ラボ編集部 -2024年2月20日 06:52

利用者視点なきライドシェア議論、新しいサービスには新しい枠組みを 2024.2.20 日経ビジネス

終わりに

今後、日本へのインバウンド人口が増える時、移動サービスもそうした観点での対応もせざるを得ない。利用できる技術の急速な進歩、世界的なサービスビジネスモデルの競争の中で、日本が再びガラパゴス化することを避けなければならない。

羽田空港衝突事故にみるスイスチーズモデルとレジリエンス

2024年1月2日 17:47、羽田空港C滑走路で、着陸しようとしたJAL516便(エアバスA350)と、離陸待ち(能登半島地震対応の物資輸送目的)の海上保安庁の航空機(ボンバルディアDHC8型)が衝突し、双方が炎上する事故が発生した。その事故発生前後の事実経緯が報道される中、「スイスチーズモデル」や「レジリエンス」を想起したので、現時点での情報を元に整理した。

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コロナ・インフルエンザ騒動の1年を振り返る

今年もまもなく終わろうとしている。今年の初めはまだコロナ禍が収束しておらず、5月にようやく一応の収束をみたところである。そして、年末にかけて、今度はインフルエンザが流行している。ウィルスと人間の関係はこれまでもこれからも尽きない。

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空き家等活用の中間支援機能体の意義と必要性

空き家問題の本質

昨今、空き家が問題となっている。特に、問題とすべきは「二次的利用、賃貸用又は売却用の住宅を除いた長期にわたって不在の住宅などの『居住目的のない空き家』(2018年 349万戸)であり、この20年で約1.9倍に増加している。

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秋の海(みなと横浜)と山(天覧山・多峯主山)

みなと横浜

先日(2023年10月20日)、一般社団法人みなと横浜改造市民会議主催の遊覧船上での懇親会に誘われ、久しぶりに横浜の街中を大さん橋・象の鼻桟橋方面に向けて歩いた。

途中の建物の風情に文明開化と大正ロマンの名残を味わいつつ、「横浜開港資料館」に着き、展示物を観て、開港前後の横浜からその後の変遷を知る。展示説明の一文に、「浮世(=社会)絵とは、都市民衆にとって関心の対象となった社会の諸事象を描いた絵である」と書かれていた。まさに、現代の社会は「浮世」の如くであり、得心する。

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田舎への帰省にみる諸相

今年(9/8~9/14)も田舎(徳島)に帰省した。流石に、この頃には熱い夏も終わっているのではと想定しての帰省であったが、現地は連日の30度超え。帰省から帰ってきても、自宅周辺はもっと熱く33度の日々。やはり、異常気象というか、これが今後の「普通」なのかもしれない。気候変動を体感した帰省であった。

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科博のクラファンにみる歴史文化の保存活用について

国立科学博物館(略称:科博 かはく)のクラウドファンディング(以下、CF)が話題となっている。2023年8月7日 9:00にCF募集開始し、その日の17:20には目標の1億円を超え、本ブログ執筆時には6.9億円に達している。募集終了の11月15日までには10億円を超えるかもしれない。

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寛容とダイバーシティ

昨今、いろんな場面で国内外を問わず、批判・非難・対立・分断・紛争等の事象が発生している。大きくは、国家・地域間、小はコミュニティに至るまで、多種多様である。専制政治覇権主義権威主義国家は別として、自由・民主主義国家においても、「話し合い・聞き合い・習い合い」をして、じっくり考え、きちんと判断し、その結果には従う、ということがすっかり減った感じがする。

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梅雨の合間に観る山陰のまちづくり・まち興し

台風2号の影響がなくなった直後の2023年6月4日(日)~6月6日(火)、二泊三日のツアー(飛行機、バス)で山陰を旅した。コロナ禍になって以降の初めての旅である。ツアーの組み方、利用客の構成、散策したまちの歴史・文化等あるものを活かし、無いなら創る、創るなら徹底して造るという「まちづくり・まちおこし」に気付かされ、「観光」のもつ地域創生への影響力を体感した旅であった。

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