新たな時代への胎動  あらゆる仕組みの再構築時代

政権交代が事実としてスタートした。従来になく、新しい内閣の言動に高揚感、躍動感を感じる。霞ヶ関の省庁の対応をみていると、敗戦後の日本の占領統治を行ったGHQ来日時もさもありなんという動きを見せている。一方で、海外政府・メディアは従来の単なる自民党政権内での交代と違って、注目して受け止めているようである。久しぶりに、世界における日本の存在感があがっていることを感じる。これまで、日本は経済力に比したリスペクトを世界から受けていないので、こうした面からも従来からの脱皮を図って欲しいものである。

片や、政権党から野党に転じた自民党の再生への底力を期待したいところであるが、再生に向けての期待感を抱かせるまでには現時点では至っていない。民主党とはまた違う形での清新なリーダーが現れ、ニュー自民党への脱皮を図って欲しいものである。政権党に対する牽制機能を果たしうる野党がいてこそ、政治に緊張感が維持され、活性化する。一気に自民党の存在感が薄れつつある現状を見るにつけ、国全体としてのリスクを感じる。

さて、政権交代が起き、新しい統治の仕組みづくりが動き出した。明治以来の仕組みを変えるということであるから当然、そこには大いなる軋轢が生じることは必至であるが、時代が要請している方向に仕組みを仕立て直して欲しい。

それでは、時代が要請している方向とは何か。この点に関し、今日の東京新聞の「時代を読む」”何が自民を退場させたのか”(哲学者 内山 節)に参考になる示唆があった。

内山氏は、今回の政権交代を巷間言われている政治的理由以外に「・・・この二、三十年の間に、日本の人々の考え方や行動が少しずつ変化してきた」ことを問題認識としてあげている。そして、「その一つに環境問題への関心の高まりをあげることができる。・・・経済の力は必要かもしれないが、それだけでは社会の持続は保証できないし、私たちも幸せになれないのではないかという思いが、少しずつ広がっていった。」と指摘している。

これは、環境問題が現実のさしせまった問題として認識できる事象が身近にも世界的にも相次いでいることにその背景がある。自然の持続的な生態サイクルにおいて吸収可能なレベルを超えない範囲で、いかに持続的な経済成長を維持していくか、その節度あるバランスがいま問われている。従来の経済的成長を唯一としてきた仕組みとは違った仕組みが必要である。

これは別の表現をすれば「多目的最適化問題」である。経済成長一辺倒ではない最適解を実際の社会においてどう実現するか、その仕組みをどう構築するかということである。実は、これは鳩山首相の学者時代の専門であるOR(Operations Research)の領域である。鳩山首相は、1976年からずっと日本OR学会の会員とのこと。

鳩山由紀夫氏は オペレーションズ・リサーチでPh.Dを取られ、本学会会員です                                      更新 09/15/2009   鳩山由紀夫氏がわが国の首相に指名されることになっております。 鳩山氏はOR学会員の皆様方ご存知のように、 1976年以来ずっとわれわれの学会員であります。 OR学会員で政治家になられた方として長く参議院議員を務められた後藤正夫氏がおられます。 もちろん一国の首相ということでははじめてということですが、 鳩山氏につきましては、 Ph.Dの博士学位を持って学会活動を活発に行っていた研究者であったこと、 そしてまた国内的にも国際的にも初めて自然科学分野理工系バックグラウンドを有する首相であることなどが話題となっております。    米国OR学会(INFORMS)ではいち早く、 ホームページに “New Japanese Prime Minister is Operations Researcher” という見出しの下に 日本の次期首相がOR学会員であること、 米国スタンフォード大学のOR Ph.Dであること、 そしてまた鳩山氏自身、 あるいは鳩山氏が代表である民主党の政治的スタンスがこれまでの日本の首相と異なって、 米国との“対等外交”、“アジア重視”などを訴え、 米国の金融危機が世界経済混迷の原因であると明言していることなども紹介しております。   鳩山氏はOR学会活動として、 2007年の50周年記念講演会において、 政界の代表として記念講演をしていただいたのはわれわれの記憶に新しいところです。 鳩山氏が最初にOR学会活動に参加したのは、 昭和52年から2年間、 奥野忠一編集委員長の下で機関誌「オペレーションズ・リサーチ」の編集委員としてであります。 鳩山氏は解説記事として「信頼性の数学」を5回にわたって連載したり、 また「スポーツのOR」の特集担当もしております。   鳩山氏のスタンフォード大学OR学科での博士論文はシステムの信頼性解析に関するものです。 鳩山氏は東工大工学部経営工学科助手、 専修大学助教授を経て、 1986年に総選挙で初当選して以来、 政界の中心で活躍を続けています。 鳩山氏にとってORを学んだことが確実に役に立ったということは事実でしょう。鳩山氏はORがこれまで余り目立った功績、 成果のなかった政治の分野においても有用であることを実際にご自身で立証してくれました。 そしてまた今後は政治分野に限らず、 行政社会にとってORが役に立つ学問であることを示してくれるものと期待しています。     これを機会にORがより広く社会に知られ、 普及することを願いたいものです。                        政策研究大学院大学副学長 大山達雄

こういう思考方法・手法を身につけていると、自ら積極的に先んじて話すことない。最適化問題として定式化するための要素、条件をできるだけ集めようとする。鳩山首相は聞き上手であるとのことであるが、それはまさにいろんな意見(目的関数、条件、要素)を聞き、自らの頭の中で最適化問題として定式化し、それを社会システム的に解こうとしているしているのではなかろうか。まさに「政治を科学する」である。従来とは違った社会合理性のある解を期待したい。

ところで、内山氏はさらにもう一つの変化として、「・・・もうひとつ大きな変化があった。それは孤立した個人の社会から協力し合う社会へと、私たちの社会目標が変わってきたことである。個人の自立、強い個人の確立がよい社会を作るという戦後的神話が崩れ、代わって、関係性、共同性、支え合いといった言葉が社会づくりのキーワードになっていった。」と言っているが、この認識にはやや疑問がある。

すなわち、これまでの日本社会において、”個人の自立、強い個人の確立した社会”は存在していない。強かったのは行政組織や大企業に代表される”組織”である。その強かった組織の優位性が昨今のIT技術、グローバル化の中で溶融しはじめ、そうした強い組織による公助から離脱せざるを得なくなり、いまこそ個人の自助・自立、強い個人が求められ、それを支えるための共助という仕組みがいま求められていると思われる。

この共助の一つがボランティアであり、NPOである。これらは日本においては阪神・淡路大震災の時を境に芽吹き定着していった。そして、昨今の企業の倒産、M&A等により企業の寿命が人の寿命よりも短くなり、個人が人生を通じてよりどころとするところが企業ではなくなってきた。特に、就業において。ここに改めて、個人の人生にわたっての拠り所、共助の受け皿としてもっとも相応しい存在として大学あるいは同窓会がある。大学あるいは大学の同窓会に就業のセイフティ・ネット機能が具備されればこれまでとはまた違った社会が現出することになる。

いずれにしても、時代は明らかに代わり始めた。そこには従来にない新しい発想による新しい仕組みが必要とされている。そうした仕組みづくりにいささかなりとも貢献したいものである。