本書の原題は ”Made to stick 〜Why Some Ideas Survive and Others Die〜”である。アイデアを「記憶に焼き付く」よう手助けするために執筆したとのこと。”stick”とは、〔心に〕とどまる、こびり付く、という意味で使われている。
この「記憶に焼き付く」とは、マルコム・グラッドウェルの「The Tipping Point ティッピング・ポイント」(文庫本:急に売れ始めるにはワケがある)で示された社会現象を一気に引き起こす3原則
- 少数者の法則:少数の目利きに浸透すること
- 粘りの要素:記憶に粘る(焼き付く)こと
- 背景の力:背景が味方すること
の中の、第2原則の表現に気づかされ、それを特徴づけるものは明らかにしたのが本書であり、「The Tipping Point」を補完するものであると著者自ら明らかにしている。
アイデアのちから
著者:チップ・ハース
販売元:日経BP社
発売日:2008-11-06
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ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか
著者:マルコム グラッドウェル
販売元:飛鳥新社
発売日:2000-02
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急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則 (SB文庫 ク 2-1)
著者:マルコム・グラッドウェル
販売元:ソフトバンククリエイティブ
発売日:2007-06-23
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本書で提案している「記憶に焼き付くアイデアの6原則」(SUCCESs)は次の通りである。
原則1:単純明快である
- 核となるアイデアを見つけ、その核となる部分を簡潔に伝える。
- 三つ言うのは何も言わないのに等しい。
- 腕利きの庭師の技。
- 明確なコンセプト。創造的比喩 ⇒ 創造的類推。
- 理想は「ことわざ」。ことわざは「智恵の固まり」。
原則2:意外性がある
- 相手の「関心をつかむ」基本はパターン(常識)を破ること。驚きが関心を引き寄せる。
- 「関心を持続させる」には、知識の隙間(=苦痛)をつくりだし、曖昧なままにしておき、好奇心・興味を持たせ続ける。(知識の隙間理論)
- 知識がないときは、穴を埋めて隙間程度になるように知識を与える。
- 「どんな情報を伝えるべきか」から、「どんな疑問を抱かせたいか」に切り替える。
原則3:具体的である
- 理解と記憶を促す。
- 具体的であると目標をわかりやすくし、協調を促す。
- 五感で検証できるものは具体的である。シミュレーション、イベント、展示物、小道具等。
- ことわざの多くは、抽象的な真実を具体的な言葉に置き換えたもの。
- 既存のイメージと関連づける。
原則4:信頼性がある
- 外部からの信頼性:権威者、反権威者。
- 内在的信頼性:細部の利用、統計に実感を湧かせる、事例
- 統計は判断材料のインプットとして用いるのは良いが、アウトプットとしては用いない。
- 検証可能な信頼性:相手に検証してもらう。
原則5:感情に訴える
- 抽象概念よりも、個人。
- 行動を起こさせるには感情を掻き立て心にかけてもらう。
- そのためには、関連づけ、自己利益に訴える、アイデンティティに訴える
- 自己利益を受ける本人を主語にする。
- 商品の特徴ではなく、消費者へのメリットを訴える/実感させる。
- 自己利益はマズローの欲求段階の底辺部だけではない。自己利益の訴求はフラットかつ重畳的。
原則6:物語性がある
- (予防的)シミュレーション物語と励まし物語。記憶のマジックテープ理論と同じ。
- 人を励ます物語の3つの筋書き:挑戦、絆、創造性
- 頭の中で練習しただけで、体を動かす練習の2/3の効果が得られる。
そして、これを妨げるのが「知の呪縛」であると指摘する。「知の呪縛」とは、「いったん何かを知ってしまったら、それを知らない状態がどんなものか、うまく創造できなくなり、自分の知識を他人と共有するのが難しくなる」ことを意味する。役立たずの正確さは「知の呪縛」の症状の一つ。この「知の呪縛」を打破するには、何も学ばないか、自分のアイデアをつくり変えるしかない。このアイデアをつくり変える最強の武器が上記の6原則というわけである。
筆者が明らかにした6原則は全て腑に落ちる。そして、「知の呪縛」もよく分かる。しかし、単純明快に本質を外さず余分なものをそぎ落とすことがいかに難しいか。しかし、本書を読んで、「正確さ」よりも「記憶に焼き付くメッセージ」の大切さがよく分かった。
これからは、知の呪縛に捕らわれることなく、記憶に焼き付くアイデアを世に問いたい。