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200年住宅、そして住宅の資産化

自民党の前住宅土地調査会長であった福田康夫氏が内閣総理大臣に就任した際の所信表明演説(平成19年10月1日)において「(これからの環境を考えた社会への転換)地球環境問題への取組は待ったなしです。従来の、大量生産、大量消費を良しとする社会から決別し、つくったものを世代を超えて長持ちさせて大事に使う”持続可能社会”へと舵を切り替えていかなければなりません。住宅の寿命を延ばす『200年住宅』に向けた取組は、廃棄物を減量し、資源を節約し、国民の住宅に対する負担を軽減するという点で、持続可能社会の実現に向けた具体的な政策の第一歩です。地球環境に優しく、国民負担も軽減できる暮らしへの転換という発想を、あらゆる部門で展開すべきです。 」<http://www.kantei.go.jp/jp/hukudaspeech/2007/10/01syosin.html>と述べ、自民党は「200年住宅の建設・流通・維持管理」、「200年住宅対応の住宅金融」、「200年住宅に相応しい社会基盤・まちなみ」に関する政策提言を行い、国交省を始めとする各省は「200年住宅ビジョン」を新規施策として取り上げている。

現在の住宅が約30年弱で建て替えられているのに、一気に「200年」とは思い切ったものである。「200年というのはシンボルであり科学的な根拠はない。」(会長時の福田康夫氏談)とのことである。「国家百年の計」といわれるように「100年」という期間単位はしっくりくるが、「200年」は何故かイメージしにくい。因みに、この「200年」という言葉をかって聞いたことがある。昭和62年度から建設省(当時)の新規事業として開始された「スーパー堤防(正式には、高規格堤防)事業」である。このスーパー堤防事業が100年から200年に一度の大洪水を安全に流すことを想定して計画されているのである。

さて、200年住宅は本当に可能か。実態として築数百年のいわゆる古民家と呼ばれるものが存在する。1967年にミサワホームを創業し、現在はMISAWA・internationalを立ち上げている三澤千代治氏はこうした古民家を調べ、「・・・古民家のように再生して使えば、200年以上維持することは難しくないということが分かりました。そして再生できる家とは、柱と梁が太く、しかも柱や梁がきれいに並ぶ家であることが分かりました。しかし今の家は部屋を組み合わせて家を造っている。だから柱と梁がきれいに並ばない。でこぼこの家になってしまう。ここに問題であることが分かったんです。

ルーズベルト大統領は、ニューディール政策の一環として、住宅建設を促進するために住宅建設基準を見直したのです。将来の転売がしやすく資産価値の高い家が多く造られるよう誘導した。」とインタビューで語っている。<http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/news/071031_misawa/index.html

そして、東京大学松村秀一教授は、「日本の住宅の建て替え年数が欧米に比べ短いのは、第二次世界大戦で大半が焼失し戦前のストックが少ないため、統計的には当然短くなるが、現在のストックの3/4は昭和50年以降に建築されたものとなり、これからは住宅の寿命は(統計的には)自然に延びる。

ハードな意味で200年住宅を建てるのは建設時点での自己満足にすぎない。つまり、過剰投資。建てるときと壊すときの意志決定者は別であり、長く使う仕組みがないと全くの無駄になる。いかに将来の世代の人々のライフスタイルに相応しい生活の場として効果的に運営していけるかが重要」と語る。(2008年1月11日開催 2008年度木耐協全国大会 講演)

要するに、物理的な耐用年数と、機能的な耐用年数のギャップの問題である。粗悪な設計・施工を別にすれば、物理的耐用年数が機能的耐用年数を上回っているのが通常であり、そのギャップを縮めるには、機能の改変が必要となる。つまり、住む人が代わり、暮らし方が変わり、その結果として住まい方(住宅に要求される機能)が変わるのは必定で、そうした変化に合わせて住宅を解体・修理・再利用する仕組みが不可欠となる。ハード面でその鍵を握るのが、住宅の構造材(柱、梁等)の耐久性、再利用性である。

住宅の構造材の耐久性は太さ(断面積)の問題である。現在は105mm角の材が主流であるが、耐久性を考えるならば120mm角、150mm角の材を使用することが望ましい。

そして、構造材の再利用性は、構造材自体が傷まないことが前提となる。これは何を意味するか。建築基準法に規定される一般的な(狭義の)耐震住宅は構造材が壊れることにより、地震動エネルギーを吸収するため、二度目は耐震性がなくなる。この問題をクリアするのが制震機材で、住宅の構造材に代わって、付加された制震機材(ダンパー等)が地震動エネルギーを吸収するため、地震があっても構造材を傷めない。従って、200年住宅のような超長期の使用を考えれば、「耐震+制震」住宅でなければいけない。

しかし、200年住宅化を進める上で、最大の課題は上記したようなハードなことではなく、そのような長く持つ家を持つことの経済的メリット、インセンティブがあるか否かということにある。日本の現状は、土地の価値は何年たとうが流通価値、担保価値、資産価値を有するが、その上に立つ住宅建物は住宅ローンを払い終わる頃には流通価値、担保価値、つまりは資産価値はゼロとなる。20年ほどで資産価値がなくなるものに対して、200年使用することを前提に人は投資をするか。まず、いない。

この問題は実は日本の豊かさを下げる大きな原因にもなっている。つまり、一般的な日本人は住宅ローンを借りて20〜30年かけて金融機関に利子を付けて返している。3000万円借りて家を買えば、4000〜6000万円を返す。標準労働者の生涯賃金2億9000万円<出典:http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/kako/documents/2-23.pdf>の約2割弱が住宅の購入費に消えている。住宅費以外への可処分所得が実質的に減っているのである。

建築後20〜30年たった流通価値ゼロの住宅は本当に資産価値、経済的価値はゼロなのか。売れば価値ゼロであるが、人に貸せれば賃料収入が得られる。収益還元価値の創出である。メーカーが減価償却済みの機械で生産するようなものである。これと同じことを住宅でもできれば、住宅は人が住み続けることができ、かつ借りてもらえることができる限りは、資産価値(収益還元価値)を有する。資産価値が出てくれば、当然、担保価値も出てくる。担保価値があるなら流通価値も出てくる。つまり、住宅が本来有している資産価値と、市場での流通価値のギャップが埋まる。

このような仕組みの実践が、政府保証をバックボーンとして「有限責任中間法人 移住・住み替え支援機構」で始められているが、もっと多様な仕組みが組成されるべきである。定年退職後の人生が長くなる今後に於いて、公的年金リスクヘッジするためにも、投資した住宅が収入を稼ぎ続ける資産となり、引いては住宅の超寿命化が促進され、地球環境問題等にも資する仕組みの競争時代となることを願う次第である。