被災自治体にシニアの専門家派遣を

甚大な被害をもたらした東日本大震災から100日が経過した。一つの区切りとしての法要も行われた。いよいよ復興に向けて動き出さねばならない時期が来た。

しかし、被災地において復興に向けてプラットフォームとなるべき基礎自治体(市町村)もまた損壊・疲弊している。市町村もまた支援対象なのである。この被災自治体の支援の一つとして、シニアの専門家派遣を実現したい。

この実現の母体として考えている高齢者活躍支援協議会のブログ「群像シルバーカラー」に「被災自治体にシニアの専門家派遣を」というタイトルでその提言内容を投稿した。是非、ご笑覧いただきご協力をいただければ幸いである。

 

 

 

***以下、群像シルバーカラー「被災自治体にシニアの専門家派遣を」の再掲***

 

 

 

東日本大震災が発生して3ヶ月が経過した。岩手県、宮城県、福島県の3県の沿岸域を中心に壊滅的被害が発生した。現在でも12万人余の避難者がいる。福島原発事故の収束のめどは立たず、放射能汚染からの避難(疎開)がどこまで拡大するか、いつまで続くか、定かではない。 政府は、4月5日、東日本大震災の被災者の就労支援、雇用創出を促進するため、各省庁横断による「被災者等就労支援・雇用創出推進会議」(座長:小宮山洋子 厚生労働副大臣)を設置し、『「日本はひとつ」しごとプロジェクト』 フェーズ1を策定した。続いて、4月27日には、フェーズ2を取り纏めた。 その主要施策は、①復旧事業等(瓦礫の撤去、仮設住宅の建設、インフラの復旧工事、等)による雇用創出、②被災者としごととのマッチング体制の構築(ハローワーク機能の拡大)、③被災者の雇用維持のための確保雇用調整助成金の拡充となっている。 フェーズ1の取組により、予定や求人も含めすでに約4.4万人の雇用機会を確保し、フェーズ2では、雇用創出効果20万人程度、雇用の下支え効果150万人超が期待される、としている。 しかし、こうした対策は被災者支援が中心である。今回の大震災では、地方自治体(市町村)そのものが甚大な被害を受けたところが少なくない。首長・職員自身の被災、庁舎の直接被災(含む資料逸失等)等により、自治体としての行政体制や行政機能に支障が生じている。そうした状況下、被災者の救出・支援、復旧対策等が重なり、自治体としての機能を維持することが厳しく、ひいては復旧の遅れ等にも繋がっている。 当面は、国、被災地以外の全国の地方自治体、企業等からの人員の派遣、緊急物資・機器類の支援が続く見込みである。また、復旧等に関しては、現地被災者の臨時雇用も進められている。

◆被災自治体への国家公務員の派遣状況(平成23年6月6日時点、暫定値)(総務省調べ)

▸ 合計542名(うち岩手県内77名、宮城県内225名、福島県内207名) 延べ約42,300 名

注)自衛官及び災害派遣命令に基づき派遣されている事務官等を含まない。

東日本大震災による被災市町村への市区町村職員の派遣決定状況(総務省調べ)

平成23年5月31日までに各県市町村担当課において派遣決定が行われたものの累計1,017人(53団体)

これらの被災自治体への臨時的人員派遣が長期化した場合にどのような位置づけになるか、その法的な担保は定かではない。ボランティア的な派遣にも長期的には限界がある。さらに、復旧、復興と続くプロセスにおいて必要とされるスキル・ノウハウは通常の行政業務とは異なる経験を要する専門的なものが少なくない。被災自治体において、緊急対応が継続的に頻発する多様な業務を廻す人材(特に、多様な復旧現場業務をマネジメントできる人材、専門的資格・経験を有する人材)の確保は喫緊の課題である。一方で、被災した自治体において、人件費に余裕はない。

◆復旧・復興プロセスで重要性を増す専門性を要する業務の例

▸ 被災地・避難所・仮設住宅の衛生管理、環境管理、安全管理

▸ 瓦礫処理管理

▸ 被災住宅の点検・管理

放射能汚染検査・管理

▸ 復旧・復興事業の施工管理

▸ 被災者の心のケア、介護、医療

▸ 保育・教員補助

▸ 復旧・復興に向けての社会的合意形成、権利調整、まちづくり・まちおこし

▸ 起業・業態起こし・産業振興

▸ IT実務 等

こうした状況を打開する方策として、全国に散在する産・学・官のシニアの専門家を被災自治体に契約職員として派遣することを提言する。 日本の60~69歳人口は1,797万人(総人口の14%)である。この内、リタイア時期に入り始めた団塊世代は約800万人である。このことは、被災自治体で必要とされる専門性を有し元気に働けるシニアが数百万人単位で存在することを意味する。こうしたシニアの方々は、収入の多寡よりも働きがい、生きがいを重視し、社会貢献的な仕事をしたい人が少なくないことが各種の調査で報告されている。被災自治体はそうした場を提供し、シニア専門家の知を活用すべきである。広義のオープンソリューションである。 全国から多様な経験を有したシニア専門家が被災自治体に集うことは、新たな知が被災自治体に注ぎこまれることでもあり、新たなイノベーションを起こす可能性も秘めている。 被災自治体で必要とするシニア専門家は地域により異なるし、時間の経過と共に変化する。一方で、シニア専門家はそのニーズの所在がわからない。このギャップを埋める仕組みとして、NPO的組織(例えば、高齢者活躍支援協議会等)に拠るマッチングサイトを立ち上げ、被災自治体を営業エリアとする派遣会社と、派遣者(シニア専門家)所在地を営業エリアとする派遣会社とが協働して実務に当たるという仕組みを立ち上げることを提案する。 さらに、こうした被災自治体へのシニア専門家の派遣先での住まいについては、被災地あるいは近隣の空き家を活用することを提案する。主要被災3県の空き家は32万戸存在する。この空き家を被災者の避難先あるいは移転先として活用する(㈱ふるさと回帰総合政策研究所等が提言)のみならず、シニア専門家の住まいとして自治体が借り上げて提供する仕組みである。

◆空き家の状況(平成20年住宅・土地調査)

岩手県  77,300戸

宮城県 138,400戸

福島県 105,000戸

こうした仕組みによる被災自治体へのシニア専門家派遣の実施に向けて、高齢者活躍支援協議会関係者による運用上の実務的な詰めを行い、実現したいと切に願う次第である。