2020東京オリンピック・パラリンピック開催決定を受けて

H18年9月から招致活動に249億円を費やし、2020年夏季オリンピックパラリンピックの東京開催が決まった。久しぶりに日本の先行きに期待感を抱かせる目標が具体的に設定された。日本人は目標が具体化されれば集中力を発揮できる。いろんなことをブレイクスルーする良い機会である。

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会計画 オリンピック競技大会開催概要 正式名称:第32回オリンピック競技大会 英文名称:The Games of the XXXII Olympiad 開催期間:2020年7月24日(金)~8月9日(日) 競技数 :28競技

パラリンピック競技大会開催概要 正式名称:第16回パラリンピック競技大会 英文名称:Tokyo 2020 Paralympic Games 開催期間:2020年8月25日(火)~9月6日(日) 競技数 :22競技

■関連諸費 2016年オリンピック招致活動費 149億円(決算ベース) 2020年オリンピック招致活動費 75億円(予算ベース) 東京都の開催準備金:4,088億円 大会組織委員会の収入:1,825億円 施設整備費:4,100億円余(招致活動段階より2,500億円余増)<NHKニュース> 関連インフラ整備費:詳細不明

■投資効果(2013年~2020年) 経済波及効果(生産誘発額)3兆円、雇用誘発数15万人<東京都> ※インフラ投資は対象外 生産誘発額7~12兆円、雇用創出効果40~70万人分<㈱日本総合研究所>

経済波及効果(生産誘発額) 29.3 兆円<三菱UFJモルガン・スタンレー証券>

前回と今回の時代環境と期待の違い

前回の1964年東京オリンピックの時代環境は、敗戦からの復興を果たし、高度経済成長の途上にあり、先進国化、国際化へのトバ口に立ち、全てが右肩上がりの躍動する日本であった。砂利道が舗装され、新幹線、首都高等が整備され、そしてカラーテレビが一気に普及した。すべてが、前向きな時代で、将来に期待が持てた。

一方、今回の2020年東京オリンピックは、日本の総人口が減少し、超高齢社会が進展する成熟社会にあり、財政再建を目指しつつ新たな成長への模索がなされる中、東日本大震災からの復興、福島第一原発の事故収束という歴史的な課題を抱えた時代環境にある。将来を見据えた視座の下、構造的転換を行い、前向きに転じる機会として今回の東京オリンピックが期待される。

参考:【1964年という年】斎藤順の経済バーズアイ 日本経済研究センター 東京オリンピックが開催された1964年という年は、日本経済が高度経済成長を遂げる中で蓄えた経済力を背景に、先進国としての地位を国際社会において固めた年でした。この年の4月に日本は先進国クラブである経済協力開発機構OECD)への加盟を果たしました。また同じく4月には、国際通貨基金IMF)の8条国(経常取引に対する為替管理の撤廃等)に移行し、外国為替予算制度を廃止しました。また、海外旅行が自由化されたのもこの年です。これらを受けて、9月には東京でIMF・世銀の年次総会を開催しました。 他方、1964年という年は、日本経済にとっては大きな転換点でもありました。オリンピック直後から日本経済は、「(昭和)40年不況」、「構造不況」「典型期」と呼ばれることになる不況(1964年10月から1965年10月)に陥ります。この不況期間中、山一証券や山陽特殊鋼が破綻し、日銀が戦後初めて特別融資を行いました。また、証券不況に対応するため、株式買取機関が設立されました。そして、この年、初めて国債(1965年度は特例国債)が発行され、それ以降、国債発行(1966年度から建設国債、1975年度から建設国債)が常態化することになります。 この不況も1年で終息し、1966年以降になると、高度成長期の第二期に入っていきます。この第二期は、第一期が「投資が投資を呼ぶ」内需主導型であったのに対して、外需主導型の高度成長でした。これ以降、いわゆる「国際収支の天井」から解放され、経常収支が黒字化するとともに、外貨準備が増加し始めることになります。 このように、戦後復興から高度成長を果たして先進国の仲間入りをするという日本経済の一つの頂点の時期であるとともに、国債発行と外需主導型経済成長という、現在直面する大きな問題につながるような現象が初めて現出するようになった端緒の時期でもあったのが、1964年という年だったのです。

追記:2013年9月27日、総務省統計局が「東京オリンピック時(1964年)と現在(2012年)の日本の状況」という統計値を対比表で集計発表した。

 

今回のオリッピック・パラリンピックに期待すること

2020東京オリンピックパラリンピック開催決定は喜ばしい限りである。開催までの期間、世界の関心が集まる。開催時には、世界から人が集まる。日本を知ってもらうチャンスである。では、何を知ってもらうか。知ってもらうために何をすべきか。開催地は東京湾岸部であるが、その効果を日本全体に及ぼすにはどうするか。色々考えらえるが、少なくとも以下の4点の実現を期待したい。

1.東日本大震災の復興を知ってもらう 日本は多様な自然災害が頻発する国土であり、自然災害に対する防災技術(治水、耐震等)、レスキュー技術・復興技術は元々日本の優れた技術であった。東日本大震災を教訓にさらにその技術が進化している。被災時に世界各国(174 ヶ国・地域、43 国際機関)から寄せられた救援・支援に対して、オリンピックに訪れた世界からの来客に直接、復興状況を見てもらい、感謝を示す絶好の機会である。進化した日本の関連技術を世界に披露する機会でもある。オリンピック会場周辺、ホテル、そして現地ツアー等々なすべきことはいくらでもある。そのためにも、世界に誇れ、後世に誇れる真の震災復興を急がねばならない。

2.福島第一原発事故の収束過程を知ってもらう 現下の世界的関心事であり、オリンピック招致の際にも最後まで懸念されていた福島第一原発事故の収束に向けたプロセスを、そして対策技術を世界にアピールしなければならい。安倍首相が「The situation is under control」と表明した限りは、日本は総力をあげて、事故原因、事故実態の把握、汚染拡大の阻止、事故収束に向けた措置等々を事実ベースで世界に示す必要がある。今後の地震津波、台風等の発生リスクも考慮しつつ、いかにして廃炉に向けてアンダーコントール下におくか。第二の「trust me」にしてはならない。日本の技術力、マネジメント力が問われている。シビア環境下での活動を可能にするロボット技術、永続的に続く地下水汚染の対策技術、放射能汚染物資の管理・処理技術等、今後の世界の原発事故時にも貢献しうる技術をオリンピック時にアピールすることの意義は大きい。小手先ではなく腹を据えた対策、技術開発・導入を期待したい。

3.超高齢社会の課題先進対応生活空間を知ってもらう 日本はすでに超高齢社会に突入し、世界の高齢社会化に対する課題先進国として、その対処に世界が注目している。高齢社会課題は2つに大別される。アクティベイトなシニアを対象とした課題と、介護が必要なシニアを対象とした課題であり、それぞれに仕組みと技術での対応がある。医療・介護・年金の仕組み、健康・介護に関連する医工連携先進技術、バリアフリー及びユニバーサル技術、高齢化に伴い交通弱者化するシニアの生活を支援する交通システムや宅配・御用聞き訪問型ビジネス、さらには今後太宗化する高齢独居世帯の見守りシステム等々。シニア対応・課題は、国、地域、個人レベルそれぞれでユニークであり、究極のカスタマイズが問われる。日本人が得意とする細やかさが活きる。オリンピックで訪れる外国人にとって、日本の日常生活空間そのものがショールームとなりうる。

4.グローバルに通用する日本の良さを知ってもらう 日本食が世界に広まりつつある。日本の伝統技術に裏打ちされた匠の製品(大工道具、和包丁、・・・)も世界で受け入れられている。次は、日本の飲料(日本茶、日本酒等)や食材(米、和牛、・・・)と言われている。伝統文化・技術の継承者・企業がグローバルに情報を発信し、理解者(顧客)を獲得することにより、蘇っている。一方で、観光客の受け入れはもちろんのこと、総人口減少社会の日本の持続的成長を支える上で、外国人起業家・ビジネスマン・労働者・移民等の受け入れも考えざるをえない。社会の仕組みとしてのダイバーシティ(多様性)が問われている。今回のオリンピックがダイバーシティ社会へのトバ口になることを期待したい。まずは、オリンピックまでに、少なくともホームページの多言語対応を進めなければならない。ネット上で検索できれば、世界からバーチャルであれ、リアルであれ、人が集まってくる。日本の良さを知れば、世界の技術・知識・人材が集積するきっかけとなる。オリンピックは日本の良さを実体験できる出来る機会であり、東京をハブとして全国に足を向けさせる仕組みづくりが欠かせない。

2020年に胸を張って世界の多様な人々を迎え入れたいものである。