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 プロフェッショナル進化論 「個人シンクタンク」の時代が始まる

プロフェッショナル進化論 「個人シンクタンク」の時代が始まる (PHPビジネス新書)田坂広志、2007年5月2日第1版第1刷発行、PHPビジネス新書

本書は著者の性格・経歴から来ているのかもしれないが、かなりシステマチックというかまさに「シンクタンク」マンらしい構成、論理立てとなっている。やや、「言葉」に拘っている感じがなきしもあらずであるが、これも「言霊」論を展開する著者ならではといったところか。

何れにしても、この本は個人として自律したプロフェッショナルをめざす者、或いはプロフェッショナル小集団にとって、その存在に勇気を与え、具体的な展開の手だてを示すものとして大いに参考になる。

本書はその冒頭に著者が主張したい結論を書いている。その結論とは次の通りである。

「これから、すべてのプロフェッショナルは、『個人シンクタンク』へと進化していく。

 これまで、世の中で「知の集団」と呼ばれてきた『シンクタンク』という組織が担ってきた役割を、これからは、一人のプロフェッショナルが担える時代になっていく。

 これからは、『知のネットワーク』を活用した一人のプロフェッショナルが、一人で様々な分野の『シンクタンク機能』を発揮し、その『個人シンクタンク』の機能を身につけたプロフェッショナルが、縦横に結びついて活躍する時代になっていく。」

これを同じシンクタンク業界にいた者として、小生なりに言い換えれば、これからのWEB2.0時代は、プロフェッショナル集団は既往の企業的な組織でなくても、インターネットを使ってネットワーク(連携・協働)すれば、同じ機能を発揮できるし、その方が一人ひとりが活きてくるということである。

とは言っても、シンクタンク業界に身をおいた者、あるいは発注者として使った方以外は、「シンクタンク」といわれてもそもそもはっきりイメージできる人が少ないのではなかろうか。特に日本のシンクタンクは千差万別でこれといった定義がない。シンクタンクと自称すれば「シンクタンク」である。

著者は「シンクタンク機能」とは、つぎの「7つのシンクタンク力」であるとしている。

1.インテリジェンス力:必要な情報や知識を集め、分析・統合するする力

2.コミュニティ力:人々の知恵を集め、新たな知恵を生み出す力

3.フォーサイト力:これから何が起こるのか未来を予見する力

4.ビジョン力:これから何をめざすかのビジョンを提示する力

5.コンセプト力:これから何をなすべきかのコンセプトを提案する力

6:メッセージ力:未来予見、ビジョン、コンセプトを広く伝える力

7:ムーブメント力:ビジョンとコンセプトにより変革の動きを生み出す力

このような7つのシンクタンク力を身につけることが個人で可能となったのは「1995年に始まったインターネット革命、2005年に始まったWEB2.0革命によって、世の中における『知のあり方』が根本的に変わった」からだとしてし、最初の「インターネット革命の本質」は、次の「3つの革命」にあると言う。

 1.情報バリアフリー革命

    <コストをかけずに情報収集が可能になった>

 2.草の根メディア革命

    <誰もがコストのかからないパーソナルメディアを手にした>

 3.ナレッジ共有革命

    <最先端の専門的ナレッジレベルの共有が可能になった>

そして、この3つの革命がWEB2.0革命によって次のように進化したと言う。

 1.「情報バリアフリー革命」から「衆知創発革命」への進化

    <多くの人々の智恵を集め新しい智恵を生み出せるようになった>

 2.「草の根メディア革命」から「主客融合革命」への進化

    <コミュニティを創り出しムーブメントを起こすことができるようになった>

 3.「ナレッジ共有革命」から「感性共有革命」への進化

    <映像、音声による共有により感動・感情・感覚・感性も共有できるようになった>

特に、3つ目の「感性共有」は確かに革命的である。文字よりも、映像、音声の方が伝達力(すなわち影響力)が大きいことは自明である。現在でも、影響力の大きいメディアはテレビであるが、それに近いことがネット上で可能となりつつある。YouTubeにその先駆けを見ることができる。残るは、「香り」すなわち「嗅覚」のみか。

こうした革命により、著者は「知識社会とは、知識が価値を失っていく社会である」と逆説的に定義する。そして、そのような知識社会において価値があるのは「言葉で表せない智恵」であり、活躍する人材は「長年の経験を通じて職業的な智恵(技術+心得)を身につけたプロフェッショナルである」と言う。

著者が考えている「求められる人材」と「活躍する人材」は次の通りである。


     求められる人材      活躍する人材

     [人材市場のニーズ人材]  [リーダーシップを発揮する人材]


工業社会: 工場労働者        事務労働者(ホワイトカラー)


情報社会: 事務労働者        知識労働者(ナレッジワーカー)

——————————————————————-       

知識社会: 知識労働者        プロフェッショナル


このプロフェッショナルの能力の進化の方向を「五つの進化」して次のように示している。

1.「言語知」から「暗黙知」を伝える能力へ

2.「分析知」から異分野の知識と智恵を「統合知」化する能力へ

3.「個人知」から有識者や草の根の人々の智恵を「集合知」化し活用する能力へ

4.「管理知」から新たな智恵を生み出す「創発知」能力へ

5.「理論知」から行動や運動を起こす「行動知」化する能力へ

こうして、これらの総括として、プロフェッショナルが個人シンクタンクへと進化するための「六つの戦略」を次のように語っている。

1.「情報バリアフリー革命」を追い風とした「コンセプト・ベース」の戦略

    〜インターネットを自分の知的創造の場とする〜

2.「草の根メディア革命」を追い風とした「パーソナル・メディア」の戦略

    〜良き影響力を持つ自分だけのメディアを育てる〜

3.「ナレッジ共有革命」を追い風とした「プロフェッショナル・フィールド」の戦略

    〜自分の経験の智恵を語れる専門分野を定める〜

4.「衆智創発革命」を追い風とした「アドバイザリー・コミュニティ」の戦略

    〜人々の智恵が集まるコミュニティを創り出す〜

5.「主客融合革命」を追い風とした「ムーブメント・プロジェクト」の戦略

    〜人々の行動を集めてムーブメントを創り出す〜

6.「感性共有革命」を追い風とした「パーソナリティ・メッセージ」の戦略

    〜自分のパーソナリティを発信する〜

この六つの戦略の具体的な展開戦略を、著者の職業的経験からくる智恵、実践中の体験からの智恵を踏まえて言及している。その要約は以下の通りである。

1.「情報バリアフリー革命」を追い風とした「コンセプト・ベース」の戦略

?目的的なサーチと、方向感覚的なウォッチの使い分け

?サーベイ(概観)とフォーカス(集中)の身体的な切り替え感覚の習得

?見えないものを関連づけるコンステレーション力とそれを物語化するストーリーテリング力を鍛える

?師匠のサイトを見出し私淑(発想・語り・活動のスタイル)する

?先達プロフェッショナルの智恵を借りる心構え(相手に対する礼儀、相手の時間コストへの配慮、相手に対する共感)を身につける

2.「草の根メディア革命」を追い風とした「パーソナル・メディア」の戦略

?まず第一歩として何らかのパーソナル・メディアを持ち、メッセージ力の修練の場とする

?最初はメッセージ発信よりも良質の読者の役に立つ情報・知識ポータルの戦略に徹する

?批評においては必ずポジティブ・メッセージを語る

  ※批評とは人をほめる特殊の技術である(文芸評論家 小林秀雄氏)

?目に見えないコミュニティ「ブロゴスフィア」(ブログ圏)を意識してメッセージを広げていく

?メッセージが自然に広がっていくように言霊(心が動く言葉)を込めて読みやすい長さで発信する

  ※心が動く言葉:物語、エピソード、寓話、メタファー(隠喩)などの言葉

   心が動かない言葉:理論、知識を語る言葉(どれほど正しくとも心が動かないためあまり広がっていかない)

3.「ナレッジ共有革命」を追い風とした「プロフェッショナル・フィールド」の戦略

?自分のプロフェッショナル・フィールド(経験で掴んだ智恵、職業的な智恵を身につけている分野)を明確にする

  ※この理由は、個人シンクタンクは他の個人シンクタンクとのコラボレーションを行わなければならない

?高度な専門知識を素人にも分かりやすく語る力を身につける

?智恵を伝える技法(自身の体験談、著名人のエピソード、物語、寓話)を学ぶ

  ※智恵を伝えるとは、相手の中に眠っている智恵に気づかせ引き出すこと

?プロフェッショナル・フィールドを広げるために、テーマの智恵ではなくメソッドの棚卸しをする

4.「衆智創発革命」を追い風とした「アドバイザリー・コミュニティ」の戦略

?読者コミュニティをアドバイザリー・コミュニティにする

?そのためにはGive and Givenの精神を大切にする

  ※インターネット世界はボランタリー文化、ボランタリー経済

?メンバーとの深い縁を感じ、その縁を大切にし、縁に感謝し、深く共感する

5.「主客融合革命」を追い風とした「ムーブメント・プロジェクト」の戦略

?まずムーブメント・コミュニティ(個別のアクション・コミュニティが集まったメタ・コミュニティ)を生み出す

?コミュニティを学びと成長のコミュニティにする

?アクティブ・キーパーソンをパートナーに迎える

  ※アクティブキーパーソンの三つの条件

   第一の条件:多くの人々の集まるコミュニティを主宰し運営している

   第二の条件:広いキーパーソン・ネットワークを持っている

   第三の条件:大きな影響力のネットメディアを持っている

?この社会を変えるためのビジョンと志を語る

6.「感性共有革命」を追い風とした「パーソナリティ・メッセージ」の戦略

?個人サイトやブログでネットラジオ局を始める

?メッセージを語るスタイルを身につける

?イメージコミュニケーションを重視する

著者の「現在は、答えのない時代であり、シンクタンクとして答えのない問題に取り組む仕事においては、多くの草の根の人々の智恵を集め、新たな智恵を生み出す方法や、多くの草の根の人々の感覚や意見を集め、正しい答えの方向を見出していくという方法は、これから極めて重要になっていく」という認識には全面的に賛同するし、特に「感覚や意見を集める」という新しい認識にはなるほどと思う。

その結果、「WEB2.0時代には、草の根の人々でも、社会全体に大きな共感現象(シンパシー)と共鳴行動(ムーブメント)が起こせるようになった。個人シンクタンクでも世の中に大きなムーブメントを起こすことができる」し、「パーソナリティの時代が始まる」ということになる。慧眼である。

そして、前回のブログで書いた大前研一氏の「知の衰退」では、「考えること」の必要性が強調されていたが、本書の著者は「シンクタンクはムーブタンクへの進化に加え、もう一つの進化フィールタンク(Feel Tank)へ進化を遂げていく。我々の社会が直面する様々な問題を解決するためには社会の知のパラダイムを”考える”ことから、感じることへと重点を移さなければならない。いま、我々が様々な問題に直面しているのは、”考える力”以上に”感じる力”が衰えているからに他ならない」とさらに進んだ見解を示している。これは年齢の違いからくるIT社会に対する認識の違いからきているのではないかと思う。

著者は最後に、一人のプロフェッショナルが個人シンクタンクをめざすのであれば「自分として、何にこだわっているか」を問うべきであり、それは「これまでの仕事の歩みの中でいかなる思想を育くんできたか」を問うことにもなる。詰まるところ、最後は個人としての生き様が問われているのである。