書評 「キュレーションの時代」と「自己承認力」

ビジネスネット書店「クリエイジ」が発行しているメルマガ書評に寄稿した2冊の本の書評が本日(2011/07/25)配信されたので本ブログでも紹介する。

メルマガ「クリエイジ」第361号 2011年7月25日 目次 1.ビジネス書「キュレーションの時代」書評 2.人生で感銘を受けた本「自己承認力」 [編集後記] 1.ビジネス書「キュレーションの時代」書評 芝原靖典 ○「キュレーションの時代-「つながり」の情報革命が始まる」ちくま新書 887 佐々木 俊尚著 2011年2月 筑摩書房 新書判 311頁 価格:945円(税込) WEB技術・プラットフォームの進化により、SNS(Social Networking Service)が一気に世界を覆っている。デバイス側のSmartPhoneの普及がそれに拍車をかけている。マスメディアに対して、ソーシャルメディアとも呼ばれている。中東における一連の政変がFacebook革命あるいはTwitter革命と言われるほど、その社会的影響力も増している。従来とは、情報の発信・流通形態が明らかに変わってきている。本当の意味で「情報革命」が起きつつあるのだ。 本書は、こうした時代の流れを社会学論的に捉えたものと言える。本書のタイトルにある「キュレーション」とは、一般的には聞き慣れない言葉であるが、著者によれば「無数の情報の中から、自分の価値観や世界観に基づいて情報を拾い上げ、そこに新たな意味を与え、そして多くの人と共有すること」とある。「多くの人と共有すること」すなわち「つながり」ということである。 本書は、様々な概念、事象・話題が取り上げられているため、焦点が定まらない感がしないでもないが、著者が言いたいことは以下のように要約できる。 まず、「つながり」の素として、著者は「ビオトープ」という概念を取り上げている。ビオトープとは、元々は自然の状態で多様な動植物が生息する環境の最小単位のことで、地球上の生態系(エコシステム)を保持して行く上で欠くことの出来ない構成ユニット単位を意味するドイツ語の造語(BIO-TOPE)である。 この概念を著者は、「情報を求める人が存在している場所=小さな情報圏域」として援用している。この小さな無数のビオトープがインターネット(特にソーシャルメディア)のおかげで、グローバルレベルで存在を認知され、有機的につながることが可能となり、そのつながりの流れが一大情報流を起こし、消費の流れを起こし、時代の流れをつくっていくという。 このことは、別の表現をすれば、マスメディアを通じたコミュニケーションではなく、ソーシャルメディアを通じたビオトープ間のつながり(ダイレクトコミュニケーション)の時代に入ったということである。これは、WEB2.0的思考そのものである。 著者はさらに、最近、このビオトープへの案内役として、「視座(パースペクティブ)を提供するキュレーター」の存在と、そのキュレーターへの「チェックイン」と称する機能の重要性を取り上げている。 インターネット上を流れる膨大な情報の真贋を見極めることは事実上不可能であり、情報の信頼度は、情報提供者の信頼性に頼るしかない。情報提供者の信頼性はネット上に流れている過去情報(アーカイブ)で判断できるため、「人を視座とする情報流通がいまや圧倒的な有用性を持つ」という状況になってきていると著者は指摘する。 この視座を提供する人が、「キュレーター」であり、「情報のノイズの海の中から、特定のコンテキストを付与することによって新たな情報を生み出す存在」である。そして、このキュレーターが行う「視座の提供」が「キュレーション」である。いまや、「一次情報(コンテンツ)を発信することよりも、情報をフィルタリングするキュレーションの価値が高まっている」ということである。 なお、著者が「インターネットの新たなパラダイムとなりうるのではないか」とまで言っている「チェックイン」とは、情報社会におけるインターネット上に記録された自己の生活活動履歴(ライフログ)の共有(=公開)を了解することと、自己の立ち位置を自分自身で選択する(自主性)という二つの意味あいを含むものとして定義されている。 今回の東日本大震災時の特徴として、情報支援を主目的とした沢山のサイトが立ち上げられたことがあげられる。16年前の阪神・淡路大震災時とは様変わりである。そうしたなかで、目につくのが、震災に関するリアルタイム情報サイト、膨大な情報を収集・選択(フィルタリング)したサイト、そして被災者側(欲しい物)と支援者側(提供できるもの)の情報のマッチングサイト等である。こうした情報流通を可能とするインターネット環境、WEB技術の進歩に改めて感心する。 こうした動きを適切に説明する言葉として「キュレーション」はまさにハマる。評者自身も「復興日本」http://www.fukko-nippon.jp/という責任編集体制による情報支援サイトを立ち上げたが、これが著者の言うところのキュレーションそのものだと得心し、本書を紹介した次第である。 2.人生で感銘を受けた本「自己承認力」 芝原靖典 ○「自己承認力-人生を1000倍楽しくする思考法」 高山 綾子著 2011年4月 バックステージカンパニー A5判 171頁 価格:1,575円(税込) ある会合で、高山綾子氏の「自己承認力」という本を教えていただいた。著者のプロフィールhttp://www.h-polish.com/profile/を見ると、「心理カウンセラー。高級クラブのNo1ホステス、生命保険会社での営業トップのセールス実績をあげた後、カウンセラーへ転身。厳格過ぎる両親から受けた幼少期の影響や、20代に4度の手術で乗り越えたガンの経験を元に、自分を認めてポジティブに生きる力、「自己承認力」を独自のカウンセリングメソッドとして説く。 長所を自覚することでビジネスと人生を成功に導く方法を講演会やビジネスセミナーで紹介。二児の母。」とある。 最初は、「自己承認力」という言葉の意味がわからなかったが、心理学の分野ではもともと「自己承認」という用語があり、著者が「自分を承認する力」として「自己承認力」と名付けたとある。「自己承認力が低い人はコンプレックの塊、全てにおいてマイナス思考になりがちであり、自己承認力が高くなれば他人へのひがみや妬みがなくなる」とのこと。 この自己承認力を高めるには、「自分自身の心の健康」を保つことが不可欠であり、それができてこそ、他人もまた認めることが出来る。そうしたお互いのいいところ、存在を認め合うような状態をつくり出すことが、「自分の人生を1000倍楽しくする」ことにつながるという本書のタイトルに行き着く。 自己承認力を身につけ高めるには、「自分を信じ」、「行動の質を高めながらやり続けるしかない」が、実際に「行動するには、マイナス感情(怒り、不安、嫌い、心配、焦り、無気力、・・・)を除去しないと動けない」と著者は指摘している。 マイナス感情を退け、プラス感情を自己および相手に持つには、「自分あるいは相手の成功体験、重きを置いていることを語る」ことや、「あなた(You)が主語ではなく、私(I)が主語で伝える」ことで「人間関係がよくなる」という。これは「共感力」である。 マイナスの意見をもつ人に対して「同意」「同感」はできなくても、相手の意見を受けとめ、「価値観は違っても共感はできる」という指摘はいい言葉であり、納得である。現在の日本には、共感を持って建設的に議論して欲しい世界があちこちにある。 著者は、行動の質を高めつつ行動するためには「解決策を書き出し、自分がやれることを行動レベルで知る」ことの大切や、「どうしようもなくなったら、とりあえず行動する。とにかく行動しないと始まらない」といい、そのひとつのツールとして「できたLIST」を提唱している。確かに、できなかったというストレスをひきずるToDoLISTで終わらず、達成感を味わい自分を褒めるための確認ツールとして「できたLIST」の発想は面白い。スケジュール表の今日以降の記載は「ToDoLIST」、今日以前は「できたLIST」と意識してスケジュール表を使えばそれほど無理しなくても着実に実行出来る。 有森裕子選手がアトランタ五輪(平成4年)で銅メダルをとったときのインタビューで「自分で自分をほめたい」と言ったのを聞いたときは、なんとなく違和感を覚えたが、本書を読んで、これは彼女自身がこうしたポジティブなメンタルトレーニングをしていたのではと、腑に落ちた次第である。 本書を通じて、人はだれでも「自己の存在を承認される喜び」や「人に認められて伸びる」ものであり、特に、自分のことを一番良く知っている自分に褒めてもらう「自分を褒める」ことの重要性を改めて教えられた。心の病が巷にあふれる昨今、心に滲みる本である。