制震・免震偽装事件 何故、性能不正が止まらないのか

地震大国日本に不可欠な耐震(耐震、制震、免震)に関する性能不正が止まらない。何故、過去の失敗に学ばず、不正発覚後の対応コストや社会的影響を顧みず、こうした不正が繰り返されるのだろうか。

 姉歯 構造計算書偽造事件(2015年)

耐震基準、建築基準、大臣認定基準等をいくら改定しても、その根幹をなす「耐震強度構造計算」が偽装されたり、その不正申請を見抜けない建築確認審査の仕組みでは、耐震に係る基本的なスキームが崩れる。

構造計算書偽造問題、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
失敗事例:耐震強度偽装発覚、失敗知識データベース 失敗学会、

東洋ゴム 免震ゴム偽装事件(2015年)

耐震性能を高める免震機材(免震ゴム)の大臣認定取得時や出荷時の性能データ改ざんは、そもそも市場に出せるだけの製品に仕上がっていないことであり、免震機材を供給するメーカーとして許されない。2015年12月期からの特別損失は累計で1400億円超。

この免震ゴムの性能データ不正前にも、このメーカーは防火用断熱パネルの不燃性能試験での不正を行っており、免震ゴム不正後も、防振ゴムのデータ改ざんを行っている。傍流事業が故のリスクマネジメント、ガバナンスの形骸化がその背景にあるとされるが、一連の不正を見る限り、企業組織の文化の問題とも云える。

旭化成等 杭データ改ざん事件(2015年)

パークシティLaLa横浜の傾斜問題から発覚し、同業他社にも杭打ちデータ不正の発覚が波及。そもそもの発端となった事案は、元請(三井住友建設)- 一次下請(日立ハイテクノロジーズ)- 二次下請け(旭化成)- 三次下請(2社)という多層下請構造であったが、それぞれが機能していない。そうした構造的な問題に加えて、ここでも建築確認検査の仕組みに齟齬がみられる。
杭データ改ざん事件151209-4、2015年12月9日 

カヤバ 免震・制振装置の検査データ改ざん事件(2018年)

世界有数の油圧機器メーカーのカヤバグループが大臣認定に不適合な製品出荷をするために検査データを改ざんしていたことは、ビル用の大型の免震・制震装置の性能調整の難しさを物語っており、同業他社にも同様な不正が心配される。

早速、㈱川金ホールディングスの連結子会社の光陽精機㈱が製造し、㈱川金コアテックが販売していた免震・制振装置の検査データ改ざんが公表された。2005年の初出荷から性能偽装が見つかったとの。

川金ホールディングスグループ国内取引状況」調査、東京商工リサーチ、2018.10.24

一般住宅用と異なり、ビル用の制震・免震装置は大型であり、その取替には相当のコストを要する。KYBは「すべての製品を交換する方針」とのことであるが、子会社のカヤバシステムマシナリー(東京・港)の生産能力は月産100本程度で、「当面は新規受注を取りやめ、2019年には生産量を現在の5倍の500本にして、2020年9月の交換工事の完了を目指す」と云うことで、当面、この事業による新規収益が見込めないどころか、主流の事業からの収益もすべてこの処理に投じられることになるものと思われる。企業としての信用も失墜する。

何故、不正が繰り返されるのか。仕組みの変革を

地震大国日本において、耐震化は大きな課題であり、耐震強度アップのための耐震(剛性耐震、制震、免震)のための対策が急がれている。そして、最近の同一地域での繰り返し地震に対応するためには、制震・免震機能が不可欠であり、その重要性が現実問題として認識され始めたところである。

こうした時期に、制震(オイルダンパー)、免震(免震ゴム)のリーディング的メーカーでこうした不正が繰り返えされるのは、何故か。郷原信郎氏は「組織の利益のために、組織の中で長期間にわたって恒常化し、何らかの広がりをもっている行為で、通常のコンプライアンス対応による発見が困難であり、組織内での自主的な自浄作用を働かせることが難しい行為」を「カビ型問題行為」として指摘している。

日産、神戸製鋼、相次ぐ不祥事が示す「カビ型」行為の恐ろしさ、郷原信郎が斬る、2017年10月10日

最近のその他の分野における性能データ不正行為(神戸製鋼三菱電線工業等の素材性能の不正等)を含めてそこに通底しているのは、納期対応、利益優先(コスト縮減)と云う短期的視野での判断が優先されすぎていると云うことである。

大臣認定等の指定を取るためのデータ不正は詐欺であり、そもそも商行為とは言えない。納期を守るため、コストがかかるため等を理由に約束した品質性能を満たさず出荷するのも詐欺である。

納期云々は実行可能なスケジューリングを前提にした協議の結果なのか、コスト云々は手戻りのない生産・品質管理の仕組みとなっていたのか、現場当事者にのみ押し付けるのではなく、不正がなされれば即、職を辞する覚悟で経営層がコミットすべきである。

組織が決めたことだからではなく、個々の当事者として、コンプライアンスを意識し、社会的影響を自覚し、規模の大小を問わず、胸を張れる仕事をして欲しいものだ。仕事の仕方、働き方の改革とはそういうものではなかろうか。