東洋ゴム工業の免震ゴム偽装問題

建築物の安全性に関わる偽装問題が再び露見し、ユーザに不安と不信感を与えている。地震に対する耐震技術には、剛性で地震力に耐える狭義の「耐震」地震力をダンパーで吸収し揺れを抑制する「制震」と、今回の偽装事案の「免震」でこれは基礎と建物の間に積層ゴム等を入れ地震動が建物に伝わらないようにするものである。

偽装事件の概要

報道等によると、事件の概要は以下の通りである。

2014年2月、東洋ゴム工業の子会社の東洋ゴム加工品㈱が、高減衰ゴム系積層ゴム支承の一部製品の性能評価(性能データ)を偽装し、大臣認定を不正取得していた。その事実は、10年間、1人で免震ゴムの試験データを管理していた担当者の変更を契機に認識されていたが、1年後の2015年2月9日に国交省に報告した。

関連報道等 ▼「建築用免震積層ゴムの一部製品」に関するお詫びとお知らせ、東洋ゴム工業(株)HP

プレスリリース 当社が製造した建築用免震積層ゴムの国土交通大臣認定不適合等について、東洋ゴム工業(株)、2015年3月13日

東洋ゴム 免震ゴム偽装、橋も調査 国交省「問題ない可能性高い」、NAVERまとめ、2015年04月11日

防災拠点がなぜ「東洋ゴム免震事件」に巻き込まれたのか──『耐震偽装』の著者が分析(前編)、日経BP社、2015年 4月10日

国交省の「東洋ゴム免震事件」対応は適切だったか──『耐震偽装』の著者が解説(中編)、日経BP社、2015年 4月14日

忘れられていた宿題が「東洋ゴム免震事件」で再浮上──『耐震偽装』の著者が提言(後編)、日経BP社、2015年 4月16日

東洋ゴム工業(株)については、かってチリにJICA調査で訪れていた時に、露天掘りの銅鉱山で使用されたいる巨大な運搬用トラックの大きなタイヤに採用されていたことや、その使用済みのタイヤが外貿港の接岸時のクッションとして最適だと評されていたのを記憶していただけに、今回の事態は残念である。

問題その1 偽装の疑いを認識した時点で何故、公表しなかったのか

一度導入すれば取り替えに時間とコストを要する免震装置製品に対する偽装認識の疑いが社内的に確認されていたにもかかわらず、情報開示なしに販売し続けるのはユーザに対する背信行為であり、株主にに対する情報開示の面から云っても問題である。このようなリスク情報の取扱は、リスクマネジメント上、大いに問題である。品質管理、リスクマネジメントを、組織としてできない製品をメーカーとして取り扱うべきではない。

問題その2 どちらを向いた説明なのか

プレスリリースを見る限り、大臣認定取得上の偽装項目説明のみで、それによる建物(建築主、所有者)、及びユーザー(居住者、利用者)にとって問題となる不具合現象の説明が一切ない。こうした説明で、建築物のユーザー等は果たしてリスクの程度を認識できるのであろうか。説明責任を果たすべき相手は、まずは、製品を購入したり、使用しているユーザー等ではなかろうか。更に云えば、製品購入・導入を検討しているユーザーではなかろうか。

その観点から云えば、未だに何故、一部の物件は非公表なのか。その理由を説明して欲しいものである。2005年の姉歯建築設計事務所による構造計算書偽造問題(耐震偽装問題)と比べて明らかに対応は異なる。こうした対応は、いたづらに不安をあおるだけである。リスクコミュニケーション上、不適切な対応と云わざるを得ない。

失敗知識データベース 失敗事例 耐震強度偽装発覚

問題その3 検証・説明は十分なのか

制震装置の基本特性である水平バネ定数、減衰定数のばらつきが許容範囲を超えていたということであるがあるが、その点だけに関する検証で果たして十分といえるのであろうか。その偽装された性能の下で、偽装項目ではなかったとして言及のない各種依存性(経年変化、温度変化、ひずみ依存、クリープ量)の基準値が本当に妥当性を有することが担保されているのであろうか。

更に、品質管理体制の不備についても言及されていないがそれで許されるのか。一人の担当者の問題ではなく、そういう体制に長く留め置いた組織に問題があるとの認識がない。

問題その4 大臣認定基準とは何か

偽装製品を使用した建物について、「震度 6 強から震度 7 程度の地震に対しても倒壊しない構造であることを確認した」と発表(H27年3月30日)しているが、それならば大臣認定の基準とは何か、はなはだ疑問である。

        震度 6 強から 7 程度の最大級の地震に対する免震層の変形量 免震層の変形= ----------------------------------------------------------------------               建築物の壁と擁壁との間の距離

の余裕が全くなくても許されるのか。地震という自然現象を対象とする設計基準としては疑問である。非公表物件②-1の上記変形値は、99.6%である。その外にも3件ほど90%超の物件がある。地震動の大きさの分散、気温によっては100%を超え、隣接物件(擁壁、建築物等)にぶつかるのではなかろうか。大きな構造物がぶつかると云うことは破損等を契機とする重大な二次被害が当然に予想される。

プレスリリース 大臣認定不適合が判明した当社製免震ゴムの納入先建築物における「満たすべき安全性」の確認について、平成27年3月30日

問題その5 過去の教訓が何故活かされないのか

同社は、過去にも 断熱パネルの性能偽装(2007年11月)を起こし、コンプライアンスの強化を図ったとされていた。今回の事件の発生はそうしたコンプライアンスが根付いていなかったという証左である。何故、同じ失敗を繰り返したのか、本当の意味で失敗に学んで欲しい。

東洋ゴム、教訓生かせず 07年にも耐火性能偽装、日本経済新聞 電子版、2015/3/17

問題その6 指定性能評価機関の評価の仕組み

建築物に係るこうした機材の性能をはたして書類審査だけで評価することで可能なのであろうか。大臣認定の取消、当該装置の取り替え程度で許されていいのであろうか。 加えて、こうした装置は地震等による建築物の構造的劣化を抑え、長寿命化にも資するものであり、初期性能以上に経年的性能の方がより重要である。建築物に使用される機材についてそのような評価が適正になされているのであろうか。

いずれにしても、人命に影響する製品については、供給するメーカー側の品質管理、リスクマネジメントが組織の最重要項目として認識され実行されることが不可欠であり、それを担保できないときは市場から退場すべきである。地震大国日本の地震による被害を軽減すべき真摯に努力している他社メーカーの足を引っ張るべきではない。

地方創生について

地方創生の政策がてんこ盛りの状態で進められている。オリジナリティというよりも、課題として積み残されてきた関係省庁の各種既存政策を「地方創生」という旗の下で体系化・パッケージ化(府省横断ワンストップ化)した感が強い。各省庁が「地方創生」という名の予算を持ったと云うことかもしれない。

基礎自治体の底力や如何

補助金を頼らず、国を頼らず、地方が自立して自ら稼げ」ということが言われているが、果たして、そうした要請にどれだけの基礎自治体が応えられるか。基礎自治体の底力が試されている。

地方創生の推進について、地方創生担当大臣 石破茂、平成27年1月9日平成27年度予算政府案におけるまち・ひと・しごと創生関連事業、内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局、平成27年1月14日

【地方創生に関する諸相】 ▼地方創生を巡る論壇を検証する、一般財団法人 土地総合研究所、2015年1月30日同じ愚を繰り返す「地方創生」の勘違い 農業への補助金では地方は救えない、JB PRESS、2014.10.06地方創生・安倍首相~人口減少の過程で何があったのか? 国家が主導して再生した田舎はない、大前研一 ニュースの視点Blog、2014年9月12日人口減少対策における農山漁村地域のあり方について、平成 26 年度 全国知事会 自主調査研究委託事業 調査研究報告書森林資源の活用状況と持続可能な地域開発のあり方、野村総合研究所、知的資産創造 2015年1月号数字を追う ~地方創生・東京一極集中是正に関連する論点の再検証、(株)日本総合研究所、2015年3月2日

地方創生が問うていることは何か

少子化・総人口減少、労働人口減少、正社員雇用力減少、高齢人口増大、そしてグローバル化等の流れは、国・地方としての持続的成長とは何か、個人としての幸せな人生とは何か、そしてどうすればそのようなことが実現できるのか、根本的に考え直さざるをえない状況を招来している。換言すれば、東京を除く地方における人の生き方・住まい方・暮らし方が問われている。それは、明治維新以降、さらには第二次世界大戦以降のむらづくり、まちづくり、都市づくり、国土づくりの在り方にも問い直しを迫っている。

東京への集中抑制、地方への人口移動(移住促進)、出生率増大、総人口維持が果たして政策的に誘導できるのか。農林業(6次産業化を含む)がその鍵を握ると喧伝されているが、それは本当なのか、よく考えてみたい。

そもそも、職業選択、居住地選択の自由が保障され、土地の所有権を初めてとして私権が守られすぎる感のある社会的環境の中で、人の生き方(稼ぎ方、子育て等を含む)、住み方を政策コントロールできるのだろうか。人は、時々の政策に関係なく居住地を選ぶ。地域に魅力がなければ人は住まないし、寄りつかない。逆に、魅力があれば、たとえ一人であろうと住み着くし、行ったみたいと思う。交通環境やIT環境の拡充はそうした自由度を底上げしている。

移住・兼居を含む居住地選択の自由度が上がることは、人生の節目節目での職業・会社選択、居住地選択を可能ならしめることであり、多様な生き方を可能とする。しかし、そのためには、これまでの組織ベースの仕組みから、個人ベースの仕組みへの再構築が必要となる。特に、個人での選択の自由を担保する上で社会的フェールセーフが欠かせない。社会的合意形成の仕組みの見直しも不可欠である。こうした視点での地方創生の政策論議は残念ながら現時点ではあまり見受けられない。

日本版CCRC、コンパクトシティを越えて

現在進行中の地方創生政策の中で、生き方・住まい方・暮らし方に関わるものとして、次の政策が掲げられているが、これまた、過去の都市政策・都市計画・土地利用計画の焼き直しに近い。土地の私有権等の枠組みを変えることなく、都市計画・土地利用計画が上手く機能しないのはこれまでの歴史が物語っている。

1.地方移住の推進の政策の一つとして「日本版CCRCの普及」 2.まちの創生政策パッケージの一つとして、中山間地域等での「小さな拠点(多世代交流・多機能型)[基幹集落]の形成支援」、市街化区域での「都市のコンパクト化」

日本版CCRCは、いまや70歳頃までは現役で働く人も多く、リタイアベースの高齢者を主眼としたCCRC概念では、そこに住む人・集う人、さらには立地エリア住民においてもあまり魅力を感じない。多世代の老若男女が未来に向けてアグレッシブに集い・暮らすコンプレックス型のコミュニティ概念が必要とされるのではなかろうか。

小さな拠点、コンパクトシティも、社会資本あるいは公共サービスの効率化のために打ち出されているが、手段が目的化している。財政縮小に応じた無駄の削除、後年度負担の縮減の策としては他にも多様な手段がある。

例えば、人口減少・財源縮小を見据え、新たな箱モノやインフラの整備は最低限に抑え、(遊休施設を含め)今あるモノをリノベーションしながら利活用したり、ハード整備しなくてもソフト政策として地域にあった総合交通体系をつくる(地域の買い物難民と観光客の足の確保を兼ねたデマンド・コミュニティティ&観光バス等)、さらには公設民営の逆で、民設公営等の仕組みがあっても良い。従来概念に基づく既往制度の枠組みを制約にすることなく、取り組み、新たな制度設計のトリガーにして欲しい。イノベーションは中枢で起きるのではなく、周縁域で起こる。

さらに、「人づくり」も謳われているが、いまさらながらの感もするし、すぐには人は育たない。3~5年等の政策補助期間が終われば全てが終わる仕組みでは地域に根付いた持続性の確保は難しい。

国としての政策・補助方針が変わろうとも、基礎自治体あるいはコミュニティは自律して持続的に事をなさねばならない。関係機関等の連携組織だけではなく、自律した持続的なエンジンとして機能するプラットフォーム的な事業体を興すことことが地方には不可欠ではなかろうか。ボランティアベースでは持続性に限界がある。かといって、利益・規模追求が最優先する一般的企業でもない。地方それぞれの特性に合ったソーシャルビジネスの励起が待たれる。

一つの例として、農林魚業や、介護・空き家ケア等地場の複数のスロー業種の事業体をホールディングし、「範囲の経済」化して、各事業体の維持を計りつつ、経営力の向上を図る仕組みが考えられる。このような経営と現場を機能分化するホールディング体を作ることで、地場での就業機会・空間保全・防災力等を維持しつつ、経営・マーケティング等のノウハウを持った人材の呼び込み・居場所づくりも可能となる。

 

地方創生が動き出した今こそ、地方からのアグレッシブな事業、制度設計の波が沸き上がって欲しいものである。自らも、そうした流れの中で、機会を得て実践してみたい。

ふるさと納税の仕組みと効用

ふるさと納税が返礼品の競い合いで産直品のeーコマース化している。ふるさと納税とは何か、その仕組みはどうなっているのか、それにはどういう効用があるのか、地方活性化に活かすにはどうすれば良いか。確定申告の時期でもあり、地方創生が話題になっているいま、改めて、ふるさと納税について考えてみた。

ふるさと納税の仕組み

ふるさと納税とは、「ふるさと寄付金制度」であり、「都道府県・市区町村に対する寄附金のうち、2,000円を超える部分について、寄付をした自治体から発行される受領書をもって、居住自治体で確定申告すると、個人住民税の概ね1割を上限に、原則として所得税・個人住民税から全額が控除される」という寄付の仕組み(地方自治体に対する寄付金税制の一部)である。

要するに、2,000円を超える寄付金は所得税(現金で払い戻し)と住民税(住民税の減額)とで取り戻せ、加えて、寄付した自治体からは返礼品ももらえるという仕組みである。交付税補助金等国の関与(裁量)なしに、納税者が直接、自治体の税収の格差是正に関与できる仕組みである。

      出典:14年に「ふるさと納税」をした人は全員必読! 寄附金を取り戻すラクラク確定申告教えます!

 

なお、「個人住民税の概ね1割を上限とする規定を2割に引き上げる」ことが、平成27年度税制改正大綱の中で閣議決定(平成27年1月14日)されている。

平成27年度税制改正の大綱の概要(財務省)

寄付金の返礼は、地場産品が多いが、お墓の掃除代行(高松市)というサービスもある。それならば、実家の空き家の見守りケアサービスだってあって良い。知恵を出せばふるさと特有の返礼品サービスがある。

ふるさと納税:お礼に墓の掃除代行サービスも 高松市(毎日新聞)

また、寄付金の使途(政策)を選択・指定することも可能とする自治体が少なくないが、これは、自治体が公募主体となったクラウドファンディングと同じである。自治体の政策立案能力、プロジェクト組み立て能力が競争市場化する仕組みとも云える。

「ふるさと」の限定もない。寄付者の自由選択である。居住地選択の自由と併せ、納税先・使途(自治体、政策)選択の自由という仕組みのもつ意味は大きい。消滅自治体候補の存廃を左右する可能性すら秘めている。

更に云えば、ふるさと「納税」するわけであるから、「ふるさと」の行政に一言発言する機会があっても良い。いわゆる「市民の声」に加えて、域外応援者からの「ふるさと納税者の声」的なものを地元行政に反映する仕組みがあれば、地元住民の枠を超えた「知」が活かせる。

ふるさと納税はあくまでも、直接納税ではなく、応援したい自治体への寄付という形態をとっているところが制度上のミソである。当時の関係者間の落としどころとしてこうした仕組みになったものと推察される。その仕組みや実績は、総務省の下記サイトに詳しい。

ふるさと納税など個人住民税の寄附金税制(総務省)

ふるさと納税ポータルサイトや支援システム

全国の自治体のふるさと納税ページを探す場合のポータルサイトとして機能するページとして、下記がある。福井県は、専従者を配置して、この全国向けのポータルサイトを開設・維持している。

ふるさと納税関連ページへのリンク(総務省)ふるさと納税情報センター 情報発信サイト(福井県)

民間ベースのふるさと納税ポータルサイトも開設・運営されている。以下に、その一部を示す。

ふるさとチョイス(株式会社トラストバンク) ふるさと納税(Yahoo!公金支払い)

最近、こうしたふるさと納税の代行支援サービスをシステムと一緒に提供し始めている民間サービスもある。これは一種のアウトソーシングであり、体力の無い自治体にとっては有効かもしれない。

ふるさと納税トータル支援サービス(ヤマトシステム開発株式会社)

ふるさと納税の実態

最新のふるさと納税の全国総計の実績値をみると、寄付者10.6万人、寄付金額130億円、税控除額45億円【寄付金控除申告ベース(平成24年)】となっている。直近(平成24年度決算)の個人住民税の総額約11.6兆円の1割の1.1兆円がふるさと納税の現行制度上の上限枠であるが、実績はその1%程度といったところである。

せっかくの実質的な直接納税が活かされていない。自治体側はもっとその制度活用のアピールをすべきであるし、納税者側も目的税的選択納税の良さを知り、活用すべきである。

昨年秋、総務省が全都道府県、市区町村を対象に、ふるさと納税に関する調査を実施し、その結果を公表(平成25年9月13日)している。ふるさと納税について、各自治体がどういうふうに取り組み、集めた寄付金を何に使い、どう評価し何が問題・課題であるか、ふるさと制度を考える上で、大いに参考になる。

ふるさと納税に関する調査結果(総務省)

この結果を受け、総務省は下記を指示しているが、寄付者側からすれば、手続きの簡便さが最も希望することである。ECサイトのように、サイト上で寄付金振込、使途政策・返礼品選択、確定申告手続き(寄付先自治体が寄付者居住地自治体へ通知)の全てが完結すれば、一気に利用者が増えるのではなかろうか。行政の書類手続きの煩わしさがいつもながら最大の障壁である。

・ 寄附金の収納方法の多様化を図ること ・ 必要な申告手続きを説明した文書の配布等により、寄附者の申告手続きに係る事務負担の軽減を図ること ・ 寄附者が寄附金の使途を選択できるようにすること、また、寄附金の使途を公表すること ・ 特産品等の送付については、適切に良識をもって対応すること ・ ふるさと納税に係るPRを積極的に行うこと

なお、確定申告の手続きについては、平成27年度税制改正大綱のなかで、「申告手続の簡素化(確定申告不要な給与所得者等がふるさと納税を行う場合、ワンストップで控除を受けられる仕組みを導入)」とされている。

ふるさと納税の効果

【寄付者】 寄付者側からすれば、国や自治体に納める税金を、目的税的に納める先(自治体)や政策等の使途を選択・指定できることにある。そして、付加的に、返礼品を指定して受け取ることにより、実質的には2,000円の寄付で、それ以上の価値のあるものを入手できることにある。

昨今、この付加的な部分に焦点が当たっているがそれはそれで仕方がない。当該寄付者の居住自治体以外に誰も損をする者はなく、寄付者-ふるさと自治体・住民-返礼品(地場産品)提供業者の全てにおいてwin-winである。

【自治体】 寄付を受ける自治体からすれば、寄付金という収入(大学的に云えば、競争的外部資金)の確保、情報発信、関心者・ファンの開拓・拡大、返礼品調達を通じた地元産品(業者)の販路拡大・観光客拡大、ひいては産業振興・観光振興等、全国に視野を拡げた地域活性化の手段となっている。

特に、返礼品(地場産品・サービス)絡みで、1兆円規模の市場が惹起されることの影響は大きい。当然、他地域との競争になるので、顧客(全国他地域の住民、他国民)を意識し訴求(プロモーション/マーケティング)することが不可欠となる。それは、従来の行政マンの意識範囲・業務レベルを超えた行動を促すものであり、結果として自治体経営の強化・自律に繋がる。

【返礼品提供者側】 ふるさと納税の返礼品を提供している自治体は、当該自治体内に事業所のある法人、団体または居住する個人から応募を受け付けている。

例えば、宇部市の募集要項

返礼品の提供者側からすれば、事業所所在の自治体の買い取り価格(費用負担)は返礼品の価格であり、定価販売で、かつ、販促費の負担なしに全国に販促できる機会を得ることができる取引と云うことになる。そして、気に入られれば、リピーターになってもらえることになる。

 

ふるさと納税制度は未だ創設5年しか経過していない制度で、活用の程度も低いが、意外と自治体(組織、行政マン)が変われる突破口となり得る可能性を秘めたおもしろい制度である。本格的な活用を促す仕組みづくりに自らも棹さしてみたい。

 

空き家問題について考える

最近、空き家問題が騒がしい。「空家等対策の推進に関する特別措置法」も成立した。[H26.11.27公布。H27.2一部施行、H27.5全面施行予定]。改めて、そもそも、空き家問題とは何か。その本質は何かについて考えてみたい。

空家等対策の推進に関する特別措置法案、参議院

(定義) 第二条 2 この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。 (立入調査等) 第九条 市町村長は、当該市町村の区域内にある空家等の所在及び当該空家等の所有者等を把握するための調査その他空家等に関しこの法律の施行のために必要な調査を行うことができる。 2 市町村長は、第十四条第一項から第三項までの規定の施行に必要な限度において、当該職員又はその委任した者に、空家等と認められる場所に立ち入って調査をさせることができる。 (特定空家等に対する措置) 第十四条 9 市町村長は、第三項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき又は履行しても同項の期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。

追記:空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針の決定について、国土交通省、平成27年2月26日

世帯構造の変化

空き家問題が励起してきた背景には、世帯構造の変化がある。近い将来、高齢者の独居世帯が最大の世帯形態となることも確実視されている。加えて、少子化がある。つまり、親の居住している/していた住宅(実家)に子供(世帯)が住まず空き家になる、あるいは一人っ子同士が世帯を持つと、少なくともどちらかの実家が空き家になる。いまや、全国の空き家総数は820万戸、空き家率は13.5%に達する[平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果]。

世帯構造及び世帯類型の状況、厚生労働省

平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約、総務省統計局

なかなか減らない新築住宅・朽ちた住宅

一方で、景気対策もあり、新築持ち家住宅へのローンや税制上の優遇策がやめられず、空き家が増え続けているのに、いまだに年間98万戸(平成25年)の住宅が新築されている。東日本大震災福島第一原発事故の影響があり、ここ4年連続の増加となっているが、さすがに早晩、年間50~70万戸当たりに落ち着くものとみられる。いずれにしても、空き家が増え、新築住宅もそれなりに増えている状況下で、古民家とも言えない一般の古い住宅の流通市場は細い。

平成25年の新設住宅着工戸数(概 要)、国土交通省総合政策局建設統計室

加えて、小規模住宅(一区画200平方メートル以下)を解体・除却して更地にすると、小規模住宅用地に対する固定資産税の優遇措置が適用されなくなり、土地の固定資産税が6倍になる。空き家を撤去し更地にしたくてもインセンティブが働かない。これについては、危険な状態になった住宅では税軽減を止める方針が打ち出された。しかし、更地にするには費用が掛かるし、売却できる保証もない。やはり、インセンティブが働かない。

住宅・土地に対する価値観の再考

総人口が減り、まもなく総世帯数も減少しはじめる時代に向けて、これまでスプロール化していた住宅用地をどのように再編していくか、耐震基準に対する不適格住宅をどうするか、優良中古住宅の流通市場(含む継続的品質評価)の確立をどうするか、非常時あるいは生活環境のリスク対策上の住宅(含む敷地)に対する私権制限をどうするか、空き家問題にはこれらの問題が内包されている。住まい方、暮らし方の再考が求められている。

土地バブル崩壊以降、土地は所有するのではなく、利用するものであるとの価値観の転換(歴史的にみれば、戦前の価値観への回帰)が求められたが、現在は耕作放棄地と併せ、空き家・空き地の立地場所によっては、土地を自然に還す、という選択肢がある。オランダではそのような政策が実施されている。右肩上がりの時代に構想・計画された農業土木事業、公共土木事業も同様である。

空き家・空き地の活かし方

空家等対策の推進に関する特別措置法で想定している特定空家等は行政主導で対処するのが妥当とも思われる。この特別措置法の本質は、生活環境のリスク対策上の住宅(含む敷地)に対する公権と私権の関係の調整にある。道路空間や隣地空間・コミュニティへの安全を確保する為の措置という観点は、非常時における啓開道路に関する措置と同様と考えられるのではないだろうか。

更地にした土地の所有権者が不明の場合、あるいは当該処分に要した費用を支払わない場合等については、行政が定期借地権のような形で土地を管理(利用に供することも含めて)しても良いのでないだろうか。明治の地租改正の時に、所有権者不明の土地を「公有地」としていたのと同じである。

一方で、行政に委ねることなく、空き家(空間)に市場価値を見いだせる場合は、行政主導ではなく、民主導でリノベーションを含め、空き家活用ビジネス等新たな市場を創出する仕組みを考えるべきである。実家の空き家はお墓をどうするかという問題が抱き合わせで存在する。

日本の住宅に関する各種の制度は新築優遇となっている。新築を買いやすくするために35年ローンという住宅の資産価値がなくなる年数を超えてローンを支払い続ける仕組みが通常化している。住宅性能にしても、建築時の初期性能だけのチェックであり、住み始めた後の経年的な性能評価・保証制度がない。つまりは、売買時点での中古住宅の性能を評価し保証する通常の流通市場では当たり前の中古住宅市場がない。

利用価値のある中古住宅を空き家化しないためには、その利用の仕方を含めて考える必要がある。最近、山村の空き家を企業のサテライトオフィスとして利用している例がみられるが、それ以外にも、シェアオフィス、介護事業所、コミュニティ施設、物品製造・販売施設、イベント・観光施設等、いろいろ考えられる。さらには、ホームレスの方々の自活の場として活用を考えても良いのではないか。

空き家利用ビジネスの新たな勃興を

こうした空き家利用ビジネスは新築住宅市場と違って、スロービジネスであり、かつ単体での儲けは少ないため、相応の数をこなさないとビジネス的には成立しない。地元に居住し相応の空き家をケアできるリアルなネットワークと、全国に散在する空き家所有者あるいは空き家利用希望者を繋ぐバーチャルネットワークの融合が欠かせない。行政主導の単なる「空き家バンク」では「ハローワーク」と同じでイノベイティブに機能するとは思えない。新たな主体によるイノベイティブなビジネスモデルが勃興することを期待したい。

その一つの核となる主体が、介護事業者である。介護事業はその必要性にもかかわらず、国がその報酬を恣意的に差配するため、経営的安定が難しい。特に、地方部は介護サービス利用者の数の問題もある。従って、介護事業者は複数のスロービジネスを併せて実施することが求められるが、空き家利用ビジネスはその際の一つの事業となる。人と住宅(含むお墓)の統合的ケアサービスである。

いずれにしても、空き家問題は地域の置かれている問題が見える化された事象であり、そこにビジネスチャンスを見出す主体の出現を期待するしかない。自らも一滴を投じてみたい。

1強多弱の社会構造への傾斜

衆議院選挙が終わり、政治の世界にも「1強多弱」の世界が定着しつつある。というよりは、選択肢がなくなったというべきか。いずれにしろ、1強多弱の政界の影響は、今後、具体的に表出してくるものと思われる。WEB社会では、強いところはより強く、トップしか生き残れないと云われている。

日本の都市も、「東京」と「その他」の一強多弱都市構造化が進み、「その他」の都市・地方は疲弊し、衰退し、消滅さえしかねない状態にある。生活に身近な小売店舗でみても、巨大モール(リアル、ネット)・コンビニ店網が一般の小売店舗・商店街を衰退させる1強多弱化が加速している。そのほかの様々な業種でも1強多弱の現象がみられる。1強を目指した合併も加速している。社会構造の「べき分布」化とも言える状況が進展している。

▼正規分布とべき分布、平成20年版 国民生活白書 0004

最近の日本社会全般をみていると、1強多弱の行き着く先として、「行政」が「1強」で「その他(民)」が「多弱」という社会構造になるのではと懸念される。つまり、最近、行政の存在がますます大きくなり、行政依存あるいは行政と連携しないと何事も進まないような社会構造に傾斜している。

しかも、行政の縦割り構造が残ったままでそうした流れにあるため、ややこしくなる。省庁間の競争で、似たような政策そしてそれに付随する交付金補助金が対抗上、乱立することになる。それらは形を変えても減ることは殆どない。

▼COP20:日本は縦割り 省庁別、1国で7部屋使用、毎日新聞 2014年12月13日 11時24分(最終更新 12月13日 12時55分)

権限、金(予算=税金)、組織、・・・、そして、それらを背景にさらにあらゆる人、情報が行政に集まる。まさに1強多弱である。

結果して、例えば、本来、民が独自になすべき業界ビジョン、業界再編・事業統合、投資・ファンド、給与水準、イノベーション等々まで、行政に依存する。行政に依存することなく、グローバルな市場で稼がないといけないレベルの企業まで、国内の補助金(要するに税金)に頼るのはいかがなものか。行政側も、実績と見た目の当面の結果を求めるため、安心できる大企業中心に補助金執行を頼る。これでは、日本社会は活性化しない。

一方で、国民も何かあると「行政が何とかしろ」と云う。マスコミもそれをあおる。これでは、行政は「焼け太る」のみである。今や、地方で立派な建物は行政関係庁舎だけというところが少なくない。通りは廃れ、家屋は朽ち、人は居ない。しかし、行政コストは下がらない。ますます、行政中心の1強多弱社会化が進む。

果たして、このような過度に行政依存する1強多弱社会でいいのであろうか。日本全体がぬるま湯に浸かっている状態でいいのであろうか。成熟化し市場拡大が期待できない国内ではなく、グローバルを視野に入れた考え方、仕組み、行動に切り替えないと、日本自体が本当に衰退してしまう恐れがある。

まずは、自律できる体力を有する大企業・中堅企業は国内行政(補助金等)に依存せず、グローバル市場で戦って欲しい。中小・零細企業は企業規模としては小さくても、グローバルWEB社会では突出したコンセプト・技術・サービスがあれば生き残れる。経営とマーケティングイノベーションすればクローバル市場に打って出られる。

その際、必要な仕組みは自ら創発し、必要ならば社会的仕組みとして行政に働きかけるべきである。それぞれが自律した多強多存である。行政はそうした際の国家間の渉外に注力すべきである。

日本企業には「ロビイング力」が足りない! 勝つ企業は、自ら「市場のルール」を作っている、東洋経済ONLINE、2014年12月10日

行政中心の1強多弱社会構造ではなく、民主導の多強共存・自律分散協調型社会構造こそが今後の持続的成長の基礎となるものと思われる。その実現に向けて、各位がそれぞれの立場で、できることをやるしかない。

頑張ろう 日本!  変わろう 日本!

良い年末を・・・

地方をベースとした新たな働き方の実践 ~サイファー・テック社に学ぶ~

先日(2014年11月12日)、主宰している創発交流会において、徳島県美波町に本社を移し話題になっているサイファー・テック株式会社の吉田基晴社長に基調講演をお願いし、意見交換もさせて頂いた。

東京に本社を置き、出身地の美波町サテライトオフィスを置いていた会社形態を、東京側をサテライトオフィスにし、美波町に本社に移転させたとのこと。逆転の発想である。

これにより、いろんな事が大きく変わったとのこと。

まず、社長以下、社員一人一人が「半X半IT」という仕事のために大切なもの(X)を捨てずに働ける生き方を標榜し,実現できているとのこと。「X」には、社員それぞれのこだわりのサーフィンあり、狩猟あり、農業(コメ作り)あり、漁業(釣り)、等々。確かに、こういう働き方、生き方は田舎でしかできない。

これは、自らの生き様を貫き持続するためにビジネスをしているとも言える。当然、心身ともに健康にもなる。このような余裕(遊び心)を持ったビジネスの仕方の方がクリエイティブにもなるし、イノベーションも起こせるかもしれない。現在の「田舎で生きる」、「田舎でビジネスをする」一つの形を示している。成長のピークを過ぎ、成熟社会に移行した時代においては、このような会社起こしや経営、生き方をしたい人は、日本のあちこちにいると思われる。

結果して、東京で一IT企業として、人材募集しても集まらなかったのに、美波町での「半X半IT」を打ち出し求人すると、3人の募集人員に180人も応募してきたとのこと。社員も増え、増収増益とのこと。これはすごい。それだけ、今の日本には、働く場所と生き様を一致させたいという人が多いということを物語っている。

また、田舎(本社)と東京(サテライト)と行ったり来たりしているとのことであるが、これは地方をもベース拠点の一つとする「兼居」スタイルであり、ビジネス活動空間のネットワーク化である。本社、ラボ等がハブであるということである。「知」あるいは「IT」ベースのビジネスであればこうした兼居・ネットワーク活動空間形態は成り立つ。仰々しく、行政が金と口を出さなくても、民主導で地域の新たな生き方が実現できるのではなかろうか。

事実、吉田社長は田舎で事業体を置くことの社会的な存在感の大きさを語っている。確かに、東京ではあまたある企業の単なる1社に過ぎない存在が、田舎ではその存在感が大きくなる。まして、若く新しい感性をもつベンチャー企業の存在はその地域にとってはものすごく刺激になると思われる。地域興しにもなる。

吉田社長は、そうした地域興しの期待・ニーズに応えるための会社(株式会社あわえ)も興している。ボランティア組織ではなく、株式会社にしたのは自律した持続性を維持するためとのことであるが、同感である。日本のボランティアは何故か無償に近いイメージがあり、行政も単に安い労務提供体として利用しているがそれはおかしい。欧米では日本の株式会社以上にしっかりした収入を得て経営をしているボランティア団体が少なくない。残念ながら、今の日本では、ボランティア事業的な活動においても、ソーシャルビジネス体としての株式会社、あるいは一般社団法人形態の方が持続的な活動を可能とする。

地域に生まれ育ち、都会でビジネス感覚を磨いた者がその生き様を発揮する場、空間が都会である必要はない。日本である必要もない。いまや、ビジネス空間はネットワーク(移動、通信)で繋がっており、1カ所である必要はない。組織もネットワーク状であっても良い。社長が居るところが本社機能所在地である。

新しい感性の持ち主が新たなビジネス形態をあらゆる場所、あらゆる業種で興して欲しいものである。そうした雑多な勃興が絡まり合って次代に向けての大きなうねりとなり、イノベーションを引き起こすのではなかろうか。自らもそうしたうねりの中に身を於いてもうしばらく汗をかいてみたい。

 

中村修二氏のノーベル物理学賞受賞と成長戦略

ノーベル物理学賞受賞者に青色発光ダイオード(LED)を開発した赤崎勇・名城大教授、天野浩・名古屋大学教授、そして母校の後輩である中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授が選ばれた。「20世紀に火をつけた白熱電球に変わるエネルギー効率が良く環境にも優しい革新的な新しい光源を発明した。21世紀はLEDランプによって点灯する」と公式発表で評価されている。

公式発表で中村修二氏は、「Shuji Nakamura, American citizen. Born 1954 in Ikata, Japan. Ph.D. 1994 from University of Tokushima, Japan. Professor at University of California, Santa Barbara, CA, USA.」とアメリカ国民として紹介されているが、もちろん出自は日本人である。

二重国籍の実態:「ノーベル賞中村氏は日本人」とする安倍首相、「日本国籍を喪失」とする日本大使館、2014年10月12日

中村修二氏 略歴 1977(S52) 徳島大学工学部電子工学科卒 1979(S54) 徳島大学大学院工学研究科電子工学専攻修了。日亜化学工業 入社 1994(H 6) 徳島大学より工学博士取得

1999(H11) 日亜化学工業 退社 2000(H12) カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)教授に就任 2003(H15) 米国国立アカデミー(工学)に選出 2014(H26) ノーベル物理学賞受賞

中村修二氏は、小生と同じ大学出身(小生の2学年下)であり、中村修二氏が在学当時の指導教官の一人である多田教授(当時)は、大学のプールでよくお見かけしていた。当時はそうした関係は知らなかったが。

徳島大学のサイトには、中村修二氏のDr.論の表紙の写真が掲載されている。タイトルは「InGaN高輝度LEDに関する研究」とある。

中村修二教授(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)がノーベル物理学賞を受賞、2014年10月7日、徳島大学

地方の大学に光…中村氏ノーベル賞、YOMIURI ONLINE、2014年10月10日 09時00分

カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)のサイトには、受賞を祝い、特集が組まれている。 ▶UCSB Materials Professor Shuji Nakamura Wins Nobel Prize in Physics

受賞者3人は日本の応用物理学会の会員であり、学会のホームページに特集が組まれアップされている。 ▶【特集】2014年ノーベル物理学賞受賞

中村修二氏が在籍していた日亜化学工業のサイトには、このノーベル賞の受賞に関する正式発表はない。産経新聞号外(2014.10.7 20:26)に『ノーベル物理学賞を受賞した中村氏がかつて所属していた日亜化学は7日、「日本人がノーベル賞を受賞したことは大変喜ばしい。とりわけ、受賞理由が中村氏を含む多くの日亜化学社員と企業努力によって実現した青色LEDであることは誇らしい」とコメントした。』とある。

この淡々としたコメントの背景には、よく知られた裁判がある。 ▶Tech-On! スペシャルレポート 中村裁判  食い違うそれぞれの「真実」 日亜化学工業社長と中村氏 「青色LED訴訟」の深層、Tech-On!、日経BP社

実は、昨年の今頃、中村修二氏の来日機会の折りに、母校である徳島大学工業会(工学部のOB会)の関東支部総会(於:東京)に基調講演をお願いしたが、その際に、もしノーベル賞の受賞が決まれば講演どころではなくなるという心配をしながらお願いをしていた。幸か不幸か、昨年は受賞がなく、基調講演をお聞きすることができた。1年遅れでノーベル受賞が決まったという次第である。

その基調講演の感想を記したのが下記のメルマガである。基調講演時の質疑応答の際の「研究の原点、原動力は怒りである」と言っていた中村修二氏の言葉が忘れられない。

月刊メルマガ「FellowLink 倶楽部」 2013/11/1 #4 【1.何がスタンダードか】

なお、渡米当時の中村修二氏へのインタビュー記事が下記に再掲載されている。 ▶苦境に陥ればこそ,新たなアイデアがわく―中村修二氏が語る渡米後の生活 中村修二氏(University of California Santa Barbara, Materials Department, Professor)、2014/10/08 13:07 出典:日経エレクトロニクス、2001年4月9日号、pp.180-185(記事は執筆時の情報に基づく)

中村修二氏がアメリカに流出したことに関して、今後とも優秀なエンジニアほど海外に流出するのではと懸念する声が上がっている。そうした流出を防ぐ仕組みとして、中島聡氏はストックオプション制度の活用を提言し、「そういうシステムがあるからこそ、米国には世界中から優秀な技術者たちが集まり、そしてそこで得た財産を元に彼らがまた別のビジネスを立ち上げたり、投資家として起業家たちをサポートする、そんなエコシステムが成り立っているのです。」と指摘している。

中村修二さんだけでなく優秀なエンジニアの海外流出は続く ローリスク・ローリターンからハイリスク・ローリターンに変わったエンジニアの環境、日経テクノロジーonline、2014/10/16

青色LED特許訴訟に関する一考察、中島聡、 2014年10月09日、ハフィントンポスト日本版

イノベーションは国の成長力の源泉であり、イノベーションを惹起するのはイノベーショナルなプロフェッショナルである。イノべーショナルなプロフェッショナルをリスペクトし、適切に報い、かつ知的刺激のある土俵という仕組みがなければ、グローバルな土俵で生きられる人ほど海外に流出するのは必然である。そうした人(海外出身者も含めて)が、日本に本拠地を置きつつも、グローバルレベルで活躍できる仕組みをつくることこそが日本の真の成長戦略ではなかろうか。地方や企業に補助金をばらまくだけが成長戦略ではない。

 

朝日新聞の誤報問題と新たなメディアの勃興

朝日新聞の誤報と謝罪

朝日新聞の謝罪が相次いでいる。8/5慰安婦誤報(朝日新聞は記事の検証結果の特集記事報道と位置づけ)、9/6池上連載拒否謝罪、9/11吉田調書誤報・慰安婦問題謝罪、9/14任天堂記事捏造問題謝罪。一気に溜まっていた膿を出しているような気がしないでもない。あるいは、出さざるを得ない状況が生じているのかもしれない。

慰安婦問題を考える、朝日新聞DIGITAL(2014年8/5日初出)池上彰さんの連載について おわびし、説明します、朝日新聞DIGITAL、2014年9月6日03時00分みなさまに深くおわびします 朝日新聞社社長、朝日新聞DIGITAL、2014年9月12日03時07分任天堂と読者の皆様におわびします 朝日新聞社、2014年9月14日05時00分

慰安婦誤報は、その発端となった記事が出てから謝罪までに32年を要している。この間に、国家間の問題を惹起している。

1982/9/2朝日新聞朝刊(大阪版)22面「朝鮮の女性 私も連行 元動員指揮者が証言 暴行加え無理やり 37年ぶり危機感で沈黙破る」新聞記事画像、日本専門家活動協会報道検証機構従軍慰安婦問題の経緯 ―河野談話をめぐる動きを中心に―、国立国会図書館 調査及び立法考査局、レファレンス 平成25年9月号

吉田調書も世界的に注視されている中で、事実(調書)と異なる報道がされ、世界からの認識を歪めている。政府は、吉田調書のみのならず、政府事故調査委員会のヒアリング記録の公開に向け動いている。

「吉田調書」 福島原発事故、吉田昌郎所長が語ったもの、朝日新聞DIGITAL(2014年5月初出)政府事故調査委員会ヒアリング記録、内閣官房

マスメディアの報道品質とリスクマネジメント

影響力の大きいマスメディアとしての記事の品質管理、リスクマネジメントがなされていない事を露呈している。こうしたマスメディアにおける誤報問題をリスクマネジメント問題として論じたペーパーに、誤報に関するデータが掲載されている。

朝日新聞慰安婦問題とメディアの誤報リスクマネジメント、SYNODOS、2014.09.18 Thu

このペーパーに記載された誤報検証サイトにおける誤報の登録件数を調べたデータを見ると、誤報は朝日新聞に限ったことではない。朝日新聞を批判している側のマスメディアにも誤報は多々ある。「ハインリッヒの法則とよく似た事故の階層構造が誤報にもみられる」とあるが、人(記者、編集者)が介在する仕組みにおいては当然と思われる。しかし、何故、「報道」という製品の品質改善・リスクマネジメントが機能していないのであろうか。

その一つが、やはりしっかりした調査報道、検証報道、訂正報道を回すあるいは促す仕組みが欠けていることにその主因があると思われる。例えば、東日本大震災からの復興、福島第一原発事故の収束等に関する調査・検証報道が十分になされないまま推移している。この点について、大前研一氏は「『大本営発表をそのまま伝えるだけ』という戦争時の姿勢と本質は全く変わっていない」と厳しく指摘している。

▶追記:その後、「誤報欄」常設のすすめ、京都大学大学院教育学研究科准教授・佐藤卓己、2014.9.28という提案記事が出ている。

記者クラブ等の便宜供与や、各種審議会等へマスメディアが委員として参画したり、さらには企業・団体等の広告に大きく依存する限りは、第三者的な報道を期待するのは難しい。マスメディアの立ち位置が問われている。

ネット社会がもたらす情報の受け手側の変化

一方、情報の受け手側も、マスメディアが報道する事は正しいというある種の「神話」があったのかもしれない。公開された吉田調書を始め、国民が知りたい情報が国民に秘匿されており、報道されている事実は情報ソース者及びマスメディアによって選別され切り取られた事実でしかない。その切り取り方によって、偏向も、誤報も生じる。受け手側も、情報に対するリテラシーを向上させる必要がある。それには、情報に関する非対称性を解消するしかない。

日々、膨大なニュースが発生し積み上がっていくなかで、限られた掲載しかできない制約の中で、その全てをカバーし、ストックし、分析・検証することには限界がある。しかし、インターネットでは情報の受け手側でもそれが可能となる。

例えば、筆者も、かって阪神・淡路大震災時にFEMAに倣って、関係主体の震災後の3ヶ月間の対応(活動)を調査し整理した3ヶ月後報告を出した際、紙媒体が主流の当時に於いては、莫大なマンパワーの投入を余儀なくされた。所属会社のマンパワーを利用できたからこそ可能であった。しかし、東日本大震災の時には、同等以上のことが、組織に頼らずとも可能であった。

東日本大震災 情報支援サイト「復興日本

また、小保方論文疑惑の際には、マスメディアがインターネット上に流通していた情報の後追いに終始した感がある。専門家は行政廻りの審議会等にいるだけでなく、在野にくまなく存在する。ネット上の記事、情報は発信が容易であり、ストックが容易であり、比較検証が容易である。

ネット社会の新たなメディアの勃興

このため、今、ネット社会では、SNSFacebooktwitter、Blog等)だけでなく、ニュース比較サイト、キュレーションサイトあるいはキュレーションメルマガ等が勃興している。これらはキュレーションメディアと総称されることもある。これは、ある意味で読み手の選択・判断能力に評価を委ねているとも言える。更に云えば、これはある種の専門的集合知と言えるかもかもしれない。発信主体が限られていた従来とは明らかに土俵が変わってきている。同じニュースを多様な発信主体の発信内容を比較すれば、それなりの真実に近づく。

【最近話題の新たなキュレーションメディアサイト】 ▼グノシー(500万DL) ▼スマートニュース(400万DL) ▼NewsPicks(21万DL)

参考:▼「イノベーションのハブとしての役割を果たしたい」—新たなメディア像を描く「NewsPicks」の現状と未来、現代ビジネス、2014年09月20日 追記:▼興隆する『キュレーションメディア』の側から見える市場、2014年09月24日

筆者も、1年前から、専門家・知、イノベーション、仕組みに焦点を当てたキュレーションメルマガを編集・発行している。

FellowLink倶楽部

人あるいは組織は、何かを判断するとき、判断のよりどころとなる情報を集める。これまでは、そうした情報を発信するのは、マスメディアがその大宗を担っていた。しかし、いまは違う。上述したように、インターネットを活用した多様なメディアが勃興している。それが更なる個人の発信を促している。いま、マスメディアとソーシャルコミュニケーションとのせめぎ合いが始まっている。その流れに棹さしてみたい。

帰省路と田舎の諸相

圏央道とカーナビ ~圏央道の効果を実感~

今年もお盆に帰省した。今年は、行きは高速道路で、帰りはフェリーを利用した。これまでは一般道路経由(府中街道等)で東京川崎ICから高速道路を利用していたが、この東名高速道路に乗るまでに約2、3時間を要していた。ところが今年は、平成26年6月28日に圏央道東名高速道路まで繋がったので、圏央道の入間ICから高速道路に乗ってみることにした。

昼の暑さを避け、8/11 16:00に自宅(所沢)を出て、入間ICから圏央道にのり、そのまま海老名JCT東名高速道路に入り、御殿場JCTで新東名高速道路に、そして18:50静岡SAで最初の休憩をとる。余り疲れずに一気に静岡まで来られるとは。圏央道の効果はすごい。ただ、残念なのは、新しい高速道路なのに、全体に線形とカラーリングが悪いこと、そしてトンネル区間が暗くて走りにくいことだ。構造物に新しさ、先進性を感じないのは何故だろうか。

圏央道 相模原愛川IC~高尾山ICの開通1ヶ月後の整備効果について国交省相武国道事務所

静岡SAで177円/リッターもするガソリンを補給して、19:20出発。20:55、浜松SAで2回目の休憩。食事を取り、21:45出発。そして、東名高速道路伊勢湾岸自動車道東名阪自動車道を経て、新名神高速道路の土山SAに23:23着。ここまで自宅からの走行距離426km。ここで1時間ほど仮眠して、1:00に出発。名神高速道路を経て、2:25に中国自動車道西宮名塩SAで休憩。2:47に出発して、4:10神戸淡路鳴門自動車道の緑PAで最後の休憩。4:20出発して、5:00徳島市郊外の女房の実家に到着。自宅を出てから13時間。総走行距離678km。夜間走行なので、熱くもなく、渋滞もなく、スムーズであった。

今回、事前にルート検索、カーナビ案内をいろいろ調べていて分かったのだが、高速道路会社の経路情報、カーナビ案内情報、SA/PAサービス機能情報の提供がスマフォ対応していない。利用料金を徴収しているのだから、今時、それぐらいのサービスはして欲しいものである。いまや、車載カーナビよりもスマフォのカーナビアプリの方が無料ながらも情報更新が早く、使える。Yahoo! Japan カーナビはなかなか良い。

こういうアプリが無料で提供されると車載カーナビに代わり、充電機能付きスマフォスタンドが車載カーナビに早晩取って代わるであろう。ということは、スマフォの音声応答(入力)機能の強化や、スマフォ画面をフロントガラスに転写する機能等が早晩、普通になることが予想される。あらゆる場面のモバイル機能がスマフォをプラットフォームとする時代が近づいている。

シャッター通り」ならぬ「朽ちた家通り」

8/13の午前中は、阿波市の実家で初盆があった。親戚一同が集まり、お坊さんが家に来て読経してくれる。お坊さんもお盆は分刻みの稼ぎ時で忙しそうである。

実家の周辺を車で走っていると朽ちている家が増えている。近くにあった立派な塀に囲まれていた屋敷も見るも無惨な姿をさらしている。勝手のそれなりの家並みが、串の歯が抜けるようにあちこちで朽ちて崩れかかっている。住む人がいない家は朽ちるのが早い。朽ちた家を壊して更地にすると固定資産税が高くなるとのことで、そのまま朽ちるに任せているとのこと。

聞くと、人が住んでいる家でもお年寄りが殆どで、実家のある通り沿いには子供が1人しかいないとのこと。お盆、正月、冠婚葬祭の時にしか人が集まらない。寂しい限りである。全国で似たような状況が拡がっている。

横須賀市で限界集落が生まれた理由 「日本で最も人口減が進む都市」の実像

現在、ふるさと納税や、飛行機の介護帰省割引があるが、都会に出て行った人が頻繁に実家に帰ってコミュニティを維持する為の移動支援・活動支援をするような仕組みが必要かもしれない。東京以外の全国の地方で人口が減る時代は、動ける人の移動によるアクティビティ(総流動)を上げるしかない。例えば、週末は地方で生活したり、仕事をしたりというスタイルがあって良い。WEB時代は、仕事はどこでもできる。グローバル時代は、本社は日本のどこにあっても良い。世界から見れば、所詮、Japanに変わりはない。通信コストは劇的に下がった。次は、移動交通コストを劇的に下げるしかない。

住民だけを対象にした地域政策、まちづくりではなく、地域に係わるアクティビティの担い手をターゲットにした政策・施策、企業活動、生活行動がキーとなる時期に来ている。

実家の掃除

8/14~8/15は、女房の実家の大掃除である。最近は、毎年、お盆に帰ると、軽トラックで3回ほど要らなくなったものを捨てに行ったり、家の中を修理したり、備品を買い換えしたりしている。重い不要物をもって階段を上り下りするのも、段々ときつくなる。腰の筋肉痛が2,3日続く。軽トラックは田舎の農家には必ずあるが、乗用車と違って、最初は運転しづらいがなれれば何とかなる。

意外と知られていない? 日本を支えるクルマ「軽トラ」その魅力を探る[2014.8.26追記] 

燃えないゴミ等雑多なものを捨てるには、有料の民間施設に持ち込む。資源ゴミは市役所の処理施設に持ち込めば無料である。いずれにしても、高齢世帯では処理は難しい。身内がやるしかない。こうした実家のモノの片付けは日本の社会的問題だとする指摘もある。小生も、子供にとっては実家であり、モノの処分で迷惑をかけたくないので、昨年末、自ら大半を処分した。その詳細は、本ブログの「LCP(Life Continuity Planning 人生継続計画)~自分史、終活・エンディングノートを超えて~」に記した。

大掃除が終わりかけた頃に、帰省する各一家が勢揃い。総勢15名。一気に賑やかになる。

「実家の片づけ」は日本経済の縮図だ あふれ返ったモノ、売れない家に悩む子世代、東洋経済ONLINE、2014年08月17日これが「実家の片づけ」に悩む人の実態だ! きっかけ、年代、費用、期間・・・独自アンケートで判明、東洋経済ONLINE、2014年08月20日

ホスピタリティの欠落したホテル

8/16は息子の御披露目会を開催した。ハワイで挙式したので、実家のある田舎の徳島で親戚への御披露目をした次第である。この会場選びが大失敗であった。8/15までは阿波踊りがあるため、その翌日に会場が開いていそうな某共済組合系のホテルを探して選んだのだが、そのホスピタリティのなさには唖然とするしかなかった。

まず、着物の着付けの部屋として、空いている和室を用意してくれたのはいいが、あの暑い最中、冷房も入れず、お客に提供する神経が分からない。使用した者は暑くて大変だったと、怒っていた。

料理、ドリンクもともにコースの中の最高ランクを注文したのだが、特にドリンクはひどかった。こちらから声をかけないと、ビンの栓を開けてくれない。選択肢が少ない。補充をなかなかしない。競争の激しい東京では考えられないひどさであった。料理も足りなくなったので、何かできるモノがあれば追加したいと掛け合うと、しばらくして、事前に注文したモノ以外は用意できないと言ってくる。来て頂いた親戚の皆さんには、十分なおもてなしができず、本当に申し訳なかった。二度とあのホテルは使うことはない。

やはり、競争環境にないサービス業はどうしようもない。この共済組合系の施設は県内ではこのホテル施設のみになってしまったと送迎車の運転手をしてくれた方が言っていたが、このホスピタリティのなさではこのホテル施設も民間企業に譲渡した方が良い。

すだち

8/17は帰り支度の日。使用した布団を干し、シーツを洗い、ゴミ類を出す。我が家を除いて、帰省していた一家がそれぞれ帰っていく。そして、夕方すずしくなってから、恒例のすだち狩り。厚手のズボン、長袖のジャンパーに「手ほい」、そして頭にタオルと帽子という出で立ち。

すだち畑は、手入れをする手がないので、草ぼうぼうである。高齢化すると、こうした畑の手入れもできなくなる。草に打ち勝って成長したすだちは、それなりに価値はあるが。ことしは雨が多かったので例年よりは大きかったが、それでも「路地もの」としては時期的に少し早いので小さめのものが中心となる。手入れをしていないので、表面に傷も多い。しかし、すだちのあの濃い緑の粒は何とも言えない。すだち畑の向かいにある家のおじさんから差し入れのジュースを頂き一息。話し込む。

帰路のオーシャン東九フェリー

8/18 9:00に女房の実家を出る。お盆の時には、総勢15名も家にいたのに、我々一家も帰れば誰もいなくなると、おばあちゃんが寂しそうにつぶやいている。途中、フェリーの中で食べる昼食と自宅用の半田そうめん1箱をスーパーで買い込む。

11:00徳島港をフェリーが出航する。4人部屋の2段ベッドの個室は家族のみで使用でき、廻りに気を遣う必要がなく、なかなか良い。翌朝、5:40に予定通り、東京港のフェリーターミナル埠頭に着岸する。薄暗いなか、海ほたるの横を抜け、夜明けの陸側のビル群を海側から見るのはいつ見ても良い。遠くには富士山も見える。

7:30、自宅に到着。

以上

個人情報漏洩事件について

ベネッセコーポレーションの顧客情報2,070万件が漏洩した。(その後の報道によると、7/22現在、2,260万件になっている。) 「漏洩」という言い方は「脱法ハーブ」と同じく、罪の意識が薄い表現で、「情報窃盗」と呼ぶべきと思う。情報社会に於いて情報窃盗の罪は重い。

▼ベネッセコーポレーションにおける個人情報漏えいに関するお知らせとお詫び(お問い合わせ窓口のご案内)、Benesse ▼ベネッセコーポレーションの個人情報漏洩の件に対する当社の対応につきまして、JUST SYSTEMS、2014.07.11 ▼個人情報漏洩事件・事故一覧、Security NEXT ▼ベネッセ、生活事業サービス利用者の情報流出も確認--総計2260万件に、2014/07/22 13:35

警視庁は、ベネッセコーポレーションの情報窃盗者である派遣社員不正競争防止法違反(営業秘密の複製)容疑で立件する方針とのことであるが、直接の情報窃盗者のみを罰し、個人情報を窃盗され漏洩された企業が個人情報提供者に謝罪金を支払えば一件落着ではない。

こうした情報窃盗・情報漏洩に関係する主体は5つある。 1.名簿業者から名簿(個人情報)を購入する会社 2.名簿業者 3.情報窃盗者 4.個人情報を盗み取られる個人情報保有会社 5.個人情報を預けっぱなしの個人情報提供者

■大量の個人情報を違法性を認識せずに購入できるのか

今時、大量の個人情報(名簿)が違法性なしに流通すること自体があり得ない。通常、利用目的以外での利用・提供をしないことを条件に個人情報が提供・収集されているなかで、直接の収集当事者以外の企業がそうした個人情報を購入し保有し利用すること自体に違法性の可能性が潜んでいるのは自明である。

個人情報を名簿業者から購入する際に、違法性を認識していない、排除している、と主張する購入業者の声があるが、極めて疑問である。例えば、ジャストシステムは、257万件余の個人情報になんらの違法性の疑問も抱かず購入したとするなら、それは会社としての個人情報の取扱姿勢に疑問を抱かずにいられない。会社としての信頼を毀損しても仕方がない。

■名簿業者は存立しうるのか

今回のベネッセコーポレーションの個人情報の売買の仲介をした「名簿業者」なるものの存在が明らかになっている。売却・換金目的で、一般の個人が情報窃盗をしても、その売却先がなければ情報窃盗する意味がなくなるが、名簿業者がそうした売却先の受け皿になっている。WEBで検索してみるとおびただしく出てくる。個人情報保護法が成立している状況下で、個人情報を売買する名簿業自体が何故存立できているのか。不思議である。

ベネッセの顧客情報「230万件」を売った「名簿業者」 訴えられる可能性はあるか?、弁護士ドットコム、2014年07月11日 14時56分 「不正に流出したものであるかどうかに関わらず、個人データの第三者提供を原則的に禁止する個人情報保護法23条に違反する可能性がありますね」

少なくとも、名簿業者に、入手した個人情報の入手経路の正当性を証明するマニフェスト(産業廃棄物管理票)のようなものを提示する義務付けが必要である。法制化に時間を要するようであれば、デファクト的に購入事業者がマニュフェスト(個人情報管理表)の提示を求めれば良い。違法性を真に排除するならこの程度のことを実践して欲しい。

■情報窃盗者を防ぐことは可能か

内部者による情報窃盗・漏洩を防ぐため、企業はシステム等のログ監視ソフトの導入により、抑止策を講じているが、人が介在する限り、技術的抑止策には限界がある。多くの企業が導入しているISMS(Information Security Management System)についてみても、「ISMS が多くの組織で形骸化している可能性がある」との調査結果(下記報告書 p.64)もある。

組織内部者の不正行為によるインシデント調査 - 調査報告書 -、情報処理推進機構、2012年7月

従って、より心理的抑止効果を発揮するには、アクセス者の限定(違法アクセス者の特定の容易化)や、監視カメラによる画像保存等が必要と思われる。さらには、今回のベネッセコーポレーション事案でも明らかになったように、当事者にしか分からないような個人情報(ダミー情報、特殊表現等)を潜り込ませておけば、窃盗・漏洩された場合でも、その出所を特定化しやすくすることができる。これは、購入事業者への購買抑止効果になる。

■個人情報の管理の仕組みに問題はないか

企業等に於いて、コンプライアンスISMS等でいくら規定しても、その管理責任部署以外、個人情報取扱事業者(5000件を超える個人情報データベース等を事業の用に供している者)となることの意味合いを実感していることは少ないのが実態ではないだろうか。

その典型例が、例えば、アンケートや各種の申込書で本当に必要な情報以外の個人情報を安易に取得することがある。収集した個人情報は適切に管理する義務およびコストが発生することを認識できていない。

さらに、今回のベネッセコーポレーション事案を見ると、2,000万件を超える個人情報の管理・運営をベネッセ本体ではなく、再々委託先の業者が行っていたことに驚く。これは、情報の価値とその情報の管理に対する認識が極めて低いと思わざるを得ない。企業にとっての重要な情報は直営で管理・監視すべきである。

いずれにしても、個人情報を収集しデータベース化する限り、意図を持った情報窃盗者・漏洩者を完全に排除することは難しいことを認識した仕組みの構築・点検を常に実施することが不可欠である。

組織における内部不正防止ガイドライン、2013年12月27日、独立行政法人情報処理推進機構

■個人情報の行く末に敏感に

個人情報を提供する側においても、どうやって自らの個人情報を守るか、常に意識しておく必要がある。

いろんなサイトへの登録、カード申し込みの登録等に於いてかなりの個人情報を提供している。例えば、Facebook等に於いて、自分の生年月日という重要な個人情報を公開している人が少なくない。同窓会、町内会、会社社員名簿等をシュレッダーにかけずにそのまま廃棄したり、販売している人も少なくない。いまや、一家に一台、シュレッダーが必要である。現状は、シュレッダーにかけて家庭ゴミ出しすると、ゴミ収集業者に「事業ゴミではないですよね」と確認されるほど、家庭でのシュレッダーは普及していない。

不要なサイト登録、カード取得を時々見直し、不要なものは退会・削除要請すべきである。また、セールスの電話が掛かってきたときは、電話番号の入手経路を確認し、削除要請をすべきである。今回のベネッセコーポレーションの個人情報にしても、子供が大きくなり、ベネッセのサービス利用を卒業したら、個人情報の削除要請をしておくべきであったと思う。

とにかく、自分の意に反する個人情報の利用・拡散がされないように自らが意思を持って対処すべきである。