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「橋渡し」について想ふ

2009年4月14日夜遅くNHKで放送された「爆笑問題のニッポンの教養」を見ていたら、東京大学山内昌之教授が、「宗教に寛容な日本はイスラム教世界とキリスト教世界の橋渡し役ができる」と言っていた。言われてみると確かにその通りと思う。ハッとさせられた。この山内昌之教授はイスラム地域研究の第一人者で、文献研究のみならず、内閣官房・外務省・経産省外交政策にも助言、自らもイスラム諸国の首脳と交流を行う“行動する歴史学者”とのことだ。行動するからこそ、橋渡し役もできるのだろう。

この「橋渡し」あるいは「橋渡し役」と同義の言葉がいろいろある。

「つなぎ(役)」「仲介(役)」「リエゾン」「コネクター」「インターフェース」・・・。

「つなぎ」と言う言葉は日常的には、たとえば、蕎麦粉をこねるときのつなぎ、野球の打線のつなぎ役等なじみがある。先般のWBCでも稲葉選手に対して盛んに「つなぎの4番」と喧伝されていた。

ビジネス的な例のひとつとして、つなぎを業とする卸業がある。菱食の広田正社長(1994年当時)が「メーカーが商品開発のプロ、小売業が販売のプロとすれば、卸売業は中間流通のプロ。メーカーと小売りをつなぐ中間流通という“機能”が存在する限り、卸の存在意義は絶対なくならない」と、商品の製造と販売の間に入って繋ぐという機能の重要性を語っている。

最近では、経営とITのつなぎ役という位置づけでCIO最高情報責任者(Chief Information Officer)が多くの企業に置かれている。

さらには、技術者から知的財産価値のある新技術を発掘して、特許出願代理人へ引き渡すような中間仕事を指す言葉としても使われ、それを行う人を「リエゾンマン」(liaisonman or liaison manager)と呼んでいる。一見何でもないような技術でも、光の当て方によっては、宝石のように輝くものが少なくなく、その光を当てるのが「リエゾン」、それを黒衣役として担うのが「リエゾンマン」とのこと。

「仲介」さらにはより積極性を持った「調停」を目的とするものに「メディエーター」がある。メディエーターとは,交渉をしている当事者たちが合意に達することができるよう手助けをする第三者のことで、このように特に利害関係のない人が第三者として交渉に介入することをメディエーションという。

このようなメディエーターの具体のひとつとして医療メディエーターがある。この医療メディエーターには、医療機関と患者側の間にもめ事が起きそうになったときに、双方の言い分を聞いて仲介する人のことで、医療事故などの際、対話による裁判外紛争処理(ADR)に導く「医療メディエーター」の存在がクローズアップされている。

最近、大学で目立つのが「リエゾン・オフィス」や「TLO」。この場合のリエゾンliaisonも本来の語学的意見合いとは関係なく、連携、協働といった意味合いで使用されている。

「リエゾンオフィス」とは、企業側のニーズと、大学の研究者の研究・技術シーズのマッチングを行い、産学連携による共同研究、技術移転等を実現させるための窓口機能や支援機能をもつ組織のことである。

「TLO」とは、技術移転機関(Technology Licensing Organization)の略称で、大学の研究者の有する技術、アイデア、発明を評価・特許化し、適切な企業へ積極的にマーケティングを行い、技術移転に結びつける機関のことである。要するに、大学から民間企業への技術移転の橋渡しを行い、その収益の一部を大学や研究者へ還元し、更なる学術・研究の発展を促そうというものである。平成10年5月には、「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(通称TLO法)」が制定されている。

医療としての実用化が見込まれる有望な基礎研究の成果を効率的に臨床へ橋渡しするための基盤整備を進める文部科学省「橋渡し研究支援推進プログラム」というそのものずばりの名称の制度まである。

ところで、ネットワークにおいて、ネットワークの構成する結びつき・関連性(リンク)が特にたくさん集まっている交点(ノード)を「ハブ」といい、現実の社会的・物理的ネットワークの構造的安定性やダイナミックな振る舞い、頑健性、故障や攻撃に対する耐性などはすべてハブによって決定され、ハブがネットワークの進化を支配する。このようなネットワーク論的観点から見たとき、友人や知人を創る(リンクを張る)並はずれたコツを身につけた人が時々存在する。このような人を「コネクター」と称するが、このコネクターの機能はまさに人と人の仲介役、橋渡し役そのものである。

この例として、日経ビジネスで取り上げられている牛尾治朗ウシオ電機会長がいる。「交際範囲の広さを生かし、学問の世界(学者)と実務の世界(政策当局)との橋渡し、異業種の連携などを手伝い、日本社会に活力を吹き込む。若手学者を陰から支援。日本では珍しい上品なパトロン精神を持った経済人である」と紹介されている。

インタフェースinterfaceという言葉もITの世界でよく用いられる言葉で、二つのものの間に立って、情報のやり取りを仲介・橋渡しすることを指すが、これも社会的事象においては、異なる主体の接点において摺り合わせの橋渡し機能をインターフェースと呼ぶことができ、きわめて重要な機能を有する。

大前研一氏は、「中国において、日本でも米国でも考えられないような銀行の積極的な融資態度を生み出しているのは、「最後には政治家が責任を取る」という潔さでしょう。日本では、国民と政治家の間に官僚組織があるために、これが実現できていません。」と言っているが、これは行政というインターフェース機能が機能していないということを含意している。

何れにしても、日本社会のあらゆる場面において、関係する主体間の橋渡し機能がきちんと機能するかどうかは事の正否を左右する重要なポイントであり、うまく機能するような仕組みづくりが不可欠である。