正月と年賀状

正月元日は実業団駅伝、2日・3日は箱根駅伝をお雑煮を食べながら、そしてお酒を飲みながらテレビ観戦する。それを見ている間に年賀状が配達され、駅伝放送が終わってからゆっくりと年賀状を見る。日本の正月に年賀状は欠かせない。

この年賀状の歴史は、郵政研究所付属資料館(逓信総合博物館)平成8年11月15日発行の小冊子「年賀状の歴史と話題」<http://www.post.japanpost.jp/kifu/data/h0811_nenga.pdf>に詳しい。Web上の総合博物館「年賀状博物館」<http://www.nengahaku.jp/>もわかりやすくて良い。

これらによると、年賀状の歴史は平安時代にまでさかのぼることができるらしい。年始を祝う文章が貴族の子弟たちの教科書としても使用されていた『雲州消息』(当時の手紙例文集)に収められているとのこと。ただし、この時代は文字を扱える人が少なく、手紙を配達する手段もなかったため、ごく限られた範囲でしかやりとりがなく、江戸時代に入り、人々の識字率の上昇と飛脚制度の発達により、広く庶民に普及し、そして明治4年に維新政府が郵便事業を開始し、その2年後に年賀はがきが発売されに至って、年賀状を送る習慣が急速に定着していったようである。

改めて、年賀状を書き、そして届けるために必要な構成要因を考えると、年賀状を出す時期を特定する「暦」、年賀状を書くための「紙」、「文字」、「筆記用具」、年賀状を届けるための「宛名」、「配達手段」等々が必要であり、それぞれにおいてそれなりの技術・知識・文化の熟度がないと成立しない総合的な文化であり仕組みと言える。

そして、それぞれの要因が時代・技術の進歩により変遷していくのである。暦は太陰暦から太陽暦に、紙は書状・巻物状からはがきスタイルに、文字は漢文から漢字仮名交じり文に、筆記用具は筆から万年筆/サインペン/筆ペンさらにはパソコン印刷へ、宛名は官職名から住所さらには郵便番号付きへと、配達手段は駅制から飛脚制度、そして郵便制度、さらには電子メール便へと変化してきている。

さらに、すごいのがそのボリュームである。2008年用の年賀はがきの販売枚数は約40億枚で、これは人口一人当たり30枚強となる。日経新聞の記事(2007年12月16日朝刊15面)によると、家族が出す年賀状の合計枚数は次の通り。なお、この調査の方法は、インターネットで全国の20〜59歳までの既婚男女で有効回答は618人(男女半々)とのこと。

【家族の出す年賀状枚数】

出さない 7%

50枚未満 28%

50枚以上〜100枚未満 36%

100枚以上〜200枚未満 22%

200枚以上〜500枚未満 7%

家族が出す個人用/私用とは別途に、会社用/仕事用の年賀状もある。こちらについては、東京新聞の記事(2007年12月17日 C版 8面)によると、その出す形態は次の通り。なお、この調査は、インターネット関連企業の社員20〜50歳代の男女計400人を対象に、ソフトバンク・ヒューマンキャピタル運営の転職サイト「イーキャリアプラス」が実施したものとのこと。

【仕事上の年賀状】

個人作成の年賀はがき 54%

会社作成の年賀はがき 33%

パソコンのメール 9.6%

携帯電話のメール 2.5%

その他 0.8%

仕事上の年賀状に個人作成が過半も存在することは、会社が形式的に虚礼廃止を謳い会社作成の年賀状を出さないというものの、現場はそうもいかないので個人的に作成して出すという実態、あるいは個人のつきあい範囲が結局、仕事上のつきあい範囲とかなりオーバーラップしてるという実態を反映している。もちろん、中小零細企業は会社イコール個人といったところが多く、そういうところは、仕事上の年賀状も当然ながら個人作成が多くなる。

こうした個人作成の年賀状が多くなる背景に、年賀状作成ソフトとプリンターの性能向上と普及がある。技術の進歩がこうした伝統的慣習を支えている。確かに、パソコンでの年賀状作成ソフトがなければ、とてもこれだけの数の年賀状を出すことは難しい。逆に、これだけの需要があるから、デジタルカメラとの普及と相俟って家庭用プリンターが進歩し普及したとも言える。

さて、上記した二つの調査結果から推察するに、私的なつきあい先への個人的な年賀状はおおよそ1家族50枚程度といったところであろうか。確かにわが家の年賀状の送付先をみても、その数字になる。仕事上の個人作成の年賀状はその5倍である。

メールでの年賀状云々の議論が巷間いろいろなされているが、確かにメールでは正月元旦の郵便受けをのぞきに行く楽しみがない。正月は正月らしい通常とは違った伝統的習慣に浸りたいものである。しかし、「IT社会」育ちが主流となる今後に於いて、当然その形態・仕組みが変化するは必定。今年、実際に投函された年賀状の枚数は、3日現在で27億39百万枚余(元日配達枚数20億33百万枚)で前年より1億2千万枚少ないとのこと。時代は変りつつある。