台風15号に想ふ ~自然災害へのレジリエンス~

「令和元年台風第15号」の被害からの復旧(特に千葉県下の停電、屋根の修復)が遅れている。首都東京から数時間の距離にあるにもかかわらず、このような状態が発生していることに危機感を禁じ得ない。

 

令和元年台風第 15 号に係る被害状況等について 令和元年9月23日8時00分現在 内閣府
気象の概要(気象庁情報)<抜粋>
・台風第 15 号は、7日から8日にかけて小笠原近海から伊豆諸島付近を北上し、9日3時前に三浦半島付近を通過して東京湾を進み、5時前に強い勢力で千葉市付近に上陸した。その後、9日朝には茨城県沖に抜け、日本の東海上を北東に進んだ。
・台風の接近・通過に伴い、伊豆諸島や関東地方南部を中心に猛烈な風、猛烈な雨となった。特に、千葉市で最大風速 35.9 メートル、最大瞬間風速 57.5 メートルを観測するなど、多くの地点で観測史上1位の最大風速や最大瞬間風速を観測する記録的な暴風となった。

ライフラインの状況 (経済産業省情報:9 月 23 日 07:00 現在) <抜粋>
電力 千葉県 約 2,800 戸
※最大供給支障戸数 約 934,900 戸(9 月 9 日 7:50 時点)
※停電の主な原因は、暴風雨・飛来物による配電設備の故障。
東京電力では、9/8 22:00 に災害対策本部を設置。
※他電力会社からの追加応援を受け、発電機車約 330 台、復旧要員約 16,000 人の体制で復旧作業中。
※千葉県市原市の山倉水上メガソーラー太陽光発電所において、パネル破損及び火災が発生。

千葉県内の2事業者において、停電により 932 戸が断水中(最大断水戸数:139,744 戸、うち 138,812 戸が解消済み)。応急給水を実施中。

水道
千葉県内の2事業者において、停電により 932 戸が断水中(最大断水戸数:139,744 戸、うち 138,812 戸が解消済み)。応急給水を実施中。

活かされない過去の教訓 ~組織力、現場力の低下~

今回の台風被害の特徴として、風による被害としての倒木による停電と屋根の損傷が上げられる。倒木被害は千葉県に限らず、今回の台風影響地域で広く見られた現象である。

東京電力は、「倒木が多いため設備の損害状況の把握に時間がかかり、改修の規模が同社の当初の予想よりも大きくなったため」と説明しているが、違和感を禁じ得ない。「予想外」に対するリスクマネジメントの必要性は、福島第1原発事故の教訓として活かされていないのだろうか。

▶有事における情報集約体制の要点、KPMG、2019-09-13 
倒木による停電発生リスクは、普段の点検に於いて把握できるものであり,リスクマネジメント可能である。発災後の状況把握能力の低下はその後の復旧対策にも影響する。今回の約93万軒を大きく上回る約220万戸が停電となり、広範囲にわたって甚大な被害が発生した平成30年台風21号の対応検証委員会報告(関西電力)2018年12月13日の教訓は活かされていないのだろうか。

忘れられた台風対策

現代の生活・生産において、停電による影響は大きい。まして、危険な熱さの中でクーラーがない状態が続くのは厳しい。さらに、病院の停電は死の危険を招く。実際に1人亡くなっている。電気がなければ水道も止まる。そのようなインフラが72時間どころか2週間を過ぎても未だ約2,800戸も存するのは厳しい。

そして、一般住宅の屋根の損傷については、地震対策のために屋根が軽いというのが構造的な問題と推察される。西日本では台風の風で屋根自体や瓦が飛ばないように重かったし、経験もあり、相応の対策をしていた。それが、いつからか地震対策のために屋根を軽くする傾向になり、風対策がなおざりにされてきた。

屋根が修復できないうちに雨が降れば家屋が傷む。床下浸水・床上浸水も大変だが、屋根からの浸水は柱・梁等の構造材の腐朽につながる。最近、そういう危険性を認識した設計士、ハウスメーカー工務店、屋根屋 / 瓦屋さんが少なくなったのではと思量される。

▶台風時の強風災害に対する対応 平成 27 年 7 月 京都大学防災研究所監修
▶わが家の台風対策 監修:沖縄県建築士会 平成26年5月

総合的なレジリエンス

日本には多様な自然災害が発生する。地震津波、噴火、台風(暴風、豪雨)、豪雪、極端現象(強風、竜巻、落雷、集中豪雨等)等々。それぞれで対策が異なる。地域によって、優先すべき自然災害が異なる。最近の異常気象は、従前とは発生する自然災害事象も強度も異なってきている。

そして、それぞれの災害に完全に対応することは、公共・家計とも予算制約からして無理がある。とすれば、多様な自然事象によるある程度の被害/被災を受けながらも生活・生産環境を維持しうる総合的な適応力(レジリエンス)を考える必要がある。防災・減災そして被災後のレジリエンス、今後の大きな課題である。

家庭、企業、公益企業体、基礎自治体都道府県、そして国において、それぞれになすべきリスクマネジメントの重要性を再認識する必要がある。