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イノベーションについて想ふ

Business Model イノベーター エンジェル リスク 時評 産学連携 知財

グローバル経済化が加速する中で、総人口減少(すなわち市場縮小)・超高齢社会(すなわちリスクテイク能力縮小)が確実に進展する日本社会が今後とも持続的に活力を維持していくためには、グローバルレベルで通用する「知」と「ビジネス」のイノベーションを継続的に励起していくことが不可欠であり、その効果的な推進には、主要なプレイヤーたる大学(群)と企業(群)の自律分散協調型の連携が不可避である。

日本経団連「イノベーション立国に向けた今後の知財政策・制度のあり方」(2010年年3月16日)においても次のように記されている。

シュンペーターの著書「経済発展の理論」において、イノベーションは「新結合」であるとされ、担い手が企業家であること、技術革新のみに限定せず市場や組織等、広い範囲で新機軸が発生するものであること等が説かれていることを、われわれは改めて想起する必要がある。従来、わが国においては、科学技術政策の文脈でイノベーションが語られることが多かったが、市場創造・市場展開までを意識した一貫した取り組みは稀であり、成果も限定的であった。わが国がこれまで以上に意識すべきは、知の発見や技術の革新に止まらない、市場創造・市場展開までを意識したイノベーションである。企業はこうしたイノベーションによって国民生活の向上に主体的役割を果たせる存在である。よって今後は、従来の「知の創造」という入口を重視した政策・制度とともに、「市場創造・市場展開」という出口を明確に意識した、企業のイノベーションに関わる潜在力を高めるための政策・制度に溢れた国づくりが不可欠である。

そして、「イノベーション・ハブ構想」を提案している。その実現には、「産業界のイニシアチブと政府の政策」が重要であり、「官民が協働する場」が必要であり、「府省横断的な全体構想の下での国を挙げての戦略的な展開が期待される」としている。さらに、日本知的財産協会が提案している「Green Technology Package Program」の考え方に賛同している。

しかし、果たしてそうであろうか。確かに、国家的なインフラプロジェクト(宇宙・交通・防災・防衛等)は政・官主導型の産学官によるイノベーションを起こしうるが、マーケット主導のライフスタイルに関するイノベーションにマーケットリスクを取れない官が関与する必然性は薄い。産学官ではなく、産学である。さらに言えば、公助ではなく、共助・自助である。

昨日(2010年7月5日)のカンブリア宮殿(ゲスト:セーレンの川田社長)の編集後記村上龍氏が下記のように述べていたが、これこそがイノベーションの原点ではなかろうか。

川田さんが目指したのは「下請けからの脱却」だった。高度成長の時代まで、ほとんどの会社は国家もしくは大資本の下請けだったが、旺盛な需要のせいで利益は上がった。サバイバルなど考える必要がなかった。今だにその余韻が残り、国全体が下請け状態から脱し切れていない。自立は簡単ではないが、他に方法はないことを、川田さんは実証した。

そもそも、イノベーションを惹起するのは誰か。それは個々の突破者あるいはベンチャーが従来の常識・枠組みを超え、リスクを取ってチャレンジしたためではなかろうか。決して、国の政策・制度によるものではない。

いまやWEB社会である。知のイノベーションやビジネスイノベーションにおいて、もはや国境は関係ない。イノベーターの居場所、グローバル展開のしやすさが問題であり、大掛かりな組織が不可欠というわけではない。情報・知が流通し、それらが刺激しあうIT環境(プラットフォーム)があり、リスクテイクを支えるリスクマネーが供給される環境があれば、リスクを取るイノベイターが出現し、恊働しイノベーションを引き起こせる。

突き詰めて考えてみると、技術的な問題もさることながら、結局はリスクマネーの供給がいかにできるか、これに尽きるのではなかろうか。先程のカンブリア宮殿に登場していた川田社長の言によると「投資とは夢」と言い、積極的に投資をしていたが、日本の一般的な企業は「夢」には投資しきれないであろう。投資とはまさにリスクを取りに行く行為ではなかろうか。例えば、次の記事に見られるような事案が日本国内であった時、果たしてリスクマネーが投じられたであろうか。

エンジェル投資家が米国経済を救う:日経ビジネスオンライン(2010/06/14 04:46)

カナダのトロント大学ロットマン経営大学院マーティン繁栄研究所のリチャード・フロリダ所長は著書『The Great Reset: How New Ways of Living and Working Drive Post-Crash Prosperity(仮訳:抜本的立て直し―金融危機後の繁栄をもたらす新たな生き方・働き方)』の中で、「リスクが極めて高い、高レバレッジの投機的な分野に資金が流れるような、現在の金融システムを改革する必要がある。金融市場は投機の助長ではなく、イノベーション実体経済の成長を促進するという、本来の理念と目的に立ち戻るべきだ」と述べている。 金融の役割を原点に戻すための1つの手段は、エンジェル投資家による投資の促進だ。エンジェル投資家とは、主に起業家や元起業家から成り、ベンチャー投資会社の出資対象となるにはまだ創業から日が浅く、十分な事業実績がない新興企業に出資する個人投資家のことだ。主に年金基金などの機関投資家から集めた資金を運用するベンチャー投資会社とは異なり、エンジェル投資家は自己資金を個人のリスクで投資する。 起業やイノベーションを支援する投資を誰よりも先に行うのがエンジェル投資家だ。エンジェル投資家の投資が成果を上げてきた頃にベンチャー投資会社が現れ、エンジェル投資家が育てた企業の事業強化にあたる。 エンジェル投資家の投資対象は実在する企業であり、債権資産を証券化したCDO債務担保証券)などではない(CDOのような複雑な金融商品は“悪魔の創造物”だという人もいる)。 現在の著名企業も、その多くはエンジェル投資家の出資を受けて開業している。創業当初の米電子機器大手アップル(AAPL)は、米半導体最大手インテル(INTC)の幹部で株主の1人から9万1000ドル(約850万円)の出資を受けた。 米インターネット通販最大手アマゾン・ドット・コム(AMZN)の創業者ジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)はベンチャーキャピタル数社から出資を断られた後、十数人のエンジェル投資家から総額120万ドル(約1億1000万円)の出資を受けた。 近年で最も有名な例は、米コンピューター大手サン・マイクロシステムズの共同創業者アンディ・ベクトルシャイム氏が米インターネット検索最大手グーグル(GOOG)に10万ドル(約930万円)出資したことだろう。その資金のおかげで、グーグル共同創業者のラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏は米スタンフォード大学学生寮から出て、検索エンジンを本格的に売り込めるようになった。グーグルで富を築いた幹部の多くは、今度はエンジェル投資家として出資する側に回ろうとしている。 米ミネソタ州ミネアポリスベンチャー投資会社の幹部で、エンジェル投資家でもあるゲイリー・スメイビー氏は、「起業家は自己資金を投じてほかの起業家を支援し、同時に利益も上げようとしている」と語る。 米ニューハンプシャー大学ベンチャー研究センター(CVR)によれば、昨年、25万9480人のエンジェル投資家が5万7225社のベンチャー企業に出資した総額は176億ドル(約1兆6000億円)だったという。出資先のベンチャー企業数は前年比で横ばい、出資額は前年比で8.3%減少した。しかし、米国が1930年代以来の不況にあえいでいたことを考えれば、心強い数字だ。

このエンジェルに対する日本の流れを示す一つのニュースがTechCrunchで流れている。

[jp]まずはひと安心。日本証券業協会はエンジェル投資規制の可能性があった会則改定を延期した by 西田 隆一 on 2010年7月5日 日本証券業協会の会則の改定によって、個人投資家から出資を受けた未上場企業が上場できなくなるかもという記事を以前に書いたが、起業家も個人のエンジェル投資家もひとまずは安心してほしい。 7月2日に日本証券業協会は、大多数の反対意見によってこの規則の改正を延期したと発表している。Twitter上でなどでも数多くの議論を巻き起こしたこの件、ウワサによれば日本証券業協会パブリックコメントで過去最大と異例の数の応募があったようで、例外規定を設けて対応しようとしていたようだが、今回の改定案については延期というかたちで見送った。 ただ、今回の件は一般の個人投資家を対象にした詐欺行為を取り締まるためのものとして提案された改定案で、エンジェル投資家の規制を対象としたものではなかったことは付記しておこう。 以下が日本証券業協会の発表資料からの引用。 ここでいう個人投資家とは、発行会社やベンチャービジネスと全く関係のない一般の個人の方であり、経営者の知人・友人の方や会社の内容を十分承知した上で投資をされるエンジェル投資家と呼ばれる方を含めることは当初から予定しておらず、こうした考え方に ついて、規則改正に関する Q&A やパブリック・コメントへの回答といった形により明らかにする予定でありました。 本協会といたしましては、今回提示した規則改正案に対し非常に多くの意見が寄せられ たということを踏まえ、改正規則の施行日を7月20日と予定しておりましたがこれを延期することとし、本案の取扱いも含め、適切な未公開株詐欺の未然防止に向けた対応につい てあらためて議論することといたしました。

そもそも、イノベーションは尖った世界で起きるものであり、尖り部分を研磨し丸くするような従来の日本型の発想では難しい。産官学あるいは産学連携はなんのためか。もともと尖ったものをさらにより尖らせイノベーションを実現しうるように産学(官)で押し上げるなら大いに意味がある。

こうした視点で、2010年5月21日に開催された「知的財産戦略本部会合」において配布された「知的財産推進計画2010(案)」を読むとなかなか興味深い。重点戦略の3本柱の一つに挙げられている「コンテンツ強化」であるが、これこそ尖った個人の世界が幅を利かす世界であり、よってたかっていじる世界では無さそうに思えるがいかがであろうか。さらに細かい工程表が書かれているが、この工程表の真のプレヤーはだれか。

イノベーションは自立心の強い個の世界である。そうした強い意志を持つ個を輩出し、そうした個の足を引っ張らない仕組みをどうやって日本の中に社会システムとして組み込むか。これが日本の今後を左右することになる。そうした仕組みを創っていきたい。