まちづくりの観点からの流域圏の見直し

流域圏の治水計画の見直し

最近、線状降水帯の長時間停滞による「集中豪雨」や、散在する降水域による「局地的大雨(ゲリラ豪雨)」による大雨が全国的に発生している。特に、線状降雨帯による集中豪雨はこれまでの河川計画で想定していた計画高水位を遙かに超える時間雨量を長時間にわたってもたらし、大きな土砂災害や洪水氾濫被害を惹起している。

集中豪雨・局地的大雨(ゲリラ豪雨)はなぜ発生するのか、気象庁、国土交通 2010.8-2010.9

治水計画の前提と対策を見直す必要があるが、対策のすべてをダム・堤防というハードに頼るかどうかは、里山から海に至る川の流域圏全体としてのあり方(すなわち、まちづくり)から再考する必要がある。

 

流域圏のとらえ方の問い直し

かって、第三次全国総合計画や第5次全国総合開発計画においても「流域圏」が取り上げられてはいたが、国土管理的概念であり、実効性はなかった。流域圏は分水界に囲まれた河川の集水域という自然地理学的な概念であり、深山・里山下流域のみんなが守り利用するという仕組み・生活形態・文化があった。

しかし、広域幹線交通路(鉄道、道路)が流域圏を分断し、川沿いよりも交通路沿いにまちづくりの中心が移ったために、流域圏を忘れたまちづくりがなされてきた。しかし、近年の大地震や今後予想されている大地震による幹線交通路の分断が予想されることや、昨今の洪水氾濫・土砂災害の状況を見ていると、改めて、流域圏としてのまちづくり・土地利用のあり方が問われていると思わざるを得ない。

報告 自然共生型流域圏の構築を基軸とした国土形成に向けて ―都市・地域環境の再生―、日本学術会議 土木工学・建築学委員会 国土と環境分科会、平成20年(2008年)7月24日

流域圏とまちづくり

特に、人里に近い里山に人の手が入らないことが里山の荒廃をもたらし、耐水・保水機能を弱め、土砂災害のリスクを高める。さらに、人の手が入らないことはイノシシ等の生育域の拡大に繋がり、中山間地域の農林地の鳥獣被害を拡大させている。しかし、里山を守るべきまち場との接点は薄れ、林家は小規模・高齢者が多く、なすすべもなく今に至っているというのが、今の日本の里山の現状である。

平成24年度 森林・林業白書 第1部 第V章 第1節 林業の動向(2)、林野庁
しかし、最近、これまでの常識とされてきた委託・請負型の林業事業体による林業ではなく、自伐(じばつ)型林業が注目を浴びている。小規模に持続的に再造林するサイクルによる自伐型林業は高齢の林家でも低コストで可能であり、収入を得られる業として成り立つとのこと。
いずれにしても、最近つくづくく思うのは、地方創生をめざすまちづくりは「まち場」だけで考えるのではなく、「里山」及び「中山間地域」から考え、その空間・産出物(間伐材等)をまち場さらには漁場へとつなげる流域圏のエコサイクルがこれからのまちづくりには求められているのではないか、ということである。

里山の再生・利用は地場の人だけでなく、大都市部の企業の参画も可能である。その先進事例となる「京都モデルフォレスト運動」は10年を経過し着実な成果を上げているとのこと。良いアイデアは新しい人や企業を呼び込み力となる。地域にあった里山再生・利用のアイデアを競い合う時代が来ているのではなかろうか。

 

改めて、地域にあった形で流域圏・里山を見直し、みんなで保全・育成し、そしてみんなで利用する仕組みを創発し、その実現に向けて棹さしたいものである。