「平成30年7月豪雨」が示唆すること

被害の実態と対応

2018年(平成30年)6月28日から7月8日にかけて発生し、広範囲の地域に被害をもたらした前線及び台風第7号による大雨等を気象庁が「平成30年7月豪雨」と命名(同年7月9日14:00)した。

今回の豪雨の特徴は、広い範囲における長時間に渡る記録的な大雨にある。このため、河川の氾濫、浸水害、土砂災害等が発生し、死者219名、行方不明者10名(何れも、H30.7.22 05:45現在)、及び、全国各地で断水や電話の不通、道路・鉄道の寸断等のライフラインに大きな影響をもたらした。H30.7.21 20:00現在も、避難者は13府県に渡っており、避難者総数は4,439人に上っている。鉄道の復旧も時間を要しそうである。

 

これに対して、国としての主たる対応の動きは下記の通りである。明らかに、予防的措置対応が遅れたと云わざるを得ない。
・7月5日~8日:災害救助法の適用(11府県61市38町4村)
・7月5日~8日:被災者生活再建支援法の適用(9府県、65市町村)
・7月8日 8:00:平成30年7月豪雨非常災害対策本部設置
・7月14日:特定非常災害の指定(閣議決定、同日公布・施行)
・7月15日、22日:激甚災害の指定見込みの公表

▶平成30年7月豪雨に係る自衛隊の災害派遣について(11時00分現在)、平成30年7月21日、防衛省
▶【概要版】平成30年7月豪雨による被害状況等について、平成30年7月22日 6時00分時点、非常災害対策本部
▶平成30年7月豪雨による被害状況等について(第37報)、災害情報 平成30年7月22日5:00現在 国土交通省
【追加情報】▶平成30年7月 西日本豪雨 現地調査報告、国土技術研究センター、2018/07/2

事前のリスク情報が理解されず 予防的動きを促す仕組みづくりを

堤防が決壊し浸水し大勢の避難遅れや死亡者を出した岡山県倉敷市真備町地区には、2016年時点で、想定される浸水区域や避難場所をまとめた「洪水・土砂災害ハザードマップ」(今回の浸水域とほぼ同じ)が作成・配布されていた。

しかし、地区住民にはその情報の意味、意義が伝わっていなかったようである。地区ごとに説明会等を開き、正常性バイアスに留意しつつ、情報の意味、避難行動の起こし方、避難弱者対策等を伝え、自らあるいは地区としてどう行動するか考えてもらうことが必要である。

正常性バイアス - Wikipedia

認知バイアスの一種。社会心理学災害心理学などで使用されている心理学用語で[1]、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性のこと。

自然災害火事事故事件などといった自分にとって何らかの被害が予想される状況下にあっても、それを正常な日常生活の延長上の出来事として捉えてしまい[2]、都合の悪い情報を無視したり、「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」「まだ大丈夫」などと過小評価するなどして、逃げ遅れの原因となる[3][2][4]。「正常化の偏見」[5]、「恒常性バイアス」とも言う。 

▶あなたは生き残れるタイプ?異常事態なのに逃げない人々 - 危機回避.com

 

砂防堰堤(えんてい)が機能せず 危険域からの移転を

土石流が発生し、10人以上の死者を出した広島県坂町小屋浦地区を流れる天知川には、砂防堰堤が整備されていたが、それが土石流を防ぎきれず破壊された。広島県が実施した最近の定期点検ではA、B、C、Eの4段階評価(Aが最も良い)の上から2番目のB判定「軽微な劣化や変状がみられるが、施設の機能低下はなく、経過観察を行う」だったとのこと。

このB判定の砂防堰堤が、県が管理する砂防堰堤約1700基の半分を占めるということは、今回のような土石流が派生した場合は、その機能を発揮できない危険な地域であるということを意味する。しかし、その全てをハード的に強化することは現実的ではなく、住まい方、暮らし方を変える必要がある。

 

 マスコミ、防災無線の限界 一方で、スマホ、BigDataの有効性

災害時のマスコミ報道の問題点として、全体像がわかりにくいという事がある。これに対して、ウェザーニュースが、7日より現地にいる一般人に緊急アンケートを実施し、夜までに約10,000件の回答を得てマッピングしたマップを発表した。このマップを見ると、7月7日の大雨による全国各地の浸水状況が一目で分かる。

マスコミは、断片的(切り取り絵的)な報道ではなく、こういうリアルタイムで全体像が分かる事実情報を分かり易く流して欲しいものだ。気象庁国交省のリアルデータもいまやスマホでアクセスできるし、逆に大量のスマホからデータを容易に収集できる。マスコミや聞こえにくかった防災無線にのみ頼るのではなく、スマホを前提にした情報伝達・収集システムとのフェールセーフシステムへの切り替えが急務である。

▶国土交通省:川の防災情報
▶各都道府県が公開している土砂災害危険箇所と土砂災害警戒区域、国土交通省砂防部

 

陸上交通の寸断 海の活用を、防災船導入を

今回の豪雨は大雨、洪水、土石流は陸上交通インフラの寸断をもたらし、陸上交通的には孤立した被災地域が少なくなかった。しかし、今回の被害の大きかった愛媛県広島県岡山県は瀬戸内海に面しており、海側から見れば孤立とは云えない。

わが国は、総延長約3万5千kmの長い海岸線(米国の40倍)を有する国土であり、もっと、非常時対応の機能を内在した海を活かしたまちづくりを考えるべきである。さらに、これだけ頻繁に災害が発生する時代においては、本格的な防災船の導入がなされて然るべき時期にきているのではなかろうか。全てを自衛隊に頼る訳にはいかない。

▶災害時多目的船に関する検討会 : 防災情報のページ - 内閣府

▶4.民間船舶「はくおう」を活用した支援について

防衛省がPFI方式により契約している民間船舶「はくおう」を活用し、入浴サービスの提供(入浴時間:15時00分から22時00分)、洗濯・乾燥機の利用や飲み物の提供、陸自音楽隊による船内カフェテリアでの慰問演奏等を実施」

 

土地利用計画の見直し コンパクトシティ化へ

今回の豪雨は、これまでの想定雨量、想定降雨継続時間と全く異なるものであり、ハード的な対応を主とした従来の治水対策、防災計画から、土地利用の在り方(住まい方、暮らし方)を含めたソフトな対策へと抜本的見直しを迫るものである。

人口増加時代の都市域のスプロールで危険な地域まで拡がった居住域を安全なエリアまで縮退させるべきであり、それが可能な人口減少期を迎えている。これが本当の意味でのコンパクトシティ化ではなかろうか。