令和の米騒動からJA、市場、担い手、農地、食料安保を問い直す

概要 米が映す農政の病理

2024年夏に店頭から米が消え、2025年には価格が前年の約2倍に跳ね上がった。ところが2026年には在庫が積み上がり、生産費を下回る概算金が相次いでいる。わずか3年で不足と余剰が入れ替わったこの「令和の米騒動」は、天候の異変や一時的な需給のずれでは説明がつかない。

騒動の起点は行政の読み誤りであった。2024年産米の需要は見通しより37万トン多く、生産は32万トン足りなかった。当初唱えられた「流通の目詰まり」は裏付けられず、備蓄米は不作時にしか使えない規則に縛られて放出が遅れた。その背後には、数字で確かめられる構造がある。平均的な米農家の農業所得は2023年で9.7万円にすぎず、能力の2割しか使わないトラクターを一戸ごとに抱えている。JAは利益の約65%を金融と保険で稼ぎ、農業関連事業は20年以上赤字を続けてきた。価格変動のリスクは委託販売を通じて農家に残り、全農の主食用米の集荷は生産の28%まで落ち込んだ。2026年産の概算金は、多くの産地で生産段階のコスト指標である60kg当たり2万535円を下回り、米作りはふたたび赤字の時代に戻りつつある。

価格を知らせる仕組みも欠けている。世界初の先物市場を生んだ堂島では、2011年に米先物が72年ぶりに復活したが、最大の集荷主体であるJAが参加しないまま、2021年に本上場が認められず廃止された。2024年に指数先物として再出発したものの、取引は伸び悩んでいる。担い手の高齢化も深刻で、基幹的農業従事者のうち49歳以下は約1割にとどまり、JAの職員数はその若い中核的農業者の数を上回る。農地の約2割は相続未登記かそのおそれがあり、存続が危ぶまれる集落は2045年に約1万に達すると推計される。食料安保を掲げながら、転作交付金に年約3,000億円を投じて水田を減らし、毎年77万トンの米を輸入する矛盾も続く。

これらを貫くのは、零細な自作農の構造を、減反による価格支持、JAによる集荷と金融、兼業による家計の補填で延命させてきた体系である。社会システムとして見れば、そこには四つの病理がある。価格と需給の情報が生産に戻らないフィードバックの遮断、組織の利益と農家の所得が連動しない誘因の不一致、流通の半分近くが行政から見えていなかった情報の空白、そしてJA、農林族議員、農林水産省がたがいを支え合う閉じた意思決定である。

処方は、誰かを悪者にすることではなく、回路をつなぎ直すことにある。需給と価格の情報を公開し、市場に将来価格を語らせ、所得は供給力を担う人に直接届ける。JAは事業ごとの成果で評価し、農地は使う人に集め、政策の場に消費者や実需者、若い担い手を加える。2026年10月には、流通の実態をつかむ新たな届出の受付が始まり、指数先物は2027年夏の米価を生産費並みの水準と映し出した。回路をつなぎ直す作業は、ようやく入口に立ったにすぎない。米を守るとは、いまの仕組みを守ることではなく、供給力を持続させる仕組みをつくり直すことである。

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