子育て支援雑感

2015年12月中旬に娘が出産した。初孫である。今年の5月には息子夫婦にも子供が生まれる予定である。3人の子供を産み育て、その子供たちに2人の子供が生まれる。新アベノミクスで標榜している「希望出生率1.8」(昨年の合計特殊出生率は1.4)の達成にはもう少し孫が増える必要がある。

「ストップ少子化・地方元気戦略」(要約版)首相官邸HP

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「総活躍社会・地方創生」に向けて ~ジョブ型を超えてプロジェクト型へ

筆者は「日本専門家活動協会」を主宰し、「高齢者活躍支援協議会」にも係わっている。こうした関係で、「1億総活躍社会」と云われると、確かにそれはそうだが、どうやってその政策目標を具体的に実現するのだろうかと気になる。

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言葉の軽さ、先祖返り

「3本の矢」のKPI、PDCAが回りきらぬ内に、「新・3本の矢」が打ち出された。「女性活躍社会」が加速する前に、新たに「1億総活躍社会」が打ち出された。言葉を覆い被せ、責任もとらず、前の言葉を忘却の彼方に消し去る。公言した言葉に重みがない。

アベノミクス「3本の矢」、首相官邸 アベノミクス「新3本の矢」を読み解く、日本経済新聞、2015/9/25

「女性活躍」は、まやかし~産めよ働けよの圧力 特別鼎談:「女性活躍社会」のウソとホント(上)2015年1月16日女性活躍加速のための重点方針2015、すべての女性が輝く社会づくり本部、平成27年6月26日

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大磯を歩く

2015年9月20日(日)、快晴の中、神奈川県の大磯町を歩いた。大磯町は、「湘南発祥の地」である。江戸時代は日本橋から約70km付近に位置し、8番目の宿場町であった。そして、明治期に入ると、「日本最初の海水浴場」が開設(明治18年)され、多くの著名人もその居を構えた歴史漂う東京の箱庭的癒やしの場所である。

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海路による帰省と海から考える地方創生

今年も例年通り、お盆に帰省した。今年は久しぶりに往路・復路とも、オーシャン東九フェリーを利用した。直前の7月末に、北海道・苫小牧沖で長距離カーフェリー「さんふらわあだいせつ」の火災事故は発生したばかりであったが。

2015年8月1日 カーフェリー「さんふらわあだいせつ」苫小牧沖での火災発生について、商船三井フェリー

オーシャン東九フェリーは、東京-徳島-北九州を結ぶ長距離フェリーで、東京-徳島間は海路650km、19時間20分の船旅となる。今回の船のタイプは全員2段ベッドのカジュアルタイプである。乗船後に、船員に聞くと、船速は約40Km/時とのこと。かって、実験船のTSL(テクノスーパーライナー)で100km/時の早さを体験したことがあるが、この大きさと運賃にしてはなかなかのスピードである。

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新国立競技場騒動から見えたもの

新国立競技場の建設が揺れている。そもそも、建設以前に、旧国立競技場(正式名称:国立霞ヶ丘競技場陸上競技場)の解体工事の発注段階からいろいろ腑に落ちない事が続いていた。そして、壊した後に、いよいよ着工の段階になって、今度は建設コストの問題である。多方面からの批判が高まり、結局、計画を白紙に戻し、コンペをやり直すという事態に至った。

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東村山菖蒲まつりと八国山緑地

尾瀬水芭蕉(2015/06/02 火曜日)に続いて、週末(2015/06/06 土曜日)は、東村山市の「菖蒲」を観に行った。丁度、この日から約2週間[2015/06/06(土)~6/21(日)]、北山公園菖蒲園で、「第27回東村山菖蒲まつり」が開催されるとのこと。今回で2度目である。

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尾瀬を歩き 水上温泉に泊まる

事前のアクセス調査

2015年6月2日(火)、水上温泉に宿泊する機会を得たので、旅館に行く前に、一度は行ってみたかった尾瀬に立ち寄ることにした。現地の人に訊くと、今週の土曜日(6/6)あたりがピークだろうとのことで、雪解け後、ピーク直前、梅雨前ということで絶好のタイミングだった。

初めての尾瀬なので、事前にサイトでアクセス方法などを調べたが、これがよく分からない。ようやく、いろんなサイトを眺めて、次のサイトで全貌を粗々つかむことができた。 ▼ハイキングコース・マップ

今回は初めてなのと、水上温泉で泊まることを考え、案内コースの中の「定番!鳩待峠から歩く尾瀬ヶ原(歩行:3~7時間)」を選んだ。コースを選んだのは良いが、車でどこまで行けば良いのが不明。これもあれこれサイトを眺めて下記のサイトにたどり着き、戸倉に行けば良いことが分かった。 ▼尾瀬へのアクセス

しからば、戸倉のどこに行けば良いのか、これまた不明。しばし、サイトをあちこち探し、下記サイトの図を発見。 ▼【尾瀬第1駐車場・尾瀬第2駐車場】【スノーパーク尾瀬戸倉駐車場】

駐車場から尾瀬への入口となる鳩待峠への行き方は、さらに別のサイトのある農家民宿風のサイトの説明書きを読んでようやく理解できた。 ▼尾瀬への行き方!

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日本有数の観光地でありながら、ポータルサイトがなく、キュレーションもない。日本の各地の観光地サイトによるある話で、地元の関係者にとっては分かりきっていることかもしれないが、外部から初めて行く者にとって最低限知りたい情報がなかなか見つからない。インバウンド2,000万人と謳う前に、まずは来訪者の目で観光案内サイトを見直すことが必要と再認識。

尾瀬を歩く

とにかく、戸倉の駐車場(群馬県利根郡片品村戸倉766-1)まで行けば良いと云うことが分かり、自宅を7:30に出発した。今回も、カーナビはスマートフォン・アプリのYahoo!カーナビを使用した。この無料カーナビソフトはいまやVICS情報も反映する優れもの。車のシガーソケットから充電できるUSBポート付きのシガーチャージャーがあればスマートフォンの電池切れの心配もない。

所沢ICから関越自動車道に乗り、沼田ICで降り、10:00前に尾瀬の麓にある戸倉の駐車場に着いた。既に第一駐車場は満杯で、第二駐車場に廻される。マイカーの乗り入れ規制がされているので、ここでバスか乗り合いタクシーに乗り換え、鳩待峠まで行く。これは、交通計画論的に云えば、Park & Ride 方式である。この日は、9人ほど集まった段階で乗り合いタクシーで出発し、10:45頃に鳩待峠に着く。この乗り合いタクシー(9人乗り)は海外の観光地でよく見かける車と同じである。

この乗り合いタクシーは路線が規定されての認可らしいが、地方の買い物難民、病院難民等、そして観光地めぐりの足回り確保という観点から、もっと全国各地に柔軟な形態での普及が望まれる仕組みである。

既に、鳩待峠はそれなりに賑わっている。すでに歩き終わって帰ってきている人達もいる。

出発前の鳩待峠

10:55。いよいよ、鳩待峠からまずは湿原への入口にある山の鼻ビジターセンターをめざす。「ブナ林の軽い下り」と案内サイトにはあったが実際は結構な下りの坂道が続く。膝と太ももに負担がかかる。雨が降っていれば滑りそうな感じがする。道ばたの日陰部分には所々、雪の塊が残っている。距離約3.3Km、所要時間ほぼ1時間。12:00頃、山の鼻ビジターセンターに到着。

山の鼻ビジネスセンター

山の鼻ビジターセンターで、トイレ休憩し、すぐにUターン場所と決めていた牛首分岐をめざす。いわゆる尾瀬の風景らしい湿原の中を木の板が敷かれた道を散策しながら歩く。2.2kmを約45分で到着する。ここでUターンするはずが、その先に拡がる更なる湿原に惹かれ、そのまま先に進む。

段々と人が少なくなり、ひたすら先に進むこと、約30分。山小屋が見えてきた。13:30、竜宮十字路にある山小屋に到着。ここで、昼食のおにぎりをほおばり、引き返す。

竜宮十字路の山小屋

帰りはひたすら歩き、山の鼻ビジネスセンターに15:00頃到着。しばし、アイスクリームを食べながら最後の休憩。

山の鼻ビジネスセンターから鳩待峠の帰り道は、上りの坂道が延々と続く。疲れた足にはきつい。休むと疲れが一気に出そうな気がするので、休まずひたすら歩き続ける。難行苦行の境地。この時間になると、すれ違う人は滅多にいない。この時間に降りていく人は山小屋で泊まる人であろう。

帰り道、ふと観ると、川の護岸や橋の橋脚に蛇籠が使われているのに気がついた。自然の水の流れをコンクリート固めでなく自然物で制御する伝統的工法が国立公園には似合う。

さらに、よく分からない鐘が設置されているのに気がついた。何の鐘か、鳴らして良いものかも良く分からなかったが、せっかくだからと、恐る恐る鳴らしてみた。帰ってきてサイトを調べてみると、その鐘は丁度その日に設置されたばかりの熊鐘(クマに人間の存在を知らせるための鐘)とのこと。そう言えば、同じ音色の鐘をつけた人と時々すれ違っていたののを思い出した。

 [尾瀬保護財団のサイトからの転載]

こうして、15:45頃、鳩待峠に帰ってきた。全行程15.4km、所要時間約5時間弱、実際に歩いた時間は約4時間強。殆ど休憩せずに歩いたため、さすがに疲労感を感じる。帰りのバスの時間、旅館の夕食の時間を気にしなければ、もう少しゆっくり散策した方が良かったかもしれない。

帰ってきた時の鳩待峠

鳩待峠のバス・乗り合いタクシー

鳩待峠はバス・乗り合いタクシーと人でざわめいている。急いで、バスのチケットを購入し、出発間際の乗り合いタクシーに乗り込む。16:30、戸倉の駐車場に到着。尾瀬の散策が終わる。6月始めにしてはTシャツで歩けるほど気温は高く、すっかり日焼けした。

水上温泉

戸倉から再び、沼田ICに向かい、関越自動車道に乗り、水上ICで降り、18:00頃、水上温泉にある予約していた旅館につく。なかなか大きな旅館である。聞けば、約300室、900人ほど収容できるとのこと。すぐ、汗を流し、疲れを癒やすため、旅館の温泉に入る。3種類ほどの温泉場があったが、まずは一番大きな「月あかりの湯」に入る。この旅館は源泉を4本持ち、当然、温泉はすべて源泉掛け流しとのこと。

温泉に浸ったあと、19:00からの夕食に向かう。夕食はハーフバイキング。しかし、このレベルの旅館にしては、いまいち。なんか、すべてが中途半端は感じがした食事であった。食後、部屋に帰り、少し休んでから、もう一度温泉に入ろうと思っていたが、そのまま寝込んでしまった。

翌日(6/3)早朝、温泉に行く。昨日の晴天と打って変わって、雨が降っている。建物が増築を繰り返しているため、温泉への行き方が分からない。フロントの方に案内を請う。まず、一番新しいと教えられた「蛍あかりの湯」に入る。和風造りのどっしりした構造でなかなか良い。続いて、庭を眺めながら「めぐり湯回廊」なるものを通って「火あかりの湯」に行く。こちらの少し年数を重ねた木構造もなかなか良い。温泉と庭園が売りの旅館だけあって、温泉から眺める庭が良い。雨に打たれた緑が美しい。

温泉から上がってきて、朝食に行く。朝食は「農家レストラン」と銘打って、野菜主体のバイキングであった。野菜しゃぶしゃぶを始め、いろんな野菜料理が並んでいる。昨夜の夕食はいまいちであったが、この朝食は良い。残念なのは、田舎育ちの者にとっても、野菜の名前がわからない。野菜の産地と名前がポップされていれば、良かったと思う。「ぐんま地産地消推進旅館」に認定されており、恐らく地場産品を使っていると思われるが、そうだとすれば、ここでしか味わえない食材と食べ方であることをもっとアピールすれば良い。6次産業化の仕組みも最後の消費者との接点で情報が伝わらなくては意味がない。良い仕組みなのにもったいない。

雨が降っているため、庭園の散策もあきらめ、お土産の地酒を買って、旅館を出る。 旅館を出た帰り道、近くの道の駅「水紀行館」に立ち寄る。その売り場で野菜を眺めていて、朝食で食べた野菜の名前が判明した。

その後は、SA毎に散策しながら、高速道路で帰路につく。雨が車の汚れを流してくれる。尾瀬には、山小屋に泊まり、時間を気にせずゆっくり散策してみたい。それまでに、しっかり足腰を鍛え直しておかなければと思う旅であった。

実態と仕組みのギャップ拡大 その1:空間利用

最近、いろんな場面で、仕組みと実態のギャップが大きくなっている感がする。仕組みには、旧来の仕組みだけでなく、新しくつくられた仕組みも含まれる。時代の節目となっている今、基底に流れる時代構造の変化の本質を捉え、実態とのギャップを解消するた仕組みの見直し・創造が求められている。「規制緩和」ではなく、仕組みそのものの「仕立て直し」である。今回は、そのなかでも特にギャップが大きい空間利用に関して述べる。

土地利用

現在、地方創生が重要な政策課題とされ、その中において農林水産業という地場産業の活性化が喧伝されているが、その際の大きな問題が土地利用に関する私権と規制である。そもそも、我が国において現在に通じる土地の私権(特に、所有権)は、明治期の地租改正を経て確立した。そして、土地利用に関する現在に通じる規制は、戦後以降の急速な人口増大に伴う都市域のスプロールを如何にしてコントロールするかにあった。

しかし、今は、総人口の減少過程に入り、土地の所有から利用へ、土地利用の抑制から効果的な利活用へと、時代の要請は変化してきている。建築物、まち空間、農地・林地空間は利用し手入れを継続的に行われないと、朽ちたり荒れる。逆に、適切に利用され手入れがなされると、時代を経ると共に文化財的価値を帯びてくる。文化財は重要な観光資源であり、ハードを新たにつくるよりも遙かに低コストで地方の持続的活性化に資する。

そうした実態と仕組みとのギャップの現れが空き家であり、耕作放棄地であり、手入れができていない山林である。手入れができていない山林(特に、里山)の荒廃は、川を通じて海にも影響する。こうした視点で、市街化区域であれ、調整区域であれ、白地であれ、抜本的に土地利用に関する仕組みの見直しが求められている。巷間云われる6次産業化云々もこうした土地利用に関する仕組みを変えないと実効が伴わない。

都市・農村における土地利用の計画と規制、参議院国土交通委員会調査室、2006年我が国の土地利用の課題と展望(これからの土地利用を考える懇談会 報告書) 、国土交通省 土地・水資源局、平成20年7月

住 宅

総人口減少、世帯数減少の影響を最も受けるのが住宅であるが、これまた、実態と仕組みのギャップが大きい。空き家が急増している一方で、新築住宅の大量供給(いまでも年間約90万戸)も続いている。まち中の古い住宅の跡地を業者が買い取り、土地を細分化して従前よりも小さな住宅を建て販売する状態が続いている。

住宅は普通の人は一生に一度あるかないかの高額な買い物であるが、その品質はブラックボックスである。「住宅の品質確保の促進等に関する法律」があるが、所詮、初期性能の書類審査が基本である。住宅は当然ながら経年劣化するが、その品質の検証ができない。仕組みもない。そして、経年的な品質状態(使用価値、物理的価値等)と関係なく、市場・税制上の資産価値はゼロ化する(例えば、木造住宅であれば実質20年)。一方で、資産価値ゼロになる期間を超えて、35年ローン(フラット35)なるものが販売されている。こうしたローンは売りやすくなるため、供給側・金融機関にとっては良い仕組みだが、需要側にとっては人生のリスクを内包する仕組みとなる。

「老後破産」しないための回避術 住宅ローン、浪費癖、無謀なライフスタイル…

例えば、自動車の中には数多くのセンサーがキーパーツとして組み込まれ、何時でもその性能把握が可能となっている。然るに、住宅は、自動車よりも高額で使用年数が長いにも関わらず、なんらのセンサーが組み込まれていない。見た目でのゆがみ、ねじれ、腐朽等しかない。住宅(特に、構造躯体)の経年的品質を常時把握できる技術的仕組みを組み込み、住宅の流通財としての評価の科学化・健全化を図らなければ、中古住宅の流通市場の成立はおぼつかない。

人口急減時代に急がれる中古住宅市場の活性化、ケンプラッツ、2015/05/15

上 空

最近、技術の進歩が社会の仕組みに大きな影響を及ぼしそうな状態になりつつあるのが、無人航空機・飛翔体(ドローン)である。各種資料によると、現在の航空法は、基本的に航空機を「人が乗り込んで操縦するもの」という前提で制定され、農薬散布などに使われる大型ラジコンなどを想定した法律を持っている程度である。

特に、都市域の上空において、こうした交通物(超小型のドローン)が飛び交うことはこれまで想定していなかった事象であり、当然、仕組みそのものがない。「航空法に照らし、航空機の飛行ルートに当たる場所では地上から150mまで、それ以外の場所では250mまで、国へ通知することなくドローンを飛ばすことができる。」(出典:ドローンとは何か?価格は?誰でも購入できる販売実態が明らかに)との。同じことが、公道上の無人自動車でも起きている。

従って、米国のホワイトハウスの敷地内にドローンが墜落したり、日本の首相官邸の屋上で無人機が墜落していたり、その後も各地でドローンによる騒動が起きているが、「空の産業革命」と云われるほど、そのもたらす影響が大きい。下記のサイトを見ていると、実態の進歩が早く、仕組みが追いついていけないのがよく分かる。

すごい未来がやってくる!無人飛行機(ドローン)が今、アツいドローン初体験の小泉進次郎政務官『ゼロリスクはありえない』(発言全文)ドローン産業で日本は大きく出遅れ!? 米連邦航空局とグーグル・アマゾンは急接近、DIAMOND Online、2015年5月18日目が離せない!ドローンの商用利用とその市場の可能性、GE REPORTS JAPAN、May 13, 2015

こうした新たな技術によるイノベーションのリーディングプレーヤーはAmazonであり、Googleであり、従来のプレーヤーとは異なる。ビジネス化の仕方を含めて世界のデファクトスタンダード獲得競争を睨みつつ、日本としても新たな仕組みづくりが急がれる。

東洋ゴム工業の免震ゴム偽装問題

建築物の安全性に関わる偽装問題が再び露見し、ユーザに不安と不信感を与えている。地震に対する耐震技術には、剛性で地震力に耐える狭義の「耐震」地震力をダンパーで吸収し揺れを抑制する「制震」と、今回の偽装事案の「免震」でこれは基礎と建物の間に積層ゴム等を入れ地震動が建物に伝わらないようにするものである。

偽装事件の概要

報道等によると、事件の概要は以下の通りである。

2014年2月、東洋ゴム工業の子会社の東洋ゴム加工品㈱が、高減衰ゴム系積層ゴム支承の一部製品の性能評価(性能データ)を偽装し、大臣認定を不正取得していた。その事実は、10年間、1人で免震ゴムの試験データを管理していた担当者の変更を契機に認識されていたが、1年後の2015年2月9日に国交省に報告した。

関連報道等 ▼「建築用免震積層ゴムの一部製品」に関するお詫びとお知らせ、東洋ゴム工業(株)HP

プレスリリース 当社が製造した建築用免震積層ゴムの国土交通大臣認定不適合等について、東洋ゴム工業(株)、2015年3月13日

東洋ゴム 免震ゴム偽装、橋も調査 国交省「問題ない可能性高い」、NAVERまとめ、2015年04月11日

防災拠点がなぜ「東洋ゴム免震事件」に巻き込まれたのか──『耐震偽装』の著者が分析(前編)、日経BP社、2015年 4月10日

国交省の「東洋ゴム免震事件」対応は適切だったか──『耐震偽装』の著者が解説(中編)、日経BP社、2015年 4月14日

忘れられていた宿題が「東洋ゴム免震事件」で再浮上──『耐震偽装』の著者が提言(後編)、日経BP社、2015年 4月16日

東洋ゴム工業(株)については、かってチリにJICA調査で訪れていた時に、露天掘りの銅鉱山で使用されたいる巨大な運搬用トラックの大きなタイヤに採用されていたことや、その使用済みのタイヤが外貿港の接岸時のクッションとして最適だと評されていたのを記憶していただけに、今回の事態は残念である。

問題その1 偽装の疑いを認識した時点で何故、公表しなかったのか

一度導入すれば取り替えに時間とコストを要する免震装置製品に対する偽装認識の疑いが社内的に確認されていたにもかかわらず、情報開示なしに販売し続けるのはユーザに対する背信行為であり、株主にに対する情報開示の面から云っても問題である。このようなリスク情報の取扱は、リスクマネジメント上、大いに問題である。品質管理、リスクマネジメントを、組織としてできない製品をメーカーとして取り扱うべきではない。

問題その2 どちらを向いた説明なのか

プレスリリースを見る限り、大臣認定取得上の偽装項目説明のみで、それによる建物(建築主、所有者)、及びユーザー(居住者、利用者)にとって問題となる不具合現象の説明が一切ない。こうした説明で、建築物のユーザー等は果たしてリスクの程度を認識できるのであろうか。説明責任を果たすべき相手は、まずは、製品を購入したり、使用しているユーザー等ではなかろうか。更に云えば、製品購入・導入を検討しているユーザーではなかろうか。

その観点から云えば、未だに何故、一部の物件は非公表なのか。その理由を説明して欲しいものである。2005年の姉歯建築設計事務所による構造計算書偽造問題(耐震偽装問題)と比べて明らかに対応は異なる。こうした対応は、いたづらに不安をあおるだけである。リスクコミュニケーション上、不適切な対応と云わざるを得ない。

失敗知識データベース 失敗事例 耐震強度偽装発覚

問題その3 検証・説明は十分なのか

制震装置の基本特性である水平バネ定数、減衰定数のばらつきが許容範囲を超えていたということであるがあるが、その点だけに関する検証で果たして十分といえるのであろうか。その偽装された性能の下で、偽装項目ではなかったとして言及のない各種依存性(経年変化、温度変化、ひずみ依存、クリープ量)の基準値が本当に妥当性を有することが担保されているのであろうか。

更に、品質管理体制の不備についても言及されていないがそれで許されるのか。一人の担当者の問題ではなく、そういう体制に長く留め置いた組織に問題があるとの認識がない。

問題その4 大臣認定基準とは何か

偽装製品を使用した建物について、「震度 6 強から震度 7 程度の地震に対しても倒壊しない構造であることを確認した」と発表(H27年3月30日)しているが、それならば大臣認定の基準とは何か、はなはだ疑問である。

        震度 6 強から 7 程度の最大級の地震に対する免震層の変形量 免震層の変形= ----------------------------------------------------------------------               建築物の壁と擁壁との間の距離

の余裕が全くなくても許されるのか。地震という自然現象を対象とする設計基準としては疑問である。非公表物件②-1の上記変形値は、99.6%である。その外にも3件ほど90%超の物件がある。地震動の大きさの分散、気温によっては100%を超え、隣接物件(擁壁、建築物等)にぶつかるのではなかろうか。大きな構造物がぶつかると云うことは破損等を契機とする重大な二次被害が当然に予想される。

プレスリリース 大臣認定不適合が判明した当社製免震ゴムの納入先建築物における「満たすべき安全性」の確認について、平成27年3月30日

問題その5 過去の教訓が何故活かされないのか

同社は、過去にも 断熱パネルの性能偽装(2007年11月)を起こし、コンプライアンスの強化を図ったとされていた。今回の事件の発生はそうしたコンプライアンスが根付いていなかったという証左である。何故、同じ失敗を繰り返したのか、本当の意味で失敗に学んで欲しい。

東洋ゴム、教訓生かせず 07年にも耐火性能偽装、日本経済新聞 電子版、2015/3/17

問題その6 指定性能評価機関の評価の仕組み

建築物に係るこうした機材の性能をはたして書類審査だけで評価することで可能なのであろうか。大臣認定の取消、当該装置の取り替え程度で許されていいのであろうか。 加えて、こうした装置は地震等による建築物の構造的劣化を抑え、長寿命化にも資するものであり、初期性能以上に経年的性能の方がより重要である。建築物に使用される機材についてそのような評価が適正になされているのであろうか。

いずれにしても、人命に影響する製品については、供給するメーカー側の品質管理、リスクマネジメントが組織の最重要項目として認識され実行されることが不可欠であり、それを担保できないときは市場から退場すべきである。地震大国日本の地震による被害を軽減すべき真摯に努力している他社メーカーの足を引っ張るべきではない。