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社会のダイナミズム ―ギャップと仕組みづくり―

最近、「格差社会」という言葉をよく耳にする。「格差」と同じ意味合いの言葉に「ミスマッチ」、「歪み」、「矛盾」、「違い」等々が思い浮かぶ。何れもネガティブな使われ方をする。

一方、マーケティング分野では「違い」を積極的に捉え、「差別化」、「比較優位性」、「土俵ずらし/ブルーオーシャン」等々、戦略的な意味合いが強い用語が多くなる。

ここではこれらを総称する表現としてネガティブではない意味合いを込めて「ギャップ」という言葉を使いたい。

日本人は「リスク」という言葉をネガティブにとらえるが、欧米人は「チャンス」ととらえる。これと同じで、「ギャップ」も決してネガティブにとらえるべきではない。「ギャップ」もまた「チャンス」であり、社会のダイナミズムの源泉である。

経済用語に「裁定」という概念がある。裁定とは、「市場において財の価値やリスクの見方に何らかのゆがみがあり、本来の価値と異なる価格形成がなされる場合、その差を利用した取引や商品を開発することで無リスクで収益を得る行為」(大垣教授「裁定機会求め資金殺到」、2008年1月22日、日経新聞 経済教室)である。まさに、ビジネスにおいては、ギャップこそビジネスチャンスそのものであるということである。

商いの基本は「安く仕入れて高く売る、そのギャップ(利得)をいかに大きくするか」ことにある、さらに言えば「高く売れる先を見つけてから安く仕入れれば、仕入れた瞬間にギャップ(利得)が獲得できる」。このギャップは、国内の特定分野ではなく、異分野間、さらには国際間へとフィールド(市場)を広げるほどギャップの存在確率とギャップそのものが大きくなることは明らかで、国際的なビジネスはまさにそのようなことを狙ってうごめいている。国際的な金融ビジネスはこうしたギャップ探しと獲得が繰り広げられている典型例であろう。

時代は、その時代その時代の価値観や技術に基づく仕組みで廻っている。しかし、価値観や技術は常に変化する。それも先行的に。つまり、現時点の社会の実態/実相と、現時点以前の価値観や技術に基づく仕組みの間には常に「ギャップ」が存在することになる。価値観や技術の変化が早いほど、それまでの価値観や技術をベースとした仕組みとのギャップが拡大する。

このギャップを埋める仕組みは分野によって、その形になった際の姿が異なってくる。

 民間分野で形にすれば、「新たな事業・業態起こし」となる。

 学術分野で形にすれば、「新たな知識・理論」となる。

 政・官分野で形にすれば、「新たな政策・法制度」になる。

そして、それらを稼働させ支援するための「新たな組織」「新たなシステム(SI)」という形化もある。

そして、社会における仕組みの形化は、事実・実態としての各種事業・活動がまず起こり、それらが知として理論化され体系化され、それを踏まえて法制度化されるという流れになる。当然ながら、それぞれの段階の移行には時間を要する。さらに言えば、仕組みの強制につながる法制度化は特に遅れる。法学者に言わせれば、「それは当然」という認識である。

新たな仕組みはギャップを埋めながら、一方で価値観や技術の変化を促す。「価値観−技術−仕組み」は相互に影響し合いながら、ギャップを埋めたり拡げたりする。言い換えれば、ギャップは、仕組みを介在しながら、「拡大 ⇒ 縮小」を繰り返す。「均衡」状態はないと考えるべきであろう。均衡状態のように見える状態は、新たな仕組みづくりがなされていない不活性な状態と考えるべきである。「不作為」、「先祖帰り」、「縮み指向」、「縮小均衡」、・・・。こういう状態は見たくない。

何れにしても、社会は常に不均衡状態にあり、そこに内在するギャップこそが社会のダイナミズムの源泉であり、そのギャップを埋める新たな仕組みづくりはダイナミズムのエンジンと位置づけられる。

ということは、常に新たな仕組みづくりを考え形にしていくことが国や地方の活性化、企業等の活性化、引いては国民・住民・個人の幸せに繋がる。そのためには、ギャップの認識、そしてその構造的把握が第一歩となるが、人は自らが当事者である場合、冷静なギャップ認識・把握、ましてや対策(新たな仕組みづくり)はできない。ここに第三者(学者、コンサルタント、アドバイザー等)の存在の意味がある。

日本にも第三者そのものは数多く存在するが、歴史的かつ社会的な観点からのギャップの構造認識を行い、そのギャップを埋める仕組みの創出支援を専門とする個人・集団は皆無に近い。それらを生み出す仕組みそのもの(例えば、大学の講座)もない。

図6

仕組みの形出しの姿は分野によって異なるが、その基本は同じであり、産・官・学に通じた多様な分野の専門家の連携が不可欠である。このことを社会全体で効率的かつ効果的に行うには「プラットフォーム」が必要である。日本にも、仕組みづくりの専門家・専門家集団が輩出し、プラットフォームに集い、プラットフォームを通じて新たな仕組みを創出し続けるダイナミズムあふれる時代となることを願う次第である。