止まらない不正 失われた30年との重なり

本ブログにおいて、過去、幾度となく、メーカーの品質不正・検査不正・会計不正を取り上げてきたが、その後もメーカーでの不正問題が続発している。

 

三菱電機の不正

三菱電機の一連の不正は、その広がりと不正の期間の長さから見て、製作所それぞれの組織風土であり、根は深い。ガバナンスが効かない当該製作所上がりの幹部ではその病根・連鎖の一掃は難しい。全社的視野に立った経営ガバナンスの「仕組み」と「外部の『知』の取り込み」が必要ではなかろうか。

三菱電機の品質不正が3倍増の148件に、調査完了も2022年秋まで延期 2022年05月26日 06時30分 公開 MONOist
調査報告書の第3報では、国内にある同社の22製作所のうち15製作所で新たに101件の品質不適切行為が確認された。2021年10月1日の第1報では2製作所/18件、2021年12月23日の第2報では5製作所/29件が報告されている。
第3報までの調査では、8製作所で調査が完了し、14製作所では現在も調査が継続中。
これまでに判明した148件の品質不適切行為のうち、15件で管理職の関与が認められており、66件は意図的に行われたという調査結果になっている。
品質不正に関する調査は完了していないものの、2021年10月に発表した「品質風土」「組織風土」「ガバナンス」から成る3つの改革は着実に進めていく方針である。

墜ちたダイヤ~三菱電機 不正の構図(上) 不正報告「言ったもん負け」の組織風土 2022.05.26 ひょうご経済+
外部の弁護士らでつくる調査委員会が3回目の報告を行った。
報告書で、神戸や姫路、三田、尼崎など兵庫県関連の7拠点・74件、全国で計15拠点・101件の不正が新たに判明。
姫路製作所(姫路市):不正状態の是正を現場が求めても、上司は「自分で解決するように」と責任を押しつけてくるだけ。それなら言わない方がいい。「言ったもん負け」。調査委は、三菱電機の組織風土をこう表現した。
三田製作所(三田市):立場の強い自動車メーカーからかかるプレッシャー。それを受け止める仕組みが社内になく、「見て見ぬふり」をする風土が広がっていった。

墜ちたダイヤ~三菱電機 不正の構図(下) 管理職が不正を指示「生活がかかっている」 2022.05.28 ひょうご経済+
「工場や製造ラインの採算性の向上、維持のため。悪いとは思っていない」調査委員会の木目田裕弁護士は、不正に携わった社員らの意識をこう表現した。
変電システム製作所赤穂工場(兵庫県赤穂市)。少なくとも1980年代初めから品質不正が行われてきた。
木目田弁護士は「不正を行うのが当たり前のようになり、惰性のようなもので続けていた」
三菱電機が特異なのは、不正が全国22拠点のうち16拠点と全体の7割を超え、他の企業よりも広がりが大きい点だ。
一連の不正の共通点は、他の部門との人事交流が少ない環境で起きたことだ。扱う製品は企業向けで、一般消費者と向き合う必要もなかった。

日野自動車の不正

日野自動車は、排ガスや燃費の検査不正による基準性能を満たさないエンジンを自社だけでなく、トヨタ自動車いすゞ自動車にも供給していた。国土交通省は、装置型式や共通構造部型式の指定取り消しや燃費評価を取り消した。その原因解明と公開はなされていない。社内論理優先で、顧客第一主義ではなかったようである。

自動車製作者に対する行政処分を行いました 令和4年3月29日 国土交通省
国交省、日野自動車に最も重い処分…不正エンジンで型式指定取り消し[新聞ウォッチ]2022年3月30日(水)08時57分 Response 
国土交通省日野自動車のエンジン試験データ不正問題で、道路運送車両法に基づき、対象のエンジンに関する型式指定を取り消す行政処分を出した。
1951年の同法施行以来、最も重い取り消し処分が実施されるのは初めてだそうで、対象エンジンを搭載した車の販売が事実上、不可能になるという。
日野自動車は、型式指定の取り消しを受けて、2022年3月期の連結最終損益が540億円の赤字(前期は74億円の赤字)になる見通しを公表した。リコール(回収・無償修理)関連費用を計上するためで、22年3月期の最終損益はこれまで150億円の黒字を見込んでいたが、一転して赤字に転落するという。
日野といえば、トヨタグループの中核企業で、過去にも類を見ない経営危機に対して50.1%を出資するトヨタ自動車の今後の対応が注目される。

日野の小型エンジンも不正が確定、中型エンジンは4万7000台のリコールに 2022年03月28日 07時30分 公開 MONOist
不正に至った背景については今後詳しい調査を実施するとしているが、数値目標の達成やスケジュール厳守への現場のプレッシャーに対応してこなかったことが原因とみている。
今回発表した一連の不正行為は、2020年末に公表した北米向けエンジンの認証試験の問題をきっかけとする社内調査によって明らかになった(米国での調査は現在も継続。米国での認証手続きに社内から疑問の声が上がったのは2018年11月だった)。
外部の弁護士とともに米国での認証試験に対する社内の課題を調査する中で、日本向けエンジンにも調査対象を拡大。2021年4月からエンジン性能の再試験を開始した。こうした調査の結果、認証プロセス上の不正行為や、エンジン性能に問題があることが発覚したという。

日野でエンジン認証に不正、耐久試験中のマフラー交換や燃費測定装置の校正値変更 2022年03月07日 06時30分 公開  MONOist

その他の不正

それ以外にも、下記のような不正が発覚している。いずれも、企業風土・文化に原因があると見られる。

日本製鋼所子会社が発電機用部材で検査不正、製品部門が検査結果の書き換え指示
品質不正問題 2022年05月10日 06時30分 公開 MONOist

日本製鋼所は2022年5月9日、同社子会社の日本製鋼所M&E(以下、M&E)が製造するタービン、発電機用ローターシャフト、発電機用リテーニングリングの検査の一部で不適切行為があったことを発表した。内部通報からの抜き打ち調査で判明したもので、遅くとも1998年から検査における不正が繰り返し継続的に実施されていたという。
日本製鋼所は検査不正の原因について「製品部門が検査結果の逸脱による納期遅延を防ぐために、過去の実績や経験などに基づき品質に影響しないと個別に判断したものについて、検査部門に対し検査結果の書き換えを指示していた」(ニュースリリースより抜粋)としている。また、検査部門についても、文書などによる指示を様式化することで製品部門の指示にそのまま従うなど、本来の職務分掌やけん制機能が失われていた。これらの要因が複合的に絡み合ったことが、今回の検査不正の主な原因になったとしている。

東レ、米認証不正で調査報告 80年代後半から不正行為 2022年4月12日 17:57 (2022年4月12日 18:58更新) 日本経済新聞
東レは12日、樹脂製品の一部が米国の第三者認証を不正に取得していた問題について、弁護士による有識者調査委員会の報告書を公表した。報告書は不正について「遅くとも1980年代後半には発生し、その後も長期間にわたり組織的に行われていた」と指摘した。
報告書では不正行為の背景に「競合他社も同様の不適正行為を行っているという認識や、コスト削減や物性維持により受注を獲得・維持する必要があるということを理由にUL(米国の第三者機関 アンダーライターズ・ラボラトリーズ)問題の開始、継続を誤って正当化していたものと考えられる」とした。
不正行為が長期間にわたったことは「樹脂技術関連部署内においてのみ人事異動が行われ、樹脂技術関連部署に閉鎖的な組織風土が形成されていた」ことが「問題が是正されることなく今日まで継続した原因の1つだ」としている。

【詳しく】製薬会社の行政処分相次ぐ メーカーに何が? 2022年2月17日 18時19分 NHK
一連の問題の発端となったのは、おととし2020年12月に発覚した福井県ジェネリック後発医薬品メーカー「小林化工」が製造した水虫などの真菌症の治療薬に睡眠導入剤の成分が混入した不祥事でした。
多くの医薬品で国が承認していない工程での製造や品質試験を行わずに結果をねつ造するなどの違反が行われていたうえ、県の査察に備えて「二重帳簿」を作成するなど不正の発覚を防ぐための組織的な隠蔽まで行っていました。
小林化工は福井県から過去最長となる116日間の業務停止命令と業務改善命令の処分を受けました。
当時の社長は処分後の会見で、そうした違法行為を15年以上前から認識しながら黙認していたことを明らかにしています。
国内ジェネリック大手3社のうちの1つ「日医工」は品質試験で不適合となった錠剤を砕いて再び加工したり、出荷前の一部の試験を行わないなど、やはり国が承認した工程とは異なる製造を10年以上前から続けていたとして処分されました。
小林化工と日医工への処分の後も、各地の製薬メーカーに行政処分が相次いで出されています。
いずれのメーカーも違反の一部は10年以上前から行われていたということです。
処分が相次いでいるのは、「性善説」に立った査察から「不正を行っているかもしれない」との前提に立った「抜き打ち」の査察中心に切り替えて強化を図ったのです。
去年10月に発表した検証結果では、「小林化工」や「日医工」の問題が起きた要因の1つとして「不健全な企業文化」があったとして次のように指摘しています。
「上位者の指示は絶対であって下からの問題提起が許されない風土」
「経営者は従業員を管理の対象としか考えておらず、育成の対象と考えていなかった」

おわりに

いずれの事例においても、経営者と監督する行政側双方に認識の甘さがあるのではなかろうか。不正の期間が失われた30年と重なる。失われた30年の原因なのか、結果なのか。企業風土・企業文化は企業の創業理念、企業としての社会的存在価値の上に立脚するものであり、不正等を育む風土・文化とは異なる。日本品質が世界のブランドとしての誇りであったこと思い起こし、メーカーとしての矜持を取り戻して欲しいものである。