海路による帰省と海から考える地方創生

今年も例年通り、お盆に帰省した。今年は久しぶりに往路・復路とも、オーシャン東九フェリーを利用した。直前の7月末に、北海道・苫小牧沖で長距離カーフェリー「さんふらわあだいせつ」の火災事故は発生したばかりであったが。

2015年8月1日 カーフェリー「さんふらわあだいせつ」苫小牧沖での火災発生について、商船三井フェリー

オーシャン東九フェリーは、東京-徳島-北九州を結ぶ長距離フェリーで、東京-徳島間は海路650km、19時間20分の船旅となる。今回の船のタイプは全員2段ベッドのカジュアルタイプである。乗船後に、船員に聞くと、船速は約40Km/時とのこと。かって、実験船のTSL(テクノスーパーライナー)で100km/時の早さを体験したことがあるが、この大きさと運賃にしてはなかなかのスピードである。

続きを読む

新国立競技場騒動から見えたもの

新国立競技場の建設が揺れている。そもそも、建設以前に、旧国立競技場(正式名称:国立霞ヶ丘競技場陸上競技場)の解体工事の発注段階からいろいろ腑に落ちない事が続いていた。そして、壊した後に、いよいよ着工の段階になって、今度は建設コストの問題である。多方面からの批判が高まり、結局、計画を白紙に戻し、コンペをやり直すという事態に至った。

続きを読む

東村山菖蒲まつりと八国山緑地

尾瀬水芭蕉(2015/06/02 火曜日)に続いて、週末(2015/06/06 土曜日)は、東村山市の「菖蒲」を観に行った。丁度、この日から約2週間[2015/06/06(土)~6/21(日)]、北山公園菖蒲園で、「第27回東村山菖蒲まつり」が開催されるとのこと。今回で2度目である。

続きを読む

尾瀬を歩き 水上温泉に泊まる

事前のアクセス調査

2015年6月2日(火)、水上温泉に宿泊する機会を得たので、旅館に行く前に、一度は行ってみたかった尾瀬に立ち寄ることにした。現地の人に訊くと、今週の土曜日(6/6)あたりがピークだろうとのことで、雪解け後、ピーク直前、梅雨前ということで絶好のタイミングだった。

初めての尾瀬なので、事前にサイトでアクセス方法などを調べたが、これがよく分からない。ようやく、いろんなサイトを眺めて、次のサイトで全貌を粗々つかむことができた。 ▼ハイキングコース・マップ

今回は初めてなのと、水上温泉で泊まることを考え、案内コースの中の「定番!鳩待峠から歩く尾瀬ヶ原(歩行:3~7時間)」を選んだ。コースを選んだのは良いが、車でどこまで行けば良いのが不明。これもあれこれサイトを眺めて下記のサイトにたどり着き、戸倉に行けば良いことが分かった。 ▼尾瀬へのアクセス

しからば、戸倉のどこに行けば良いのか、これまた不明。しばし、サイトをあちこち探し、下記サイトの図を発見。 ▼【尾瀬第1駐車場・尾瀬第2駐車場】【スノーパーク尾瀬戸倉駐車場】

駐車場から尾瀬への入口となる鳩待峠への行き方は、さらに別のサイトのある農家民宿風のサイトの説明書きを読んでようやく理解できた。 ▼尾瀬への行き方!

0003

日本有数の観光地でありながら、ポータルサイトがなく、キュレーションもない。日本の各地の観光地サイトによるある話で、地元の関係者にとっては分かりきっていることかもしれないが、外部から初めて行く者にとって最低限知りたい情報がなかなか見つからない。インバウンド2,000万人と謳う前に、まずは来訪者の目で観光案内サイトを見直すことが必要と再認識。

尾瀬を歩く

とにかく、戸倉の駐車場(群馬県利根郡片品村戸倉766-1)まで行けば良いと云うことが分かり、自宅を7:30に出発した。今回も、カーナビはスマートフォン・アプリのYahoo!カーナビを使用した。この無料カーナビソフトはいまやVICS情報も反映する優れもの。車のシガーソケットから充電できるUSBポート付きのシガーチャージャーがあればスマートフォンの電池切れの心配もない。

所沢ICから関越自動車道に乗り、沼田ICで降り、10:00前に尾瀬の麓にある戸倉の駐車場に着いた。既に第一駐車場は満杯で、第二駐車場に廻される。マイカーの乗り入れ規制がされているので、ここでバスか乗り合いタクシーに乗り換え、鳩待峠まで行く。これは、交通計画論的に云えば、Park & Ride 方式である。この日は、9人ほど集まった段階で乗り合いタクシーで出発し、10:45頃に鳩待峠に着く。この乗り合いタクシー(9人乗り)は海外の観光地でよく見かける車と同じである。

この乗り合いタクシーは路線が規定されての認可らしいが、地方の買い物難民、病院難民等、そして観光地めぐりの足回り確保という観点から、もっと全国各地に柔軟な形態での普及が望まれる仕組みである。

既に、鳩待峠はそれなりに賑わっている。すでに歩き終わって帰ってきている人達もいる。

出発前の鳩待峠

10:55。いよいよ、鳩待峠からまずは湿原への入口にある山の鼻ビジターセンターをめざす。「ブナ林の軽い下り」と案内サイトにはあったが実際は結構な下りの坂道が続く。膝と太ももに負担がかかる。雨が降っていれば滑りそうな感じがする。道ばたの日陰部分には所々、雪の塊が残っている。距離約3.3Km、所要時間ほぼ1時間。12:00頃、山の鼻ビジターセンターに到着。

山の鼻ビジネスセンター

山の鼻ビジターセンターで、トイレ休憩し、すぐにUターン場所と決めていた牛首分岐をめざす。いわゆる尾瀬の風景らしい湿原の中を木の板が敷かれた道を散策しながら歩く。2.2kmを約45分で到着する。ここでUターンするはずが、その先に拡がる更なる湿原に惹かれ、そのまま先に進む。

段々と人が少なくなり、ひたすら先に進むこと、約30分。山小屋が見えてきた。13:30、竜宮十字路にある山小屋に到着。ここで、昼食のおにぎりをほおばり、引き返す。

竜宮十字路の山小屋

帰りはひたすら歩き、山の鼻ビジネスセンターに15:00頃到着。しばし、アイスクリームを食べながら最後の休憩。

山の鼻ビジネスセンターから鳩待峠の帰り道は、上りの坂道が延々と続く。疲れた足にはきつい。休むと疲れが一気に出そうな気がするので、休まずひたすら歩き続ける。難行苦行の境地。この時間になると、すれ違う人は滅多にいない。この時間に降りていく人は山小屋で泊まる人であろう。

帰り道、ふと観ると、川の護岸や橋の橋脚に蛇籠が使われているのに気がついた。自然の水の流れをコンクリート固めでなく自然物で制御する伝統的工法が国立公園には似合う。

さらに、よく分からない鐘が設置されているのに気がついた。何の鐘か、鳴らして良いものかも良く分からなかったが、せっかくだからと、恐る恐る鳴らしてみた。帰ってきてサイトを調べてみると、その鐘は丁度その日に設置されたばかりの熊鐘(クマに人間の存在を知らせるための鐘)とのこと。そう言えば、同じ音色の鐘をつけた人と時々すれ違っていたののを思い出した。

 [尾瀬保護財団のサイトからの転載]

こうして、15:45頃、鳩待峠に帰ってきた。全行程15.4km、所要時間約5時間弱、実際に歩いた時間は約4時間強。殆ど休憩せずに歩いたため、さすがに疲労感を感じる。帰りのバスの時間、旅館の夕食の時間を気にしなければ、もう少しゆっくり散策した方が良かったかもしれない。

帰ってきた時の鳩待峠

鳩待峠のバス・乗り合いタクシー

鳩待峠はバス・乗り合いタクシーと人でざわめいている。急いで、バスのチケットを購入し、出発間際の乗り合いタクシーに乗り込む。16:30、戸倉の駐車場に到着。尾瀬の散策が終わる。6月始めにしてはTシャツで歩けるほど気温は高く、すっかり日焼けした。

水上温泉

戸倉から再び、沼田ICに向かい、関越自動車道に乗り、水上ICで降り、18:00頃、水上温泉にある予約していた旅館につく。なかなか大きな旅館である。聞けば、約300室、900人ほど収容できるとのこと。すぐ、汗を流し、疲れを癒やすため、旅館の温泉に入る。3種類ほどの温泉場があったが、まずは一番大きな「月あかりの湯」に入る。この旅館は源泉を4本持ち、当然、温泉はすべて源泉掛け流しとのこと。

温泉に浸ったあと、19:00からの夕食に向かう。夕食はハーフバイキング。しかし、このレベルの旅館にしては、いまいち。なんか、すべてが中途半端は感じがした食事であった。食後、部屋に帰り、少し休んでから、もう一度温泉に入ろうと思っていたが、そのまま寝込んでしまった。

翌日(6/3)早朝、温泉に行く。昨日の晴天と打って変わって、雨が降っている。建物が増築を繰り返しているため、温泉への行き方が分からない。フロントの方に案内を請う。まず、一番新しいと教えられた「蛍あかりの湯」に入る。和風造りのどっしりした構造でなかなか良い。続いて、庭を眺めながら「めぐり湯回廊」なるものを通って「火あかりの湯」に行く。こちらの少し年数を重ねた木構造もなかなか良い。温泉と庭園が売りの旅館だけあって、温泉から眺める庭が良い。雨に打たれた緑が美しい。

温泉から上がってきて、朝食に行く。朝食は「農家レストラン」と銘打って、野菜主体のバイキングであった。野菜しゃぶしゃぶを始め、いろんな野菜料理が並んでいる。昨夜の夕食はいまいちであったが、この朝食は良い。残念なのは、田舎育ちの者にとっても、野菜の名前がわからない。野菜の産地と名前がポップされていれば、良かったと思う。「ぐんま地産地消推進旅館」に認定されており、恐らく地場産品を使っていると思われるが、そうだとすれば、ここでしか味わえない食材と食べ方であることをもっとアピールすれば良い。6次産業化の仕組みも最後の消費者との接点で情報が伝わらなくては意味がない。良い仕組みなのにもったいない。

雨が降っているため、庭園の散策もあきらめ、お土産の地酒を買って、旅館を出る。 旅館を出た帰り道、近くの道の駅「水紀行館」に立ち寄る。その売り場で野菜を眺めていて、朝食で食べた野菜の名前が判明した。

その後は、SA毎に散策しながら、高速道路で帰路につく。雨が車の汚れを流してくれる。尾瀬には、山小屋に泊まり、時間を気にせずゆっくり散策してみたい。それまでに、しっかり足腰を鍛え直しておかなければと思う旅であった。

実態と仕組みのギャップ拡大 その1:空間利用

最近、いろんな場面で、仕組みと実態のギャップが大きくなっている感がする。仕組みには、旧来の仕組みだけでなく、新しくつくられた仕組みも含まれる。時代の節目となっている今、基底に流れる時代構造の変化の本質を捉え、実態とのギャップを解消するた仕組みの見直し・創造が求められている。「規制緩和」ではなく、仕組みそのものの「仕立て直し」である。今回は、そのなかでも特にギャップが大きい空間利用に関して述べる。

土地利用

現在、地方創生が重要な政策課題とされ、その中において農林水産業という地場産業の活性化が喧伝されているが、その際の大きな問題が土地利用に関する私権と規制である。そもそも、我が国において現在に通じる土地の私権(特に、所有権)は、明治期の地租改正を経て確立した。そして、土地利用に関する現在に通じる規制は、戦後以降の急速な人口増大に伴う都市域のスプロールを如何にしてコントロールするかにあった。

しかし、今は、総人口の減少過程に入り、土地の所有から利用へ、土地利用の抑制から効果的な利活用へと、時代の要請は変化してきている。建築物、まち空間、農地・林地空間は利用し手入れを継続的に行われないと、朽ちたり荒れる。逆に、適切に利用され手入れがなされると、時代を経ると共に文化財的価値を帯びてくる。文化財は重要な観光資源であり、ハードを新たにつくるよりも遙かに低コストで地方の持続的活性化に資する。

そうした実態と仕組みとのギャップの現れが空き家であり、耕作放棄地であり、手入れができていない山林である。手入れができていない山林(特に、里山)の荒廃は、川を通じて海にも影響する。こうした視点で、市街化区域であれ、調整区域であれ、白地であれ、抜本的に土地利用に関する仕組みの見直しが求められている。巷間云われる6次産業化云々もこうした土地利用に関する仕組みを変えないと実効が伴わない。

都市・農村における土地利用の計画と規制、参議院国土交通委員会調査室、2006年我が国の土地利用の課題と展望(これからの土地利用を考える懇談会 報告書) 、国土交通省 土地・水資源局、平成20年7月

住 宅

総人口減少、世帯数減少の影響を最も受けるのが住宅であるが、これまた、実態と仕組みのギャップが大きい。空き家が急増している一方で、新築住宅の大量供給(いまでも年間約90万戸)も続いている。まち中の古い住宅の跡地を業者が買い取り、土地を細分化して従前よりも小さな住宅を建て販売する状態が続いている。

住宅は普通の人は一生に一度あるかないかの高額な買い物であるが、その品質はブラックボックスである。「住宅の品質確保の促進等に関する法律」があるが、所詮、初期性能の書類審査が基本である。住宅は当然ながら経年劣化するが、その品質の検証ができない。仕組みもない。そして、経年的な品質状態(使用価値、物理的価値等)と関係なく、市場・税制上の資産価値はゼロ化する(例えば、木造住宅であれば実質20年)。一方で、資産価値ゼロになる期間を超えて、35年ローン(フラット35)なるものが販売されている。こうしたローンは売りやすくなるため、供給側・金融機関にとっては良い仕組みだが、需要側にとっては人生のリスクを内包する仕組みとなる。

「老後破産」しないための回避術 住宅ローン、浪費癖、無謀なライフスタイル…

例えば、自動車の中には数多くのセンサーがキーパーツとして組み込まれ、何時でもその性能把握が可能となっている。然るに、住宅は、自動車よりも高額で使用年数が長いにも関わらず、なんらのセンサーが組み込まれていない。見た目でのゆがみ、ねじれ、腐朽等しかない。住宅(特に、構造躯体)の経年的品質を常時把握できる技術的仕組みを組み込み、住宅の流通財としての評価の科学化・健全化を図らなければ、中古住宅の流通市場の成立はおぼつかない。

人口急減時代に急がれる中古住宅市場の活性化、ケンプラッツ、2015/05/15

上 空

最近、技術の進歩が社会の仕組みに大きな影響を及ぼしそうな状態になりつつあるのが、無人航空機・飛翔体(ドローン)である。各種資料によると、現在の航空法は、基本的に航空機を「人が乗り込んで操縦するもの」という前提で制定され、農薬散布などに使われる大型ラジコンなどを想定した法律を持っている程度である。

特に、都市域の上空において、こうした交通物(超小型のドローン)が飛び交うことはこれまで想定していなかった事象であり、当然、仕組みそのものがない。「航空法に照らし、航空機の飛行ルートに当たる場所では地上から150mまで、それ以外の場所では250mまで、国へ通知することなくドローンを飛ばすことができる。」(出典:ドローンとは何か?価格は?誰でも購入できる販売実態が明らかに)との。同じことが、公道上の無人自動車でも起きている。

従って、米国のホワイトハウスの敷地内にドローンが墜落したり、日本の首相官邸の屋上で無人機が墜落していたり、その後も各地でドローンによる騒動が起きているが、「空の産業革命」と云われるほど、そのもたらす影響が大きい。下記のサイトを見ていると、実態の進歩が早く、仕組みが追いついていけないのがよく分かる。

すごい未来がやってくる!無人飛行機(ドローン)が今、アツいドローン初体験の小泉進次郎政務官『ゼロリスクはありえない』(発言全文)ドローン産業で日本は大きく出遅れ!? 米連邦航空局とグーグル・アマゾンは急接近、DIAMOND Online、2015年5月18日目が離せない!ドローンの商用利用とその市場の可能性、GE REPORTS JAPAN、May 13, 2015

こうした新たな技術によるイノベーションのリーディングプレーヤーはAmazonであり、Googleであり、従来のプレーヤーとは異なる。ビジネス化の仕方を含めて世界のデファクトスタンダード獲得競争を睨みつつ、日本としても新たな仕組みづくりが急がれる。

東洋ゴム工業の免震ゴム偽装問題

建築物の安全性に関わる偽装問題が再び露見し、ユーザに不安と不信感を与えている。地震に対する耐震技術には、剛性で地震力に耐える狭義の「耐震」地震力をダンパーで吸収し揺れを抑制する「制震」と、今回の偽装事案の「免震」でこれは基礎と建物の間に積層ゴム等を入れ地震動が建物に伝わらないようにするものである。

偽装事件の概要

報道等によると、事件の概要は以下の通りである。

2014年2月、東洋ゴム工業の子会社の東洋ゴム加工品㈱が、高減衰ゴム系積層ゴム支承の一部製品の性能評価(性能データ)を偽装し、大臣認定を不正取得していた。その事実は、10年間、1人で免震ゴムの試験データを管理していた担当者の変更を契機に認識されていたが、1年後の2015年2月9日に国交省に報告した。

関連報道等 ▼「建築用免震積層ゴムの一部製品」に関するお詫びとお知らせ、東洋ゴム工業(株)HP

プレスリリース 当社が製造した建築用免震積層ゴムの国土交通大臣認定不適合等について、東洋ゴム工業(株)、2015年3月13日

東洋ゴム 免震ゴム偽装、橋も調査 国交省「問題ない可能性高い」、NAVERまとめ、2015年04月11日

防災拠点がなぜ「東洋ゴム免震事件」に巻き込まれたのか──『耐震偽装』の著者が分析(前編)、日経BP社、2015年 4月10日

国交省の「東洋ゴム免震事件」対応は適切だったか──『耐震偽装』の著者が解説(中編)、日経BP社、2015年 4月14日

忘れられていた宿題が「東洋ゴム免震事件」で再浮上──『耐震偽装』の著者が提言(後編)、日経BP社、2015年 4月16日

東洋ゴム工業(株)については、かってチリにJICA調査で訪れていた時に、露天掘りの銅鉱山で使用されたいる巨大な運搬用トラックの大きなタイヤに採用されていたことや、その使用済みのタイヤが外貿港の接岸時のクッションとして最適だと評されていたのを記憶していただけに、今回の事態は残念である。

問題その1 偽装の疑いを認識した時点で何故、公表しなかったのか

一度導入すれば取り替えに時間とコストを要する免震装置製品に対する偽装認識の疑いが社内的に確認されていたにもかかわらず、情報開示なしに販売し続けるのはユーザに対する背信行為であり、株主にに対する情報開示の面から云っても問題である。このようなリスク情報の取扱は、リスクマネジメント上、大いに問題である。品質管理、リスクマネジメントを、組織としてできない製品をメーカーとして取り扱うべきではない。

問題その2 どちらを向いた説明なのか

プレスリリースを見る限り、大臣認定取得上の偽装項目説明のみで、それによる建物(建築主、所有者)、及びユーザー(居住者、利用者)にとって問題となる不具合現象の説明が一切ない。こうした説明で、建築物のユーザー等は果たしてリスクの程度を認識できるのであろうか。説明責任を果たすべき相手は、まずは、製品を購入したり、使用しているユーザー等ではなかろうか。更に云えば、製品購入・導入を検討しているユーザーではなかろうか。

その観点から云えば、未だに何故、一部の物件は非公表なのか。その理由を説明して欲しいものである。2005年の姉歯建築設計事務所による構造計算書偽造問題(耐震偽装問題)と比べて明らかに対応は異なる。こうした対応は、いたづらに不安をあおるだけである。リスクコミュニケーション上、不適切な対応と云わざるを得ない。

失敗知識データベース 失敗事例 耐震強度偽装発覚

問題その3 検証・説明は十分なのか

制震装置の基本特性である水平バネ定数、減衰定数のばらつきが許容範囲を超えていたということであるがあるが、その点だけに関する検証で果たして十分といえるのであろうか。その偽装された性能の下で、偽装項目ではなかったとして言及のない各種依存性(経年変化、温度変化、ひずみ依存、クリープ量)の基準値が本当に妥当性を有することが担保されているのであろうか。

更に、品質管理体制の不備についても言及されていないがそれで許されるのか。一人の担当者の問題ではなく、そういう体制に長く留め置いた組織に問題があるとの認識がない。

問題その4 大臣認定基準とは何か

偽装製品を使用した建物について、「震度 6 強から震度 7 程度の地震に対しても倒壊しない構造であることを確認した」と発表(H27年3月30日)しているが、それならば大臣認定の基準とは何か、はなはだ疑問である。

        震度 6 強から 7 程度の最大級の地震に対する免震層の変形量 免震層の変形= ----------------------------------------------------------------------               建築物の壁と擁壁との間の距離

の余裕が全くなくても許されるのか。地震という自然現象を対象とする設計基準としては疑問である。非公表物件②-1の上記変形値は、99.6%である。その外にも3件ほど90%超の物件がある。地震動の大きさの分散、気温によっては100%を超え、隣接物件(擁壁、建築物等)にぶつかるのではなかろうか。大きな構造物がぶつかると云うことは破損等を契機とする重大な二次被害が当然に予想される。

プレスリリース 大臣認定不適合が判明した当社製免震ゴムの納入先建築物における「満たすべき安全性」の確認について、平成27年3月30日

問題その5 過去の教訓が何故活かされないのか

同社は、過去にも 断熱パネルの性能偽装(2007年11月)を起こし、コンプライアンスの強化を図ったとされていた。今回の事件の発生はそうしたコンプライアンスが根付いていなかったという証左である。何故、同じ失敗を繰り返したのか、本当の意味で失敗に学んで欲しい。

東洋ゴム、教訓生かせず 07年にも耐火性能偽装、日本経済新聞 電子版、2015/3/17

問題その6 指定性能評価機関の評価の仕組み

建築物に係るこうした機材の性能をはたして書類審査だけで評価することで可能なのであろうか。大臣認定の取消、当該装置の取り替え程度で許されていいのであろうか。 加えて、こうした装置は地震等による建築物の構造的劣化を抑え、長寿命化にも資するものであり、初期性能以上に経年的性能の方がより重要である。建築物に使用される機材についてそのような評価が適正になされているのであろうか。

いずれにしても、人命に影響する製品については、供給するメーカー側の品質管理、リスクマネジメントが組織の最重要項目として認識され実行されることが不可欠であり、それを担保できないときは市場から退場すべきである。地震大国日本の地震による被害を軽減すべき真摯に努力している他社メーカーの足を引っ張るべきではない。

地方創生について

地方創生の政策がてんこ盛りの状態で進められている。オリジナリティというよりも、課題として積み残されてきた関係省庁の各種既存政策を「地方創生」という旗の下で体系化・パッケージ化(府省横断ワンストップ化)した感が強い。各省庁が「地方創生」という名の予算を持ったと云うことかもしれない。

基礎自治体の底力や如何

補助金を頼らず、国を頼らず、地方が自立して自ら稼げ」ということが言われているが、果たして、そうした要請にどれだけの基礎自治体が応えられるか。基礎自治体の底力が試されている。

地方創生の推進について、地方創生担当大臣 石破茂、平成27年1月9日平成27年度予算政府案におけるまち・ひと・しごと創生関連事業、内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局、平成27年1月14日

【地方創生に関する諸相】 ▼地方創生を巡る論壇を検証する、一般財団法人 土地総合研究所、2015年1月30日同じ愚を繰り返す「地方創生」の勘違い 農業への補助金では地方は救えない、JB PRESS、2014.10.06地方創生・安倍首相~人口減少の過程で何があったのか? 国家が主導して再生した田舎はない、大前研一 ニュースの視点Blog、2014年9月12日人口減少対策における農山漁村地域のあり方について、平成 26 年度 全国知事会 自主調査研究委託事業 調査研究報告書森林資源の活用状況と持続可能な地域開発のあり方、野村総合研究所、知的資産創造 2015年1月号数字を追う ~地方創生・東京一極集中是正に関連する論点の再検証、(株)日本総合研究所、2015年3月2日

地方創生が問うていることは何か

少子化・総人口減少、労働人口減少、正社員雇用力減少、高齢人口増大、そしてグローバル化等の流れは、国・地方としての持続的成長とは何か、個人としての幸せな人生とは何か、そしてどうすればそのようなことが実現できるのか、根本的に考え直さざるをえない状況を招来している。換言すれば、東京を除く地方における人の生き方・住まい方・暮らし方が問われている。それは、明治維新以降、さらには第二次世界大戦以降のむらづくり、まちづくり、都市づくり、国土づくりの在り方にも問い直しを迫っている。

東京への集中抑制、地方への人口移動(移住促進)、出生率増大、総人口維持が果たして政策的に誘導できるのか。農林業(6次産業化を含む)がその鍵を握ると喧伝されているが、それは本当なのか、よく考えてみたい。

そもそも、職業選択、居住地選択の自由が保障され、土地の所有権を初めてとして私権が守られすぎる感のある社会的環境の中で、人の生き方(稼ぎ方、子育て等を含む)、住み方を政策コントロールできるのだろうか。人は、時々の政策に関係なく居住地を選ぶ。地域に魅力がなければ人は住まないし、寄りつかない。逆に、魅力があれば、たとえ一人であろうと住み着くし、行ったみたいと思う。交通環境やIT環境の拡充はそうした自由度を底上げしている。

移住・兼居を含む居住地選択の自由度が上がることは、人生の節目節目での職業・会社選択、居住地選択を可能ならしめることであり、多様な生き方を可能とする。しかし、そのためには、これまでの組織ベースの仕組みから、個人ベースの仕組みへの再構築が必要となる。特に、個人での選択の自由を担保する上で社会的フェールセーフが欠かせない。社会的合意形成の仕組みの見直しも不可欠である。こうした視点での地方創生の政策論議は残念ながら現時点ではあまり見受けられない。

日本版CCRC、コンパクトシティを越えて

現在進行中の地方創生政策の中で、生き方・住まい方・暮らし方に関わるものとして、次の政策が掲げられているが、これまた、過去の都市政策・都市計画・土地利用計画の焼き直しに近い。土地の私有権等の枠組みを変えることなく、都市計画・土地利用計画が上手く機能しないのはこれまでの歴史が物語っている。

1.地方移住の推進の政策の一つとして「日本版CCRCの普及」 2.まちの創生政策パッケージの一つとして、中山間地域等での「小さな拠点(多世代交流・多機能型)[基幹集落]の形成支援」、市街化区域での「都市のコンパクト化」

日本版CCRCは、いまや70歳頃までは現役で働く人も多く、リタイアベースの高齢者を主眼としたCCRC概念では、そこに住む人・集う人、さらには立地エリア住民においてもあまり魅力を感じない。多世代の老若男女が未来に向けてアグレッシブに集い・暮らすコンプレックス型のコミュニティ概念が必要とされるのではなかろうか。

小さな拠点、コンパクトシティも、社会資本あるいは公共サービスの効率化のために打ち出されているが、手段が目的化している。財政縮小に応じた無駄の削除、後年度負担の縮減の策としては他にも多様な手段がある。

例えば、人口減少・財源縮小を見据え、新たな箱モノやインフラの整備は最低限に抑え、(遊休施設を含め)今あるモノをリノベーションしながら利活用したり、ハード整備しなくてもソフト政策として地域にあった総合交通体系をつくる(地域の買い物難民と観光客の足の確保を兼ねたデマンド・コミュニティティ&観光バス等)、さらには公設民営の逆で、民設公営等の仕組みがあっても良い。従来概念に基づく既往制度の枠組みを制約にすることなく、取り組み、新たな制度設計のトリガーにして欲しい。イノベーションは中枢で起きるのではなく、周縁域で起こる。

さらに、「人づくり」も謳われているが、いまさらながらの感もするし、すぐには人は育たない。3~5年等の政策補助期間が終われば全てが終わる仕組みでは地域に根付いた持続性の確保は難しい。

国としての政策・補助方針が変わろうとも、基礎自治体あるいはコミュニティは自律して持続的に事をなさねばならない。関係機関等の連携組織だけではなく、自律した持続的なエンジンとして機能するプラットフォーム的な事業体を興すことことが地方には不可欠ではなかろうか。ボランティアベースでは持続性に限界がある。かといって、利益・規模追求が最優先する一般的企業でもない。地方それぞれの特性に合ったソーシャルビジネスの励起が待たれる。

一つの例として、農林魚業や、介護・空き家ケア等地場の複数のスロー業種の事業体をホールディングし、「範囲の経済」化して、各事業体の維持を計りつつ、経営力の向上を図る仕組みが考えられる。このような経営と現場を機能分化するホールディング体を作ることで、地場での就業機会・空間保全・防災力等を維持しつつ、経営・マーケティング等のノウハウを持った人材の呼び込み・居場所づくりも可能となる。

 

地方創生が動き出した今こそ、地方からのアグレッシブな事業、制度設計の波が沸き上がって欲しいものである。自らも、そうした流れの中で、機会を得て実践してみたい。

ふるさと納税の仕組みと効用

ふるさと納税が返礼品の競い合いで産直品のeーコマース化している。ふるさと納税とは何か、その仕組みはどうなっているのか、それにはどういう効用があるのか、地方活性化に活かすにはどうすれば良いか。確定申告の時期でもあり、地方創生が話題になっているいま、改めて、ふるさと納税について考えてみた。

ふるさと納税の仕組み

ふるさと納税とは、「ふるさと寄付金制度」であり、「都道府県・市区町村に対する寄附金のうち、2,000円を超える部分について、寄付をした自治体から発行される受領書をもって、居住自治体で確定申告すると、個人住民税の概ね1割を上限に、原則として所得税・個人住民税から全額が控除される」という寄付の仕組み(地方自治体に対する寄付金税制の一部)である。

要するに、2,000円を超える寄付金は所得税(現金で払い戻し)と住民税(住民税の減額)とで取り戻せ、加えて、寄付した自治体からは返礼品ももらえるという仕組みである。交付税補助金等国の関与(裁量)なしに、納税者が直接、自治体の税収の格差是正に関与できる仕組みである。

      出典:14年に「ふるさと納税」をした人は全員必読! 寄附金を取り戻すラクラク確定申告教えます!

 

なお、「個人住民税の概ね1割を上限とする規定を2割に引き上げる」ことが、平成27年度税制改正大綱の中で閣議決定(平成27年1月14日)されている。

平成27年度税制改正の大綱の概要(財務省)

寄付金の返礼は、地場産品が多いが、お墓の掃除代行(高松市)というサービスもある。それならば、実家の空き家の見守りケアサービスだってあって良い。知恵を出せばふるさと特有の返礼品サービスがある。

ふるさと納税:お礼に墓の掃除代行サービスも 高松市(毎日新聞)

また、寄付金の使途(政策)を選択・指定することも可能とする自治体が少なくないが、これは、自治体が公募主体となったクラウドファンディングと同じである。自治体の政策立案能力、プロジェクト組み立て能力が競争市場化する仕組みとも云える。

「ふるさと」の限定もない。寄付者の自由選択である。居住地選択の自由と併せ、納税先・使途(自治体、政策)選択の自由という仕組みのもつ意味は大きい。消滅自治体候補の存廃を左右する可能性すら秘めている。

更に云えば、ふるさと「納税」するわけであるから、「ふるさと」の行政に一言発言する機会があっても良い。いわゆる「市民の声」に加えて、域外応援者からの「ふるさと納税者の声」的なものを地元行政に反映する仕組みがあれば、地元住民の枠を超えた「知」が活かせる。

ふるさと納税はあくまでも、直接納税ではなく、応援したい自治体への寄付という形態をとっているところが制度上のミソである。当時の関係者間の落としどころとしてこうした仕組みになったものと推察される。その仕組みや実績は、総務省の下記サイトに詳しい。

ふるさと納税など個人住民税の寄附金税制(総務省)

ふるさと納税ポータルサイトや支援システム

全国の自治体のふるさと納税ページを探す場合のポータルサイトとして機能するページとして、下記がある。福井県は、専従者を配置して、この全国向けのポータルサイトを開設・維持している。

ふるさと納税関連ページへのリンク(総務省)ふるさと納税情報センター 情報発信サイト(福井県)

民間ベースのふるさと納税ポータルサイトも開設・運営されている。以下に、その一部を示す。

ふるさとチョイス(株式会社トラストバンク) ふるさと納税(Yahoo!公金支払い)

最近、こうしたふるさと納税の代行支援サービスをシステムと一緒に提供し始めている民間サービスもある。これは一種のアウトソーシングであり、体力の無い自治体にとっては有効かもしれない。

ふるさと納税トータル支援サービス(ヤマトシステム開発株式会社)

ふるさと納税の実態

最新のふるさと納税の全国総計の実績値をみると、寄付者10.6万人、寄付金額130億円、税控除額45億円【寄付金控除申告ベース(平成24年)】となっている。直近(平成24年度決算)の個人住民税の総額約11.6兆円の1割の1.1兆円がふるさと納税の現行制度上の上限枠であるが、実績はその1%程度といったところである。

せっかくの実質的な直接納税が活かされていない。自治体側はもっとその制度活用のアピールをすべきであるし、納税者側も目的税的選択納税の良さを知り、活用すべきである。

昨年秋、総務省が全都道府県、市区町村を対象に、ふるさと納税に関する調査を実施し、その結果を公表(平成25年9月13日)している。ふるさと納税について、各自治体がどういうふうに取り組み、集めた寄付金を何に使い、どう評価し何が問題・課題であるか、ふるさと制度を考える上で、大いに参考になる。

ふるさと納税に関する調査結果(総務省)

この結果を受け、総務省は下記を指示しているが、寄付者側からすれば、手続きの簡便さが最も希望することである。ECサイトのように、サイト上で寄付金振込、使途政策・返礼品選択、確定申告手続き(寄付先自治体が寄付者居住地自治体へ通知)の全てが完結すれば、一気に利用者が増えるのではなかろうか。行政の書類手続きの煩わしさがいつもながら最大の障壁である。

・ 寄附金の収納方法の多様化を図ること ・ 必要な申告手続きを説明した文書の配布等により、寄附者の申告手続きに係る事務負担の軽減を図ること ・ 寄附者が寄附金の使途を選択できるようにすること、また、寄附金の使途を公表すること ・ 特産品等の送付については、適切に良識をもって対応すること ・ ふるさと納税に係るPRを積極的に行うこと

なお、確定申告の手続きについては、平成27年度税制改正大綱のなかで、「申告手続の簡素化(確定申告不要な給与所得者等がふるさと納税を行う場合、ワンストップで控除を受けられる仕組みを導入)」とされている。

ふるさと納税の効果

【寄付者】 寄付者側からすれば、国や自治体に納める税金を、目的税的に納める先(自治体)や政策等の使途を選択・指定できることにある。そして、付加的に、返礼品を指定して受け取ることにより、実質的には2,000円の寄付で、それ以上の価値のあるものを入手できることにある。

昨今、この付加的な部分に焦点が当たっているがそれはそれで仕方がない。当該寄付者の居住自治体以外に誰も損をする者はなく、寄付者-ふるさと自治体・住民-返礼品(地場産品)提供業者の全てにおいてwin-winである。

【自治体】 寄付を受ける自治体からすれば、寄付金という収入(大学的に云えば、競争的外部資金)の確保、情報発信、関心者・ファンの開拓・拡大、返礼品調達を通じた地元産品(業者)の販路拡大・観光客拡大、ひいては産業振興・観光振興等、全国に視野を拡げた地域活性化の手段となっている。

特に、返礼品(地場産品・サービス)絡みで、1兆円規模の市場が惹起されることの影響は大きい。当然、他地域との競争になるので、顧客(全国他地域の住民、他国民)を意識し訴求(プロモーション/マーケティング)することが不可欠となる。それは、従来の行政マンの意識範囲・業務レベルを超えた行動を促すものであり、結果として自治体経営の強化・自律に繋がる。

【返礼品提供者側】 ふるさと納税の返礼品を提供している自治体は、当該自治体内に事業所のある法人、団体または居住する個人から応募を受け付けている。

例えば、宇部市の募集要項

返礼品の提供者側からすれば、事業所所在の自治体の買い取り価格(費用負担)は返礼品の価格であり、定価販売で、かつ、販促費の負担なしに全国に販促できる機会を得ることができる取引と云うことになる。そして、気に入られれば、リピーターになってもらえることになる。

 

ふるさと納税制度は未だ創設5年しか経過していない制度で、活用の程度も低いが、意外と自治体(組織、行政マン)が変われる突破口となり得る可能性を秘めたおもしろい制度である。本格的な活用を促す仕組みづくりに自らも棹さしてみたい。

 

空き家問題について考える

最近、空き家問題が騒がしい。「空家等対策の推進に関する特別措置法」も成立した。[H26.11.27公布。H27.2一部施行、H27.5全面施行予定]。改めて、そもそも、空き家問題とは何か。その本質は何かについて考えてみたい。

空家等対策の推進に関する特別措置法案、参議院

(定義) 第二条 2 この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。 (立入調査等) 第九条 市町村長は、当該市町村の区域内にある空家等の所在及び当該空家等の所有者等を把握するための調査その他空家等に関しこの法律の施行のために必要な調査を行うことができる。 2 市町村長は、第十四条第一項から第三項までの規定の施行に必要な限度において、当該職員又はその委任した者に、空家等と認められる場所に立ち入って調査をさせることができる。 (特定空家等に対する措置) 第十四条 9 市町村長は、第三項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき又は履行しても同項の期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。

追記:空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針の決定について、国土交通省、平成27年2月26日

世帯構造の変化

空き家問題が励起してきた背景には、世帯構造の変化がある。近い将来、高齢者の独居世帯が最大の世帯形態となることも確実視されている。加えて、少子化がある。つまり、親の居住している/していた住宅(実家)に子供(世帯)が住まず空き家になる、あるいは一人っ子同士が世帯を持つと、少なくともどちらかの実家が空き家になる。いまや、全国の空き家総数は820万戸、空き家率は13.5%に達する[平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果]。

世帯構造及び世帯類型の状況、厚生労働省

平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約、総務省統計局

なかなか減らない新築住宅・朽ちた住宅

一方で、景気対策もあり、新築持ち家住宅へのローンや税制上の優遇策がやめられず、空き家が増え続けているのに、いまだに年間98万戸(平成25年)の住宅が新築されている。東日本大震災福島第一原発事故の影響があり、ここ4年連続の増加となっているが、さすがに早晩、年間50~70万戸当たりに落ち着くものとみられる。いずれにしても、空き家が増え、新築住宅もそれなりに増えている状況下で、古民家とも言えない一般の古い住宅の流通市場は細い。

平成25年の新設住宅着工戸数(概 要)、国土交通省総合政策局建設統計室

加えて、小規模住宅(一区画200平方メートル以下)を解体・除却して更地にすると、小規模住宅用地に対する固定資産税の優遇措置が適用されなくなり、土地の固定資産税が6倍になる。空き家を撤去し更地にしたくてもインセンティブが働かない。これについては、危険な状態になった住宅では税軽減を止める方針が打ち出された。しかし、更地にするには費用が掛かるし、売却できる保証もない。やはり、インセンティブが働かない。

住宅・土地に対する価値観の再考

総人口が減り、まもなく総世帯数も減少しはじめる時代に向けて、これまでスプロール化していた住宅用地をどのように再編していくか、耐震基準に対する不適格住宅をどうするか、優良中古住宅の流通市場(含む継続的品質評価)の確立をどうするか、非常時あるいは生活環境のリスク対策上の住宅(含む敷地)に対する私権制限をどうするか、空き家問題にはこれらの問題が内包されている。住まい方、暮らし方の再考が求められている。

土地バブル崩壊以降、土地は所有するのではなく、利用するものであるとの価値観の転換(歴史的にみれば、戦前の価値観への回帰)が求められたが、現在は耕作放棄地と併せ、空き家・空き地の立地場所によっては、土地を自然に還す、という選択肢がある。オランダではそのような政策が実施されている。右肩上がりの時代に構想・計画された農業土木事業、公共土木事業も同様である。

空き家・空き地の活かし方

空家等対策の推進に関する特別措置法で想定している特定空家等は行政主導で対処するのが妥当とも思われる。この特別措置法の本質は、生活環境のリスク対策上の住宅(含む敷地)に対する公権と私権の関係の調整にある。道路空間や隣地空間・コミュニティへの安全を確保する為の措置という観点は、非常時における啓開道路に関する措置と同様と考えられるのではないだろうか。

更地にした土地の所有権者が不明の場合、あるいは当該処分に要した費用を支払わない場合等については、行政が定期借地権のような形で土地を管理(利用に供することも含めて)しても良いのでないだろうか。明治の地租改正の時に、所有権者不明の土地を「公有地」としていたのと同じである。

一方で、行政に委ねることなく、空き家(空間)に市場価値を見いだせる場合は、行政主導ではなく、民主導でリノベーションを含め、空き家活用ビジネス等新たな市場を創出する仕組みを考えるべきである。実家の空き家はお墓をどうするかという問題が抱き合わせで存在する。

日本の住宅に関する各種の制度は新築優遇となっている。新築を買いやすくするために35年ローンという住宅の資産価値がなくなる年数を超えてローンを支払い続ける仕組みが通常化している。住宅性能にしても、建築時の初期性能だけのチェックであり、住み始めた後の経年的な性能評価・保証制度がない。つまりは、売買時点での中古住宅の性能を評価し保証する通常の流通市場では当たり前の中古住宅市場がない。

利用価値のある中古住宅を空き家化しないためには、その利用の仕方を含めて考える必要がある。最近、山村の空き家を企業のサテライトオフィスとして利用している例がみられるが、それ以外にも、シェアオフィス、介護事業所、コミュニティ施設、物品製造・販売施設、イベント・観光施設等、いろいろ考えられる。さらには、ホームレスの方々の自活の場として活用を考えても良いのではないか。

空き家利用ビジネスの新たな勃興を

こうした空き家利用ビジネスは新築住宅市場と違って、スロービジネスであり、かつ単体での儲けは少ないため、相応の数をこなさないとビジネス的には成立しない。地元に居住し相応の空き家をケアできるリアルなネットワークと、全国に散在する空き家所有者あるいは空き家利用希望者を繋ぐバーチャルネットワークの融合が欠かせない。行政主導の単なる「空き家バンク」では「ハローワーク」と同じでイノベイティブに機能するとは思えない。新たな主体によるイノベイティブなビジネスモデルが勃興することを期待したい。

その一つの核となる主体が、介護事業者である。介護事業はその必要性にもかかわらず、国がその報酬を恣意的に差配するため、経営的安定が難しい。特に、地方部は介護サービス利用者の数の問題もある。従って、介護事業者は複数のスロービジネスを併せて実施することが求められるが、空き家利用ビジネスはその際の一つの事業となる。人と住宅(含むお墓)の統合的ケアサービスである。

いずれにしても、空き家問題は地域の置かれている問題が見える化された事象であり、そこにビジネスチャンスを見出す主体の出現を期待するしかない。自らも一滴を投じてみたい。

1強多弱の社会構造への傾斜

衆議院選挙が終わり、政治の世界にも「1強多弱」の世界が定着しつつある。というよりは、選択肢がなくなったというべきか。いずれにしろ、1強多弱の政界の影響は、今後、具体的に表出してくるものと思われる。WEB社会では、強いところはより強く、トップしか生き残れないと云われている。

日本の都市も、「東京」と「その他」の一強多弱都市構造化が進み、「その他」の都市・地方は疲弊し、衰退し、消滅さえしかねない状態にある。生活に身近な小売店舗でみても、巨大モール(リアル、ネット)・コンビニ店網が一般の小売店舗・商店街を衰退させる1強多弱化が加速している。そのほかの様々な業種でも1強多弱の現象がみられる。1強を目指した合併も加速している。社会構造の「べき分布」化とも言える状況が進展している。

▼正規分布とべき分布、平成20年版 国民生活白書 0004

最近の日本社会全般をみていると、1強多弱の行き着く先として、「行政」が「1強」で「その他(民)」が「多弱」という社会構造になるのではと懸念される。つまり、最近、行政の存在がますます大きくなり、行政依存あるいは行政と連携しないと何事も進まないような社会構造に傾斜している。

しかも、行政の縦割り構造が残ったままでそうした流れにあるため、ややこしくなる。省庁間の競争で、似たような政策そしてそれに付随する交付金補助金が対抗上、乱立することになる。それらは形を変えても減ることは殆どない。

▼COP20:日本は縦割り 省庁別、1国で7部屋使用、毎日新聞 2014年12月13日 11時24分(最終更新 12月13日 12時55分)

権限、金(予算=税金)、組織、・・・、そして、それらを背景にさらにあらゆる人、情報が行政に集まる。まさに1強多弱である。

結果して、例えば、本来、民が独自になすべき業界ビジョン、業界再編・事業統合、投資・ファンド、給与水準、イノベーション等々まで、行政に依存する。行政に依存することなく、グローバルな市場で稼がないといけないレベルの企業まで、国内の補助金(要するに税金)に頼るのはいかがなものか。行政側も、実績と見た目の当面の結果を求めるため、安心できる大企業中心に補助金執行を頼る。これでは、日本社会は活性化しない。

一方で、国民も何かあると「行政が何とかしろ」と云う。マスコミもそれをあおる。これでは、行政は「焼け太る」のみである。今や、地方で立派な建物は行政関係庁舎だけというところが少なくない。通りは廃れ、家屋は朽ち、人は居ない。しかし、行政コストは下がらない。ますます、行政中心の1強多弱社会化が進む。

果たして、このような過度に行政依存する1強多弱社会でいいのであろうか。日本全体がぬるま湯に浸かっている状態でいいのであろうか。成熟化し市場拡大が期待できない国内ではなく、グローバルを視野に入れた考え方、仕組み、行動に切り替えないと、日本自体が本当に衰退してしまう恐れがある。

まずは、自律できる体力を有する大企業・中堅企業は国内行政(補助金等)に依存せず、グローバル市場で戦って欲しい。中小・零細企業は企業規模としては小さくても、グローバルWEB社会では突出したコンセプト・技術・サービスがあれば生き残れる。経営とマーケティングイノベーションすればクローバル市場に打って出られる。

その際、必要な仕組みは自ら創発し、必要ならば社会的仕組みとして行政に働きかけるべきである。それぞれが自律した多強多存である。行政はそうした際の国家間の渉外に注力すべきである。

日本企業には「ロビイング力」が足りない! 勝つ企業は、自ら「市場のルール」を作っている、東洋経済ONLINE、2014年12月10日

行政中心の1強多弱社会構造ではなく、民主導の多強共存・自律分散協調型社会構造こそが今後の持続的成長の基礎となるものと思われる。その実現に向けて、各位がそれぞれの立場で、できることをやるしかない。

頑張ろう 日本!  変わろう 日本!

良い年末を・・・