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実効性のある地方自治体BCP(業務継続計画)を

History News 地方・ふるさと 提言

災害時における自治体そのものの被災が増加

東日本大震災地震津波)により多くの行政施設・機能・職員等の被災、福島第一原発事故による行政機能・住民等の移転・雛避、関東・東北豪雨災害(H27年9月)による市役所の孤立、そして熊本地震による行政施設の損壊等、大災害時の被害は住宅や民間施設のみでなく、人命救助、復旧・復興の拠点となるべく地方自治体の建物、機能、職員等にも及び、被災地の被災直後の人命救助、その後の復旧・復興プロセスにおいても、大きな支障をもたらしている。こうした事実を受け、地方自治BCP(Business Continuity Plan)の必要性が再認識されている。

BCPの手引きも、近年の大災害を考慮して、平成22年4月に策定された「地震発災時における地方公共団体の業務継続の手引きとその解説」が、地震以外の自然災害も想定した「大規模災害発生時における地方 公共団体の業務継続の手引き」 (平成28年2月)に改訂されている。

従来の災害対策の何が課題か

従来より、地方自治体は災害対策基本法第42条に基づく地域防災計画(災害予防計画,災害応急対策計画,災害復旧・復興計画、警戒宣言に伴う対策措置等を定める)の策定が義務づけされているが、そこには下記に記すような課題が内在している。

1.災害発生による非常時への状態変化が生じた場合に、何を優先するか、何を一時業務停止にするか(いわば、行政機能のトリアージ)、時間軸に沿った整理が不十分である。

2.地域防災計画は策定・製本されているが、それは概ね大部であり、非常時にそれを持ち出し読める状態にあるかどうかの保障がない。常時携帯可能なカードサイズ程度のものにするか、クラウドで読めるようにしておくような仕組みがなければ実効性がない。

3.地域防災計画は、行政建物・機能・職員等の被災を想定していない。一方で、地方自治体が自ら被災することを明確に想定したBCPは未だ未策定の地方自治体が多い。

4.計画における想定災害の多くが地震津波に集中しており、その他の自然災害が想定されていない。自然災害以外の技術災害(産業事故、交通事故、原発事故、テロ等)も対象とされていない。

[参考]災害の定義 ●日本における「災害の定義」:災害対策基本法第2条 「暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害」

●CRED(ベルギーのルヴァン・カトリック大学内に置かれた災害疫学研究センター)の定義 ※CREDは、世界保健機関(WHO)、国連防災戦略(ISDR)、アジア防災センターとも連携して世界中の災害DBを管理運営

・CREDは災害の本質を「個人やコミュニティが対処できる範囲を超えた」被害(「自然災害」と「技術災害」)をもたらす現象と定義 ・DBに登録する災害とは次の4条件のうち少なくとも1つを満たす現象のこと   ①死者が10人以上  ②被災者が100人以上  ③緊急事態宣言が発せられた、  ④国際支援が要請された ・技術災害には、産業事故、陸・海・空の交通事故を含む 出典:21世紀文明研究セミナー2010「安全安心研究の最前線」、公益財団ひょうご震災記念21世紀研究機構 他 

5.大災害・事故が起こるたびに「想定外」「前例がない」と云われるように、災害の歴史的事実認識や計画の前提が願望的想定であり、想像力が欠如している。あるいは、財政的理由等で意識的に想定の範囲を狭めている。

6.阪神・淡路大震災以降のボランティア支援、ICTの活用(特に、クラウド、Big Data等)、ドローンの活用等、支援者・支援ツールの進歩等に対応した仕組みづくりが遅れている。

7.「安全・安心」の前提となる「リスクマネジメント」の認識が薄い。当然、リスク・コミュニケーションの概念も薄く、信頼に足る情報公開・共有が不十分である。

8.平常時における指揮命令権者・系等が非常時においても能力を発揮できるかどうかは不明である。従って、平常時における事前の各種想定シナリオの検討・対応策の策定や、非常時を想定した代行者、補佐役等の専任が不可欠であるが、そうした対応は地方自治体の行政力に左右される。 補:東日本大震災時に、「櫛の歯作戦」がなぜ即座に実行できたのか、それは事前の作戦検討と現地(国交省東北地方整備局)の対応力にあったと云われている。

[参考1]「くしの歯作戦」で道路を早期復旧  被災地との連絡役「リエゾン」が活躍、現代ビジネス、2011年05月17日 [参考2]「建設業界は自衛隊に学べ」、くしの歯作戦指揮官の自戒と苦言、日経コンストラクション、2012/03/29

BCPの位置づけと概念の再認識

BCPは、平常時から非常時への切り替えの初動の仕組みであり、その後の復旧・復興計画へ繋ぐ計画である。つまり、「地域防災計画」や「いざという時の職員行動集」的なものを機能さすうえで不可欠なものである。

もう少し具体的に云えば、大災害発生という非常時において、地方自治体の建物、機能、職員等が自ら被災する中、残されたリソースで機能ダウンを最小限に抑えつつ、最低限の行政機能を維持し、早期に機能復旧につなげるリスクマネジメント計画と云える。これは、「想定外」、「前例のない」大災害への対応も想定した「レジリエンス(resilience)」(しなやかな回復力)の概念である。

これからのBCPには、このレジリエンス概念が不可欠である。

[参考1]レジリエンス / レジリエンス・マネジメントの必要性

  • レジリエンスの様々な分野に共通する意味合いは、「思い掛けない又は予見し難い変化や混乱に順応・対応し、最小限の機能を維持するとともに、迅速に回復する能力」である。
  • 全災害(テロ攻撃、自然災害、サイバー攻撃パンデミック等)への対処能力には、脅威、資産及び脆弱性を変数とする従来のリスクマネジメント方程式から、資産の被害がもたらす国民の生活や経済活動に及ぼす影響、すなわち帰結をどのようにマネジメントすべきか(低減すべきか)の方程式へと、その潮流を変化させています。このような変化に登場したのが「レジリエンス」の概念です。
  • 組織やシステムに求められるレジリエンスは、多少の脅威は物ともせず通常運用を継続し、たとえ脅威が増大したとしても組織やシステムの必須運用機能を果たすとともに、脅威が消滅した場合は速やかに通常運用へと回復することを意味します。
  • このようなレジリエンス活動は、これまでのサイバーセキュリティや防護活動と異にするものではありません。むしろ、それらを補完・補強するものであり、組織やシステムにより堅固性、対応性及び迅速回復性を持たせ、その結果として弾力性(レジリエンス)を備えさせたものといえます。
  • 欧米諸国は、従来のインフラ防護から脱却し、インフラ・レジリエンスへと移行しております。また、企業自体においても、企業の社会的責任CSR)や市場における競争力確保のためのレジリエンス・マネジメント活動が求められています。 出典:重要インフラ防護におけるレジリエンス・マネジメントについて(平成 24 年度)、平成25年2月、公益財団法人防衛基盤整備協会

[参考2]過去の災害教訓からみたレジリエンス向上の可能性 をめぐる論考 ~復興まちづくりにおける合意形成に着目して~、季刊 政策・経営研究 2016 VOL1、三菱UFJリサーチ&コンサルティング  [参考3]想定外リスクと計画理念 小林 潔、土木学会論文集D3(土木計画学)、Vol.69,No.5(土木計画学研究・論文集第30巻)、2013  

BCP策定にあたって

1.想定災害の拡大と具体的な被害状況(建物、設備、職員等)の認識

地震津波以外の地域に応じた災害要因(豪雨、台風、噴火、原発等)も想定し、かつ、地震津波原発事故等シビアな事態が連動・繰り返しすることも想定する。

2.時間軸に沿った最低限の対応・措置の確認

■発災から72時間:人命救助最優先

  • 庁舎被災による被災職員・来庁者対応、連続被災対応、庁舎の応急危険度判定
  • 非常時体制(災害対策本部等)の立ち上げ・切り替え
  • 代替庁舎、非常時意志決定機能、緊急通信機能の確立
  • 住民基本台帳等行政基本データのバックアップデータの即時利用体制の立ち上げ
  • 発災・被災状況の把握 ⇒ 伝達 ⇒ 公開・共有
  • 避難誘導、人命救助・救護
  • 非常用電源・水・食料・用具等の確保・供給
  • 啓開道路、緊急ヘリポート・ドローン、緊急航路等の確保
  • 緊急支援要請

[参考]熊本地震でドローンは有効に活用されたのか

■応急対策:避難者支援、対応要員確保、復旧への道筋

  • 外部支援要請・受入窓口連絡役(リエゾン)の確保:国、県、広域連携自治体等
  • 避難所設置:電源、水・食料・トイレ等確保、避難所情報(ニーズ等)NW確立
  • 関連死阻止・避難弱者ケア(肺炎防止等)
  • 二次災害の防止
  • 最低限のライフライン(電源、水、交通路等)の確保、職員対応(宿泊、食料等)
  • 最低限の通常業務(治安、医療・介護等)の維持・再開
  • 外部支援受入体制の確立

■復旧:復興への道筋

■復興:創造的再生

  • 地方自治体に応じた復興計画(創造的再生)の策定・実施

3.最低限のBCP「重要6要素」の対応+当該地域特有の想定災害

※重要6要素:市町村のための業務継続計画作成ガイド ~業務継続に必須な6要素を核とした計画~平成27年5月 内閣府(防災担当)

(1) 首長不在時の明確な代 行順位及び職員の参集体制 (2) 本庁舎が使用できなく なった場合の代替庁舎の特定 (3) 電気、水、食料等の確保 (4) 災害時にもつながりや すい多様な通信手段の確保 (5) 重要な行政データのバックアップ ※即時利用できる仕組みが不可欠 (6) 非常時優先業務の整理

非常時に実際に役に立つ、かつ、実行できるBCPを策定する。まずは、現時点で可能なレベルで作成・策定することを優先し、改善・拡充を継続的に実施する。

BCPを機能さすために事前に準備しておくべき事

  1. リスク及びリスクマネジメント認識の強化 *例:庁舎内の書棚等の揺れ対策、職員への防災袋の配布 (机の下に常備)、BCP冊子の配布・定期的自己確認、想定被害発生時の自分廻り(庁舎内、自宅廻り)の状況想定認識・初期行動認識 等
  2. 最悪を想定した災害シナリオとそれに沿ったシミュレーション実施(訓練)の繰り返し実施
  3. 避難行動要支援者名簿の作成(平成25年の災害対策基本法の改正により義務づけ) 参考:避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針 平成25年8月 内閣府(防災担当)
  4. 災害発生時(休日夜間時)の職員等の安否確認・連絡・緊急参集の可能性の確認と対策
  5. 非常時の情報受発信のためのSNSTwitterInstagram等)の活用の仕組みづくりや手段(ドローン等)の確保
  6. 非常時用の水(井戸も含む)・トイレ、発電機・重機、避難弱者の避難場所(移動式トレーラー、空き家等)等の確保 参考:避難所における トイレの確保・管理ガイドライン 平成28年4月 内閣府(防災担当)
  7. 陸・海・空の多重フェールセーフの確保(特に、広域支援拠点となる高速道路SA/PA、ヘリコプターポート、港等)
  8. 既存不適格建物の把握と耐震補強の促進
  9. 建物・土地の所有者不明の削減と非常時の代執行の条例化 ※平常時は特定空家対策として活用することにより、非常時システムを平常時においても使い込み、習熟化しておく。
  10. 自治体の特性を反映した町内会・隣接地域との連携BCP(いわゆるDCP=地域継続計画District Continuity Plan)の検討・反映 【参考】共助を育む「地区防災計画」 【参考】DCP概念を整理し新たな市町村地域継続計画MCPの提案  【参考】BCPからDCPへ [参考]資料1:地域継続計画の概要と取組事例について、国土交通省
  11. 非常時の際の各種協定の確認・拡充 ・大災害時の避難場所として、民間施設等との協定 ・地図の「備蓄」協定 ・病院、通信事業者、エネルギー事業者、IT事業者、建設事業者等と協定 ・JA、スーパー、コンビニ等全国規模で食料調達支援可能な企業等との協定 ・外部リエゾン自衛隊、県、国等]の委嘱 ・その他地域特性に応じた協定等

上記の非常時システムを想定した対応、仕組みを平時における隠し味として組み込み、平常時においても活かし、習熟しておくことが重要である。

最近の被災現場の映像を見るたびに、被災自治体は大丈夫なのか、機能しているのだろうかと、気になる。是非、地方自治BCPあるいはDCPの事前策定をして欲しいと願うばかりである。自らもそうしたBCP策定にいささかでも貢献できればと思うところである。