消えた事実、歪んだ現実

最近、国としての品格、信用を貶める事案が頻発している。時の政権、行政の都合・忖度により、国民の財産である年金、公文書、統計に重大な問題が頻発する事態になっている。

 

消えた年金問題

厚生年金・共済年金国民年金の制度間の異動及び統合、転職、結婚による名字変更、さらには記録方式の変更(紙台帳、パンチカード・磁気テープ、オンライン)の過程に於いて、データ入力等の人為ミス、社保庁職員の着服、企業の偽装脱退等も重なり、同一人の年金の支払記録が統合できずに誰のものかわからない年金記録が、平成18年8月時点で5,095万件ある事が判明した。この不明年金の内、いまなお、2,134万件が未解決状態にある(H25年6月現在)。

さらには、ずさんというか安易な年金資産運用(グリーンピア整備)による年金資産そのものの逸失も発生した。年金保険料1,953億円を投じて整備されたリゾート施設「グリーンピア」は結局運営に失敗し、全て売却するがその売却総額は、僅か約48億円であり、約1,500億円の年金そのものが費消された。

社保庁のずさんな年金記録管理、年金資産管理の本質は、組織を改廃(社保庁解体、日本年金機構設立)しただけで本当に是正されるのだろうか。

年金記録問題とは?2、日本年金機構、2015年6月1日 
結局、あの「消えた年金記録問題」とは一体なんだったのか?、MAG2NEWS、2018.05.18 
グリーンピア、ウィキペディア(Wikipedia) 

森友・加計問題

まずは、森友学園の文書改ざん問題。森友学園への国有地売却(2016年6月)に係る払い下げ価格に対する忖度問題、そしてその後における国会答弁に係る文書改ざん事案は、当該行政側に自殺者まで出ている事案であるにもかかわらず、未だ事実の全容は明らかにされることなく、政府側の盾となった佐川理財局長(当時)等はその後、国税庁長官に異動している。

偽計業務妨害の疑いで告発された佐川理財局長(当時)の法的責任について、東京地検は不起訴処分とし、その後、東京第5検察審査会も「不起訴相当」と議決したとのこと。「一般の国民感情として非常に悪質なもの」であると認定しているにもかかわらず、罪に問えないのでは、法制度の欠落ではなかろうか。

加計学園岡山理科大学に対する国家戦略特区事業としての獣医学部新設認可に係る忖度問題の事案の方は、当事者(加計学園)の国会への招致もなく、事実に基づく説明もなく、うやむやになっている。政権側の盾となった第2次安倍政権の総理秘書官を長く務めた柳瀬唯夫氏は経産省に戻り、経産審議官を経て、東芝の関連会社(ダイナブック)の非常勤取締役に天下っている。NHKの調査によると、国民の多くは納得できていない。

いまさら聞けない 森友・加計問題とは、日本経済新聞、2018.5.23 
加計学園 獣医学部新設問題、NHK NEWS WEB 
森友文書改ざん「非常に悪質」 佐川氏不起訴「相当」議決、共同通信社、2019/1/26 18:46 
加計問題で安倍首相を守った元秘書官、東芝関連会社に天下り、NEWSポストセブン、2019年01月11日 07時00分 
公文書管理制度について、内閣府 
威力業務妨害罪、司法試験用 刑事法 対策室 

 これらの事案において明らかになったのは、国民の財産に対する認識の希薄さ、公文書の認定・改ざん・存廃が恣意的にされていること、その行為者の法的責任を問えないことである。そもそも「畏敬業務妨害」云々ではなく、国民の財産である公文書類の改ざん、恣意的遺棄そのものの責任を問う仕組みがないことがおかしいのではなかろうか。

国の基幹統計問題

2019年の年明けとともに、毎月勤労統計のデータ問題が報じられ、それを契機に、国の基幹統計(56種)の4割(22種)に作成に誤りがあったと総務省が発表した。このうち、21統計は統計法違反の可能性があるとのこと。こうした基幹統計は、国の政策立案の根拠にされたり、企業の経営戦略等にも使われる。毎月勤労統計だけでも、直截的に2000万人への雇用保険労災保険給付の欠落(約600億円)と、その処理のための追加経費(約200置円)の影響が出ている。

毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する報告書について、厚生労働省、平成31年1月22日 
政府の「デタラメ統計」騒ぎ、実はGDP統計も問題だらけだった、現代、2019.01.22

民間企業の検査データ不正問題も頻発しているが、それを指導する行政自身が障害者雇用水増し問題も含め、データ不正をしていては話にならない。人は聞きたいことしか聞こえない、見たいものしか見えないと云われる。政策意思決定者、政策アドバイザー(審議会等の委員)の責任は重い。

そもそも、統計は統計理論に基づき設計され、調査のマニュアル(手続き・手順等)が整備されているはずであり、そのマニュアル通りに遂行できない原因を究明して対策を打たないと同様の問題が繰り返されるのではなかろうか。

構造的原因の一つに、レガシーな情報処理システムを指摘する声もある。かって、省庁のレガシーシステム刷新が謳われた時に統計関係のシステム刷新がされなかったのだろうか。

厚労省の「ブラック・スワン」はなぜ起こったのか  問題は「統計法違反」ではない、JB PRESS、019.1.25 
元厚労相も愕然、「毎月勤労統計」不適切調査の大罪  処理誤れば「消えた年金問題」の再来に、JB PRESS、2019.1.26 
勤労統計データ不正で揺れるなか、厚労省元事務次官の村木厚子氏がNHKで「何かの圧力がかかった」と発言、LITERRA、2019.01.23 

なぜ起こった? 国の障害者雇用水増し問題、NHK、2018年10月22日 
障害者雇用の軽視が生んだ水増し問題、日本経済新聞、2018/8/29  

【2019年1月29日、1月31日 追加】

基幹統計で新たな不正=厚労省所管で判明、計23に、2019年1月28日22:19

勤労統計不正問題で最も深刻なのは「賃⾦データの消失」だ、DIAMOND online、2019.1.31

2019年01月28日22時19分

何をなすべきか

1.オープン化
年金・税金・国有財産、公文書、記録・統計データ(原票)は国民の財産であり、一時期の為政者、担当者等による恣意的(含む忖度)な判断で左右されるべきものではない。改めて、国民自身が主権者としてこれらの重要姓を認識し、政治家・官僚はその負託を受けているという認識と矜持を持ちうるというか持たざるを得ない仕組みにすべきである。

その基本は、データと処理プロセスをオープンにして、民間人・大学等の専門家がチェックしたり、データのバックアップができる仕組みが必要ではなかろうか。さらには、総務省に置かれている統計委員会を省庁から独立した組織にすることも必要かもしれない。そのために必要な人材は今後のデータ社会に必要な統計の専門家を育てる場として見立てれば良い。

2.デジタルアーカイブ化と情報処理システムの見直し
記録、公文書、統計調査原票等は、全てデジタル化して保存すべきである。現在のIT技術、コストを鑑みれば、歴史的検証にも耐えうる期間の保存が低コストで可能である。加えて、統計情報システム(集計処理)のプログラムとマニュアルの再点検を行い、必要な改修あるいは刷新を行うべきである。最近、行政が盛んに喧伝するPDCAをこういったところでこそ自ら実施して欲しい。