リスクは誰が取れるのか

年度末を挟んで「株式会社産業革新機構」の話題が出た。

年度末3月31日に産業革新機構としての出資第1号の案件が決まったとのNews Peleaseが出された。年度末ギリギリというところが味噌だ。平成21年度の実績としてカウントされる。

低炭素社会の実現に不可欠なデバイス開発事業に投資アルプス電気の持つ磁性材料技術・薄膜プロセス技術のカーブアウト事業への投資を決定〜 株式会社産業革新機構(以下「INCJ」)は、低炭素社会の実現に不可欠なデバイス開発事業に投資することを決定いたしました。本事業は、INCJ として最初の投資案件となります。 本事業は、アルプス電気株式会社(以下「アルプス電気」)の持つ磁性材料技術・薄膜プロセス技術を活用し、新会社を設立して実施されるものです。投資額は100億円を上限とします。 本事業の中核となる技術は、アルプス電気東北大学等が共同で開発した革新的な磁性材料技術・薄膜プロセス技術です。電気自動車スマートメーター等に搭載される基幹部品の抜本的な省エネ化・小型化を実現します。 アルプス電気とINCJ が連携して設立する新会社「アルプス・グリーンデバイス株式会社」は、パートナー企業と広く協業する「オープンイノベーション」を通じて製品開発を進め、世界標準の獲得を目指します。

そして、その翌日、新年度4月1日の日経ビジネスONLINEには「開店休業 産業革新機構」なるタイトルの記事がアップされた。

開店休業「産業革新機構」 2010年4月1日木曜日 宇賀神宰司 ベンチャー育成など産業活性化が目的の産業革新機構。設立8カ月の「1兆円ファンド」の投資が決まらない。大手企業の業績が回復基調にある中、存在意義が問われる。 「ベンチャーや大企業に埋もれた有望な技術と人材を組み合わせ、日本の産業構造を変革する」 そんな目的を掲げて設立された官民ファンド「産業革新機構」。1兆円規模の投資余力を持つ巨大ファンドだが、肝心の投資先が決まらない。 昨年7月の設立から8カ月が過ぎたにもかかわらず、「5月までにはいくつかの案件が決まる見通しだ」と心もとない状況が続いている。 機構は政府出資820億円に加え、東芝武田薬品工業東京電力など大手企業19社から100億円の出資を受けた。政府の2010年度予算でも、要求の300億円から減額されたとはいえ90億円の予算がついた。「投資実績がゼロにもかかわらず、事業規模を拡大する必要があるのか」と財務省の担当者が首をひねる始末だ。 ・・・

産業革新機構は「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」に基づいて発足した15年間の時限組織であるが、れっきとした国策の株式会社である。検討過程では、「イノベーション創造機構」(仮称)と呼ばれていた。

こうした国策会社の流れとは別に、次のような記事が年度末3月31日のDIAMOND onlineにアップされている。

世界不許後のリーダーは国から個人へ? 大富豪マネーが社会投資に流れ込む是非 最近、米マイクロソフトの創設者であるビル・ゲイツ氏の個人経営企業が、日本の東芝と組んで、温暖化対策を目的とする数千億円規模の次世代原発プロジェクトに着手することが報道された。 また、米アマゾンのジェフ・ベゾスCEOも、多額の私財を投入して宇宙開発に投資するという。IT事業で多額の財を成した“長者”たちが、エネルギーなどに関わる「次世代イノベーション」の担い手に名乗りを上げるケースが目に付くようになっている。 ・・・

これからの日本は持続的にイノベーションを行い、新たな枠組・仕組みによる事業・企業・業種・業態そして産業を勃興させなくてはならない。しかし、そこには「リスク」が存在する。そのリスクを誰がどのようにしてとりうるのか。果たして、現在の日本社会がそうしたことが可能な流れになっているのか。極めて気になる。

税金を投じる国策会社はファンドといえでも、むやみにリスクを取れるわけではない。一般の商業銀行もまた預金者の預り金である限り、リスクを取り切れない。ベンチャーキャピタルファンドは聞くところによると、いまや投資先がなくM&Aの手伝いをしているといった状態だ。まさに開店休業状態。そして、一般国民の資金は預金に廻り、さらには郵貯にまわり結局は国債にまわり国に行き着く。将来の投資に回ってこない。

これでは、日本は何時まで経ってもイノベーションが起こらない。リスクマネーが流れない。それでは、一体、どうすれば将来のためにリスクテイクできるマネーの流れを起こしうるのか。

そのひとつの方法が企業が税金を収める前に、収益の一部をそうした将来のための先行投資に意識的に回すことである。

自分の会社への投資はももちろんであるが、他社さらにはベンチャー企業、もっといえばアドベンチャー的レベルの事案にも投資していい。税金で収めて、納税者の意志に反した使われ方をするよりも、自らの意志でリスクテイクする投資を選別すれば良い。いわゆるスポンサーシップである。

現在の日本では、スポーツとか文化的なことにしかそうしたスポンサーシップが働いていないのが実態であるが、イノベーションを引き起こす可能性のあるチャレンジングな事業にもそうしたスポンサーシップがあっていい。

個人で言えばエンジェルであるが、企業もエンジェルとなりうる。有税ではあるが経費として処理すればいいので、現行の仕組みの下でもすぐに実行できる。企業経営者及び株主が意思決定すれば明日からでも可能である。

リスクマネーの少ない日本において、是非こうした流れが一般化し、民主導でのイノベーションが起きることを期待したいものである。