ふるさと納税の仕組みと効用

ふるさと納税が返礼品の競い合いで産直品のeーコマース化している。ふるさと納税とは何か、その仕組みはどうなっているのか、それにはどういう効用があるのか、地方活性化に活かすにはどうすれば良いか。確定申告の時期でもあり、地方創生が話題になっているいま、改めて、ふるさと納税について考えてみた。

ふるさと納税の仕組み

ふるさと納税とは、「ふるさと寄付金制度」であり、「都道府県・市区町村に対する寄附金のうち、2,000円を超える部分について、寄付をした自治体から発行される受領書をもって、居住自治体で確定申告すると、個人住民税の概ね1割を上限に、原則として所得税・個人住民税から全額が控除される」という寄付の仕組み(地方自治体に対する寄付金税制の一部)である。

要するに、2,000円を超える寄付金は所得税(現金で払い戻し)と住民税(住民税の減額)とで取り戻せ、加えて、寄付した自治体からは返礼品ももらえるという仕組みである。交付税補助金等国の関与(裁量)なしに、納税者が直接、自治体の税収の格差是正に関与できる仕組みである。

      出典:14年に「ふるさと納税」をした人は全員必読! 寄附金を取り戻すラクラク確定申告教えます!

 

なお、「個人住民税の概ね1割を上限とする規定を2割に引き上げる」ことが、平成27年度税制改正大綱の中で閣議決定(平成27年1月14日)されている。

平成27年度税制改正の大綱の概要(財務省)

寄付金の返礼は、地場産品が多いが、お墓の掃除代行(高松市)というサービスもある。それならば、実家の空き家の見守りケアサービスだってあって良い。知恵を出せばふるさと特有の返礼品サービスがある。

ふるさと納税:お礼に墓の掃除代行サービスも 高松市(毎日新聞)

また、寄付金の使途(政策)を選択・指定することも可能とする自治体が少なくないが、これは、自治体が公募主体となったクラウドファンディングと同じである。自治体の政策立案能力、プロジェクト組み立て能力が競争市場化する仕組みとも云える。

「ふるさと」の限定もない。寄付者の自由選択である。居住地選択の自由と併せ、納税先・使途(自治体、政策)選択の自由という仕組みのもつ意味は大きい。消滅自治体候補の存廃を左右する可能性すら秘めている。

更に云えば、ふるさと「納税」するわけであるから、「ふるさと」の行政に一言発言する機会があっても良い。いわゆる「市民の声」に加えて、域外応援者からの「ふるさと納税者の声」的なものを地元行政に反映する仕組みがあれば、地元住民の枠を超えた「知」が活かせる。

ふるさと納税はあくまでも、直接納税ではなく、応援したい自治体への寄付という形態をとっているところが制度上のミソである。当時の関係者間の落としどころとしてこうした仕組みになったものと推察される。その仕組みや実績は、総務省の下記サイトに詳しい。

ふるさと納税など個人住民税の寄附金税制(総務省)

ふるさと納税ポータルサイトや支援システム

全国の自治体のふるさと納税ページを探す場合のポータルサイトとして機能するページとして、下記がある。福井県は、専従者を配置して、この全国向けのポータルサイトを開設・維持している。

ふるさと納税関連ページへのリンク(総務省)ふるさと納税情報センター 情報発信サイト(福井県)

民間ベースのふるさと納税ポータルサイトも開設・運営されている。以下に、その一部を示す。

ふるさとチョイス(株式会社トラストバンク) ふるさと納税(Yahoo!公金支払い)

最近、こうしたふるさと納税の代行支援サービスをシステムと一緒に提供し始めている民間サービスもある。これは一種のアウトソーシングであり、体力の無い自治体にとっては有効かもしれない。

ふるさと納税トータル支援サービス(ヤマトシステム開発株式会社)

ふるさと納税の実態

最新のふるさと納税の全国総計の実績値をみると、寄付者10.6万人、寄付金額130億円、税控除額45億円【寄付金控除申告ベース(平成24年)】となっている。直近(平成24年度決算)の個人住民税の総額約11.6兆円の1割の1.1兆円がふるさと納税の現行制度上の上限枠であるが、実績はその1%程度といったところである。

せっかくの実質的な直接納税が活かされていない。自治体側はもっとその制度活用のアピールをすべきであるし、納税者側も目的税的選択納税の良さを知り、活用すべきである。

昨年秋、総務省が全都道府県、市区町村を対象に、ふるさと納税に関する調査を実施し、その結果を公表(平成25年9月13日)している。ふるさと納税について、各自治体がどういうふうに取り組み、集めた寄付金を何に使い、どう評価し何が問題・課題であるか、ふるさと制度を考える上で、大いに参考になる。

ふるさと納税に関する調査結果(総務省)

この結果を受け、総務省は下記を指示しているが、寄付者側からすれば、手続きの簡便さが最も希望することである。ECサイトのように、サイト上で寄付金振込、使途政策・返礼品選択、確定申告手続き(寄付先自治体が寄付者居住地自治体へ通知)の全てが完結すれば、一気に利用者が増えるのではなかろうか。行政の書類手続きの煩わしさがいつもながら最大の障壁である。

・ 寄附金の収納方法の多様化を図ること ・ 必要な申告手続きを説明した文書の配布等により、寄附者の申告手続きに係る事務負担の軽減を図ること ・ 寄附者が寄附金の使途を選択できるようにすること、また、寄附金の使途を公表すること ・ 特産品等の送付については、適切に良識をもって対応すること ・ ふるさと納税に係るPRを積極的に行うこと

なお、確定申告の手続きについては、平成27年度税制改正大綱のなかで、「申告手続の簡素化(確定申告不要な給与所得者等がふるさと納税を行う場合、ワンストップで控除を受けられる仕組みを導入)」とされている。

ふるさと納税の効果

【寄付者】 寄付者側からすれば、国や自治体に納める税金を、目的税的に納める先(自治体)や政策等の使途を選択・指定できることにある。そして、付加的に、返礼品を指定して受け取ることにより、実質的には2,000円の寄付で、それ以上の価値のあるものを入手できることにある。

昨今、この付加的な部分に焦点が当たっているがそれはそれで仕方がない。当該寄付者の居住自治体以外に誰も損をする者はなく、寄付者-ふるさと自治体・住民-返礼品(地場産品)提供業者の全てにおいてwin-winである。

【自治体】 寄付を受ける自治体からすれば、寄付金という収入(大学的に云えば、競争的外部資金)の確保、情報発信、関心者・ファンの開拓・拡大、返礼品調達を通じた地元産品(業者)の販路拡大・観光客拡大、ひいては産業振興・観光振興等、全国に視野を拡げた地域活性化の手段となっている。

特に、返礼品(地場産品・サービス)絡みで、1兆円規模の市場が惹起されることの影響は大きい。当然、他地域との競争になるので、顧客(全国他地域の住民、他国民)を意識し訴求(プロモーション/マーケティング)することが不可欠となる。それは、従来の行政マンの意識範囲・業務レベルを超えた行動を促すものであり、結果として自治体経営の強化・自律に繋がる。

【返礼品提供者側】 ふるさと納税の返礼品を提供している自治体は、当該自治体内に事業所のある法人、団体または居住する個人から応募を受け付けている。

例えば、宇部市の募集要項

返礼品の提供者側からすれば、事業所所在の自治体の買い取り価格(費用負担)は返礼品の価格であり、定価販売で、かつ、販促費の負担なしに全国に販促できる機会を得ることができる取引と云うことになる。そして、気に入られれば、リピーターになってもらえることになる。

 

ふるさと納税制度は未だ創設5年しか経過していない制度で、活用の程度も低いが、意外と自治体(組織、行政マン)が変われる突破口となり得る可能性を秘めたおもしろい制度である。本格的な活用を促す仕組みづくりに自らも棹さしてみたい。