東洋ゴム工業の免震ゴム偽装問題

建築物の安全性に関わる偽装問題が再び露見し、ユーザに不安と不信感を与えている。地震に対する耐震技術には、剛性で地震力に耐える狭義の「耐震」地震力をダンパーで吸収し揺れを抑制する「制震」と、今回の偽装事案の「免震」でこれは基礎と建物の間に積層ゴム等を入れ地震動が建物に伝わらないようにするものである。

偽装事件の概要

報道等によると、事件の概要は以下の通りである。

2014年2月、東洋ゴム工業の子会社の東洋ゴム加工品㈱が、高減衰ゴム系積層ゴム支承の一部製品の性能評価(性能データ)を偽装し、大臣認定を不正取得していた。その事実は、10年間、1人で免震ゴムの試験データを管理していた担当者の変更を契機に認識されていたが、1年後の2015年2月9日に国交省に報告した。

関連報道等 ▼「建築用免震積層ゴムの一部製品」に関するお詫びとお知らせ、東洋ゴム工業(株)HP

プレスリリース 当社が製造した建築用免震積層ゴムの国土交通大臣認定不適合等について、東洋ゴム工業(株)、2015年3月13日

東洋ゴム 免震ゴム偽装、橋も調査 国交省「問題ない可能性高い」、NAVERまとめ、2015年04月11日

防災拠点がなぜ「東洋ゴム免震事件」に巻き込まれたのか──『耐震偽装』の著者が分析(前編)、日経BP社、2015年 4月10日

国交省の「東洋ゴム免震事件」対応は適切だったか──『耐震偽装』の著者が解説(中編)、日経BP社、2015年 4月14日

忘れられていた宿題が「東洋ゴム免震事件」で再浮上──『耐震偽装』の著者が提言(後編)、日経BP社、2015年 4月16日

東洋ゴム工業(株)については、かってチリにJICA調査で訪れていた時に、露天掘りの銅鉱山で使用されたいる巨大な運搬用トラックの大きなタイヤに採用されていたことや、その使用済みのタイヤが外貿港の接岸時のクッションとして最適だと評されていたのを記憶していただけに、今回の事態は残念である。

問題その1 偽装の疑いを認識した時点で何故、公表しなかったのか

一度導入すれば取り替えに時間とコストを要する免震装置製品に対する偽装認識の疑いが社内的に確認されていたにもかかわらず、情報開示なしに販売し続けるのはユーザに対する背信行為であり、株主にに対する情報開示の面から云っても問題である。このようなリスク情報の取扱は、リスクマネジメント上、大いに問題である。品質管理、リスクマネジメントを、組織としてできない製品をメーカーとして取り扱うべきではない。

問題その2 どちらを向いた説明なのか

プレスリリースを見る限り、大臣認定取得上の偽装項目説明のみで、それによる建物(建築主、所有者)、及びユーザー(居住者、利用者)にとって問題となる不具合現象の説明が一切ない。こうした説明で、建築物のユーザー等は果たしてリスクの程度を認識できるのであろうか。説明責任を果たすべき相手は、まずは、製品を購入したり、使用しているユーザー等ではなかろうか。更に云えば、製品購入・導入を検討しているユーザーではなかろうか。

その観点から云えば、未だに何故、一部の物件は非公表なのか。その理由を説明して欲しいものである。2005年の姉歯建築設計事務所による構造計算書偽造問題(耐震偽装問題)と比べて明らかに対応は異なる。こうした対応は、いたづらに不安をあおるだけである。リスクコミュニケーション上、不適切な対応と云わざるを得ない。

失敗知識データベース 失敗事例 耐震強度偽装発覚

問題その3 検証・説明は十分なのか

制震装置の基本特性である水平バネ定数、減衰定数のばらつきが許容範囲を超えていたということであるがあるが、その点だけに関する検証で果たして十分といえるのであろうか。その偽装された性能の下で、偽装項目ではなかったとして言及のない各種依存性(経年変化、温度変化、ひずみ依存、クリープ量)の基準値が本当に妥当性を有することが担保されているのであろうか。

更に、品質管理体制の不備についても言及されていないがそれで許されるのか。一人の担当者の問題ではなく、そういう体制に長く留め置いた組織に問題があるとの認識がない。

問題その4 大臣認定基準とは何か

偽装製品を使用した建物について、「震度 6 強から震度 7 程度の地震に対しても倒壊しない構造であることを確認した」と発表(H27年3月30日)しているが、それならば大臣認定の基準とは何か、はなはだ疑問である。

        震度 6 強から 7 程度の最大級の地震に対する免震層の変形量 免震層の変形= ----------------------------------------------------------------------               建築物の壁と擁壁との間の距離

の余裕が全くなくても許されるのか。地震という自然現象を対象とする設計基準としては疑問である。非公表物件②-1の上記変形値は、99.6%である。その外にも3件ほど90%超の物件がある。地震動の大きさの分散、気温によっては100%を超え、隣接物件(擁壁、建築物等)にぶつかるのではなかろうか。大きな構造物がぶつかると云うことは破損等を契機とする重大な二次被害が当然に予想される。

プレスリリース 大臣認定不適合が判明した当社製免震ゴムの納入先建築物における「満たすべき安全性」の確認について、平成27年3月30日

問題その5 過去の教訓が何故活かされないのか

同社は、過去にも 断熱パネルの性能偽装(2007年11月)を起こし、コンプライアンスの強化を図ったとされていた。今回の事件の発生はそうしたコンプライアンスが根付いていなかったという証左である。何故、同じ失敗を繰り返したのか、本当の意味で失敗に学んで欲しい。

東洋ゴム、教訓生かせず 07年にも耐火性能偽装、日本経済新聞 電子版、2015/3/17

問題その6 指定性能評価機関の評価の仕組み

建築物に係るこうした機材の性能をはたして書類審査だけで評価することで可能なのであろうか。大臣認定の取消、当該装置の取り替え程度で許されていいのであろうか。 加えて、こうした装置は地震等による建築物の構造的劣化を抑え、長寿命化にも資するものであり、初期性能以上に経年的性能の方がより重要である。建築物に使用される機材についてそのような評価が適正になされているのであろうか。

いずれにしても、人命に影響する製品については、供給するメーカー側の品質管理、リスクマネジメントが組織の最重要項目として認識され実行されることが不可欠であり、それを担保できないときは市場から退場すべきである。地震大国日本の地震による被害を軽減すべき真摯に努力している他社メーカーの足を引っ張るべきではない。