もうひとつの「高齢化」に思ふ

高齢者活用連絡協議会のリレー執筆によるブログ「群像シルバーカラー」に「もうひとつの『高齢化』に思ふ」というタイトルで投稿した。(シニア社会ではまだ『ガキ』なので、ニックネーム『ガキ』)。ご笑覧いただければ幸いである。

***以下、群像シルバーカラー「もうひとつの『高齢化』に思ふ」の再掲***

一般社会における「高齢者」とは年齢層を異にする若き『高齢者』がいる。「ポスドク(postdoctoral fellow 博士研究員)」のことである。
博士研究員 概要 (ウィキペディア) 欧米では博士号取得後の若手研究者にとって一般的なキャリアパスであり、1カ所あるいは2カ所の研究室でポスドクを経験し様々な技術を習得した後、自分で研究室を主催して研究を継続する、あるいは企業に移って研究をしたりマネージメントの職種に就くことになる。しかし継続的に研究を続ける事が出来る人は限られており、競争的研究費を獲得できないと離職せざるを得ない場合も生ずる。 一方、日本ではポスドク制度が本格的に運用されるようになってから日が浅く、キャリアパスが十分に整備されているとは云えない状態が続いている。「高齢ポスドク」問題など、深刻な混乱が生じているのが現状である。
ウィキペディアの「博士研究員」のページにも、、ちゃんと「高齢ポスドク問題」なる項目が設けられているのである。 このポスドク問題について、2010年4月27日のYOMIURI ONLINEに下記のような記事が掲載された。
ポスドク3分の1が35歳超…高齢化進む  YOMIURI ONLINE 博士課程修了後、任期付きの不安定な立場で研究を続ける「ポストドクター(ポスドク)」が2008年度は1万7945人(前年度比1%増)に上り、04年度から4年連続で増えたことが、文部科学省の調査でわかった。 34歳以下の若手が初めて減少に転じる一方、民間などへの就職が難しくなるとされる35歳以上の「高齢ポスドク」は07年度より約7%増えて5825人に上り、全体の3人に1人を占めた。文科省は、ポスドクの企業実習を支援して民間就職につなげる施策などを展開しているが、厳しい現状が改めて浮き彫りになった。 調査は全国の大学など1176機関を対象に行った。高齢ポスドクの増加について、筑波大学の小林信一教授(科学技術政策)は「深刻な状況だ。ポスドク自身が視野を広げて進路を探すとともに、大学側でもポスドクの将来を考えた指導をすべきだ」と話す。 (2010年4月27日 読売新聞)
ポスドクの身分の悲哀さを綴っているブログ等はいくらでもある。例えば、「ポスドク(博士研究員)の悲哀」なるサイトもそのひとつ。この悲哀さを書いている本人すら、自分たちの身分を正確に把握出来ていないところに本当の悲哀を感じる。 そして、「ポスドク妻のなげき」をみると、ポスドクの奥さんも当然ながら辛い状況におかれていることがわかる。 このようなポスドク問題は、旧文科省の出口戦略のない大学院重点化政策に起因するものであり、いわゆる制度の狭間の問題である。制度設計に翻弄され、制度の狭間に落ち込んだ当事者をどうするのか。制度設計者の責任は重い。似たような問題に「ゆとり教育」で育った世代の教育レベルの劣化問題がある。 今後の知の中核を担うポスドクの居場所もままならないようでは、意欲あるポスドクが海外に流出しても仕方がない。逆に意欲あるポスドクには積極的に海外に出張って欲しい。いまや、知に国境はない。知のイノベーションはグローバルに励起する。 資源のない日本が今後とも持続的に成長していくためのエンジンが「知」であるが、日本という国は総じて知に対するリスペクト(respect 尊敬、敬意)が低い。そして、その知を体現する専門家に対するリスペクトも当然ながら低い。かって、知の先達は「師」と呼ばれ、まさにリスペクトされていた。そして、その教えを受けた知の承継者がさらにそれを発展させた。知の連鎖である。 若きポスドクから練達のシニアまで、知の追求者・体現者、専門家がリスペクトされ、居場所を確保できるようにしたいものである。(ガキ)