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松井幹雄「3・11以後、私たちは何を語るのか」を読んで

松井幹雄氏の「3・11 以後、私たちは何を語るのか」を読んだ。歴史論・戦争論を踏まえたフクシマ原発事故に対する論究である。歴史観・歴史論の重要性を再認識させられる。

今回の原発事故に絡んで、巷間、責任の取り方、対応の仕方等が種々論じられているが、その前提となる原因究明が実は未だ十分にできていない。つまりは、事故原因を踏まえた原発に関する仕組みのあり方を問うことすら科学的根拠をもってできない状態にある。政治的判断の前に、科学的論拠を示して欲しいが、眼前の電力不足、経済的競争力上の不安の声にかき消されている。論理なく、志なく、長期展望なく、「元の木阿弥」というか「先祖返り」している。3.11を契機とする「災後」日本の変革のチャンスがなし崩し的な流れの中で消えていこうとしている。

日本はいつから、こうした科学的根拠、合理的判断ができなくなっているのか。松井氏の論文は「レイテ沖海戦」に題にとって、これに対する一つの回答を示している。

「1.何が起こったのか」、まさに、何が起こったのか、そしていま何が起きているのか、今後何が起きることになるのか、といったことに対する信頼出来る情報が欠落している。事故直後以降のリスクコミュニケーションの失敗に起因する負の連鎖に入っている。どこかで、この負の連鎖を断ち切り、正の連鎖に移行できる信頼を持った情報提供、説明責任をできるようにしたいものだ。

何が起こったかについて、実は最も気になるのは、地震動そのものに依る被害の実態である。その究明は、まだ不完全である。津波だけが問題にされているが、津波以前の地震動による被害の実態が意図的に避けられている気がしないでもない。あれだけの地震動があれば、地上の建物、器物は重心の違いから、揺れ方が異なり、当然に接合部に応力集中が起こり、破断する可能性を否定できない。

そして、そのことが事実ならば、津波以上に、日本全国の直下型地震の巣の上に建っている日本の原発すべてに影響する。影響の大きさから言って、早急に信頼できる被害実態データを示して欲しいものだ。

非常時においては、平常時とは異なり、手続きを無視しても迅速な意思決定と処理をしなくてはいけないのに平常時の手続き論にこだわり、逆に、今は原発事故の進行を止め、事故原因を解明し、対策を実施し、その上での原発再会・存廃論議があるべきなのに、まさに何もなかったように、そうした手続きを無視した処理が進んでいる。

「高度の平凡性」、あるいは平時と非常時のシステムの切り替えの問題がここにある。

あれだけの事故を起こし、現在も進行中の当事者である国と東電の歴代関係者は当事者意識をもって事にあたるべきであるが、その覚悟はなかなかその後の対応を見ていると感じ取れない。株主代表訴訟も起こされようとしているが、国策事業であったことを鑑みれば、本当は「国民訴訟」が適切と思われるが、現在の日本にはその制度がない。

戦争論の中で、「楽観的前提」といいう言葉が腑に落ちた。企業経営でも同じであるが、希望・願望がいつしか期待に変わり、前提になる日本の組織が持つDNAに一致すると感じた次第である。「原発安全神話」そのものである。

また、「主観的で帰納的なインクリメンタリズム」は、日本のものづくりを特徴づける「摺り合わせ理論」を思い出す。そして、ズルズルと「なし崩し的に重大な事態に陥ること」、「あいまいな理念」、「空気」等々、まさに日本の組織が持つDNAを活写している。

ただ一点、「安全文化」については、「リスク文化」に表現を転じて欲しいと思う。「リスク」を「安全」に置き換え、安全神話を醸成してきた日本のDNAが「安全文化」という表現では変わりそうもない。「敗戦」を「終戦」と置き換え、戦時体制の仕組みがそのまま継続された戦後と同じである。こういう用語一つからの意識転換が今の日本には必要ではないかと感じるところである。

論文を読んで、松井氏の論文のタイトルに、サブタイトルとして「~日本が繰り返す失敗の本質~」を付けるとその真意がもっとわかりやすく伝わるのではと思った次第である。

何れにしても、こういう歴史観に基づく論を広く読んで欲しいものである。

フクシマ原発事故について、政府は関連する意思決定の場の議事録さえとっていないとされているが、3.11以後、日本という国が何をし、専門家が何を語り、被災者が何を感じ、国民(個人、企業、団体等)が何をしたか、海外はどうみていたか、後世に残しておくべきである。

現在は、阪神・淡路大震災時とは異なり、WEB上に膨大な情報・記録があふれているため、だれでも容易にキュレーシュンし、アーカイブできる。「復興日本」はそうした思いで立ち上げたサイトである。是非一度、「復興日本」にアクセスして,3.11以降の情報を通覧して欲しい。「何を語るのか」の糸口が見えてくると思う。今後とも、地道に息長く、関連情報をキュレーションし、後世にアーカイブしていきたいと考えている。