朝日新聞の誤報問題と新たなメディアの勃興

朝日新聞の誤報と謝罪

朝日新聞の謝罪が相次いでいる。8/5慰安婦誤報(朝日新聞は記事の検証結果の特集記事報道と位置づけ)、9/6池上連載拒否謝罪、9/11吉田調書誤報・慰安婦問題謝罪、9/14任天堂記事捏造問題謝罪。一気に溜まっていた膿を出しているような気がしないでもない。あるいは、出さざるを得ない状況が生じているのかもしれない。

慰安婦問題を考える、朝日新聞DIGITAL(2014年8/5日初出)池上彰さんの連載について おわびし、説明します、朝日新聞DIGITAL、2014年9月6日03時00分みなさまに深くおわびします 朝日新聞社社長、朝日新聞DIGITAL、2014年9月12日03時07分任天堂と読者の皆様におわびします 朝日新聞社、2014年9月14日05時00分

慰安婦誤報は、その発端となった記事が出てから謝罪までに32年を要している。この間に、国家間の問題を惹起している。

1982/9/2朝日新聞朝刊(大阪版)22面「朝鮮の女性 私も連行 元動員指揮者が証言 暴行加え無理やり 37年ぶり危機感で沈黙破る」新聞記事画像、日本専門家活動協会報道検証機構従軍慰安婦問題の経緯 ―河野談話をめぐる動きを中心に―、国立国会図書館 調査及び立法考査局、レファレンス 平成25年9月号

吉田調書も世界的に注視されている中で、事実(調書)と異なる報道がされ、世界からの認識を歪めている。政府は、吉田調書のみのならず、政府事故調査委員会のヒアリング記録の公開に向け動いている。

「吉田調書」 福島原発事故、吉田昌郎所長が語ったもの、朝日新聞DIGITAL(2014年5月初出)政府事故調査委員会ヒアリング記録、内閣官房

マスメディアの報道品質とリスクマネジメント

影響力の大きいマスメディアとしての記事の品質管理、リスクマネジメントがなされていない事を露呈している。こうしたマスメディアにおける誤報問題をリスクマネジメント問題として論じたペーパーに、誤報に関するデータが掲載されている。

朝日新聞慰安婦問題とメディアの誤報リスクマネジメント、SYNODOS、2014.09.18 Thu

このペーパーに記載された誤報検証サイトにおける誤報の登録件数を調べたデータを見ると、誤報は朝日新聞に限ったことではない。朝日新聞を批判している側のマスメディアにも誤報は多々ある。「ハインリッヒの法則とよく似た事故の階層構造が誤報にもみられる」とあるが、人(記者、編集者)が介在する仕組みにおいては当然と思われる。しかし、何故、「報道」という製品の品質改善・リスクマネジメントが機能していないのであろうか。

その一つが、やはりしっかりした調査報道、検証報道、訂正報道を回すあるいは促す仕組みが欠けていることにその主因があると思われる。例えば、東日本大震災からの復興、福島第一原発事故の収束等に関する調査・検証報道が十分になされないまま推移している。この点について、大前研一氏は「『大本営発表をそのまま伝えるだけ』という戦争時の姿勢と本質は全く変わっていない」と厳しく指摘している。

▶追記:その後、「誤報欄」常設のすすめ、京都大学大学院教育学研究科准教授・佐藤卓己、2014.9.28という提案記事が出ている。

記者クラブ等の便宜供与や、各種審議会等へマスメディアが委員として参画したり、さらには企業・団体等の広告に大きく依存する限りは、第三者的な報道を期待するのは難しい。マスメディアの立ち位置が問われている。

ネット社会がもたらす情報の受け手側の変化

一方、情報の受け手側も、マスメディアが報道する事は正しいというある種の「神話」があったのかもしれない。公開された吉田調書を始め、国民が知りたい情報が国民に秘匿されており、報道されている事実は情報ソース者及びマスメディアによって選別され切り取られた事実でしかない。その切り取り方によって、偏向も、誤報も生じる。受け手側も、情報に対するリテラシーを向上させる必要がある。それには、情報に関する非対称性を解消するしかない。

日々、膨大なニュースが発生し積み上がっていくなかで、限られた掲載しかできない制約の中で、その全てをカバーし、ストックし、分析・検証することには限界がある。しかし、インターネットでは情報の受け手側でもそれが可能となる。

例えば、筆者も、かって阪神・淡路大震災時にFEMAに倣って、関係主体の震災後の3ヶ月間の対応(活動)を調査し整理した3ヶ月後報告を出した際、紙媒体が主流の当時に於いては、莫大なマンパワーの投入を余儀なくされた。所属会社のマンパワーを利用できたからこそ可能であった。しかし、東日本大震災の時には、同等以上のことが、組織に頼らずとも可能であった。

東日本大震災 情報支援サイト「復興日本

また、小保方論文疑惑の際には、マスメディアがインターネット上に流通していた情報の後追いに終始した感がある。専門家は行政廻りの審議会等にいるだけでなく、在野にくまなく存在する。ネット上の記事、情報は発信が容易であり、ストックが容易であり、比較検証が容易である。

ネット社会の新たなメディアの勃興

このため、今、ネット社会では、SNSFacebooktwitter、Blog等)だけでなく、ニュース比較サイト、キュレーションサイトあるいはキュレーションメルマガ等が勃興している。これらはキュレーションメディアと総称されることもある。これは、ある意味で読み手の選択・判断能力に評価を委ねているとも言える。更に云えば、これはある種の専門的集合知と言えるかもかもしれない。発信主体が限られていた従来とは明らかに土俵が変わってきている。同じニュースを多様な発信主体の発信内容を比較すれば、それなりの真実に近づく。

【最近話題の新たなキュレーションメディアサイト】 ▼グノシー(500万DL) ▼スマートニュース(400万DL) ▼NewsPicks(21万DL)

参考:▼「イノベーションのハブとしての役割を果たしたい」—新たなメディア像を描く「NewsPicks」の現状と未来、現代ビジネス、2014年09月20日 追記:▼興隆する『キュレーションメディア』の側から見える市場、2014年09月24日

筆者も、1年前から、専門家・知、イノベーション、仕組みに焦点を当てたキュレーションメルマガを編集・発行している。

FellowLink倶楽部

人あるいは組織は、何かを判断するとき、判断のよりどころとなる情報を集める。これまでは、そうした情報を発信するのは、マスメディアがその大宗を担っていた。しかし、いまは違う。上述したように、インターネットを活用した多様なメディアが勃興している。それが更なる個人の発信を促している。いま、マスメディアとソーシャルコミュニケーションとのせめぎ合いが始まっている。その流れに棹さしてみたい。