日本の社会・経済構造はいま、大きく変わろうとしている。例えば、
?日本の戦後社会の発展を支えてきたいわゆる「団塊の世代」が定年退職の時期を迎え、社会のリーディング世代が切り替わろうとしている。
?携帯電話をポータルとしてインターネットで遊びながら育った世代が中心となって、これまでのリアル社会育ちの世代が中心であった社会とは明らかに異なるIT社会を現出しつつある。
?戦後以来増加を続けてきた日本の総人口が2004年を境に減少に転じ、人口減少・少子高齢化社会が現実の形として見え始めてきた。世帯構造も、今後は単独世帯が主流となり、21世紀末には日本人口の半減が予想されている。
?地球環境問題が経済活動や生活様式の具体的な制約として顕在化してきている。自然生態の再生サイクルに合った生産(採取mining/伐採fellingを含む)・消費・廃棄(Recycle、Reuse、Reduceを含む)を考えた持続可能性sustainabilityが問われている。
?ブロードバンド・インターネットの低廉な普及は、不特定多数の個人や組織(企業、団体等)との接点(コミュニケーション)コストがほぼゼロとなる状況を招来し、「個」と「全体(社会・組織等)」との関係を大きく変えつつある。
?Googleに代表されるように、従来型の企業スタイル、ビジネスモデルでは対応できない「ロングテール市場」に対して革新的な仕組み・技術により、一気に新市場・新業態を作り出せる社会が現実化しつつある。
組織形態についても、法改正が進み多様な形態が可能になってきている。例えば、
?特定非営利活動促進法[通称NPO法](1998年12月施行)および特定非営利活動促進法の一部を改正する法律(2003年5月施行)により、特定非営利活動(現在、17分野)を行う団体が容易に法人格を取得できるようになった。
?「有限責任事業組合契約に関する法律」(2005年8月施行)」により、専門技術やノウハウをもった人的資源と企業が力を合わせて新たな事業に取り組み易くなるいわゆる日本版LLP(Limited Liability Partnership )の設立が可能となった。
?「会社法」(2006年5月施行)により、従来に比べ、柔軟な機関設計、スピーディな機関決定等が可能な新「株式会社」(従来の有限会社形態を吸収)、米国の有限責任会社LLC(Limited Liability Company )をモデルとした出資者と経営者が一致した人的資産重視型の企業組織である「合同会社」(新設)が可能となった。
?公益法人制度改革関連三法(2006年6月公布、2008年12月までに施行)により、現行公益法人は一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人、公益財団法人へ移行する。(三法の一つである整備法により、NPO法も一部改正されます)
一方で、「個人」の生き様にも変化が生じつつある。例えば、
?定年後、あるいは定年をまたずに、自分のキャリア、ノウハウ・スキルを活かし、起業あるいはNPOを設立する人が増えている。
?環境・福祉・医療・教育・安全といった分野において、行政に依存するのではなく、自ら社会的意義のある商品やサービスを生み出し、ビジネスとして起業するいわゆる「社会的起業家」として取り組む人が増えている。
?学生を含め若年層の起業指向が高まっている。
?一つの組織に所属するだけでは自分の価値観を満たせない、あるいはやりたいことが十分できないため、複数の組織で柔軟に働きたいと思う人が増えている。
?組織(の論理)に自分の人生を左右されることなく、個人(及び家族)としての人生の目的・夢を重視して生きたい、自分の人生を豊かに過ごしたいと思う人が増えている。
大変革時代にふさわしい仕組みづくりが要請されている。
時代/社会の流れとして明らかに、個人の生き様、個人と全体(社会、組織)の関係性 に“パラダイムシフト”が起きつつあり、新たな発想による社会や組織、あるいは事業の枠組み・仕組みの創発が求められている。まさに、大変革時代に突入している。
[補]パラダイムとは、アメリカの科学史家クーンが科学理論の歴史的発展を分析するために導入した概念で、ある一時代あるいは共同体の人々のモノの見方・考え方を基本的に規定している概念的枠組み、価値観、世界観、理論、知識を意味する。日本では、規範、基準、範型と訳されることが多い。
新たな発想による仕組みの創発(仕組みづくり)には、多様な分野における豊富な経験を有し、事の本質を見抜く力や先を見通す歴史観や洞察力、そして関係要素を柔軟に組み立て推進する力、さらには関連法制度の解釈・運用力、あるいは制度設計力等が必要となる。そのためには、仕組みづくりの経験・能力を有するプロフェッショナルな個人あるいは集団がコラボレーションして初めて可能となる。
従来、こうしたことは政・官主導の土俵の上でなされてきたが、それは社会的合意形成に基づく法的効力を有する公的な「デジュール」型の仕組みづくりである。しかし、大変革時代において求められているのは、そうした社会的合意としてのデジュール型仕組みではなく、それに先立つ民主導の土俵の上での自発的かつ創造的な「デファクト」型の仕組みづくりの勃興と競争である。このようなデファクト型の仕組みづくりの大競争が起きてこそ、大変革時代を乗り越えるダイナミズムが生まれる。その結果として、デジュール型仕組みの高度化・進化も進む。
然るに、政・官、特に官(いわゆる霞ヶ関)はその組織自体が仕組みづくりのプラットフォートして設計され存続しているが、民・学にはそうした仕組みづくりのプラットフォームが存在しない。大変革時代にふさわしい民・学によるデファクト型仕組みづくりのプラットフォームが求められているのである。