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イノベーションの起し方・環境づくりのイノベーション ~知のバーチャルプラットフォーム~

Business Model 提言 時評

日本の長期的な経済・産業の低迷を背景に、「イノベーション」の必要性が謳われ久しい。その大きな一つの手法として、産学連携が取り上げられ、文科省経産省主導のもとに関連施策が推進されてきた。しかし、大学にとっての共同研究による外部資金の獲得手法としての位置づけがメインとなり、本来の目的であるイノベーションの持続的な励起・勃興にまでは至っていない。

こうした現状と課題については、下記を参照されたい。

「イノベーションによる再生と成長のために」統合版、2012年(平成24年)5月14日、産業競争力懇談会(COCN)

1.危機を直視し、「課題先進国」から「課題解決先進国」へ 我国は、数多くの極めて深刻な国家的課題に直面している。 資源・エネルギー・食糧の制約、地球温暖化への対応、グローバル競争の激化、高齢化の進展、財政再建といった、それぞれが単独でも解決の困難な課題を複合的に抱えるだけでなく、震災からの復興・再生という大きな課題が眼前に立ちはだかっている。また産業界では、六重苦(為替、自由貿易協定、法人税制、労働規制、環境規制、電力不足)も成長や投資の足かせとなって我が国の「立地競争力」を損ねている。 現在の我が国が抱える課題は未来の世界が抱える課題であり、それを先行して解決し、世界を牽引するイノベーションのモデルを目指す、との、今や楽観的にすら見える認識が官民において広く共有されるようになって久しい。しかしながら、解決に向けた動きは鈍く、社会には閉塞感が漂い、「課題解決先進国」への道を歩んでいるとの実感はない。我が国は未だ「課題先進国」に沈んだままである。 特に憂慮すべきは、いわゆる失われた20年が、実体経済のみならず、人々の気持ちから成長への期待や夢すらを奪ってきたことであり、今こそ我が国の存亡を賭けて「新産業・新市場の創出」、そして「再生と成長のために」官民が総力を挙げ、議論ではなく実行に取り組まなければならない。

補:COCNは上記提言を、平成25年1月29日付で改めて「イノベーションによる新産業・新市場の創出 ~再生と成長のための課題と提言~」として取りまとめている。

 

ホンダ イノベーション魂の小林氏に聞く「第1回:忍び寄るイノベーションの危機」、2012/07/02、Tech-On!

――今、商品や技術の開発の現場で何が起こっているのか。 会社という組織は利益を上げた人を評価するので、短期間で利益を上げられるオペレーション出身者が役員の大半を占めている。すると、成功率100%が判断基準になるので、成功率10%以下のイノベーション分野の技術開発は「効率が悪いからやめろ」と判断されて中止になる。日本企業全体で収支に余裕がなくなっているので、真っ先に切られてしまうのだ。 オペレーションとイノベーションは本質的には別物だが、オペレーションの中にイノベーション的な要素もあり、イノベーションの中にもオペレーション的な要素がある。そのため、オペレーション出身の役員は、イノベーションを十分理解していると思い込んでいるケースが多い。 その結果、「効率が悪いからやめる」という自分の判断が正しいと確信して開発中止を言いわたすのである。イノベーションに取り組む技術者はこうした状況を理解しておいた方がよい。そして、イノベーションとオペレーションでは成功率が大きく違い、アプローチも全く異なることを、反対する人たちに気付かせなければならない。 業績が悪化したときに、イノベーションに投入する経営資源を3%くらいに下げるのは仕方ない。しかし、ゼロにしては絶対にいけない。1度イノベーショが途絶えると復活させることはとても難しいからだ。しかし今、多くの企業を見ていると、イノベーションに投入している経営資源はほとんどゼロに等しい。これでは画期的な製品は生まれない。

 

「産学官連携によるイノベーション・エコシステムの推進について」平成24 年12 月10 日、科学技術・学術審議会、産業連携・地域支援部会 産学官連携推進委員会

1. はじめに:現状認識 我が国においては、産学官連携を推進し始めてから約 30 年が経過し、この間に産学官連携活動は量的に大きく拡大した。 ・・・ 翻って我が国においては、小規模な産学共同研究が大半である上、その成果を大きな社会的インパクトや新たな市場を創出するイノベーションにつなげるエコシステムが構築できていない。また、中長期的な視点から、産学官に金融機関を加えた、立場の異なる関係者が出口戦略を共有しながら実用化まで連携する仕組みがない。これに加えて、前述の米国のイノベーション・エコシステムの柱となっていると考えられる大学院生の実質的参加も、我が国としても更に奨励するシステムの強化改革が必要と考えられる。これまでの地道な産学官連携の取組を継続・発展させることで、地域産業レベルでの実用化事例を積み重ねることは重要であるが、このままでは革新的イノベーションには到達しにくい状況にあり、このような現状からの打破が必要である。

 

本ブログにおいても、過去二度ほどイノベーションについて述べた。

イノベーションは可能か  ~シニア専門家の存在価値~ 2012-05-19 (土) イノベーションについて想ふ 2010-07-06 (火)

ここで改めて、「イノベーション」について考える。

イノベーションとは、グローバルレベルで人々の思考・行動に影響を与え、結果として、市場・産業・経済に影響を及ぼす社会的インパクトである。それほどのインパクトを及ぼすのは非連続性であるが故である。従来の思考の延長線上にあるものでは、それほどのインパクトを及ぼさない。明らかに、従来の延長線上にあるオペーレーション的な範疇の「改善・改良」「進歩」ではない。しかし、そうしたものが出現した時、人々はそれを当たり前のものとして受け入れる(潜在市場の顕在化=新市場の創発)。誰もがそれに思いが至らなかっただけだ。

わかり易い例で言えば、宇宙衛星を軌道に打ち上げ、人類は自分が棲む地球惑星を宇宙からの眼で確認した。ソニーウォークマンはマルチ時間消費・モバイル行動の端緒を形にした。AppleのSmartphoneはユビキタス社会を現実のものにした。山中教授のiPS細胞の製造は医療の革新への道を切り開いた。これらは、すべて、石井威望先生の言葉を借りれば「スコープの拡大」をもたらした。

それでは、イノベーションが持続的に励起・勃興する方途は何か。

①多様性を認める ②最初から世界を意識する ③じゃまをしない、否定しない(Yes,and)、マネジメントし過ぎない

といった点が必要ではなかろうか。

例えば、個人を超え、世代を超える次のような社会的な課題対応のイノベーションは、国としての基盤・有り様に通じるものであり、総じて大規模であり、国家戦略として、国を上げて取り組み必要がある。

①基礎研究・基礎技術・基礎素材 ②自然(環境・海洋・宇宙)・資源・エネルギー ③社会資本・社会システム(少子・高齢化対応等)・社会リスク(制度設計、大規模災害等)

事実、そうした方向への道筋は政府、財界を中心に既に論じられ、施策が講じられつつある。例えば、上述した「産学官連携によるイノベーション・エコシステムの推進について」においては、「知のプラットフォーム」の具体的施策として「センター・オブ・イノベーションの構築」を掲げている。今後、経済成長戦略の一環として、こうした政策・施策が加速されることが十分予想される。

しかし、イノベーションは常にこうした大掛かりなアプローチだけで出現するとは限らない。「カオスの縁」的な小さな取り組みがバタフライ効果的にイノベーションに結びつくことも大いに有り得る。さらには、人の感性に基づく文化・様式・サービスは、歴史の蓄積のなかで育まれるものであり、こうした分野のイノベーションは誰かが明確にマネジメントできるものではない。その多くは、最初は一部のマニアックな世界であった。

従って、こうした類のイノベーションには、最初から大掛かりな構えをせずに、多種多様な自由な勃興(イノベーションへのトライ)を許容する別途のアプローチが必要である。イノベーションの起し方・環境づくりにも、イノベーションが求められている。

加えて、イノベーションとはリスク(不確実性)への挑戦でもある。公金(税金)や民間の商業銀行の資金(預金者の金)は基本的にリスクがあるものには投融資しにくい。政府系ファンドも源泉は公金であり、ある程度出口が見え、リスクが減じたものを基本とせざるを得ない。

従って、リスクの高いイノベーションには、民間企業・団体や個人からの投資あるいは寄付が基本とならざるをえない。このためには、民間企業・団体・個人から、薄く広く投資・寄付を集める仕組みをつくる必要がある。この民間からの投資・寄付(有税・無税を問わず)は、税金として納め行政の再配分機能に委ねるのではなく、直接的に投資者や寄付者の意志を反映することを意味し、この多寡自体が市場のプレ評価的反映といえる。

当然ながら、イノベータ(研究者、起業者)が投資・寄付を募るには、イノベータとしての理念、研究・事業のミッションを明確にし、投資・寄付を募るに値する研究・事業シーズであることを訴求することが必要となる。このことは、入口段階から、広く社会に見える化し、評価に晒すことになる。最近の言葉で言えば、いわゆるソーシャル化である。

こうして考えるに、政府主導型アプローチ(リアルな「知のプラットフォーム」)と並行して、柔軟な運営を可能とする民主導型のSNS的機能を内包したバーチャルな「知のプラットフォーム」が日本のイノベーションを活性化する上で不可欠ではなかろうか。

バーチャルな知のプラットフォームとは、以下の様なイメージである。

①知として、アカデミズムの研究知だけでなく、実業界・一般社会の実践値、経験知を含む ②上記した知を有する専門家として、アカデミズム、企業・団体、在野(個人)の専門家を含む ③イノベーション(シーズ/ニーズ)の評価者・参加者として、専門家(研究者、イノベーション推進支援専門家)だけでなく、一般社会(個人、企業、投資家・寄付者)を含む

要するに、一般社会に開かれた創発知の披露・融合・触発・共創の場(WEBサイト)を開設・公開するのである。このサイト上で、多様な立場の人々がSNS的に自由に意見交換する。加えて、イノベーション推進支援専門家(産学連携コーディネーター、知財アドバイザー、プロジェクトコーディネーター、コネクター、投資家・寄付者等)がこのサイト内でイノベーションの玉探し・玉磨きをし、プロジェクト化に向けてチーム組成等(マッチング)を行い、出口に向けてサポートするという仕組みである。既存の知財であっても、バーチャルベースであれば、ロングテールの中から、多様な眼をもったコネクターによる新たな組み合わせによるイノベーションが起きる可能性を秘めている。

こうしたバーチャルな知のプラットフォームの雛形は既にわが国に存在している。徳島大学の産学官連携支援システム i4連 である。その全国・グローバル版の開発も進行中である。そうしたものを活用していけば、従来の大学・地域中心の自前主義から脱却しつつ、スピーディに全国・グローバルベースでのプラットフォームを構築できる。

さらに、イノベーションの持続的励起・勃興を図る上で、イノベーション推進支援専門家の業態起しが必要である。現在、イノベーション推進支援専門家は、文科省経産省特許庁等の補助事業枠で活動している形態が主流であり、その身分等は不安定である。大学の専門職的位置づけでの「中間職」創設の動きもあるが、イノベーションの支援を専門とするコンサルティング業態を起こしたほうが長期的には望ましいのではないか。

これは、昭和40年代以降に勃興したシンクタンク業態の創設を思い起こさせる。いろいろな評価はあるが、シンクタンクとして政策支援の専門家(群)が自立した形で生きる道を民間主導で起こした事の意義は大きい。イノベーション支援の分野においても、その専門家が専門家として自立して生きる道を自らつくる時期に来ているのでなかろうか。

少子高齢化した日本は、いまこそ、いろんな場面でイノベーションが問われている。 具体を持って動くしかない!